ユニゾン斎藤宏介とXIIXを始動させた須藤優 米津玄師、ゆず、Superfly等の作品に参加してきた人気ベーシストの歩みに迫る【インタビュー連載・匠の人】

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2020.8.13
須藤優

須藤優

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その“道”のプロフェッショナルとして活躍を続けるアーティストに登場してもらう連載「匠の人」、今回のゲストは、ベーシスト/作曲家として幅広い才能を示している須藤優。ロックバンド・U&DESIGNでの活動を経て、00年代後半からベーシストとしてのキャリアをスタート。米津玄師、ゆず、Superfly、aiko、Schroeder-Headzなどのライブ、レコーディングに参加し、家入レオ、佐藤千亜妃などの楽曲の作曲、アレンジを担当するなど様々なフィールドで活動を続けている。2019年には斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)とともにXIIXを結成した須藤に、これまでのキャリアを振り返ってもらいつつ、音楽家としてのスタンス、今後のビジョンなどについて語ってもらった。

――須藤さんが音楽やベースに興味を持ったときのことから聞かせてもらえますか?

ベースを弾き始めたのは小学校6年生のときですね。4つ上の兄貴が部屋でベースを弾いてるのを見て、おもしろそうだなと思って教えてもらったのが最初なんですけど、僕の方がハマって。初ライブは、兄の友達と一緒のバンドだったんですよ。僕が毎日練習しているのを兄が見て、「ベース探しているヤツがいるから、やってみたら?」って紹介してくれて。

――どうしてそこまでベースに惹かれたんだと思いますか?

わりとすぐ弾けたのが良かったのかも(笑)。当時はJ-ROCKが流行っていて。L'Arc~en~Ciel、LUNA SEA、GLAY、黒夢とかですが、僕も好きでよく聴いてたんですよ。ライブ映像も見てたし、自分で弾いてみたら“なんちゃって”でやれて、「これは楽しいな」と。学校から帰ってきたら、ずっと弾いてましたね。

――どんな曲をコピーしてたんですか?

最初は黒夢の「BEAMS」ですね。1ヵ月くらいで弾けるようになって、「よし!」と思って、次にラルクの「Blurry Eyes」を練習しはじめて。

――ということは、その頃はピック弾き?

そうですね。ずっとピックでしか弾けなかったので。

――自分のバンドもやっていたんですか?

友達と組んでてドラムを叩いたり、ギターも弾いたり、とりあえずバンドがやりたかったのでわりとマルチにやっていました。中学生のときから曲も作ってましたね。ラジカセで録音してたんですけど、マイクを叩いて、ドラムの音を作ったり。その頃に作ってたのは、Hi-STANDARDが好きだったので2ビート系の速い曲が多かったかな。レッチリとかファンク系よりも、オフスプリングとかグリーン・デイとか、パンク系がかっこいいなと思って。

――なるほど。学生の頃から、将来は音楽でやっていこうと思ってたんですか?

完全に思ってました。中学のときから、「プロになるんだろうな」って勝手に思い込んでたんですよ。「生意気だな」と思うけど、そのことは一度も疑ったことがなかったし、早くバンドをやらなくちゃと思ってましたね。

――バンドでデビューしようと思ってたんですね。

そうですね。ただ、絶対にバンドじゃなくちゃダメというわけでもなくて、何かしら音楽で生計を立てるというイメージでした。根底にあるのはバンドだし、それが音楽をはじめた理由ではあるんですけど。高校卒業後は音楽学校に行ったんですが、それもメンバーを探すために入ったので。ただ、バンドを組んでもなかなか続かなくて。

――それは焦りますね。

いや、それがそうでもなくて。周りがどうであれ、自分がいいと感じることを追求しようと思ってました。きっかけになったのは、21才くらいのときに先輩に誘ってもらって入ったバンド(U&DESIGN)ですね。ボーカルの綾部健司が堂島孝平さんとつながりがあって、楽曲のプロデュースをしてもらってて。初めてサポートベーシストとして参加させてもらったのも、堂島さんのバンドだったんです。Hi-Tension Please!というバックバンドで、ベースはレピッシュのtatsuさんだったんですけど、どうしても出られないライブがあって、堂島さんに「1回弾いてみない?」と誘ってもらって。

――Hi-Tension Please!、凄腕のミュージシャンが揃ってましたよね。

そうなんですよ。ギターが八橋義幸さん、ドラムがNONA REEVESの小松シゲルさんで、鍵盤がSchroeder-Headzの渡辺シュンスケさん、コーラスが真城めぐみさん。そのセッションがきっかけで僕のサポート・ミュージシャン人生が始まったんです。ちょうどNONAがツアーをやるタイミングだったんですけど、ベーシストの方が何本か出られなかったみたいで、小松さんに「やってくれない?」と誘ってもらって。あと、シュンスケさんに荻窪の居酒屋に呼び出されて、「新しいプロジェクトをやるんだけど、弾いてくれないか」って言われたんです。で、U&DESIGNの鈴木浩之(Dr)と一緒にSchroeder-Headzに参加して。あと、数年後に真城さんにhitomiさんのツアーに声をかけていただいたり、八橋さんがSuperflyの現場に呼んでくださったり。すべてが堂島さんとのセッションがもとになってるんですよね。

――いろいろな現場を経験することで、ベーシストとしての幅も自然と広がりますよね。NONA REEVESは80‘sポップスやファンク、ソウルのテイストがあるし、Schroeder-Headzのベースにはジャズがあって。

最初は弾くだけで精一杯でしたね。聴く音楽が偏ってたから、新しい現場に行くたびに勉強して、対応していました。UK、USロックは好きだったけど、ソウルやジャズはあまり知らなくて。NONAのツアーに参加したときにグルーヴィーなベースラインを研究したり、Schroeder-Headzをやることになって、初めてウッドベースの弾き方を調べたり。「来週試験があるから、勉強しないと」という感じです。みなさんに育ててもらったところもありますね。

――いきなりプロの世界に飛び込んで、そのなかで音楽性や演奏のスタイルを広げていったと。

そうですね。特に堂島さん、Schroeder-Headzのライブを経験したことで、自分のステージングが変わった感覚があって。とにかく、ライブのやり方がすごく自由なんです。堂島さんはいきなり「ちょっと演奏止めて!」とか言い出すし(笑)、シュンスケさんはピアノの上で踊ったり。そういうことを含めて、ショーにつながっていくというのかな。正解は無限にあるし、極端な話、ちゃんと弾かなくても感動してもらえたらいいんだと思うようになったんですよ。“泣いた”でも“おもしろかった”でも“かっこ良かった”でもいいんだけど、お客さんの気持ちを動かすことがライブなんだなと。それはずっと根底にありますね。

――そういう意識の変化は、パフォーマンスやプレイにも影響を与えた?

自分の考えを出すようになりましたね。それまではちょっと発想が硬かったと思うんです。「この曲にはこういうグルーヴ、こういうフレーズが合う」みたいな考え方で。サポートをするようになって、視野や発想が広がったし、全体を俯瞰して見るようになりましたね。僕の場合はシンガーの現場が多いので、本人が気持ちを込めて歌ってるときはあまり強く弾かないようにしたり。だんだん削ぎ落されて、演奏がタイトになって。

■ベースだけに向き合っていると視点がミクロになっていく。歌に沿ったほうが自分の音楽観に合っている

――ゆず、Superflyなどアリーナクラスのアーティストとの仕事も多いですが、会場が大きくなると、また違った意識が必要なんですか?

ライブの規模がデカくなればなるほど、プロジェクトの一部になるというか。ライブハウスで100人くらいの前でやるときは、フィジカルの強さが必要なんですけど、アリーナでやるときは一人の力ではどうにもならないし、プロジェクトのなかにどう存在できるか?が大事で。照明、演出も絡み合って、いい意味で歯車になるというのかな。やり方はいろいろですけどね。たとえばゆずのライブはすごくエンターテインメントで、リハーサルもしっかりやって。でも、本番では「自由にやっていいよ。全部受け止めるから」って言ってくれたり。ただ、やっぱりお客さんは歌を聴きに来ているわけだし、「いい歌を歌ってもらうために、どう演奏すればいいか」というスタンスも同じですね。

――歌が大事だと。そのことを意識したのは、いつ頃なんですか?

特に意識しだしたわけではないんですけどね。ただ、ベースだけに向き合っていると、どんどん視点がミクロになっていくと思うんですよ。オーディエンスはベースじゃなくて、歌、歌詞が聴きたいだろうし、最初に耳がいくのはそこだと思っていて。スピーカーによってはベースの音はよく聴こえないし(笑)、やっぱり歌に沿ったほうが自分の音楽観に合っていると思います。

――一般のリスナーの視点を常に持っているんですね。

そうですね。自分で曲を作るときもそうなんですけど、音楽をあまり知らない人にも感動してもらいたいんですよ。音楽は社会の外側にあるというか、生きるうえで不可欠なものではないと思ってて。でも、パッと耳にしたときに、「この一瞬は癒される」と思ってもらえることもあるし、それがいちばん大事なことだなって。そういう視点から見ると、リスナーにとってベースはすごくミクロの世界というか、そこにこだわりすぎても良くないと思うんです。それよりも常にマクロな視点を持って、楽曲全体を見るべきだなと。難しいですけどね。

――なるほど。レコーディングの場合はどうですか?

(演奏の内容を)完全に決めた状態で臨むより、その場で出てきたフレーズが意外と良かったりするんですよね。僕は音符も読めないし、「こちらの指定通りに完璧に弾いてください」という依頼はちょっと無理で(笑)。実際、「須藤さんなりに解釈して、より良くしてもらえれば」ということが多いですね。もちろん何となく考えていくんだけど、ドラムとの絡みもあるし、現場でメロディが変わることもあるので、そこは臨機応変に対応して。あと、ベースをしっかり練習するより、メロディと歌詞を覚えるほうが大事なんですよ。

――レコーディングでも、やはり歌を引き立たせることがポイントなんですね。

そうですね。歌がはじまって、8小節目でドラムのフィルが入ったりするじゃないですか。そこでベースまでフレーズを入れちゃうとゴチャゴチャするし、「だったら弾かないほうがいいな」と。その場で思い付いたフレーズを弾くことが多いから、何をやったか覚えてないこともあるんだけど(笑)。

――たとえば大ヒットした米津玄師さんの「Lemon」のときはどうでした?

「Lemon」のレコーディングは、「エモく弾いてください」みたいな感じだったかな(笑)。次に録った「Flamingo」はわりとベースがキモになってるんですけど、最初はワンフレーズのループだったんです。それを一曲通して録った後、「ボーナスタイムもらっていい?」って、好きなように弾かせてもらったんですよ。1番はループなんだけど、2番以降、その場のインスピレーションでやったら、「いいですね」ということになって。そういうこともけっこうありますね。そこから「今のフレーズ、別の場所にも入れてもらえますか?」という感じでアレンジが発展することもあるんですよ。小袋成彬くんのレコーディングもそう。現場で起きることを楽しんでいたし、そこに神経を研ぎ澄ませてましたね。

――そういう現場だと、須藤さん自身の閃きやセンスも発揮できそうですね。

そうですね。お気に入りのファズがあるんですけど、それを使うと喜ばれることが多かったり。この前、とあるレコーディングでもやってたら、「それ、よくやりますよね」って言われて、「バレたか」って(笑)。もちろんその場に応じて、いいと思ったことをやってるんですけどね。

――どんな楽曲にも対応できる間口の広さも求められますよね。当然、いろんな音楽を知ってないといけないだろうし。

ただ、僕は「ベーシストなら必ず聴くソウルの名盤」みたいなものって、意外とわからないんですよ。天邪鬼だから、ベーシストが好きそうなファンクとかソウルとは違うものを聴いてきたというか。ジャコ(・パストリアス)は好きですけどね。パンクで最高だなと。

――最近はどんな音楽に興味があるんですか?

海外のトレンドだったり新しい音楽が多いです。「これ、かっこいいよね」という感覚が近いアーティストに呼んでもらえることも多いので、いろいろ漁っています。

――ここ数年のグローバル・ポップは、ベースやシンセベースを含めて、中低域のアレンジが大きなポイントになってますからね。

そうなんですよ。ドラマーがそのことをわかってるかどうかはすごく大事で。米津くんのバンドで一緒にやっている堀正輝くんはまさにそうで、パッドドラムや打ち込みのことも完璧に理解していて。いつも安心してやれますね。アーティストはいつも新しい進化を求めているので、自分もそれに応えていきたいです。

■今は作曲やアレンジに興味があって、さらに勉強していきたい

――それにしても須藤さんの仕事量はものすごいですよね。スケジュールが合えばやる、という感じだったんですか?

昔はそうでした。「スケジュールが合うということは、やれってことだな」って。反対にスケジュールが合わないときは、「いまはやるべきじゃないんだろうな」と思うようにしてるんです。そこは悔やんでもしょうがないし、楽観的に考えようと。他のアーティストとの関わりは縁ですからね。

――そんな多忙なスケジュールの中でも、昨年はUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介さんとXIIXを結成されました。

自分のプロジェクトは楽しいですよ。好きなものを詰め込めるし、その責任は自分にあるので。

――斎藤さんとふたりで組んだのはどうしてだったんですか?

きっかけは宏介のソロライブに参加したことなんですけど、僕もずっとバンドをやりたいと思っていて。堀くんと一緒にやってるバンド(ARDBECK)でもずっとボーカルを探してたんですけど、なかなか見つからなくて、「じゃあ1回歌ってみようか」ということになったんです。ただ、やっぱり自分で矢面に立つより、ボーカルの後ろでベースを弾いているほうが合ってるなと思って。

――XIIXは斎藤さんの後ろというより、斎藤さん、須藤さんのふたりがフロントですけどね。

そうですね(笑)。ふたりのポジションもおもしろくて。音まわりは僕がやって、歌詞、メロディは宏介に任せていて。お互いに尊重しつつ、それぞれの場所がちゃんとあるのはすごくいいなと。

――将来的にソロアルバムを作ってみたいという気持ちは?

まあ、いつかはそういうときが来るかもしれないですね。でも、ソロアルバムでも自分で歌うことはないと思います。歌モノであっても、誰かに歌ってもらうんじゃないかな。フロントに立つことって、それ自体が才能だと思うんですよ。「俺を見てくれ」という気持ちが強くないとできないだろうし。僕もベースを弾いているところは見てほしいんですけど(笑)、基本的にはサウンドメイクやアレンジが好きなので。

――ベーシストとしてはもちろん、作曲、サウンドメイクの活動もさらに広がっていきそうですね。

そうしたいと思ってます。もちろんベースを弾くのは好きだし、いろんなジャンルの人と一緒にやるのも刺激になるんですが、そこはある程度やってこられた実感があって。今は作曲やアレンジに興味があるし、そっちをさらに勉強していきたいんです。自粛期間中も自宅スタジオを充実させようとして。いろんな機材やプラグインを買いまくってました。

――なかなかライブがままならない状態が続いているので、余計に作曲や録音に意識が向いているんでしょうね。

そうですね。ライブの現場、人前で演奏する機会はほとんどないので、今はとにかく曲を作っていて。最近は自宅で完結させることも多いから、いい音で録ることにもこだわっていて。今はどんどんそっちを追求していきたいんですよね。

取材・文=森朋之

作品情報

XIIX
斎藤宏介と須藤優のふたりだけで、作詞・作曲・編曲・演奏・録音・ミックスを行ったデモ音源を公開する新たな自己表現の場「in the Rough」がスタート。
第1弾として未発表曲「talk to me」を公開中!
 

XIIX【in the Rough】#01 「talk to me」

 

 

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