田上豊(田上パル)演出、巨大なボールで競う日本×フィリピンのスポーツコメディ『KIN-BALL キンボール』稽古場レポート

レポート
舞台
2019.6.4
  (撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

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2019年6月6日(木)〜9日(日)、田上パル主宰の田上豊が作・演出する舞台『KIN-BALL キンボール』が富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ マルチホールで上演される。田上は4月より、多田淳之介(東京デスロック)より引き継ぎ同施設の芸術監督をつとめており(共同芸術監督、ダンサー・振付家/白神ももこ(モモンガコンプレックス))、その第一弾の作品上演となる。「キンボールスポーツ」とは、直径122cm、重さ約1kgのボールを使う実在のスポーツで、その世界大会を目指す選手達を描いたスポーツコメディ。企画はキラリ☆ふじみと国際交流基金アジアセンターが主催する東南アジアとのコラボレーションシリーズ第三弾で、日本とフィリピン両国から出演し、出演者の約半数がフィリピンのPETA(ペタ/フィリピン教育演劇協会)に所属する俳優だ。国を越えて、元気と情熱満点の勢いのある舞台だ。

(撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

会場に入ると、観客が向かい合う対面舞台。フローリングの体育館を見下ろすように客席が並んでいる。さながら、総合体育館でスポーツの試合を応援しにきた気分だ。
その中央で、直径122cm、重さわずか約1kgの『キンボール』をめぐる白熱の試合が行われる……かと思いきや、登場人物は曲者ばかり。フィリピンの女性コーチ達が、かつて活躍した日本人男性選手たちの再起を目指し指導しようとするが、互いにケンカをしたり、ダラダラしたりと大騒ぎ。言葉も通じず、文化も違うなかで、誤解やトラブルだらけのハチャメチャな練習が始まった!? 日本語、英語、タガログ語が飛び交う(字幕あり)が、あまりの勢いに、言葉がわからないことがまったく気にならない。フィリピン人俳優たちはくるくると表情が変わり、表現力が豊かで、言葉の違いを忘れるほど、感情が伝わってくる。喜怒哀楽が激しく、愛嬌たっぷりの彼らの底抜けの明るさに笑わされる。

(撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

個性の強すぎるフィリピン人俳優に呼応するように、日本人俳優たちのキャラクターもどんどん濃くなっていく。生き生きとしだす登場人物らが言葉も国境も個性も越えてぶつかりあう様子は、それ自体がまるでスポーツの試合のようだ。田上は、10代の頃にハンドボールに打ち込み、これまでもスポーツを題材にした演劇などを書いてきた。その持ち味が活かされ、スポーツと演劇が融合した力強い舞台となっている。

(撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

 

田上は、2カ国の出演者についてこう述べた。「みんなキャラクターが濃くて、色鉛筆みたいですよね。稽古最初はフィリピン人俳優達のキャラが強くて日本人俳優はまとまっていたんだけど、対抗しはじめたのかな、稽古を重ねるほどに日本人俳優達がだんだん濃くなっていった。演出でもそれを活かして、物語の前半と後半でキャラクターの見え方が変わるようにしています」作中には国際的な問題やズレなども出てくる。しかしその複雑さや、登場人物たちの賑やかな個性を、大きな「キンボール」がぎゅっとひとつにまとめている。

(撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

「キンボールスポーツは『他者理解のスポーツ』だという紹介を読んで、演劇みたいだなと思ったんです。でも実際にやってみたらそんなことなかった!仲間と協力もするけど、他の人より勝ちたいという気持ちもあって、その矛盾が面白い。単純に「みんなで協力して闘うぞ」というだけではないスポーツなんだとわかってきてから、作品がとても演劇的になってきました。キンボールという題材のおかげで、フィリピンと日本の国際交流劇というより、人間たちがぶつかりあう物語になってきました。毎日いろんな発見があって、一日ずつ前へ進んでいくことを明確に感じる稽古です。言語の違いを超えて、フィリピンと日本が近づいているのを感じます。ふたつの国がタッグを組んで良い作品を見せたいという思いもありますが、ひとつの舞台として、エネルギーがあって楽しんでもらえる作品にします」(田上)

(撮影:松本和幸)

 (撮影:松本和幸)

取材・文=河野桃子
撮影=松本和幸

公演情報

『KIN-BALL キンボール』
■日程:2019年6月6日(木)~9日(日)
■開演時間:
6(木)19:00
7(金)19:00
8(土)14:00/18:30*
9(日)13:00
*=アフタートーク
・開場は開演の20分前、受付は開演の1時間前より
■上演時間:約2時間半(別途、休憩あり)
■会場:富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマルチホール
■演出:田上豊
■作:田上豊、J-mee Katanyag(ジェイミー・カタニャグ)
■出演:
《日本》
伊藤昌子、ぎたろー、高麗哲也、近藤強、友田宗大、原田理央、福田健二
《フィリピン》
Kiki Baento(キキ・バエント)、J-mee Katanyag(ジェイミー・カタニャグ) 、Nicole Manlulo(ニコル・マンルーロ)、Kitsi Pagaspas(キッツィ・パガスパス)、Jack Yabut(ジャック・ヤブット)

■舞台美術/濱崎賢二 照明/伊藤泰行 音響/大園康司
■衣裳/臼井梨恵(モモンガ・コンプレックス)
■演出助手/久保大輔
■舞台監督/白石英輔(クロスオーバー)
■宣伝美術/松井雄一郎
■問合せ:富士見市民文化会館キラリふじみ 049-268-7788
■企画・製作:富士見市民文化会館キラリふじみ
■共同企画:PETA
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