同級生トリオが紡ぐフレッシュな音楽~デビュー間近のクラシック界の新星”トリオ・クレスコ”にインタビュー
トリオ・クレスコ(左から 泉優志、戸澤采紀、西川響貴)
トリオ・クレスコが、クリスマス・イヴの夜、デビューする。
ヴァイオリンの戸澤采紀、チェロの泉優志、ピアノの西川響貴は、全員、東京藝術大学の1年生。3人とも東京藝術大学付属音楽高校からの友人同士である。戸澤は、2016年15歳で日本音楽コンクールのヴァイオリン部門に優勝し、リサイタルやオーケストラとの共演など、ソリストとしても活躍している。愛知県出身の泉は、6歳からチェロを始め、全日本学生音楽コンクール全国大会第3位入賞など、数々のコンクールに入賞する俊英。鹿児島県と福岡県で育った西川は、3歳でピアノを始め、全日本学生音楽コンクール全国大会で第2位に入賞するほか、イタリアのミラノ・ピアノタレント国際コンクールDカテゴリーで第1位を獲得している。
トリオ・クレスコの「クレスコ」はエスペラント語で「成長」を意味する。3人はそれぞれにデュオなどで共演してきたが、トリオを組むのは今回が初めてだ。
左から 泉優志(チェロ)、戸澤采紀(ヴァイオリン)、西川響貴(ピアノ)
――今回がトリオ・クレスコにとっての初めてのコンサートとききました。
戸澤:それぞれに個性があって、その個性がメリットとして出るように感じたので、彼らに声をかけました。
泉:それぞれに共演はしていたのですが、この三人でできるのがうれしかったですね。素晴らしいホールで演奏できるので、気合を入れてがんばろうと思いました。
西川:彼女とは高校1年生の時からずっとデュオを、そして彼ともデュオやトリオ、クァルテットで共にたくさんの曲を演奏してきました。彼らと一緒に弾くことが大好きなので、共に音楽できるのが楽しみです。
――二人から見た戸澤さんとは?
泉:弦楽四重奏やオーケストラで一緒に弾いたことがあるのですが、まわりを引き付ける大きさがあります。自分も共演者として引き付けられてしまいます。
西川:パワフルでエネルギッシュな音楽家。聴いている人も耳が離せない音楽をするヴァイオリニストだと思います。
――トリオ・クレスコを組んでみて、いかがですか?
戸澤:お互いをよく知っていて、遠慮もなく、言葉のコミュニケーションもよく取れているので、合わせる練習がスムーズに進みます。アイ・コンタクトや呼吸を一緒にするのが、この3人では難しくないので、演奏していて楽しいです。
泉:高校から一緒で、音楽以外でも遊んだり、ご飯を食べに行ったり、そういうことも演奏する上では大事だと思います。お互いのいろいろな性格をよく知っているから音楽を合わせるのが楽しい。
泉優志(チェロ)
西川:彼らがどういう音楽をしたいのか、こういう風に弾きたいのだろうなというのがわかるので、一緒に音楽しやすいですね。
戸澤:お互いが信用しているのも大きいと思います。あと、私はいろんなところで室内楽をしているのですが、私の音量が大きいらしく(笑)、今まで音のバランスが難しいと思ってきました。でも、彼らは音が大きいので、今までになく下から支えられているのを味わいながら弾くことができます。
西川:彼女が言った通り、僕も音が大きいといろいろな方に言われますが、2人のパワフルな音量と音色のおかげで、素で弾くことができます。
――ドビュッシー、ラヴェルのピアノ三重奏曲をメインに、多彩なプログラムが組まれていますね。
西川:僕たちの良さが出せるプログラムだと思います。コンサートの前半は僕たちの若さが活かせるでしょうし、ドビュッシーのピアノ三重奏曲は、彼がその曲を書いた年齢が僕らに近いのです。
戸澤:ラヴェルのピアノ三重奏曲は一転して大人な音楽だと思います。パワフルにエネルギッシュに弾く部分と細くて柔らかい弱音をどう交ざり合わせるのかを追求したいです。特に浜離宮朝日ホールは、去年リサイタルをさせていただいたのですが、音響が素晴らしく、ちょっと輪郭がぼやけたような表現での響きが引き立つと感じました。それはラヴェルで活きてくると思います。
泉:ラヴェルが大曲で、今まで経験した中でも、特に難易度が高い。よく話し合って合わせていかなければなりません。ドビュッシーのまだ若々しさの感じられるピアノ三重奏曲で、僕たちの良さをしっかり出したいですね。
――コンサートの前半は、タンゴの革命家として知られるピアソラ、ジャズとクラシックを融合させたカプースチン、そして映画音楽が並べられていますね。
戸澤:コンサートの前半は、これまでクラシック音楽にあまり縁がなかった人にも聴いていただいきたいと思って、いろいろなジャンルの音楽に挑戦します。彼ら二人は、カプースチンのフルート、チェロとピアノのための三重奏曲を演奏したことがあります。
戸澤采紀(ヴァイオリン)
泉:高校の学年演奏会で弾いて、面白かったですね。
西川:そのときは、フルート、チェロ、ピアノの三重奏でした。
戸澤:調べたら、いろいろな方がヴァイオリンでも演奏しているので、今回、取り上げることにしました。
西川:ピアソラは大好きな曲がたくさんあって、『ブエノスアイレスの四季』もそのなかに入っているのですが、是非弾きたいと思っていて、提案したら、採用されました(笑)。
――「ブエノスアイレスの四季」は最近、ヴァイオリン曲として、よく弾かれていますね。
戸澤:「ブエノスアイレスの四季」は、ちょうど先日、サントリーホールのARKクラシックスでジュリアン・ラクリンさんが独奏して、私もそのオーケストラに参加していたのですが、めちゃめちゃカッコよかったです。血が騒ぐというか、身体の中の方からエネルギーがわいてくるようでした。
泉:「パイレーツ・オブ・カリビアン」は映画オタクの僕が選びました。
戸澤:トリオ用の編曲を私たちの高校の担任であった平川加恵先生にしていただきました。
――今回の演奏会ではどういうところを目指しますか?
戸澤:ドビュッシーやラヴェルの楽譜にはテンポの指示がものすごくたくさんあって、頭を使って弾かなければならないのですが、そういうすべての変わり目を自然につないで大きな曲にしていきたいと思います。タイミングを合わせるための不自然な呼吸ではなく、音楽を交ざり合わせるための呼吸でフレーズをつなげていきたいです。
泉:高校からの同級生と大きなコンサートをひらくのは、憧れでした。高校から一緒に音楽とやっていると、お互いより深い部分まで知っていると思いますので、そんな3人のつながりを、演奏を通して感じてもらえたらと思います。
西川:時間は過ぎていく一方で止めることはできませんから、若い今しかできない、そして僕たちにしかできない音楽を目指したいですね。僕たちにしかできない音楽が絶対にあると思います。
西川響貴(ピアノ)
――三人の将来についてはいかがですか?
戸澤:お互いに尊敬し合い、勉強し合うというのは、室内楽には必須だと思いますが、それが自然にできあがっている今の関係は奇跡のようだと思います。お互い成長して、10年後、20年後もやりたいですね。
泉:お互いに尊敬しているのは大きいですね。この機会を活かして、これからもいろいろなお客さんに聴いていただけるとうれしいです。
西川:「クレスコ」は「成長する」という意味ですが、その名前の通り、3人、切磋琢磨して、成長して、これからも皆さまにその成長を聴いていただければと思います。
――最後にメッセージをお願いします。
戸澤:いろいろなジャンルの曲で、どんな方にも楽しめるコンサートだと思います。それぞれの曲の魅力を感じていただけるよう、がんばります。クリスマス・イヴには是非、聴いて、楽しんでいただきたいと思います
泉:魅力の詰まったプログラムなので、曲の良さを前面に出して、その時間をお客さんと共有することができれば、幸せです。
西川:今この歳でしかできない若い音楽を感じ取っていただきたいです。
戸澤:それはこのメンバーだからこそできる妥協のない音楽です。
西川:音楽家として、また人間としても尊敬、信頼し合えるこの関係から、きっといい音楽が生まれると思います。僕たちのこの関係性を音楽からも感じていただけると嬉しいです。
左から 泉優志(チェロ)、戸澤采紀(ヴァイオリン)、西川響貴(ピアノ)
取材・文=山田治生 撮影=iwa
公演情報
トリオ・クレスコ プロフィール
2018年Hans-Jürg Sturb氏マスタークラスを受講し、2019年ドイツにて同氏が開催するWeidenkam Piano Masterclassに参加。Schloss Weidenkamでの受講生コンサートに出演。また、Jean-Claude Pennetier氏、Herbert Seidel氏、イタリアではVincenzo Balzani氏にも指導を受ける。国内では2017年第10回ミュージックアカデミーinみやざきに参加し、受講生コンサート出演。奨励賞受賞。その他コンサート等多数出演。これまでにイタリア国内でのラジオや、九州朝日放送(福岡県)、鹿児島読売テレビ(鹿児島県)のテレビ番組にも多数出演。これまでに池川礼子、斎藤美代子、松岡淳、安田正昭、黒田亜樹、徳あおい、斎藤龍、迫昭嘉の各氏に師事。現在、東京藝術大学音楽学部 1年在学中。