愛知の劇帝・鹿目由紀が寺山戯曲を初演出

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 『ある男、ある夏』チラシ表

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“若い世代に寺山演劇を…”と結成されたプロジェクトがスタート

寺山修司が1967年にラジオドラマとして書き下ろした『ある男、ある夏』が、エス・エー企画により今週末から名古屋のG/pitで上演される。エス・エー企画とは、寺山修司生誕80年の節目を機に、<テラヤマワールド>を実際に観たことのない若い世代に魅力を届けるべく立ち上げられたプロジェクトで、その第1弾公演の演出に指名されたのが、名古屋の劇団あおきりみかんを主宰する鹿目由紀だ。

鹿目は、日本劇作家協会新人戯曲賞をはじめこれまで多数の受賞歴を誇り、愛知で毎冬おなじみのイベント、日本劇作家協会東海支部プロデュースの短編芝居コンペ「劇王」では四連覇、ついには殿堂入りし<劇帝>の称号を手にしている。自身の劇団の劇作・演出をはじめ、外部演出やテレビドラマの脚本、演技指導など多岐にわたって精力的に活動を続けているが、喜劇色の強い作品を手がけることの多い鹿目と寺山の組み合わせは一見意外な印象も。鹿目にとっての寺山観や、今作にかける意気込みなどを伺いに稽古場へお邪魔した。

劇団あおきりみかん主宰・劇作家・演出家・俳優の鹿目由紀

劇団あおきりみかん主宰・劇作家・演出家・俳優の鹿目由紀



── 寺山戯曲を演出するのは今回が初めてですよね。
 

そうですね。「演劇大学in愛知」(寺山修司をテーマとして、2009年に愛知芸術文化センターで3日間に渡り開催)のドラマリーディング実践講座で講師をしたんですが、『ある男、ある夏』が題材だったんですよ。その時ぐらいですね。

── 鹿目さんにとって、寺山修司はどんな存在ですか。

『書を捨てよ、町へ出よう』とか本は前から読んでいて、文献もなんだかんだで結構読んでます。街でいきなり演劇を始めて、移動してそのまま演劇を続けていくとかすごい面白いなと。もともとアングラ的なものが好きで、大学の頃にはpH-7(名古屋のアングラ劇団)とかすごい好きだったし、維新派も好きだし、少年王者舘ももちろん。

── 意外ですね。ご自身が創る芝居とは対照的な感じが。

そうなんですよ。でも、自分がもし演じるならああいうのを演りたい。パッツン前髪で白塗りとかすごい憧れました(笑)。そういうのもあって、寺山にもすごく興味がありました。

── いつかは寺山作品をやってみたいと?

はい、思ってました。今はずっと新作を書いているのでなかなかやる機会がないんですけど、寺山の中でもわりとディープなものをやってみたいという思いはあります。

── 今回のオファーを受けた時はどんなお気持ちでしたか。

意外でしたね。エス・エー企画の方が前からうちの劇団をよく観に来てくださっていて、気に入ってくださっているのはわかってはいたんですけど、今回のようなオファーが来るとは全然思ってなくて。「『ある男、ある夏』でどうですか?」と言われたので、それはちょっと本当に意外でした。

── エス・エー企画は、今回新たに立ち上がったわけですよね。

そうです。どうしても寺山をやってみたいということで。もともとこの作品に(リーディング指導で)触れていたので、実際に舞台化するのはありかなと思いました。あと、あおきりでずっとやっているので、他の劇団のメンバーと一緒にやる機会があまりなくて。外部演出もありますけど、自分が興味のある人を集めてやれるというのはなかなかないのでぜひ、と思いまして。

前列左から/火田詮子、磯貝紬、河合希実、松井真人、鹿目由紀 後列左から/平林ももこ(演出助手)、ニノキノコスター、青木謙樹、椎葉星亜、内山ネコ、寺本久美子、源石和輝

前列左から/火田詮子、磯貝紬、河合希実、松井真人、鹿目由紀 後列左から/平林ももこ(演出助手)、ニノキノコスター、青木謙樹、椎葉星亜、内山ネコ、寺本久美子、源石和輝

── キャストは鹿目さんが選ばれたんですか?

そうですね。松井(主人公・ある男役)は、エス・エー企画の方もやってもらいたいということで。ほとんど全員最初から想定していて、制作の人と相談しながら決めたんですが、今一番気になっていて、舞台に乗ってほしくて寺山をやってほしい、という人を選びました。


寺山が演劇実験室◎天井桟敷を結成した年に書かれた『ある男、ある夏』は、一人称で語られる“ある男”の日常が描かれた作品だ。その日々の中でふと現れた少女とのふれ合いや、友人の助監督や会社の同僚との会話、養老院にいる母や老女たちのやりとりなど、どこか奇妙な気配が漂いつつも淡々と描かれる一方、ト書きには当時の歌謡曲や野球中継、市電の音や雨音など生々しく多彩な効果音が多く書かれ、寺山の作品ノートにも、<音の空間でのポップアートを作ってみたいと思った>と記されている。稽古の様子から、鹿目演出でもさまざまな“音”へのこだわりが見られ、その辺りも見どころのひとつと言えそうだ。

── 脚本はほとんど変えていないんですね。’60年代の時代背景やト書きの曲なども当時のままで。

変えてないです。変えるつもりもなくて。ちょっとわからないことがあっても、そのままお客さんに楽しんでもらうという感じにしたいなと。

── 少し膨らませている部分があるように見えましたが、あれはアドリブで?

役者にこんなことをやってほしいというのをお願いして、それを好きなように自分たちで考えてやってくれているんです。アレンジをいろいろ変えるというのはあると思いますがセリフそのものを変えるつもりはないので、バックグラウンドの感じをどうやってみんなが出すかは、かなりアドリブ要素が強いと思います。

── そこでもあまり現代的なことは入れないという感じでしょうか。

そうですね。ただ安保闘争の時代なので、今もいろいろありますよね、安保法案のこととか。そこは少しのリンクは欲しいなとは思っていて、どうするかを考えてます。今の時代の中でデモをどう見せるか、と。

── 演出的に今回、テーマにしていることや気をつけていることはありますか?

元々そんなに押しつける方じゃないんですよ。ここで絶対こうしてとかそんな感じじゃなくて、『北風と太陽』で言うなら太陽の方。ポカポカさせながら、「コートは脱いだ方が良いのではないか?」と(笑)。ポカポカをどう出すかを考えているんですけどね。

── 初めて一緒に芝居を創る役者が多いですが、稽古の感触はどうですか?

想定以上ですね。稽古初日で「あれやって、これやって」っていろいろ注文をつけて、あとは放置だったんですけど。それを見た段階で「これは絶対に面白いものができる」と思えたのが大きくて。あまりそんな風に思わないんですが、良かったなと思います。もちろん脚本も良いからなんですけど。

── 火田詮子さんや佃典彦さんなど先輩もいらっしゃいますが。

諸先輩方はすごく真摯でいらして。佃さんは、“やってやろう”感満載で稽古場にいらっしゃいます(笑)。詮子さんもいろんな打ち出し方でやってくださるので、自分が「あっ、ここはこう」って思ったことだけ言えば、なるようになっていくという感じですね。ただ、詮子さんは別のインタビューの時に「何も言われないのは怖いし、意外だった」って言ってました。

── 私もちょっと意外でした。もっと役者にいろいろ指示されるのかと。

なるべく気づかれないように、コート脱いだら「しめしめ」みたいな(笑)。強い打ち出しの時がなくはないんですけど、そればっかりだと聞く耳が減ってくるんじゃないかと。ただ、一緒にどういうものを創っていきたいかという方向性だけは、時間を割いて話すようにはしてます。「実はこういう風にしたい」とか、「こうしたいから、今こういうことをやってる」とか、様子を見ながらちょっとずつ説明してます。主宰の方も多いので、感じ取るのが早いんだろうなと思いますけどね。

── プロデュース公演のような形ですが、その苦労はないですか?

今のところないですね。しかも自分の中で今回の話は、場面場面で与える効果が違っていいと思っているので。つまりその人の持ってる手腕があって、その手腕を発揮できればバラバラなようでいて実はまとまるんじゃないかって思ってるんですよ。プロデュース公演で大変だと思うのは、演技の種類がだいぶ違う人が揃っていた場合に苦労すると思うんですけど、この寺山作品に於いては、その種類の違うことがむしろ効果的に働くと思ってるんです、なんとなく。

── そういう意味でもあまり役者に指示しないんですね。カラーを消さないように。

そうです。変な統一感を持たせないというか。<ある男>という役の松井が一貫した何かを持っていれば、それで成立する感じというか。

── 少女役はオーディションで選ばれていますが、選考基準は?

結構たくさん受けてくださって、30代の人もいたし、どうしようかなと思ったんですけど、今回の少女役は河合希実さんというんですが、声も顔も昭和っぽいなと思って。白黒映画で、道で行儀よく「こんにちは」って挨拶するような子どもに見えたので、これはこいつだなと(笑)。子どもだからというのもあると思うんですけど、生きてるんだか死んでるんだかっていう感じで、いいなぁと思います。今回の話にはすごく合ってると思うし、さっきも3~4回稽古したんですけど全部演技を変えてきて。遊んでるんでしょうね、どうやってビックリさせて声掛けようかとか。松井は弄ばれてます、たぶん(笑)。元々豊田で一緒にやってる子で、オーディションを受けに来てくれて。もう一人の小さい女の子、磯貝紬さんも豊田の子で少女役には合格しなかったんですが、『星の王子さま』の世界を表したいので、お花の役で出るんです。豊田でやってることが結構大きいんですよね、今回オファーを受けたというのも。


鹿目は、2011年から「とよたこども創造劇場」(愛知県豊田市在住の小学4年生~中学3年生で構成)で演技指導を担当。毎年約60名の出演者に“あて書き”する作品で上演を行い、この11月初旬には第5回目の公演を終えたばかりだ。また、札幌で行われた「教文演劇フェスティバル2015」の短編演劇祭に愛知から参戦した『怪獣日和』(作/長谷川彩 演出/鹿目由紀)の上演でも「とよたこども創造劇場」に所属する中学生を起用、見事優勝を勝ち取った。


── 寺山作品というと母と息子の関係性も大きなポイントですが、その辺りも意識されましたか?

してますね。そこはもう別モノでいいと思っていて、詮子さん(ある男の母役)と松井の場面は空気を変えたいなと。違和感をもってここだけ一回演出変わったぞ、みたいな。むしろいきなり『レミング』とか違う作品の方にシフトした感じが出たらいいな、と思ってるんです。

── 他に演出面での仕掛けなどは?

『星の王子さま』がちょっと絡んでくる話なので、その世界をどう密接に絡めるかというのは、はっきり打ち出しています。元々演者としては居ない者を立ち上げて、2つの世界があるという感じでやることが結構大きいです。それと各回の終演後には、『星の王子さま』の朗読を各キャストでやろうと思ってます。寺山なので、今までのみんなが知ってるG/pitじゃなくしたいというのがあって、入口からもう何かが起こっている感じにもしたいですね。

── 寺山演劇の世界観をちょっと踏襲して体験してもらうという。

そうですね。役者とか、今回出ている人じゃなくても呼んで楽器を弾いてもらったりとか、なんとなく’60年代の世界へタイムトンネルのように行ってもらえたらなと。
 

本作がNHK名古屋でラジオ放送されてから48年。’60年代の気配を色濃くまとったこの作品が、現代を疾走する鹿目演出でどうよみがえるのか、お楽しみに!

『ある男、ある夏』チラシ裏

『ある男、ある夏』チラシ裏

イベント情報
エス・エー企画 第1回公演『ある男、ある夏』

■作:寺山修司
演出:鹿目由紀
出演:松井真人(劇団あおきりみかん)、河合希実、佃典彦(劇団B級遊撃隊)、火田詮子、ニノキノコスター(オレンヂスタ)、山中崇敬(劇団あおきりみかん)、源石和輝、内山ネコ(劇団んいい)、青木謙樹(劇団んいい)、椎葉星亜(劇団んいい)、寺本久美子、毛利美奈子、磯貝紬、カズ祥(劇団あおきりみかん)
 
■日時:2015年11月27日(金)19:30、28日(土)14:00・19:00、29日(日)11:00・15:00、30日(月)19:00
■会場:G/pit
■料金:一般/前売3,000円、当日3,500円 学生/前売2,000円、当日2,500円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、7番出口から徒歩8分
■問い合わせ:エス・エー企画 090-4483-9755
公式サイト:http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_main_id=54882
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