木南晴夏「美しい世界に浸りに来て」 村上春樹×蜷川幸雄、舞台『海辺のカフカ』インタビュー
木南晴夏
2019年5月、舞台『海辺のカフカ』が赤坂ACTシアターで上演される。村上春樹の長編小説を蜷川幸雄が演出した今作は、2012年に初演、2014年に再演し、2015年には世界5都市を巡る世界ツアーも行われ、国内外で多くの観客を魅了してきた。今年2月にはパリ・国立コリーヌ劇場で上演され、5月の東京公演は凱旋公演となる。
今回新たに座組に加わり、カフカが高松へ行く道中で出会う美容師の女性・さくらを演じる木南晴夏は、様々なTVや映画などでその存在感を発揮している人気女優だが、2014年には舞台『奇跡の人』でヘレン・ケラーの家庭教師アニー・サリヴァン役で迫真の演技を見せて評判となり、昨年は『シティ・オブ・エンジェルズ』でミュージカルに初挑戦と、近年は舞台での活躍にもますます期待が高まっている。そんな木南に、この作品にかける思いを聞いた。
美しい転換が重要な舞台
ーー『海辺のカフカ』は初演、再演と重ねてきた舞台で、木南さんは今回が初参加になります。出演者も初演からの人、再演からの人、そして木南さん同様今回からの人、と様々ですが、まずはこの舞台への出演の話が来た時のお気持ちを教えてください。
『海辺のカフカ』は読んでとても衝撃を受けた小説です。私は初演を見ましたが、あの小説が蜷川さんの演出でこんなにも美しい舞台になるんだ、と視覚的な印象がずっと頭に残っていて離れませんでした。出演のお話しをいただいたときは、ぜひやりたいです、とすぐにお答えしました。
木南晴夏
ーー蜷川作品にはこれが初参加。しかし蜷川さんは既に逝去されている、という状態での公演になります。稽古場も見学させていただきましたが、独特の雰囲気だと感じました。
転換に関わっているキャストは、再演の映像を見ながら転換の動きをチェックして、タイミングを確認するところにすごく時間を割いている印象があります。この舞台は、転換が美しくあることが俳優の芝居と同じくらい大事なんじゃないか、と思うので、タイミングだったりスピードだったり、皆さんすごく繊細にやっています。お芝居自体は、いくつか自分で動きを試してみて、しっくりくるものを探していく、というようなすごく自由な稽古場です。
猫が出てきただけで笑いが起きたパリ公演
ーー2月のパリ公演で観客の前で初めて演じて、現地の反応などどう感じましたか。
全体的にはすごく好評で、一幕が終わった時点で拍手が起きたり、終幕時にはスタンディングオベーションが起きました。お客さんが楽しんでくださっていることがひしひしと伝わってきて、「ここで笑うのか」と思うようなところでも大きな声で笑っていたり、とてもアグレッシブに舞台と向き合っているんだな、と感じました。
ーー小説の舞台化ということで難しい面もあると思いますが、舞台化だからこその面白い部分、見どころはどういったところだと思いますか。
小説を舞台化や実写化したものは、視覚で楽しめるようになるのですごく好きです。自分が想像していたものが舞台になって目の前で繰り広げられていること自体が面白いな、と思いますし、この作品に関して言うと、ガラス箱のようなアクリルケースの転換の美しさが一番見どころかな、と思います。あとは、猫ですね。フランス公演では猫が出てきただけで笑いが起きたんですが、舞台上で人間が猫をやっていたり、猫と人間がしゃべったりという面白さもあります。
木南晴夏
ーー木南さんの演じるさくらは、カフカとの関係性が小説でも結局わからないままになっていますが、どういう思いで演じていらっしゃいますか。
自分の弟とカフカを重ねて見ているのか、それとも本当の弟だと思っているのか、そこは答えがなくて、私の中でも答えを一つに決めないで、舞台に出る瞬間に、カフカを弟だと思って出会うのか、家出少年を心配して声をかけるのか、毎回変えてやってみています。結局は正解がないので、決めきらなくてもいいのかな、と思いつつ、いろんな意見を聞きながら自分の中で理解を深めたり、消化しながらやっている感じです。
自分の芝居があまり好きじゃない
ーー木南さんご自身は、舞台へのご出演に対してどのような思いを抱いていらっしゃいますか。
出演した本数は映像よりも全然少なくて、経験値が低いということもあって、まだ楽しめる余裕がなくて必死です。舞台は毎日稽古でお芝居と向かい合って、ずっと答えを探しながら戦わなければならなくて、自分のお芝居があまり好きじゃない私にとってはすごくすごく難しく感じます。舞台上では目の前のことに必死なんですけど、稽古中だったり、幕が下りた後は考え込んでしまうことが多いです。自分が主観的に感じるものと、見ている人が客観的に感じるものとはやっぱり違うんだろうなと思うと、どこをゴールとして走っていけばいいのか正解がわからなくなります。
木南晴夏
ーー昨年は『シティ・オブ・エンジェルズ』でミュージカルに初挑戦されました。元々宝塚が好きな木南さんにとって、ミュージカルへの出演は念願だったのではないでしょうか。
ミュージカルにも出たいと思っていましたが、歌やダンスに自信があるわけではなかったですし、未経験のことをやるのはすごく怖いなという思いもありました。でも演出の福田雄一さんが以前から「僕のミュージカルは歌が得意じゃない人も出てるから、木南もいつか出てね」と言ってくれていたんです。その言葉に勇気をもらって、(佐藤)二朗さんが出てるんだったら私も頑張ろうかな、と思って(笑)。実際にやってみたら、のびのびとやらせてもらえてすごく楽しかったです。
ーーこれからも舞台には出演していきたいですか?
今まで舞台の本数が少なかったのは、タイミングが合わなくて機会がなかったからというのが大きいですが、苦手意識が強かったというのもあって、でも舞台を観るのも出るのも好きなので、これからは苦手意識を払拭するためにも機会があればどんどん挑戦したいです。
ーーでは最後に「海辺のカフカ」への意気込みとメッセージをお願いします。
猫と人間がしゃべっちゃうような「変な世界」の中で、私が演じるさくらと、高橋努くんが演じる星野はそれぞれ、現実世界とカフカ、現実世界とナカタさんを繋げているような存在なので、舞台上でその役割をうまく果たせるといいなと思っています。とにかく美しい舞台で、心を奪われる作品だと思いますので、この美しい世界に浸りに来ていただきたいです。
木南晴夏
TV、映画、舞台と幅広く活躍している木南に対して、どの作品においても存在感と安定感を示す器用な女優、という印象を抱いていた。しかしインタビュー中、木南の口からは「苦手意識」「自分の芝居があまり好きじゃない」といった、本人の苦労や苦悩をうかがわせる言葉が出てきた。それはプロ意識を持っているからこそ抱く思いであり、決して慢心しないその姿勢が木南の人気と実力を形作っているのだろう。
木南が演じるさくらは、夢と現実の世界をさまようカフカを現実世界に結び付ける存在だ。浮遊感のある世界の中でも、揺るがない力強い眼差しで舞台上に立つさくらが目に浮かぶ。5月公演が待ち遠しくてならない。
取材・文=久田絢子 撮影=岩間辰徳
公演情報
原作:村上春樹
脚本:フランク・ギャラティ
演出:蜷川幸雄
出演:
寺島しのぶ、岡本健一、古畑新之、柿澤勇人、木南晴夏、高橋努、鳥山昌克、木場勝己
新川將人、妹尾正文、マメ山田、塚本幸男、堀文明、羽子田洋子、多岐川装子、土井ケイト、周本絵梨香、手打隆盛、玲央バルトナー
主人公の「僕」は、自分の分身ともいえるカラスに導かれて「世界で最もタフな15歳になる」ことを決意し、15歳の誕生日に父親と共に過ごした家を出る。そして四国で身を寄せた甲村図書館で、司書を務める大島や幼い頃に自分を置いて家を出た母と思われる女性(佐伯)に巡り合い、父親にかけられた“呪い”に向き合うことになる。一方、東京に住む、猫と会話のできる不思議な老人ナカタさんは、近所の迷い猫の捜索を引き受けたことがきっかけで、星野が運転する長距離トラックに乗って四国に向かうことになる。それぞれの物語は、いつしか次第にシンクロし……。
■パリ公演(ジャポニスム2018公式企画) ※公演終了
2019年2月15日(金)~2月23日(土)
会場: 国立コリーヌ劇場
■東京凱旋公演
2019年5月21日(火)~6月9日(日)
会場:TBS赤坂ACTシアター
主催:TBS/ホリプロ
協力:新潮社/ニナガワカンパニー/ANA
企画制作:ホリプロ
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/kafka2019/