益山貴司、劇団子供鉅人の過去と未来を語る

インタビュー
舞台
2015.11.27
益山貴司(劇団子供鉅人主宰)

益山貴司(劇団子供鉅人主宰)

「良い所も悪い所も、すべてがそこにあるような世界を作りたいんですよ」

様々な妄想と狂気と愛がにぎにぎしく乱舞する、往年のアングラ演劇を思わせるような舞台で異彩を放っている「劇団子供鉅人(こどもきょじん)」。昨年本拠地を大阪から東京に移し、今年だけで新作を3本上演(+台湾公演)するなど、東京進出1年目にして胸のすくような快進撃を見せている。今年12月~来年1月には、その総決算となる新作『重力の光』を上演。主宰で作・演出の益山貴司に、今年で10年目を迎えた劇団の歴史や、目指している劇世界などを聞いてきた。

劇団子供鉅人『HELLO HELL!!!』(2013年)

劇団子供鉅人『HELLO HELL!!!』(2013年)

世界には、まだ掘り起こされてない物語が埋まってると思うんです。

──まずは子供鉅人の歴史を振り返りたいと思うのですが。

僕が(子供鉅人の)前にやっていた劇団と、むにゃ~となってる部分がありますけど、多分2005年のクリスマスに公演を打ったのが一発目かなあと。ドン・キホーテをモチーフにした芝居で、主人公を当時うちに居候していた、元「村八分」のドラマーの方にやってもらいました。

──それだけでもかなりコアですねえ。

相当むちゃくちゃやったと思いますよ。で、次の年にはいきなり欧州ツアーに行くんですけど、それは[ポコペン](註:大阪時代、益山が住んでいた家を使ってオープンしていたバー)にベルギー人のミュージシャンが泊まりに来て、その流れで一緒にイベントをしたんですね。そうしたら「じゃあ今度は、君たちがベルギー公演するよね?」って話になって、そっから3回ぐらいピンポン的な行ったり来たりを繰り返しました。

──普通はそこで簡単に「行くよ」ってならないですよね。

「行くよ」になったんですよね、自腹で(笑)。車で連れ回されて、今日はどこでやるんだ? 人んちのパーティかよ! って…でもその時いろんな所でやったという経験や、人間が集まる所に現れてくるドラマをすごく感じられたのが、日本でもフィードバックされてると思います。

ヨーロッパツアーの一コマ

ヨーロッパツアーの一コマ

──実際[ポコペン]の台所とか船の上とか、いろんな所で公演を打ってますしね。

お客さんがいればどこでも劇場になるっていう考えは、すごい昔から持ってます。19歳の時に読んだピーター・ブルックの『なにもない空間』が、今でもバイブル的な存在。観客がいて、役者が横切れば、それだけで演劇は生まれるという。ってことは、じゃあどこでも演劇は成立するから、場所は選ばないということはありますね。まあ[ポコペン]の公演は、単純に劇場費がかからないというのが理由でしたけど(笑)。

──でも益山さんは、そういう劇場以外の場所から物語を作ることに、かなり長けているという印象があります。

自分でも本気かどうかわからないけど、考古学者になりたかった時期があったんですよ。だから「物語を発掘する」という例えを、結構使ってる時がありました。記憶が堆積している場所だったり、あるいは出合った人とかから、物語のとっかかりを作るタイプ。それってやっぱり、発掘する作業が楽しいってことなんですよ。世界にはまだまだ、掘り起こされてない物語がたくさん埋まってる、みたいな。

──となると、劇場よりも劇場じゃない空間の方が、未知の物語を発掘できる可能性が高い。

そうですね。腑に落ちる時が多いです。だからあれですね、「こんな物語が書きたい!」っていうより、書かされてる側面が多いです。出合った人とか場所とかに付き動かされるという。だから物語を書くことに関しては、私は結構受け身な人間だと思いますし、その方が楽なんですよ(笑)。世界には無限に材料があるんで。

劇団子供鉅人[ポコペン]で上演した『キッチンドライブ』(2009年)

劇団子供鉅人[ポコペン]で上演した『キッチンドライブ』(2009年)

──ただ東京移転後は、劇場で演じることにこだわっているということですが。

劇場で芝居をするのって、ある種のスキルがいるじゃないですか? 役者にとって。そこが劣化してしまうのが問題なんです。お客さんって「船で芝居する」とか言うと、その時点で観る前から「面白いだろうな」ってポイントが上がるんですよ。でも劇場って、ハードルが上がるじゃないですか?「何見せてくれるんだよー」みたいなね。そこに私たちが耐えられるモノになっていかないと、頓挫するのではっていう恐怖感があって。だから劇場でちゃんとしていこう、じゃないと僕らの役者生命がどんどん短くなっていく、と思ったんです。

──実際に東京に移ってみていかがですか?

映像のお仕事などが多いので、自分の生み出した芸で生活していくチャンスは、やっぱり多いです。と同時に、そういう予定が重なってくると、今度は劇団公演を打つのが難しくなってくるという。その帳尻をどう合わせていくのかが、今後の課題だろうなって。

──ただ子供鉅人の場合は、すでに東京である程度顔が知られていたので、比較的順調に滑り出してるように見えますね。

そうですね。赤字垂れ流しながら東京で何回かやってたし、NODA・MAPで(東京の関係者に)つながりができたりと、地ならしをやってましたから。それをしてないと、解散するために東京に行った、みたいになりますからね(笑)。でもやっぱり、東京は厳しいですよ。観客層に入り込むのがなかなか難しいというか…今の東京のトレンドと、自分たちのトレンドは一緒じゃないということもあるじゃないですか? 東京に行けば必ず客が入るわけではもちろんないので、まずは劇団にも役者たちにも、いっぱいファンが付くように頑張ってる所です。今劇団員たちには、いろんな現場の手伝いに行って、自分個人の人脈を作るように言ってますし。そういう営業というか、自己プロデュース能力は、大阪と違って格段に問われてくると思います。

劇団子供鉅人『モータプール』(2013年)

劇団子供鉅人『モータプール』(2013年)

『重力の光』は芝居で勝負する、世界につながっていくような“演劇”。

──「愛と不毛と救済の三部作」と称して、1年で新作を3本も上演したのは、やはり東京に切り込む作戦の一つだったんですか?

本当にもう、そうっすね。もっと東京の人に知ってもらうために、数を打ちたいと思ったんです。でも私が今年前半に「NODA・MAP」に出てたために、実際は半年で3本という地獄のコースになりました(笑)。

──このテーマにした理由は。

テーマがあった方が自分が書きやすいというのと、「愛について書かない物語はない」という持論があるんで。実際自分の創作を振り返っても、ほとんどが愛についての話だから、その総決算として「愛」について集中的に書きたいなと思ったんです。でも書いてみたら、ゆがんだ愛ばっかりで(笑)。2本目(『真昼のジョージ』)なんか、勝手な妄想で人を撃ち殺しまくってるし「ゆがんでんなあ、私」と思いました。

──それは愛に対する何かのアンチテーゼで?

露悪趣味ではないですけれど、そんなゆがんだ愛もまた、世界の一つの形だと思うんで。そこから目をそらすんじゃなくて、それに対して自分の意見を持つというか、受け入れることも大切なんじゃないかと思うんですよ。シェイクスピアじゃないですけど、舞台の上に「世界」を作りたいんです。良い所も悪い所も合わさって、すべてがそこにあるよっていうような世界を、いつも作りたいなって思っています。

劇団子供鉅人『クルージング・アドベンチャー3』(2014年)

劇団子供鉅人『クルージング・アドベンチャー3』(2014年)

──次回作の内容は。

東京に移ってから、劇団員たちのプライベートがより密接になったんです。それで各々の新しい側面が見えてきたりしたので、今の自分たちのことを書きたいと思いました。それと最近、重力がすごく気になっているんですよ。まだ人間が、自分のこととか身近な人間のことしかわかってなかった時代、物理学は神話で説明されていて、その中で重力は「愛」という言葉を使っていたそうなんです。「星と星がずっと離れずにいるのは、お互いが愛し合ってるからだ」みたいな。そんな重力に我々人間は逆らえないけど、逆らえる存在があるとしたら、たとえば天使なのかなって。

──ということは、今回は天使の話ですか?

ですね。半分天使で、半分人間の人が主人公です。天使って両性具有なんで、男も女も自分の理想の姿をそこに投影するという。そして彼…あるいは彼女の羽をみんなでむしっていって、天使を人間におとしめていく…重力の世界におとしめていく、というイメージです。

──今回の見どころになりそうなのは。

 最初は音楽劇にしようと思ったんですけど「バンドがおるから面白い」ってなるのもイヤやなあと思って。だから今回は、芝居で勝負するつもりです。一つの部屋が見立てによって、世界につながっていくような“演劇”にしようと思っています。

益山貴司

益山貴司

──これが終わったら、次はどういう風に攻めていこうと思ってますか?

まだ公表はできないんですけど、名を上げるチャンスになるような公演が2つ決まってるんです。だから今は、正攻法のお芝居で攻めていって、その地ならしをしていこうと思っています。いざ大きな舞台に立った時に「なんだこんなもんか」と思われたら、腹立つでしょう?(笑)

──でもその一方で、久々に変わった場所での芝居も観てみたいですよね。

やりたいんですよー! この間「多摩1キロフェス2015」というイベントで「青空おばけ屋敷」っていうのをやったんです。フェスのために急遽作ったネタなんですけど、これが死ぬほど受けたんですよ。劇団のキラーコンテンツ、久しぶりにゲット! みたいな(笑)。これをいろんな所に持って行きたいし、もっといろいろ攻撃的に行きたいですね。来年は今年ほど公演が多くないので、1つずつ丁寧にやっていけば、多分この先も大丈夫じゃないかなと思っています。

イベント情報
劇団子供鉅人『重力の光』
《大阪公演》
■日時:12月3日(木)~7日(月) 19:30~ ※5・6日=14:00~/19:00~、7日=14:00~
※7日は公演終了後にイベントを開催
■場所:近鉄アート館
《東京公演》
■日時:1月13日(水)~19日(火) 19:30~ ※16・17日=14:00~/19:00~、19日=14:00~
※19日は公演終了後にイベントを開催
■場所:駅前劇場

■料金:一般=前売3,800円 当日4,000円 学生=2,000円 高校生以下=1,000円
※学生&高校生以下は前売・当日同料金。3人以上同時予約で各300円引(劇団予約のみ)
■作・演出・出演:益山貴司
■出演:益山寛司、キキ花香、影山徹、億なつき、山西竜矢、ミネユキ、益山U☆G/石田剛太(ヨーロッパ企画)、篠崎大悟(ロロ)、呉城久美(悪い芝居)/うらじぬの、古野陽大、佐藤ばびぶべ、長友郁真、阿部未和、豊澤知子、柿の葉なら、地道元春、南舘優雄斗、鴇田直也
※全公演日替わりゲスト登場。詳細は公式サイトでご確認を。
■公式サイト:http://www.kodomokyojin.com/ 
シェア / 保存先を選択