若き逃亡者たちの葛藤を通して“二世信者”の問題を描く、刈馬演劇設計社の新作『神様から遠く離れて』がまもなく名古屋で

インタビュー
舞台
2019.7.3
 『神様から遠く離れて』出演者と作・演出家。前列左から・TERU、岩瀬かえで、伊藤文乃、岡本理沙、入馬券、仲田瑠水 後列左から・藤岡侑真、作・演出の刈馬カオス、古馬ペンチ、青木謙樹

『神様から遠く離れて』出演者と作・演出家。前列左から・TERU、岩瀬かえで、伊藤文乃、岡本理沙、入馬券、仲田瑠水 後列左から・藤岡侑真、作・演出の刈馬カオス、古馬ペンチ、青木謙樹

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劇作家・演出家の刈馬カオスによるソロユニットとして、公演のたびに出演者を集めるスタイルで愛知を拠点に活動を続ける刈馬演劇設計社が、7月5日(金)から名古屋の「千種文化小劇場」にて新作『神様から遠く離れて』を上演する。

近年は、現代社会が抱える問題や歪みを題材とした作品を描くことの多い刈馬が今回挑んだのは、新興宗教に入信した親を持つ子世代たち─いわゆる“二世信者”の葛藤を描いた作品だ。今回はなぜこの題材を選び何を描こうと思ったのか、刈馬カオスに話を聞いた。

刈馬演劇設計社『神様から遠く離れて』チラシ表

刈馬演劇設計社『神様から遠く離れて』チラシ表

── 刈馬さんは実際の事件や事故を作品の題材にされることが多いですが、今回も何か気になる案件があったのでしょうか?

事件ではないんですけど、“二世信者”という問題が最近ちょこちょこ取り上げられるようになってきて、僕の視界にもその話題が入るようになってきました。例えば、「エホバの証人」とか「創価学会」とか高度経済成長期に信者を獲得した新興宗教の信者たちがいま親世代になり、その子どもが成人に近い年齢になっている。そういった時代を迎えて、親の信仰をそのまま子どもが受け継がざるを得ないというか、本人の信仰心とは別に信者登録をされているということが問題になったりしているということで今回、作品の題材として取り上げました。

── “二世信者”のことが気になったきっかけというのは?

実際に二世信者の方が描いた実録漫画がツイッターで回ってきて、それを読んでなるほどと思ったことと、信仰というものは本人の心の問題にも関わらず、世襲されていくというのは新興宗教だけの話じゃなくて、我々も檀家としていつの間にか信者として登録されたりしていますよね。

稽古風景より

稽古風景より

── 生まれながらに自分の家の仏教宗派が決まっていたり。

そういうことなんですね。たまたま、長崎のキリスト教関連施設が世界遺産として登録されることに関連したドキュメンタリー番組を見た時に、今も潜伏して信仰するキリシタンの方がいらっしゃることや、その信仰する形態が本家本元のキリスト教とはだいぶかけ離れてしまっている、ということを知ったんです。「今の時代、禁教でもないのになぜ隠れて信仰するんですか?」という質問に、「私の親や祖父たちが隠れて信仰していたから私たちも隠れて信仰する。隠れて信仰することが私たちの宗派です」というようなことを言っていて、この先祖代々継承されていく感じは、非常に日本的でお寺の宗派的な感じが近いな、と感じました。

それと、遠藤周作の小説『沈黙』に触れた時に、劇中でも引用するんですが、「…やがてパードレ(神父)たちが運んだキリシタンは、元から離れて得体の知れぬものになっていこう。日本とは、こういう国だ…」というセリフがあって、この辺が日本人のメンタリティーという部分とどういう風に関わってくるのかな、と。もちろん宗教の話だけでは非常に狭い話になってしまうので、親の愛情であるとか、親というもの…つまり人間にとっての神のように、ある絶対的な存在であったりする瞬間があると思うんですけども、そこからどう逃げるのか、ということですね。あとは、疑似家族ものをひとつ書きたいと思ったんです。

── そういった興味や思いを元に、物語としてはどのように構築されていったんでしょう。

先ほど言った二世信者のルポ漫画や、今も潜伏して信仰されているキリシタンに関するルポルタージュやドキュメンタリー映画をよく観ました。あと、〈壁に囲まれた施設〉という設定で閉鎖的なコミュニティーのようなものを扱いたかったので、「ヤマギシ会」(理想社会を目指す自給自足の共同体)の形態と、アメリカで電気を使わず現代的な文化を否定する暮らしをしている「アーミッシュ」について調べて、その辺のいいとこ取りをしつつ自分の創作を混ぜながら、まずは一体どういう形態で生活をしているか、というイメージを膨らませるところから始めました。

最終的には、結局は家族がバラバラになる、ということを描きたかったんだと思うんです。宗教団体から逃亡した3人の女たちがやがて全員バラバラになる…という構想は、戯曲を書き始めた早い段階からなんとなく決まっていたんですね。ある家族という連帯感や共同意識、共同体といったものがバラバラになることによって、悲しさや崩壊というものを感じるかもしれない一方で、縛りから自由を得ることにもなる。3人が所属していた宗教団体ではお互いを兄弟姉妹と呼んでいて…これは「エホバの証人」をモデルにして仮家族という感じにしているんですけども、「その家族とは幻想である」というところに持っていきたいと思いました。

稽古風景より

稽古風景より

── 今回の出演者は客演の方と、それとは別にオーディションという形も取られていますね。

「オーディションをしてほしい」という意見をよく聞いたというのがひとつと、劇団員のいないユニットなので、常に新しい才能と出会う必要があると。とはいえ、僕も観劇を網羅できているわけではないので、観に行っていない劇団に素晴らしく自分が興味を持つ俳優がいるかもしれない、と思って、そういった出会いの場を設けてみようと思ったんです。

── 具体的にはオーディションでどんなことを要求されて、何が決め手となって仲田瑠水さん、藤岡侑真さん、岩瀬かえでさんの3名を選ばれたのでしょうか?

オーディションの内容は、軽くお話をするというゲーム的なことと、過去に僕のお芝居で使った台本を読んでもらうということでした。まず最初のゲームの時点でどれぐらい他の参加者とコミュニケーションを取る能力があるか、ということがひとつ。この場を楽しい場にするという目的をきちんと考えてくれる人、という点を見ました。台本は2種類あって、長ゼリフのモノローグとダイアローグだったんですけども、一人で長く喋ることがきちんと持続して出来るか、ということ。そしてダイアローグの時に相手の役を無視しない、ということですね。このふたつを特に重視して、50人ほど受けてくださった中で今回はこの3人を選びました。

稽古風景より

稽古風景より

── 今回公演を行う「千種文化小劇場」は円形劇場ですが、機構を生かした見せ方などはありますか?

僕はこの劇場が好きなので常に上演のチャンスを狙っていて、劇場が決まったのとだいたい同時期に“二世信者”という題材は考えていました。主な舞台が「日本の外れにある小さな離島」という設定なので、円形劇場の方が島を感じやすいんじゃないかな、というのと、この劇場は非常にタッパがあってシンメトリーで、祝祭的な雰囲気を持っているので、(今回のシチュエーションである)教会という場所にふさわしいんじゃないかな、という思いもありました。

── 演出的な仕掛けとして、考えていらっしゃることなどは?

ここ数作品、音響家の椎名KANSさんとお仕事をさせていただいていて、「こういう音響を鳴らしたい」という発想から着想することが多いのですが、今回も同じく、作中の重要なモチーフを音響で表現しています。具体的には、主人公が戯れに古井戸に投げ入れた小石の音が追いかけてくる、という描写が繰り返しあるのですが、劇場を井戸に見立てて、スピーカーを多く仕込んで落下する小石を体感する仕掛けがあります。あとは曲の書き下ろしと、オープニング・アクトとしてダンスを展開するのは、前回公演の『フラジャイル・ジャパン』に続いて取り組んでいます。

取材・文=望月勝美

公演情報

刈馬演劇設計社 PLAN-13『神様から遠く離れて』

■作・演出:刈馬カオス
■出演:岡本理沙(フリー)、伊藤文乃(オレンヂスタ)、岩瀬かえで(劇団わに社)、入馬券(てんぷくプロ)、仲田瑠水(廃墟文藝部)、青木謙樹、TERU(なんだかんだクレイジー)、藤岡侑真(名城大学劇団「獅子」)、古場ペンチ(Pinchi 番地)

■日時:2019年7月5日(金)19:00、6日(土)13:00・18:00、7日(日)11:00・16:00
■会場:千種文化小劇場(名古屋市千種区千種3-6-10)
■料金:一般前売2,800円 U-25 2,300円 高校生以下1,800円 ※当日券は各料金から+200円、U-25・高校以下は年齢確認のできる証明書を受付で提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「吹上」駅下車、7番出口から北へ徒歩3分
■問い合わせ:刈馬演劇設計社 090-9178-9199 karuma_engeki@yahoo.co.jp
■公式サイト:http://karumaengeki.wix.com/karuma
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