結城萌子初インタビュー、オタク少女時代から、川谷絵音ら豪華作家陣を迎えたEPでデビューまで
撮影:大塚正明
4曲入りEP「innocent moon」で8月28日に歌手デビューする新人声優の結城萌子がSPICE初登場!ゲスの極み乙女。やindigo la Endで活躍する川谷絵音が全作詞・作曲、編曲に菅野よう子、Tom-H@ck、ミト(クラムボン)、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)を迎えた超豪華作家陣が手掛けた楽曲についてはもちろん、声優を目指したきっかけや“アンニュイ”で独特なたたずまい、楽曲からも感じられる“生きづらさ”についても語ってもらった。
――今回、SPICE初登場ということで結城さんご自身のお話からお聞きしたいと思います。まず、声優になりたいと思ったきっかけは何でしたか?
マンガとかアニメとかゲームとかがおうちにあふれている家庭環境だったので、オタクになるべくしてなったような感じですね。自然とアニメとかマンガとかに関わるお仕事がしたいなと思うようになっていて。私自身、自分にすごいコンプレックスがあったので「自分じゃない人として生きてみたい」と。好きなアニメとかのキャラになれたらもっと楽しく生きられるかなと思ったのがきっかけだったように思います。
――具体的に好きなタイトルはありますか?
マンガだと高橋留美子先生の『うる星やつら』は、親の実家にあったものをこっそり持って帰ってきて家で読んでいました。兄弟は(週刊少年)ジャンプ系の作品とかをよく観ていたりしていて。アニメを観ながら夕飯を食べるという生活をしていたので、そこでは『テニスの王子様』とかを観ていました。
――林原めぐみさんがお好きだと聞きましたが、それもアニメからですか?
はい。『シャーマンキング』とか『らんま1/2』、『スレイヤーズ』『(名探偵)コナン』とか……ほかにも『(新世紀)エヴァンゲリオン』とか。なんだろう、気づいたら追っかけていて、すごく好きになっていました。ラジオの「東京ブギーナイト」とか今でも聴いてますよ。
――30代後半の僕らと同じようなハマり方をしていたみたいですね(笑)。でも、『らんま1/2』も『スレイヤーズ』も結城さんの世代だとリアルタイムでは放送していないですよね?
そうですね。ぜんぜん世代ではないんですけど、小さいときから昔の作品を掘り起こす習性みたいなものがあって。部活動が終わって家に帰ったらすぐにパソコンをつけてアニメとかを観て、夕飯を食べてから朝になるまでパソコンをやって学校に行って、学校でうとうとする……みたいな感じでした(笑)。
――学校ではどんな感じの子供だったんですか?
学校は……まだ私の学校では若干オタクに対する偏見みたいなものがあったので、あんまり声を大にしてオタクですと言えなかったんです。クラスのなかでもオタクであろう友だちと密会みたいな感じで「今何が好き?」みたいなのを交換ノートで情報を交換していたりとかしていました。
――メールやSNSではなくて手書きのノートなんですね。
超アナログですね。イラストとかも描いたりして「今はこのキャラが好き」とか。
――イラストも!どういったキャラクターが好きだったんですか?
当時すごく好きだったのは緋村剣心さんですね。
――『るろうに剣心』の。
はい。中学生のときの友だちに卒業してから会ったときに「実は私もすごい剣心が好きだったけど、私(結城さん)が剣心のことを好きすぎて言えなかった」って言われて。そんなに好き好きオーラ出てたオタクだったんだなと思いました(笑)。(瀬田)宗次郎も、物腰柔らかな青年だけど運動神経抜群で縮地を見たときかっこよくて好きになりました。
――音楽学校でフルートを専攻されていたそうですが、こちらはどういったきっかけで?
最初はピアノをやっていたんですけど、練習がすごく嫌になっちゃって。やっぱりマンガとかアニメとかにふれていても「次のレッスンまでにこの曲を先生に見せなきゃいけない」みたいなことが頭のなかにあって、自分のオタク活動に対して100%没頭できていなかったんですよね。それで、ピアノ嫌だなあって思っている矢先に、お姉ちゃんが部活でやっていたフルートを吹かせてもらって。そうしたら、たまたま音が出たので「あ、私フルート吹けるのかも」と思って。
――リコーダーやハーモニカとは違って音を出すだけでもコツが要りますよね。自分で才能があるぞと思ったと。
それで苦しかったピアノからシフトチェンジしていきました。声優さんになりたいっていう気持ちもありつつも、音楽は音楽ですごく楽しくて熱中していました。フルートは10年以上やっていたので、フルーティストになりたいって思っていたときもあります。でも、声優にもなりたいみたいな。
――音楽学校の卒業後はフルート奏者になる道もあったけど、紆余曲折を経ていまこうして声優・歌手という道を選んだと。
そうですね。
撮影:大塚正明
「『さよなら私の青春』は結城萌子という存在をイメージした曲」
――今回、音楽評論家の冨田明宏さんの監修という形でCDデビューになりました。川谷絵音さん、菅野よう子さん、Tom-H@ckさん、ミトさんという豪華作家陣について、文化放送 超!A&G+で放送されていた「結城萌子のいま、おきました。」のなかで「きっとここ3~4回くらいは輪廻転生できない」と独特な言葉で驚きを表現していましたよね。来世の分まで徳を使ったと。
もともとファンだった方とかも含めて本当にすごい大御所ばっかり楽曲に参加してくださったので、来世とかに期待できないくらいの。「たぶん最後かも」という気持ちでやらないといけないなって。今まで生きてきたなかでいちばん頑張らなきゃいけないんだろうなっていうのは感じています。
――歌手デビューに向けて、けっこう前から準備されてきたそうですね。
していましたね。それこそ冨田さんとお会いする前からこの歌手活動のプロジェクトっていうのは水面下で動いていました。
――冨田さんを監修に迎えたのはどういった流れだったんですか?
声優にもなりたいということをワーナーさんとかにもお話ししていたんですね。そうしたら、ワーナーさんで関わっている方々のなかにアニメとかに精通している方がいなかったので、プロジェクトにはそういう人にも入っていただいたほうがいいだろうという話になって。
――そのときに、どういった方が曲を作るというお話はあったんですか?
もともと川谷さんがきっかけでこの私の音楽のプロジェクトが始まったので、川谷さんが基盤となって集まってくれた方々、というふうに私は思ってます。
――川谷さんのプロジェクトがあったところにボーカリストとして抜擢されたという流れなんですかね。
川谷さんが、以前やっていた私の音楽活動を知ってくださっていて、それでお声かけがあったんです。声優につながるきっかけがあればいいなと思って音楽活動をしていたんですけど、中々見つけられなかったので一度歌手活動をやめようかなと思っていたんですね。ちょうどそのときに声をかけていただきました。
――声優兼歌手といういちばん理想的な活動ができるようになったんですね。
声優になりたいという夢は昔からあったけど、音楽ともこれからもずっと一緒に生きていく定めなんだなと思いました。
――林原めぐみさんも90年代中盤からずっと声優として活躍しつつ歌も発表してこられた方ですよね。
今日はちょうど林原さんと奥井雅美さんの「KUJIKENAIKARA!」という曲を聴いて来ました。
――懐かしい!95年に発売されたアニメ『スレイヤーズ』のエンディングテーマですよね。
めっちゃいい曲ですよね!元気が出ます。
――林原さんの曲は、どちらかというと人を支えたり励ましたりする曲が多いですけど、結城さんの曲とは違った方向性ですよね。
林原さんって本当に人類を超えた方だと思っていて。性格や考え方を含めリスペクトしています。
――そんな結城さんの「innocent moon」には4曲収録されていますが、楽曲の第一印象はどういったものでしたか?
すごくいい曲!と思いました。最初にいただいたのが「幸福雨」で、想像していた音楽とぜんぜん違うものが来たので、川谷さんはこういう曲を書くんだっていう意外性もあって。私に何を歌ってほしいというイメージが、ちゃんとあるんだろうなとぼんやり思いました。
――楽曲をもらった順番っていうのは。
2番目が「さよなら私の青春」、3番目に「散々花嫁」、4番目が「元恋人よ」でした。「幸せになれたら」とか「幸せ」っていうワードがポツポツいろんな曲で出てくるので、「幸せ」っていうワードを川谷さんは大切にしているのかな、私に伝えてほしいメッセージでもあるのかなと思いました。
――「幸せ」という単語が出てきましたが、4曲とも「こうだったらいいのに」というような、どこか満たされていない心情の描写が共通していたように思います。川谷さんが作りたい曲がたまたまそういう曲だったのか、結城さん自身が曲の方向性に影響を与えたのか、どういう経緯で曲が生まれたんでしょうか。
私も直接お聞きしたわけじゃないのでちょっと正確ではないんですけど、「『さよなら私の青春』は結城萌子という存在をイメージした曲」というのは聞きました。
――ご自身のイメージだと聞いたときに、正直どう思いました?
レコーディングが終わった後にスタッフの方から「実はそうだったらしいよ」っていう感じで言われたので「あ、そうなんですね」と。
――4曲とも同じ女の子を描いているように感じて、それが=結城萌子というものを表現しようとしているのかなと。「散々花嫁」のMVも含めて、生きづらそうという印象があって、それでも私はやりたいことがあって前に向かっていくというような。
このあいだ冨田さんから「生きづらそう」っていうイメージは私と川谷さんに感じると言われてハッとしましたね(笑)。そこが似ているから2人はマッチするみたいなことを言われて、傍から見て私って生きづらそうに見えるんだっていうのがなるほどと思ったんですけど。
――ご自身ではあまりそういうことは感じていない。
生きづらいというか、常にいろんなことを考えてしまいますね……。すっごい明るい人とかを見ると「私とあの人はなんでこんなに違うんだろう」とか「この人みたいな考え方ができたらもっと世界が広がるのにな」とか、うらやましいなと思います。
撮影:大塚正明
――パリピにはなれない。
なれないですね……。
――全体的にアンニュイな感じがしますよね。
私、アンニュイってすごい言われるんですけど、どういうところでアンニュイって言われるんですかね。
――テンションが高くはないとか、ちょっと物憂げな表情というか雰囲気というか。
それはもう先天性なんですよ。
――だからこそ、今回の曲を聴いたときに伝わってくる、ハッとするものがあったのかなと。
たしかにこの曲をめっちゃ明るい人が歌われてもあんまり説得力がないですよね。
――ほかに印象に残っている歌詞とかはありますか?
「散々花嫁」は 「夢だからわからん」「夢なのにわからん」って。私、「わからん」っていう言葉を生まれて初めて発音したので。この子はどういう女の子なんだろうなってちょっと思いましたね。みんな「ちゃんぽん麺」はすごい突っ込んでくれるんですけど。
――そこはどうしたって気になりますからね。
そうですよね(笑)。普通のこのお仕事が関係ない友だちとかからも「これどういうこと?」みたいに言われるんですけど「私もよくわかんない」みたいな。
――ほかの曲で、心に残っているワードとかってありますか。
「元恋人よ」という曲の「やなこった」っていうワードがぽつんと出てきたので、どうやって言おうかなっていうのは地味に考えましたね。仮歌を歌ってくださった方と、私の声や歌い方がぜんぜん違っていたので、この曲をどうやって歌ったら良いんだろうっていうことも思いましたし。これがバラードだからっていうのもあるのかもしれないんですけど、ほかの曲よりもすごい考えましたね。
――「元恋人よ」はとくに楽器の音数も少なくて結城さんの声が際立って聴こえるのも特徴だなと感じました。そのぶん歌い方にも悩まれたんですね。
すごくメロディがきれいで、私の心臓をえぐってくる旋律なので、この曲は特にすごく感情移入しちゃうんですよ。だからレコーディングまでちゃんと歌えなくて。ミトさんのアレンジもすごく壮大で、私の精神が持っていかれそうになっちゃうので、そうならないように自分を俯瞰しながら歌わないと何かが乗り移っちゃいそうで怖かったっていうのがありますよね。
撮影:大塚正明
林原めぐみさんや高山みなみさんが歩んできた道筋に沿って進んでいきたい
――端的な感想としては、声優さんのデビューシングルとしてはすごく挑戦的なものを持ってきたなと。ジャケット写真も80年代風というか。
私がもともとすごい昭和のアイドルさんが好きなので。ジャケットをどうするっていう話になったときに、今の声優さんがどういうジャケット写真なんだろうっていうのをスクリーンに映したんですけど、全面的に顔面が出ている感じでキラキラしている感じで「これは私できないかも……」という感じだったんですけど。
――松田聖子さんっぽいですよね。
松田聖子さんとか中森明菜さんとかのジャケットとかもそのあとでスクリーンに映して、私はこういう感じがいいなって言ったら、アートディレクターの方が聖子さんのとあるジャケットを出して「こういうイメージでどうですか」と言ってくださって。私もそのジャケットをめっちゃ好きだったので、それの現代版みたいなものを目指して撮りましょうとなったのがこのジャケットです。
――ご自身も納得の出来栄えと。
満足です。私、本当はあまり顔とかを出したくはないんですけど。
――そうなんですか!?
出したくないですよ。だから声優になりたいっていうのもあったんです。だから、顔をバーン!っていうのは本当はすごく抵抗があったんですけど、このジャケットはちょっと絵画的な、絵みたいな感じだから、一枚の芸術作品っていう感じで見ています。
――このジャケットを見て「声優のシングルだ」とは思わないですよね。歌手デビューを目前にした状況ですが、これからどういった声優になりたいというイメージはありますか?
今いちばん大きい目標は自分が出る作品のタイアップを取ることですね。なりたい声優像に関しては、林原さんとか高山(みなみ)さんとか皆口(裕子)さんとか、そういう方々を小さいころから見ていたので。今は声優業界も変わっているところがあるから難しいんですけど、大御所さんが歩んできた道筋に沿って自分も進んでいきたいと思います。
――アイドル的な活動もやりたくて声優になる方もいますし、そういった方もSPICEでは応援していますが、歌手活動をしながら違った見せ方をしたいと思っている声優もいるよと宣言するのは良いことだと思います。そんな大きな目標に向かってこれから歩いていくと。
私も学生時代はあまり学校に行っていなかったりとか……学校を休んでオタク友だちと池袋で遊んでいたりしたタイプなので。そんな私が、小さいころからの夢を少しずつですけど叶えているから、もし今何かに絶望したりとか「嫌だなあ…」みたいなことがあっても。当時の私みたいな人たちにも一歩踏み出すお手伝いみたいなことができたらいいなっていう。私はもう生まれ変わりはできないですけど、その代わりにこうして歌えることになって。でも、一歩先にいるんじゃなくて、そういう人たちと並行して歩んでいっているというか。
――この取材の前に冨田さんとお話する機会があったんですが、結城さんのことを「儚い感じがあるけれど、エネルギーを内包している」と言っていて。
たぶん、内に秘めているものはすべては放出できていないかもですね。もっとドロドロしたものとか、人に見せられないものとかあると思うけど、それがオーラとしてにじみ出ちゃっているんですかね。
――今後、曲を出されたらライブで歌うという話にもなってくると思うんですよね。ご自身の今後の活動で、そういった内包しているものが表に出てくる機会はあると思います?
そうですね……曲を聴いたら、その曲のスイッチみたいなものが入るから、そのときにもしかしたら「おっ?」みたいなものがちょっと見えるかもしれないですね。表情とか。でも、それで変なレッテルを貼られるのは嫌だなぁ。「不思議」みたいなのとか。
――「不思議ちゃん」とか「~~っぽい」みたいなことは言われたくないと。結城萌子は結城萌子でいきたい。
そうです。
――声優に憧れたきっかけに「自分じゃない人になりたい」というお話がありましたけど、歌っている時も自分じゃない人を表現するような部分はあるんですか?
今回の4曲に関しては結城萌子がこの歌詞の意味をくみ取って結城萌子として歌いました。だから、ここに出てくる女の子たちになりきって歌ったというよりは、この女の子たちを見ている結城萌子が歌ったという感じですかね。
――結城さんの内側の部分が垣間見える機会もありそうですね。最後に、読者に向けて一言お願いします。
まだまだ声優としても歌手としても、本当にスタートラインに立ったばっかりですし、私のことを知っている人のほうが珍しいと思います。なので、何か結城萌子に対して興味を持ってもらえたり、「こういう子なんだろうな」というのを感じてもらえたりしたらこのEPを出す意味があると思います。なにとぞよろしくお願いします。
取材・文:藤村秀二 撮影:大塚正明