中村獅童が語る心構えーー初音ミクと4年連続5度目の共演!南座での超歌舞伎に挑む「疑いを持つために稽古を重ねています」
中村獅童
歌舞伎俳優・中村獅童とバーチャルシンガー・初音ミクがコラボし、最先端の技術を取り入れてまったく新しい歌舞伎の姿をみせる「超歌舞伎」。2016年、ボーカロイド曲「千本桜」と歌舞伎を代表する作品『義経千本桜』を融合させた独自の演目『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』などにはじまり、毎年、新鮮な興奮と驚きを与え続けてきた超歌舞伎だが、2019年は、400年にわたり歌舞伎を上演してきた歌舞伎発祥の地・南座(京都)で開催される。演目は、初音ミクが歌舞伎の祖・出雲のお国を演じ、中村獅童扮する恋人・名古屋三山と豪華絢爛な総踊りを披露する新作『お国山三 當世流歌舞伎踊 (いまようかぶきおどり)』、そして「ニコニコ超会議2016」で初演された超歌舞伎の記念碑的作品『今昔饗宴千本桜』など。超歌舞伎の公演では、ペンライト(サイリウム)をつかった応援もおこなわれるが、歌舞伎にとって異例のこの観劇スタイルは、日本最古の歴史の持つ劇場・南座をどのように様変わりさせるのか。見どころあふれる南座超歌舞伎に挑む、中村獅童に話を訊いた。
――初音ミクは芝居の間合いもセリフも間違えない、完璧なシステム。そういった存在を前にして、どういう芝居を意識していますか。
相手にどのように合わせるか、それをいつも以上に意識しますね。自分が(芝居で)突っ走っては成立しないので。
――対人であれば事前に打ち合わせもできますけど、それができないですもんね。
だからこそ、感動する。芝居している側にとっても、観ている方にとっても、ありえないことが実現するので。夢なんですよ、一瞬の。ありえないことが実現するという夢。歌舞伎という400年の歴史の中に、現代が生み出した初音ミクさんという存在が登場し、歌舞伎の舞台に立ち、生身の役者と共演する。まるで夢のような融合の世界。
――超歌舞伎には、「数多(あまた)の人の言の葉」という重要な台詞があります。弾幕(コメントが次々と飛び交って画面を覆い尽くす現象)を特徴としたニコニコ動画を含む、まさにネット文化を表す台詞であり、2018年開催時は獅童さんの帰還(2017年に肺線ガンであることを公表し手術を経験)を宣言する言葉にもなり変わりました。
そうですね。この台詞を言うと、いつも最後に会場と出演者が一丸となれる。同じ夢を見て、最後は桜が散るように華やかになる。それが醍醐味。ここで巻き起こる声援が、中村獅童自身がお客様からいただくエネルギーになります。
中村獅童
――超歌舞伎は、新しいものを取り入れているけど、でも歌舞伎の伝統と古典も当然しっかりと汲んでいる。まさに「獅童さんがやるべきこと」なのかもしれません。
新しいことをやっているけど、でも奇を衒うものではなく、根っこは古典ですよね。分かりやすいところでいけば、衣裳、かつら、これらすべて古典。あと音楽も基本は下座(げざ)、義太夫(ぎだゆう)だし、立廻りの型も超古典。歌舞伎通の人が観たら、この立廻りはあの芝居だなとか、必ず気づいてもらえます。
――先ほど「融合」というコメントがありましたが、そうすることへの恐れがない部分がすごい。
いや、全くないといえば嘘になる。恐れていたら何もできないから。古典だけやっていればいいとか、そう言う考え方は自分には合わない。昔からそうだけど、人と違うことをやったとき、興味を持ってくれる人もいれば、「なんだあいつ」という人も当然いました。ただ、それはどんな仕事でもそうじゃないですか?
――たしかに。
守りに入るのではなく、攻めなきゃいけない。批判を恐れてはいけない。一方で、プロとしてどれだけ多くの人に受け受け入れられるか、そこは重要です。スポーツのように勝敗がはっきり出ないものだけど、どういう風に受け入れられるかは常に気にしている。たとえば、切符の売れ行き、来場者数などもちゃんと気にしています。そしていつも「これでいいのか」という疑いを持っている。疑いを持つために稽古を重ねています。「これは本当に受け入れられているのか」「お客様は来てくださるのか」という気持ちがないとダメ。疑いから生まれる恐怖と常に闘っています。
中村獅童
――獅童さんにあえてお伺いしたいことがあるのですが、歌舞伎が今の時代に求められているものって、何があると思いますか。
デジタルの歌舞伎をやる上で、この答えは矛盾しているかもしれないけど、生活の多くがデジタル化した時代だからこそ、生身の人間との触れ合いに対する感動にも変化ができていると思う。確かに、「上司と飯を食いに行くのが面倒くさくなった」とか、若い人は考えるようになったじゃないですか。僕らの世代では、そんなことは言えませんでしたよ。人と深く関わるのは面倒くさいという考え方もある中で、演劇、歌舞伎は僕らが忘れかけている義理人情が残っている。生身の人間が持っているエネルギーを感じ取れる。そして、日本の色彩美が舞台上で描かれる。それらはすべて世界に誇れるものだと思います。歌舞伎は格好良いし、ある種のものすごいコスプレでもあり、またパンクとも言える。
――歌舞伎とパンクの親和性は様々なジャンルで触れられていますよね。
そうそう。そういう精神性を噛み砕いている。歌舞伎にはファッション性もあるし、はたまたサブカルチャー的な要素もある。歌舞伎=難しいとか、自分には程遠いというイメージを持たれるけど、庶民のエンタテインメントかつ最先端が詰まっている。だから、どこにでもちゃんと届く。歌舞伎は今を生きる芸能の最先端である、と言いたい。
――たとえばスポーツなんかで、「審判も全部デジタルにしたら、誤審もなくなっていいじゃないか」と言われたりするけど、そうなるとつまらなくなりそうな気がします。
本当にそうだと思う。例えばラーメン屋なんかで、ロボットが寸分違わぬ調合で汁をつくり、完璧なラーメンを作る時代がくるかもしれない。だけどやっぱり僕は、人間が作る繊細な味わいに感動したい。それは演劇でも、なんでもそう。超歌舞伎というデジタルを通して、アナログの良さを実感してほしいです。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン
公演情報
-
超歌舞伎のみかた
-
お国山三 當世流歌舞伎踊(いまようかぶきおどり)
出雲のお国:初音ミク
名古屋山三:中村獅童 -
今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)中村獅童宙乗り相勤め申し候
佐藤四郎兵衛忠信:中村獅童
初音美來/美玖姫:初音ミク
初音の前:中村蝶紫
青龍の精:澤村國矢
一. 今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)
佐藤四郎兵衛忠信:澤村國矢
初音美來/美玖姫:初音ミク
青龍の精:中村獅一
初音の前:中村蝶紫
口上 中村獅童