ヨーロッパ企画 イエティ『スーパードンキーヤングDX』作・演出の大歳倫弘に聞く~「サブカルなき世界をさまよい、戦うヤンキーの話です」

インタビュー
舞台
2019.12.18
大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

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劇団「ヨーロッパ企画」で、長年作・演出の上田誠の文芸助手を務める一方、舞台『ナナマル サンバツ THE QUIZ STAGE』(2018・19年)を始め、自らも作家・演出家として活動している大歳倫弘(おおとし・ともひろ)。その彼のホームと呼べるのが、ヨーロッパ企画内の演劇ユニット「イエティ」だ。都市伝説や通販などのジャンクなテーマを使って、笑いつつも何となくその分野に詳しくなるようなコメディが特徴。ヨーロッパ企画の面々が、本公演とは一味違う演技を見せることもあって、公演ごとに人気が上昇している。

そんな大歳が2010年に発表し、「ヤンキー文化」と「サブカルチャー」を比較するという異色の手法で、現在のスタイルを確立するに至った『ドンキーヤング』を、『スーパードンキーヤングDX』として再演。とはいえ、同作の登場人物たちの後日譚の部分が多いので、ほぼ新作と言っていい作品となりそうだ。意外にもSPICEでは初となる、大歳のロングインタビューが実現した。

■上田さんが変化球を投げるのに対して、イエティはオーソドックスに。

──イエティは09年が旗揚げですが、何がきっかけだったんですか?

当時僕は、上田さんの文芸助手もやりながら、TVのコントなどの作家業も手伝ってるという立場でした。そこに石田(剛太)さんが「劇団内でユニットを組んで、コントをやろうよ」と声をかけてくださって。第一回目の時は「イエティくん」というユニット名でした。

ヨーロッパ企画 イエティ#14『スーパードンキーヤングDX』公演チラシ [イラスト]永野宗典(ヨーロッパ企画)

ヨーロッパ企画 イエティ#14『スーパードンキーヤングDX』公演チラシ [イラスト]永野宗典(ヨーロッパ企画)

──なぜ石田さんは、大歳さんに声をかけたんでしょう。

多分僕が、寂しそうにしてたんだと思います。僕は学生スタッフの一人としてヨーロッパに入ったんですけど、その頃僕の同期が全員卒業してしまったので。それを石田さんが見かねて、手を差し伸べてくれた……というのが始まりでした。ただその公演が終わった後、石田さんと僕の間で、わかりやすい揉めがあったんですけど(笑)。

──何が原因だったんですか?

石田さんが(ユニット名に)付けた「くん」を取りたいと、僕が言ったからです。というのも、最初は(公演は)一回だけの予定だったんですけど、やってみたら楽しくて、長く続けたいと考えるようになったんです。そうなると、自分が30歳を過ぎた時に、かわいい名前が恥ずかしくなるんじゃないか? と思ったので「イエティ」だけにさせてもらいました。その遺恨は、いまだに残ってます(笑)。

──本家ヨーロッパ企画とは、何か具体的に違いを押し出すようにはしてましたか?

旗揚げの時は、自分で演出というのがほぼ初めてだったのもあって、そういうことを考えられる状態ではなかったです。作っていくにつれて、何か差別化みたいなことを、すごく考え始めたんですけど、結果として「あまり考えなくても、違う所は違ってくる」というのが、何となくわかってきました。

ヨーロッパ企画 イエティ#11『杉沢村のアポカリプティックサウンド』(2015年)。都市伝説の世界に迷い込んだ人々の騒動を描いた。

ヨーロッパ企画 イエティ#11『杉沢村のアポカリプティックサウンド』(2015年)。都市伝説の世界に迷い込んだ人々の騒動を描いた。

──当時ヨーロッパ企画では禁じ手になっていた、関西弁のベタな笑いや下ネタを、意識してやってた時もありましたが。

一時期はやっぱり、あえてそういうのを入れてましたけど、笑い自体は特に違いを考えることはなくなりましたね。ただ作品のテーマとか、上演スタイルなどについては「上田さんが次はこういうことをやるから、僕はこういうことをしよう」と意識するようになってきました。たとえば今回の作品は、去年の『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』の同時上演がヒントになってますし。だから意識するというより、活動のヒントにさせていただいてる感じが、すごくあります。上田さんが今注目してることとは、あえて逆のことをやってみよう、とか。

──確かにテーマに関しては、SF色が強い上田さんに対して、大歳さんが扱うのは、結構私たちの日常に近いネタです。

だからその点は、違いを意識してるかもしれないです。僕は上田さんほどSFに関する知識も専門性もないので、そこはあえて避けてる……特にタイムマシンは触れたくない。余談ですけど、だいぶ前に「『サマータイムマシン・ブルース』の勝手な続編を、イエティで作っていいですか?」って上田さんに聞いたんですが「それは勘弁してくれ」と言われました(一同笑)。

──あと上田さんが、たとえば『……ワンスモア』で、タイムマシン3つをいかに使いこなすか? など、アイディアの面白さを全面に出す「企画性演劇」をやっているのに対して、大歳さんは割と会話が中心の、オーソドックスなコメディだというのも、大きな違いだなあと思います。

上田さんも、初期は会話を積み上げることにかなり力を置いてましたけど、そこからの脱却みたいな所で、今のスタイルになって。それは飽きもあるんでしょうけど、多分劇団として「じゃあ、こういう新展開にしよう」というのが連動してると思います。それによって、ずっと劇団を追いかけているお客さんは「次は何をするんだろう?」と……作品とは別に、劇団のドキュメンタリーを一緒に追いかけるのも、楽しみにしてるんじゃないかなあと。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

つまりお客さんは、劇団が積み上げてきたものをちゃんと見て来ているわけだから、たとえ上田さんが変化球を投げても成り立つと思うんです。それに比べると、プロデュース公演はあまり公演数が多くないこともあって、そういう楽しみ方をするお客さんはいないんじゃないかと。だったらできるだけ毎回、あまり変拍子じゃないというか、しっかりとオーソドックスなことをやる方がいいかなあと思っています。

──劇団員にとっても、ちょっとした息抜きみたいになってるのでは。

実はそれを目指してるので、そうなってたらすごく嬉しいですね。上田さんは(本公演の稽古の)エチュードで、いくら面白いネタが出てきても、話の中にハマらないものは容赦なくカットするんですけど、僕はなるたけそういうのを拾いたい。役者がやってて楽しいネタは、どんどん盛り込みたいと思ってます。特に角田(貴志)さんは、本公演の現場とイエティの現場では、違う人なんじゃないか? というようなアプローチをしてくるんです。だから本公演とイエティの、両方に出てくださった客演さんは、よくビックリされますね。

──今や映画『すみっコぐらし』の作家先生が。

それでお客さんが来てくれたら嬉しいんですけど(笑)。僕が言ってないことまでやってくるし、あの人の「何考えてるんだ?」というぐらいの振り幅は、本当に魅力です。前回の『ドンキーヤング』には出てないけど、ちょうど「こういう役が必要だ」というのがあったので、急遽お声がけしました。

ヨーロッパ企画 イエティ#12『ヤだなコワいななんかヘンだな』(2016年)。サングラスの男が、ヨーロッパ企画本公演とは一味違う角田貴志。 [撮影]清水俊洋

ヨーロッパ企画 イエティ#12『ヤだなコワいななんかヘンだな』(2016年)。サングラスの男が、ヨーロッパ企画本公演とは一味違う角田貴志。 [撮影]清水俊洋

■サブカルなき世界の光と影を、いつもよりも下世話な笑いで。

──先ほど『スーパードンキーヤングDX』は、昨年のヨーロッパ企画の過去作品再演&続編新作上演がヒントになったと言ってましたが。

僕はそれまで、自分の作品の続編を作るということを考えてませんでした。でも劇団の同時上演と、『ナナマルサンバツ』の続編を作る機会があったので、続編脳になったわけじゃないですけど(笑)「続編って、どう作るんだろう?」ってことを、すごく考えたんです。それと(主役の)中川(晴樹)さんが、以前「『ドンキーヤング』なら、もう一回やってもいい」と言ってたのを、すごく覚えたというのもあります。

最初はシンプルに、前半で「1」(旧作)を再演して、後半は「2」(続編)をやるつもりだったんです。でも考えていくうちにちょっと変化を付けたいというか、続編で盛り込みたいことがどんどん増えていって。それで続編のところどころに、旧作のシーンが回想のように入ってきて、話を補強するという構成にしました。

──「1」は[ドンキホーテ]と間違って[ヴィレッジヴァンガード]に来たヤンキーが、そのままサブカルチャーの世界にハマるという内容でしたが、「2」はどうなりますか?

僕の印象ですけど、今ってサブカルというジャンル自体が、初演の頃に比べると明らかに劣勢ですし、サブカル好きも減ってきた感覚があります。という時に主役のサブカルヤンキーが、今のサブカルの劣勢具合を確認しながら、当時サブカル好きだった人々を探して回るという。サブカルなき世界をさまよう、ロードムービー的なお話です。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

と同時に、同じくヤンキーだった彼の奥さんにも大きな変化があって、なぜ彼女はそうなったのか? というのも検証します。それで最終的に、サブカルの次に今来ている物は何なのか? 今サブカルを攻撃している、最大の敵は何なのか? がわかってくる。そうすると彼はヤンキーだから、攻撃されるなら戦いを挑むわけで(笑)。最終的には、サブカル軍団の最後の生き残りのヤンキーが、大きな敵に立ち向かうことになります。

──最後がヤンキー漫画風になるわけですね。ゲストの3人は、イエティ初参加ですか?

木下(出)さんだけ、過去に参加したことがありますね。「1」で、陰核(現クリ太マメ男/男肉 du Soleil)にやってもらった役をやります。陰核のような変わった演技ができる人はなかなかいないと思ってたんですけど、木下さんなら彼の意志が継げると思って。(藤谷)理子ちゃんは初参加ですけど、結構一緒に仕事をする機会もあったので、信頼してお呼びしました。呉城(久美)さんは、以前僕が書いた映像のドラマに出てらして「いいなあ」と思ってたんですけど、中川さんから「彼女は東大阪出身だから、根は東大阪イズムだよ」って聞かされて。

──「日本のサウス・ブロンクス」と男肉 du Soleil団長が言う、東大阪の。

だったら「1」のヤンキー女もできるだろうし、それとはガラッと変わった「2」の姿と、その両方をちゃんと演じ分けてくださるんじゃないかと思いました。角田さん以外のヨーロッパメンバーは、初演と同じ役です。

ヨーロッパ企画 イエティ#4『ドンキーヤング』(2011年)。

ヨーロッパ企画 イエティ#4『ドンキーヤング』(2011年)。

──「1」と「2」は、時代以外にも何か大きな違いは生まれていますか?

実はこれが、今回同時上演にした大きな理由なんですけど、続編が結構シリアスなんです。観る人によっては少し辛い劇になる感触があって、「2」だけだとコメディにならないかもしれない。それで「2」の中に、割とバカバカしい内容の「1」を入れて、全体的にはコメディにしようという狙いがあります。「1」をやるからこそ「2」も笑える……シリアスなものが、コメディに見えればいいなあと。ただ「1」はヴィレバン店内のワンシチュエーションだったけど、「2」は場所がコロコロ変わるので、その見せ方をどうしようかと考えてます。何とかして、一つの舞台の中で全部表現したいんですけど。

──とするとイエティが、ついに現代社会を切るみたいな内容に?

そんな劇あまり見たくないので(笑)、あくまで楽しくしたいんですが、サブカルが消えようとしている時代に、それをもう一度取り戻そうとする話なので、ちょっと真剣な部分はあります。どうしても全部が全部コメディってことでは終わらないかな? 終わらせたくないなというのは、少し考えながら作ってる所です。

──ただイエティの作品は、たとえば『ブラッド&バター』(2012年)ではパンの歴史をキチッと語るとか、表面的にはふざけていても、情報面はかなり緻密に描きますよね。

そこはもう、真面目にやります。多分お客さんは全然知らない知識を、キチンと伝えなきゃという使命感を持って、劇は作ってますね。なので今回も、いろんな資料を集めて……ある程度主観は入るけど、情報の部分はちゃんとまともなものを出すので。社会批評的なことはしたくないとは言いつつも、そういう側面は多分どこかで出てくると思います。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

──単純に、サブカル全盛期を知らない10代の子が「じゃあ、ヴィレバン行ってみようかな」と思ってくれたら、しめたものですね。

そうですね。「ああ、そういう時代があったんだなあ」と思って、何かを感じ取ってくれたらいいなあとは、すごく思います。これは僕の肌感覚なんですけど、僕が学生の時って「こんな曲を聞いてる」「こんな本を読んでる」というので、ヒエラルキーみたいなものがあったと思うんです。「じゃあ、僕ももっと知らなきゃ」という、知識合戦みたいなことがすごく楽しかった記憶があります。

でもそういうものが文化の細分化とともに、優劣が付けられない時代になったなあと、すごく感じるんです。それを知ってようが知ってまいが関係なくて、自分はこれが好き、あなたはこれが好き、そこに縦の関係はないという考え方が、今は割と強い気がする。それは平和になったように見えるけど、平和になってない側面もあると思います。

──といいますと?

たとえば昔なら、夏目漱石の『坊っちゃん』は「読んでなかったら恥ずかしい」というのでみんなが知ってたし、それによって共通理解が生まれて、会話がしやすかったんです。でも今は『坊っちゃん』を読んでる人と読んでない人がきれいに分かれてて、そうなると(相手を)理解するのに時間がかかってしまう。それで結局、特定の何かが好きな人だけで集まる世界になってきて、このことがフェイクニュースとかのいろんな弊害に、つながっていくんだと思うんです。この光と影の両方を書きたいと、今回は考えてます……っていう部分だけ文字にすると、すげえ社会批評っぽいですよね(笑)。でも全然そうじゃないです。観ててそういうシーンは、ほとんどないですから。

──じゃあ基本的には、いつもの下世話な笑いにあふれたコメディだということで。

はい。むしろそこは、いつもより強いかもしれないです。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

大歳倫弘(ヨーロッパ企画 イエティ)。

取材・文=吉永美和子

公演情報

ヨーロッパ企画 イエティ#14『スーパードンキーヤングDX』
 
■作・演出:大歳倫弘
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、中川晴樹/呉城久美、藤谷理子、木下出

 《東京公演》
■日時:2020年1月22日(水)~26日(日) 19:00~ ※25・26日…13:00~/18:00~
※23・24日は終演後、出演者による「おまけトークショー」開催。
■会場:小劇場B1
■お問い合わせ:0570-00-3337(サンライズプロモーション東京)

《兵庫公演》
■日時:2020年1月30日(木)~2月3日(月) 19:00~ ※1日…13:00~/18:00~、2日…13:00~、3日…14:00~
※31日&1日夜公演は終演後、出演者による「おまけトークショー」開催。
■会場:AI・HALL(伊丹市立演劇ホール) 
■お問い合わせ:06-6357-4400(サウンドクリエーター)

■料金(両都市共通):前売4,000円、当日4,500円、学生シート2,000円
※学生シートは前売のみ取扱
※東京公演は一般の前売り取扱終了。当日券はお問い合わせを。
■公演特設サイト:http://www.europe-kikaku.com/yeti14/

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