【緊急連載】韓国の検閲(4) 日本も「対岸の火事」ではない!?

レポート
舞台
2015.12.7
取材・文・撮影 : 堤広志

取材・文・撮影 : 堤広志

岡田利規と多田淳之介の共同主催による緊急イベントが、2015年11月28日(土)@東池袋・あうるすぽっとで行われた。二人はともに舞台芸術の祭典「F/T15(フェスティバル/トーキョー15)」に参加しており、それぞれ公演の本番で忙しい合間を縫ってのトークイベントである。テーマは「韓国の検閲」。今年に入り、日本でもにわかに話題となってきているこの問題について、実際に韓国で検閲に遭った経験を持つ二人のゲストを招き、その現状を聞いた。韓国では今、何が起こっているのか? そして、今後日本でも決して起こらないとは言えない“検閲”に、はたして対抗手段はあるのだろうか? 貴重にして重要なトークの内容を、6回にわたり連載する。
 
【連載目次】
 

第4回 日本も「対岸の火事」ではない!?

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 今二つのケースを聞くことができました。一つは助成金という仕組みで、システムを使って介入する。つまり、助成金を支給しないという仕方で介入するというやり方と、あとはカフェのケースは、カフェの営業をする団体がその後の自分たちの活動、営業なんかに「これはちょっとまずい」「支障を来すから困る」という理由でそれを辞めさせようとする一種の自主規制っていう、まぁ2つのパターンがあって。で、これ、僕らは日本人なんで、日本でも割と簡単に置き換えられるケースだなぁと思ったんです。日本も助成金はありますし。

例えば、後者の例は、公共ホールは指定管理者制度というものになっていて、それは一定の期限でその指定管理者は更新される。で、今、自分たちが管理している施設を継続的にやりたいと、まぁ普通は思うはずなので、その時にそういうメンタリティが働くっていうのは想像するに難くないということだよなぁ(笑)…、ということを思いました。

多田 今、そのかなり盛り上がっているという変だけど、韓国の演劇人と話すと「うるさい」「韓国は騒がしい」ということを言う人は多くて。今の、例えば日本だと、そこまで酷いことは起きていませんが、僕は今後そういう風になっていく可能性があるとすごく思っていて…。「やだなぁ」と思っているんですけれども。韓国の演劇人・アーティストたちの雰囲気としては、これがどんどん悪い方向に行くと思っているのか、抵抗することで良くなっていく可能性っていうのを信じられるのか、どういう雰囲気ですか?

ジュヨン すごく個人の意見になるんですけれども、これから助成金の申請をする季節ですよね。だから、これからがすごく大事だと思うし、しかも去年私がこの『安山巡礼道』で申請を出したのは、アーツ・カウンシルの定期公募の枠組みの中で唯一残っていた毎年公募する「多元」というジャンルだったんですよね。でも、それがこの間の発表で、来年はもう枠自体が無くなった。韓国は助成金が日本よりも豊富だから、結構助成金に頼る。それを使って作品活動をやっている感じが強いから、何か抵抗をして、そのアーツ・カウンシルの助成金の枠が無くなると、みんながそれをどう受け止めるかすごく心配です。

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 9月に明るみに出た事実は、それだけ露骨な検閲行為が行われていたということがはっきり分かったっていうショックがあったと思うんですけれども、同時にそれ以前には検閲っていうものはまったく存在しないとも思わないんですよ。じゃあ、そういうことが起こる前は、韓国での検閲に対してどのようなイメージ、どのように思っている人が一般的だったのか。ま、一般的でもいいですし、ヨンドゥさんやジュヨンさんの個人的な見解でもいいんですけど、教えてもらえますか?

ヨンドゥ 70年代~80年代の軍事政権の下では、検閲がすごく強かったんです。92年に初めて韓国に軍事政権じゃなくて、文民政府っていうのが誕生して、そこからは表現の自由がすごく大きくなったと思います。今のパク・クネ大統領とその前のイ・ミョンバク大統領の時代から、そういう自由さが段々萎縮していく感じはあって、宗教だったりイデオロギーだったり思想だったりっていうところに、検閲みたいなレギュレーションのあることが増えてきました。日本で韓国の騒ぎを見ていて感じているように、韓国人たちも結構時代が変わって厳しくなっていると感じていると思います。

岡田 ありがとうございます。何か今日、質問したいと思ったことをすぐ忘れてしまう。おかしいな。(多田に)何かありますか?

多田 二人体制で良かった(笑)。えっと、最初にパク・グニョンさんのが明るみに出たというのは、メディアか取り上げたというのはテレビですか、新聞に出た?

ジュヨン 最初は新聞でした。

多田 そういう自由は、まだ韓国には残っている?

ジュヨン いえ、さっきも話したように国政調査でその話があったから、もう記録が残っているし、記者さんが全部見ているわけだから、それは隠す術がなかったと思います。

多田 そのテレビ局や新聞に対する政府からの圧力というのは、特になかったんですか?

ジュヨン 今のところは、それはあんまり聞いていないですね。いや、もう最初っから興味がなくて、政権側になっているテレビ局とか新聞は絶対扱わないし、パク・グニョンさんのことも「これは検閲じゃなくて、何で税金使って反政府的なことをやるんですか?」みたいなコラムとか書く新聞もあります。

多田 なるほど。日本で演劇をやっている側からすると、演劇にまで検閲が来るというのは、日本だったらもう相当な段階だなという気がしていて。韓国の方が、芸術に対する政府の警戒心は強いんですかね?

ヨンドゥ 音楽や美術よりは、テキストを使った演劇の方が、直接的に語れるから、演劇の方にプレッシャーが来ていると思います。今、取り上げられたのは演劇寄りの作品だけだったんですけど、今、演劇だけじゃなくて、映画もそうだし、美術もそうだし、全面的にそういう検閲みたいな行為が行われている感じです。

イベント・データ
岡田利規+多田淳之介主催緊急イベント「韓国の検閲」
 日時:2015年11月28日(土) 15:45~17:30
 会場:東池袋・あうるすぽっと エントランスロビー ※F/T15『God Bless Baseball』公演終了後
 登壇者:岡田利規/多田淳之介/チョン・ヨンドゥ/コ・ジュヨン
 
岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada : 演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年横浜生まれ。1997年チェルフィッチュを結成。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005 ―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。2007年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞。代表作『三月の5日間』は、クンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)で初の国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米の計70都市で上演されている。F/T15では、日韓共同制作による新作『God Bless Baseball』を2015年11月19日(木)~ 29日(日)@東池袋・あうるすぽっとにて上演し、「野球」を題材として、日韓+アメリカの歴史や文化を批判的に描いた。

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada : 演出家、俳優、富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。1976年生まれ、千葉県柏市出身。2001年東京デスロックを結成。古典から現代劇、パフォーマンスまで幅広く手がけ、韓国やフランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2010年より埼玉県・富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督に就任。2013年、韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」(ソン・ギウン主宰)と日韓共同製作し、チェーホフ『かもめ』を日本統治時代の朝鮮を舞台に翻案した『가모메 カルメギ』で、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。F/T15では、日韓共同制作による新作『颱風(たいふう)奇譚 태풍기담』を2015年11月26日(木)~29日(日)@池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演し、シェイクスピア『テンペスト』を下敷きとして、20世紀初頭日本によって国を追われた朝鮮の老王族が南シナ海の孤島で王国再建を夢見る姿を描いて、日韓の歴史と文化、そして現在を照らし出した。また、2015年5月@安山ストリートアーツフェスティバルの『安山巡礼道』にも参加している。

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo : ダンサー、振付家、アーティスト。韓国生まれ。演劇を学んだ後、韓国芸術総合学院で舞踊を学び、人間の心理に焦点をあてたユニークな振付家・ダンサーとして、韓国を拠点に世界各地で活躍。2003年にDoo Dance Theaterを設立。2004年、横浜ダンスコレクション「ソロ・デュオコンペティション」にて、横浜文化財団大賞、駐日フランス大使館特別賞をW受賞。2006年、ダンスマガジンにて舞踊芸術賞を受賞。日本での活動も多く、マレビトの会(松田正隆主宰)『ディクテ』『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』など演劇作品への出演や、立教大学現代心理学部映像身体学科で特任准教授を務めるなど、その活動は多岐にわたる。今年2015年10月、韓国国立伝統音楽院(国立国楽院)のプログラム「金曜共感」に参加予定だった演出家パク・グニョンが排除されたことから、自らも参加をボイコットし、デモ(スタンディング)を行う。

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh : インディペンデント舞台芸術プロデューサー。1976年ギョンギ道生まれ。梨花女子大学新聞放送学科を経て、ソウル・フリンジ・フェスティバル、チュンチョン人形劇フェスティバル、BeSeTo演劇祭などの舞台芸術祭のスタッフを務めた後、日本に語学留学。2006年より韓国アーツマネジメント・サービス(KAMS)で様々なプログラムを企画・担当。2012年からはインディペンデント・プロデューサーとして、韓国や日本のアーティストと作品を作るほか、翻訳者としても活動をしている。2011年にはセゾン文化財団のヴィジティング・フェローとして日本に滞在し、「日本舞台芸術においてのテンネン世代」についてリサーチを行い、新しい世代の日韓舞台芸術の新しい交流方法と可能性を探求している。今年2015年5月のプロジェクト『安山巡礼道』の助成金を申請していたが、韓国アーツ・カウンシル側の意向で選考から落とされる。

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