東京国立博物館『おうちで楽しむ博物館』 研究員の情熱と博物館の歴史が育む、充実のオンライン鑑賞【ネット DE アート 第10館】
ネット DE アート 第10館:おうちで楽しむ博物館
各施設による感染防止対策が徹底されるなか、オンラインで触れられるアートの楽しみ方も増えてきました。美術館でのリアルな鑑賞体験と並行して、バーチャルミュージアムや、SNSを通じて発信されるコンテンツは、今やアートと人の距離を縮める大切な役割を担っています。
今回のコラムでは、質・量ともに日本一のコレクションを誇る東京国立博物館(トーハク)が提供する『おうちで楽しむ博物館』をピックアップ。研究員の熱い想いが伝わるオンラインギャラリーツアーから、所蔵品の見どころを掲載した広報誌「東京国立博物館ニュース」のバックナンバーまで。歴史あるトーハクが、長い年月をかけて積み上げたコンテンツの魅力をお伝えします。
東京国立博物館 公式サイトより
総合文化展の魅力が伝わる、オンラインギャラリーツアー
日本を中心とする東洋の美術品や考古遺物を収蔵する東京国立博物館の収蔵品数は、約12万件。日本美術を展示する本館(日本ギャラリー)をはじめ、法隆寺献納宝物をおさめた法隆寺宝物館や、東洋美術が集う東洋館(アジアギャラリー)など、全部で6つの展示館があります。
東京国立博物館の展示には、年に数度催される大規模な特別展と、所蔵品と寄託作品から構成される総合文化展(平常展)があります。なかでも通年楽しめる総合文化展は、4〜8週間ごとに作品の入れ替えが行われ、約3,000件以上の作品が常時展示されています。東京国立博物館の公式サイトが提供するコンテンツ『おうちで楽しむ博物館』の一つ、オンラインギャラリーツアーでは、総合文化展の面白さが、研究員の解説によって余すことなく紹介されています。
季節の行事にまつわる芸術に親しむ ひな祭りと涅槃図
東京国立博物館の公式YouTubeチャンネルでは、展示室の作品を解説する「オンラインギャラリーツアー」動画が投稿され、数々のラインナップが視聴できます。臨時休館によって1日だけの展示となってしまった特集展示『おひなさまと日本の人形』を三田研究員が約20分間にわたり解説する動画では、三田氏のお雛様愛がひしひしと伝わってきます。
【オンラインギャラリーツアー】三田研究員が語る、特集「おひなさまと日本の人形」
3月3日のひな祭りの日に公開された本動画では、雛人形の歴史やそのルーツとなった人形、江戸の地で製作された雛飾りの名品などを紹介しています。「日本に残されている犬筥(いぬばこ)の中でも個人的に一番可愛い」と、動画内で三田氏が一押ししていた犬筥は、嫁入り道具やひな祭りの調度品として用いられた、犬の形をした小箱。動画の冒頭から「人面犬みたいですけど、とっても可愛いです」と、思い入れのありそうな三田氏のコメントに、興味がそそられます。
さらに、「お雛様を飾ることは、日本の文化の中でもとても華やかで、子どもを大切に思う親心の結晶」と語る三田氏の言葉が印象的。生活スタイルの変化にともなって失われつつある古き良き文化は、展示を通して鑑賞するだけでなく、私たち自身も継承していくことが大切なのだと感じます。
また、涅槃会(ねはんえ)の時期にちなんで、東京国立博物館で展示予定だった《仏涅槃図》や《国宝 十六羅漢像(第二尊者・第十四尊者)》の作品を解説しているのが「沖松研究員が語る仏涅槃図の世界」です。
【オンラインギャラリーツアー】沖松研究員が語る、仏涅槃図の世界
全国の寺院では、お釈迦さまが入滅したとされる2月15日に合わせて、涅槃図(釈迦の入滅の様子を描いた絵画)を飾ってお釈迦さまを偲ぶ法要「涅槃会」が執り行われます。釈迦を囲むように、菩薩や弟子、動物たちが集う《仏涅槃図》は、それぞれの身分や立場によって異なる表情が見どころの一つ。穏やかな表情をした人もいれば、顔をくしゃくしゃに歪ませて泣く人に、放心状態の人もいます。本動画では、涅槃図に描かれた人物たちをカメラがクローズアップして映しているので、そうした表情一つひとつをじっくり鑑賞できました。
ほかにも、仏の描線とその他の人物との表現の違いや、2つの涅槃図を見比べて、同じテーマでも時代によって異なる部分に着目するなど、沖松氏による聞き応えのある解説が続きます。季節の行事にちなんだこれらの美術品は、作品のテーマにある背景や歴史を知ることで、より親しみを感じられるのではないでしょうか。
工芸品を通して世界の文化を体感する
朝鮮工芸の魅力を猪熊研究員が語る動画では、朝鮮王朝の宮廷で使用された調度品や服飾品を通して、宮廷文化の華やかな一面が伝わってきます。
【オンラインギャラリーツアー】猪熊研究員が語る、特集「朝鮮王朝の宮廷文化」
宮廷の様子を描いた屏風や、位の高い臣下が着ていた朝服(ちょうふく)、豪華絢爛な衣装箱が取り上げられるなか、「絵画の絵柄を見るだけでなく、調度品の使い方にも注目してほしい」という猪熊氏の言葉に、鑑賞のヒントを得られます。「世間と離れているような宮廷においても、そこで使われていた工芸品は、土地や風土、民族から切り離せないものがある」と、猪熊氏は語ります。その国の文化的特徴や風俗習慣は、華やかな調度品の中にも垣間見えるという面白さに気づかされました。
作品解説にとどまらず、作品を「わかる・わからない」で判断せずに楽しむ方法を教えてくれたのは、市元研究員による青銅器の鑑賞方法を紹介する動画。
【オンラインギャラリーツアー】市元研究員が語る、博物館で見る青銅器の鑑賞方法
本動画では、東洋館に展示されている中国の青銅器コーナーから、東京国立博物館を代表する2つの青銅器を紹介しています。
《饕餮文瓿(とうてつもんほう)》と《饕餮文三犠尊(とうてつもんさんぎそん)》という、筆者もまったく聞き馴染みのない作品が取り上げられていますが、市元氏は言葉の意味を丁寧に説明しつつ、その上で「せっかく博物館に来たのだから、ここでしか考えられないこと、体感できないことをしてほしい」と強調します。インターネットや書籍で得られる知識ではない、生の鑑賞体験を味わうためには、どのように作品を見れば楽しめるのか。あらゆる情報をどこからでも得られる時代だからこそ、本物と向き合ったときに、作品を知るだけでなく体感することの重要性が、動画内で語られています。
「わかる・わからないという見方はやめましょう。すごいか、かっこいいか。どこが一番きれいに見えて、どの角度がかっこいいのか。作品を介して自分と対話するような形で鑑賞するのが楽しいのではないでしょうか」
作品と鑑賞者の距離をぐっと近づける市元氏の言葉に、心が軽くなります。
東博オリジナルぬり絵の配布や、広報誌のバックナンバーも公開中!
『おうちで楽しむ博物館』のコンテンツでは、ほかにも、春の恒例企画『博物館でお花見を』のワークショップで配布された桜をモチーフにしたぬり絵や、『トーハクキッズデー』の会場にて、こどもたちに配布されたオリジナルのぬり絵シートを無料配信しています。
東博のオリジナルぬり絵シート 朝顔狗子図杉戸 円山応挙筆 江戸時代・天明4年(1784) 東京国立博物館蔵
さらに、特別展や総合文化展の展示と催し物案内を載せた広報誌「東京国立博物館ニュース」のPDF版も公開中。こちらは、2020年度の最新号から、2003年度まで遡ることができます。「今月の名品」のコーナーでは、広報誌の表紙を飾る所蔵品の見どころが紹介されているほか、本館の展示案内や過去の特別展情報も、東博が所蔵する膨大な作品を知る読み物として楽しめます。
東京国立博物館ニュース 第761号 2020年6-8月 表紙
また、4月8日(水)に公式サイト内の1089ブログに掲載された、銭谷眞美館長による記事では、東京国立博物館の所蔵品に触れるさまざまなオンラインコンテンツを紹介しているので、ぜひ一度目を通してみてください。なかでも個人的おすすめは、Google Arts & CultureでPC上から70億画素の超高解像度で鑑賞する国宝《観楓図屏風》と、1089ブログ内の「研究員のイチオシ」カテゴリでみられる記事一覧です。
狩野秀頼筆 国宝《観楓図屏風》室町~安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
1089ブログ内の「研究員のイチオシ」カテゴリ内の記事より(公式サイトより引用)
圧巻の高解像度絵画と、約10年の間に書き綴られた、各研究員による愛溢れる記事の数々は、どちらも見応え抜群。本記事内で紹介した内容と併せてお楽しみください。
文=田中未来、画像=ホームページ引用
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【ネット DE アート】コラム連載中
「インターネットで体験できるアートプログラム」を紹介する【ネット DE アート】。
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https://spice.eplus.jp/featured/0000143501/articles