7月の「TAKARAZUKA SKY STAGE」お勧め3作品の見どころ紹介/ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.33] <宝塚編>

コラム
舞台
2020.7.11
イラスト:春原弥生

イラスト:春原弥生

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おうちをシアトリカルなエンタメ空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、演劇関係者が激オシする「My Favorite 舞台映像」の3選をお届けします。(SPICE編集部)


ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3  [vol.33] <宝塚編>
7月の「TAKARAZUKA SKY STAGE」​お勧め3作品の見どころ紹介​ by 藤本真由

 
【1】『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-』('15年星組・宝塚・千秋楽)​
【2】『エドワード8世-王冠を賭けた恋-』『Misty Station-霧の終着駅-』(’12年月組・宝塚・千秋楽)​
【3】『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-』『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』(’14年花組・宝塚・千秋楽)​

 

宝塚歌劇専門チャンネル「TAKARAZUKA SKY STAGE」の7月放送のラインアップより、見逃せない3作品の見どころをご紹介!

【1】『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-』('15年星組・宝塚・千秋楽)​

『黒豹の如く』('15年星組・宝塚・千秋楽)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

『黒豹の如く』('15年星組・宝塚・千秋楽)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

 昨年7月、87歳でこの世を去った、宝塚歌劇団座付き作家の柴田侑宏。『あかねさす紫の花』『星影の人』といった日本物作品から、『うたかたの恋』『凱旋門』といった海外を舞台とする作品まで幅広く手がけ、その作品は全国ツアー公演や地方公演において上演され続けている。人間の内面のドラマをじっくりと描き、登場人物の感情が香り立つような作品群をものしてきた彼が、生涯最後に書き下ろしたのが『黒豹の如く』である(藤井大介作・演出のダイナミック・ドリーム『Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-』との二本立てで上演)。十年ぶりに発表されたこの新作で主演を務めたのは、これが退団公演だった星組元トップスター柚希礼音。このとき83歳だった柴田が紡ぎ出したセリフの、若々しく、みずみずしいこと! ――まるで、心にペンを突き立て、湧き出る血で紅くしたためたような。そこには、確かに、青年の心が今なお熱く燃えていた。感想を直接述べる機会があり、「先生の魂が伝わってきました」とお話ししたところ、両手で手をぎゅっと強く包み込まれたことも忘れ難い。そんなセリフの数々を、今この瞬間に自らの内から生まれ出てきた言葉として発する柚希礼音の演技に注目されたし。

 なお、7月のスカイステージでは、柴田侑宏が手がけた作品の初演版を一挙放送。その中から、『黒い瞳-プーシキン作「大尉の娘」より-』(’98年月組)を挙げておきたい。18世紀ロシアを舞台に、貴族の青年将校ニコライと、女帝エカテリーナの圧政に対し反乱を起こすプガチョフとの立場を超えた心の結びつきを描く作品で、1998年の初演以来、再演を重ねてきた。プガチョフに相容れないものをも感じる主人公ニコライと、彼をなぜか「先生」と呼ぶプガチョフと、二人の男が見せる心模様はやはり、友情と呼ぶべきものなのだろうと思う。筆者自身、舞台評論家として大きな影響を受けた作品である。

★放送日:2020年7月22日(水)

 

【2】『エドワード8世-王冠を賭けた恋-』『Misty Station-霧の終着駅-』(’12年月組・宝塚・千秋楽)​

『エドワード8世』-王冠を賭けた恋-('12年月組・宝塚・千秋楽)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

『エドワード8世』-王冠を賭けた恋-('12年月組・宝塚・千秋楽)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

 今年初め、主要王族としての公務引退発表で世界中を騒がせたイギリスのヘンリー王子と妻メーガン妃。その際よく引き合いに出されたのが、“王冠を賭けた恋”で知られるエドワード8世である。離婚歴のある人妻ウォリス・シンプソンと恋に落ち、彼女との結婚を願ったものの、大反対にあったため、恋を選んで王位を退いた…というのがその顛末。そんな世紀の恋を華やかな宝塚作品に仕立て上げたのは大野拓史。第二次世界大戦前の時代の雰囲気をも絡ませながら、スウィートなだけではない大人の恋を巧みに宝塚化している。

そしてこの舞台、タイトルロールを演じた元月組トップスター霧矢大夢にとっては退団作品。退位する際にしか本心を明かすことができないエドワードが、国王としての最後のラジオ演説の前に歌う「退位の歌」(作曲・太田健)は、一時代を築いたトップスターが宝塚との別れにあたって歌うにふさわしい名曲であり、ヘンリー王子が“引退”にあたって行なったスピーチ(インスタグラムにアップされている)をも連想させずにはおかない。“歴史は繰り返す”との諺をかみしめたくなると同時に、退団を通じて多くの別れ、その寂しさと向き合ってきた宝塚歌劇団の、だからこそ蓄積されてきた豊穣な感情を思う。

 齋藤吉正作・演出のブリリアントステージ『Misty Station-霧の終着駅-』は、霧矢大夢が退団作品でアニソンを歌うとは! と話題を呼んだショー作品。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の主題歌「魂のルフラン」を歌いながら霧矢が銀橋を渡るのだが、その際、後ろの本舞台で展開されるラインダンスに、魔法をかけられ夢遊のように踊らされているが如き美しさがある。『エドワード8世』でイギリスの宰相ウィンストン・チャーチルに扮した専科の一樹千尋が、ショーの方で麗しきニンフ役で登場するシーンでは、性を超える宝塚の男役なる存在にうならずにはいられない。

★放送日:2020年7月15日(水)

 

【3】『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-』『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』(’14年花組・宝塚・千秋楽)

『ラスト・タイクーン -ハリウッドの帝王、不滅の愛-』('14年花組・宝塚・千秋楽) ~F・スコット・フィッツジェラルド作「ラスト・タイクーン」より~ ©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

『ラスト・タイクーン -ハリウッドの帝王、不滅の愛-』('14年花組・宝塚・千秋楽) ~F・スコット・フィッツジェラルド作「ラスト・タイクーン」より~ ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

 1920年代、ジャズ・エイジの寵児として知られるアメリカの作家F・スコット・フィッツジェラルド。作品に加え、華麗なライフスタイルも注目され、美貌の妻ゼルダと共に一世を風靡した。華やかな時代を描く彼の作品は宝塚の舞台に似合うと見えて、代表作『グレート・ギャツビー』が『華麗なるギャツビー』のタイトルで三度上演されている他(作・演出=小池修一郎)、昨年は短編『リッツ・ホテルくらいに大きなダイヤモンド』の舞台化も(作・演出=木村信司)。作家自身を芯に描く『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』(作・演出=植田景子)も再演を重ねている。

 そんなフィッツジェラルドの同名の未完の遺作を舞台化したのがこの『ラスト・タイクーン』である(齋藤吉正作・演出のメガステージ『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』との二本立てで上演)。作・演出はこれが大劇場公演デビューとなった生田大和。1997年上演の『失われた楽園』(作・演出=小池修一郎)も同じ小説を基にしているが、『ラスト・タイクーン』が興味深いのは、元花組トップスター蘭寿とむの退団公演に当たっていたこと。ハリウッドを舞台に、実在の人物をモデルとした映画プロデューサーを主人公に据えた物語だが、作品はなんせ未完である。トップスター退団作において、結末のない物語を、演出家はいかに料理したか。ご注目を。

★放送日:2020年7月18日(土)

今月挙げた3本はいずれもトップスターの退団作である。――宝塚を去る。そのとき、そこには、本当に多くの想いが去来する――一歩足を踏み出したら、二度とは戻れない花園。一方で、その花園に長らく身をおき、「さよならだけが人生だ」とばかりに、多くのタカラジェンヌを送り出してきた者たちがいる。退団の日のあの寂しさを乗り越え、映像で振り返る今だからこそ、演出家をはじめとするスタッフたちの惜別の念を改めてかみしめたいものである。

文=藤本真由(舞台評論家)

作品情報

『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-』('15年星組・宝塚・千秋楽)
作:柴田侑宏、演出・振付:謝珠栄/作・演出:藤井大介
主な出演者:柚希礼音、夢咲ねね、紅ゆずる 他
 
『エドワード8世-王冠を賭けた恋-』『Misty Station-霧の終着駅-』(’12年月組・宝塚・千秋楽)
作・演出:大野拓史/作・演出:齋藤吉正
主な出演者:霧矢大夢、蒼乃夕妃、龍真咲、明日海りお 他
 
『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-』『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』(’14年花組・宝塚・千秋楽)
脚本・演出:生田 大和/作・演出:齋藤 吉正
主な出演者:蘭寿とむ、蘭乃はな、明日海りお 他

■宝塚歌劇専門チャンネル タカラヅカ・スカイ・ステージ:https://www.tca-pictures.net/skystage/
 
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