THE ORAL CIGARETTES・山中拓也 × 山岸竜之介――「蝋燭の私」誕生秘話など存分に語る【YGNT special collective 特別対談】
山岸竜之介 / THE ORAL CIGARETTES・山中拓也 撮影=高田梓
今年5月、Billboard Live Yokohamaのオープンを記念して演奏するべく集った、セッションプロジェクト・YGNT special collective。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、残念ながらライブは中止になったが、“新レーベル・LIFE OF MUSICからの配信リリース+Billboard Live Yokohamaで収録した演奏映像をYouTubeで公開”という形でプロジェクトは動き出した。
先日公開した山中拓也(Vo)とヒグチアイ(Vo/Pf)の対談に続き、今回は、山中と山岸竜之介(Gt)の対談をお届け。奈良のライブハウスからのし上がってきたバンドマンと、幼稚園児の頃から天才ギタリストとして脚光を浴びてきた生粋のギター少年。二人は互いのどんなところに惹かれたのだろうか。
――元々、交流はあったんでしたっけ?
山中:竜之介とは……3年前ぐらいから?
山岸:そうですね。拓也くんが憶えてるか分からないんですけど、僕、イナズマ(『イナズマロックフェス』)のときに一瞬だけ挨拶していて。そのときはあんまり喋れなかったんですけど、そのあと拓也くんがTwitterでフォローしてくれたんですよ。僕は元からフォローしていたから、「フォローしてくれてるの気づかんかった! 今度遊ぼうや」みたいに連絡をくれて。そこから連絡を取り合うようになりました。
今回のYGNTに関しては……僕、最近東京に引っ越してきたんですけど、大阪の実家にいてるときに、ご飯食べ終わって携帯見てたら、LINE(の通知が)鳴って。何やろうと思って見たら拓也くんから「俺と一緒にバンドやろうぜ!」って(笑)。
山中:ははははは! 誘い方ガキか!
山岸:びっくりしすぎて頬っぺた2回ぐらいつねりました。「マジで?」みたいな。
山中:竜之介は、前に俺が、他のやつとスタジオでセッションしたときの動画を(SNSに)上げたときに「俺も混ざりたいです!」って反応してくれたことがあって。それ以来、「いつか竜之介とも何かやりたいな」と思っていたら、今回バッチリのタイミングが来たので、声を掛けたっていう感じです。
――お互いに対してどういう印象を抱いていたんですか?
山岸:僕は邦楽洋楽問わずロックなバンドがすごく好きで、フェスに遊びに行ったとき、オーラルが一番でっかいステージでやっているのを見て「やっぱりライブがロックでカッコいいな」と思っていたんですよ。拓也くんの声も、カッコいいなとずっと思っていて。作曲家/作詞家の拓也くんがあの声で唄うからこそ、人にすごく届くんだなっていうのを、普通にファン目線で感じていました。
だから、まさか晩ごはんの最中に「バンドやろうぜ」って連絡もらうとは思わなかったです(笑)。今回一緒にやれてホンマに嬉しかったですね。
山中:俺からしたら竜之介は、ギターをこよなく愛する少年っていうイメージですね。Twitterやインスタにギターの演奏動画をいろいろ載せているんですけど、それを見てずっと「こいつ、ホンマにヤバいな」って思ってました。
竜之介は小っちゃい頃からテレビに出ていた人やから、俺からしたら元々、芸能人みたいな感覚だったんですよ。インスタのストーリーにオーラルの曲を上げてくれていたときも、「あ、芸能人が聴いてくれてる」って感覚で。
山岸:何を言うてはるんですか(笑)。
山中:当時は「めちゃめちゃ生意気だなあ」って思いながら見ていた覚えがあって(笑)、ちょっと離れた世界にいる人だと感じてたんですけど。去年~一昨年ぐらいにKenKenから竜之介の話を聞いたり、2人が一緒にライブをやっている映像を観たりするなかで、「ああ、意外とこういうところにちゃんと顔出してくれる人なんや」って思い始めましたね。
THE ORAL CIGARETTES・山中拓也 撮影=高田梓
――山岸さんは、元々セッション畑で育ってきたんでしたっけ。
山岸:そうですね。大阪って、ギターやベースを持ってふらっと遊びに行けるライブハウスが結構あるんですよ。小っちゃい頃からお父さんにそういうところに連れて行ってもらったりしていて。
山中:それヤバいな(笑)。
山岸:今でこそ曲を細かく作りこんだりするのも好きなんですけど、元々は、即興で演奏して、みんなでイェーイってハイタッチできるのがすごく楽しくて、そこから音楽を好きになりました。だから拓也くんのセッション動画を観たときに、その感覚を思い出して。僕もその場所に行って一緒にワクワクを味わいたい!と思ったので、勢いで「僕もやりたいっす!」って言ってしまったんです(笑)。
山中:それが竜之介のすごいところやと思いますね。セッションって、スタジオの中で突然始まるものだから、ある程度腕が確かな人じゃないとできないんですよ。竜之介は一個人としてしっかり成立しているから、どこに行ってもやっていけるんだと思います。それに、そもそも知らない場所に足を運ぶのって、ホンマに勇気が要るじゃないですか。それができる人間を俺はすごいなって思うし、竜之介のそういうところをリスペクトしてます。
山岸:ありがとうございます。こんなん照れますわ(笑)。
――そういうマインドって、固定のメンバーとバンドを組んでると薄れがちな部分ですよね。
山中:薄れがちやし、3年ぐらい前に俺が追い求めていたものがそれやったので。バンドをやっていると、やっぱり「THE ORAL CIGARETTESの山中拓也さんですね」というふうに認識されるんですよ。そうなったときに「俺は個としての存在を認めてもらえているのだろうか」「自分の存在意義って何や?」っていう感覚に陥る瞬間もあって。もちろん、バンドとして必要とされることも難しいことやし、ありがたいことやと思うけど、個として力を持っているということは、その人自身に実力があるということだから。すごく価値のあることなんじゃないかと思います。
――逆に山岸さんは、身一つで飛び込んでいくスタイルで活動していて、孤独感を抱いたことはないんですか?
山岸:でもそれ(孤独感)があった方がいいんじゃないですかね? 音楽をやってる人は、多分、大小あれど、みんな孤独感を持っていると思うんですよ。本当は何の悩みもなく、毎日ギターを弾くことが僕にとっては一番の幸せですけど、モノを作ること、フレーズを生み出すということは、自分にしか分からない寂しさを感じることでもあるので。だからもちろん孤独感はありますけど、そういうものも全部音楽に変えていけるのが、音楽の素晴らしいところだなと思っています。
――実際に一緒に音を鳴らしてみて、どんなことを感じましたか?
山中:やっぱり竜之介は、ギターを弾いてるときが一番カッコいいなって思いました。弾き様がカッコいいギタリストには、ステージ上でパフォーマンス的な立ち振る舞いをする人もいると思うんですよ。それはそれで美しいんだけど、竜之介は「パフォーマンスしてまっせ」という立ち振る舞いではなく、ギターのフレーズ・音によって身体が動いている感じがあって。やっぱりギターを愛するギター少年なんだなと思ったし、そういうところが竜之介のギタリストとしての美しさだなと思いました。
山岸:めっちゃ嬉しい……。
山中:あと、意外と友達みたいな感覚でやれましたね(笑)。一回スタジオに入ったとき、「じゃあ曲作ってみるか」みたいな時間があったじゃん。
山岸:ありましたね。
山中:「竜之介、今のギター超よかった!」「拓也くん、今のメロディ好きっす!」って言い合いながら、すごく楽しくやることができて。俺、竜之介とは早い段階から壁を取っ払えていたかもしれないです。
山岸:それは僕の方も一緒でしたね。スタジオに入って、最初の「タカトトン、ジャン!」を鳴らした瞬間から、心のなかで握手できたみたいな感覚があって。拓也くんが年下の僕に、友達と喋るように接してくれたのも嬉しかったです。
山中:俺、竜之介に歳の差を感じたことないんだよね。同い年くらいの感覚で接してる。
山岸竜之介 / THE ORAL CIGARETTES・山中拓也 撮影=高田梓
――どれくらい離れてるんですか?
山中:結構離れてると思う。……竜之介いくつだっけ?
山岸:21です。
山中:俺は今29だけど、今年で30になるから9つ違いますね。小学1年生と中学3年生ぐらい離れてる。はぁ……(溜め息)。
山岸:えっ……そんな……!(笑)
山中:いや、マジかよって思って(笑)。プライベートで一緒にいる人もそうですけど、基本的にフラットでいたいんですよね。竜之介は敬語を使って喋ってくれているけど、マインド的にはフラットでいられているというか。年齢に関係なく、一対一の会話ができる人だと思っています。
――これ、山岸さんに対して失礼な言い方になっちゃうかもしれないんですけど……
山岸:はい。
――もっとオラオラな人かと思いきや、すごく丁寧な語り口の方だったので驚いています。
山中:それ、俺も思いました。最初に送られてきたメールもすごくちゃんとしていて。実際いるじゃないですか。ギターの腕は間違いないけど、「俺めっちゃ上手いから」みたいな態度の人って。
山岸:あ~……。
山中:俺はそういう人より、「ごめん」と「ありがとう」を言える人の方が絶対いいと思ってるから。竜之介はそういう意味でもスゲーいい子やなって思いましたね。小っちゃい頃は、テレビのスタッフとかに向かってめちゃくちゃなこと言ってたじゃん(笑)。どのタイミングで変わったの?
山岸:多分、嫌な大人を見過ぎたんだと思います。
山中:あはははは!
山岸:小っちゃい頃の僕に対して何か文句を言ってくる人を見て、正直、「このおっちゃん、ちょっとダサいな」って思っていたんですよ(笑)。だから自分はそういう大人になりたくないっていう気持ちがずっとあって。
山中:なるほどなあ。
山岸:それに、僕に対して偉そうにしてくる人は、音楽的にもそんなにカッコよくなかったんですよ。これはあくまでも僕の主観ですけど、本当にカッコいいアーティストって、別に偉そうにしなくても、歩いているだけでめちゃめちゃカッコいいじゃないですか。だから、そういう大人を見て、反面教師にさせてもらいました。
――いい話ですね。
山中:ですね。今話してくれたことは竜之介にしか感じられなかったことだと思う。
――現状、YGNT唯一のオリジナル曲である「蝋燭の私」は、作詞は山中さん、作曲は山中さん&山岸さんというクレジットになっています。
山岸:はい。僕が「拓也くんに唄ってほしいなあ」「拓也くんの声に絶対合うだろうなあ」と考えながらフルコーラスのオケを作って、それを拓也くんに送ったら、1~2週間後にメロと歌詞を返してくれました。
山中:一度スタジオに入ったあとに作っているから、多分、そのときに(山岸が)俺の癖を掴んでくれたのかな。曲に漂っている儚さや哀愁が、自分がラブソングを書くときの空気にハマった感じがありましたね。それでこういう歌詞とメロディになって。竜之介は俺の書く歌詞やメロディをよく褒めてくれるけど、竜之介のトラックがなかったら、このメロディは絶対に生まれていないと思う。……というか、ギターもあれだけ弾けるのに、これだけのレベルでトラックを作れるのは、マジでセコいですよね(笑)。
山岸:(笑)。僕、拓也くんの声が本当に好きで。この曲を聴く人にも、拓也くんの声の一番カッコいいところを受け止めてほしいと思ったんですよ。だから……これ言うと、ただの気持ち悪いやつになっちゃうんですけど、大枠のサウンドを決めるうえで、オーラルのアルバムをインディーズから遡って聴きながら、鍵盤叩いて、拓也くんの声が一番カッコいいところを探していって。
山中:え?(笑)
山岸:裏声に行かずに張れるポイントで、本人もちょうど気持ちよさそうに唄っているのが、mid2G~mid2G#だったんですよ。ここが吠えている感じになってめっちゃカッコいい。だから、僕の大好きなGがいっぱい出てくる曲にするために、Cメジャーのトラックを作りました(満足げな表情)。
山中:ちくしょう、普通に「唄いやすい~」って思いながら出してた! 踊らされてた!
山岸:踊らせるつもりはなかったですけど(笑)。そのうえで、この曲は元々(中止になったライブの)本編最後にやろうっていう話があったので、壮大で、みんなの心にぐっと残るようなメロディラインにして。だから今回はアッパーチューンよりも、すごいストレートなポップスを作りたかったんですよね。
山中:竜之介、スタジオで「お前は“G之介”やな!」ってずっといじられてたんですよ。あまりにもGを使いたがるから(笑)。
山岸:それはキメのときにGばかり使ってたからで、また違う由来なんですけど、別に僕自身がGを好きなわけではないですね(笑)。
山中:でもここまで分析されてるとは思わなかったから、今ちょっとビビってますね。
――「蝋燭の私」は、リモートレコーディングによる音源が既に配信リリースされていますが、Billboard Live Yokohamaで収録したライブ映像&音源も8月19日に公開されます。
山中:ライブ映像で観た「蝋燭の私」、(リモートレコーディングの音源と)全然違くなかった?
山岸:全然違いましたね。
山中:みんなある程度宅録の環境が整っていたから、リモートレコーディングでもカチッとしたものが作れたと思うし、しっかりとしたクオリティの音源を出せたと思うんですけど、生で演奏することによって、感情の浮き出方がまた変わってくるというか。すごく波がある曲なんだなと感じたし、「この曲、もしかしたらすごい可能性があるかもしれない」と思いましたね。俺、上がってきた映像を観たとき、最後の方で泣きそうになって。
山岸:分かります。僕もラストのサビで泣きました。
山中:YGNTというプロジェクトはここから始動していくものやから、どこまで広がっていくのか、今の時点では正直分からないじゃないですか。だけどこの曲ができたとき、俺ら自身「相当いいものができたな」っていう感覚になって。「この楽曲をちゃんと世間に広げたい」「いろいろな人に届けたい」という気持ちに自然となることができたし、すごく幸せな気持ちになりましたね。
山岸:拓也くん。実は僕、YGNT用に3つ分ぐらい、ワンコーラス作ってるんですよ。
山中:え、早っ(笑)。
山岸:シンセがバシャーって入った、バッチバチの4つ打ちとかもあって。そういうのもやりたいですね。
山中:いいね。次はバキバキのアッパーチューンも作ろうぜ。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=高田梓
山岸竜之介 / THE ORAL CIGARETTES・山中拓也 撮影=高田梓
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