ぼたんは藤の精、勸玄は牛若丸を~市川海老蔵の新橋演舞場『初春海老蔵歌舞伎』会見レポート

レポート
舞台
2020.12.17
(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん

画像を全て表示(13件)


歌舞伎俳優の市川海老蔵が、2021年1月3日(日)より17日(日)まで、新橋演舞場にて『初春海老蔵歌舞伎』(以下、海老蔵歌舞伎)に出演する。内容は、昼夜同一で、4つの演目を上演する。3幕目「お年玉」では、長女の市川ぼたんと長男の堀越勸玄が、それぞれ舞踊で出演する。新年の開幕を前に12月16日(水)、海老蔵、ぼたん、勸玄が会見で意気込みを語った。

<演目>
一、『春調娘七種(はるのしらべ むすめななくさ)』
ニ、『毛抜』
三、『藤娘』『橋弁慶』

『初春 海老蔵歌舞伎』チラシより 粂寺弾正の拵えをした、市川海老蔵。

『初春 海老蔵歌舞伎』チラシより 粂寺弾正の拵えをした、市川海老蔵。

■海老蔵歌舞伎で古典を

海老蔵の、新橋演舞場のお正月興行は2014年にはじまり今回で8年目だが、公演名に、海老蔵とついたのはこれが初めて。コンセプトには、伝統芸能としての歌舞伎への思いが込められている。

「『海老蔵歌舞伎』と聞き、新しいことや奇をてらったことをするのではと、想像される方もいるかもしれません。しかしコンセプトは古典の追究です。ぼたんや勸玄、そして若い世代の方々にも、次のジェネレーションとして、日本の伝統文化を支えることを教育し、修業し、見守っていきたいです」

市川海老蔵

市川海老蔵

“歌舞伎”という言葉の上に、歌舞伎俳優の個人名がつくケースは「調べた限りではないと聞いています」とも語っていた。期間は2021年1月3日(日)から17日(日)までで、全20公演を予定している。休演日の設定はないが、子供たちの体力に心配はないのだろうか。

「たしかに1日2回公演の日や、学校に通ったあと舞台に立つ日もありますが、1年前までは1か月50公演が普通でした。そこは子供たちにも、乗り越えてもらわないといけません。そして子供たちの体力も大事ですが、今は、お客様への感染症対策が必須です。松竹さん、新橋演舞場、俳優陣、裏方さんも含め、一丸となって取り組んでまいります」

市川ぼたんは、4度目の歌舞伎公演出演。

市川ぼたんは、4度目の歌舞伎公演出演。


堀越勸玄は、7度目の歌舞伎公演出演となる。新橋演舞場公演は3年目。

堀越勸玄は、7度目の歌舞伎公演出演となる。新橋演舞場公演は3年目。

■海老蔵『毛抜』元気になるような演目を

『毛抜』は、七世市川團十郎が、市川宗家の家の芸として選定した「歌舞伎十八番」のひとつだ。海老蔵は、主人公の粂寺弾正(くめでらだんじょう)を勤める。

「皆さまと同じように我々も、様々なことで苦難の日々を過ごしています。昔のように喜び、楽しみ、遊ぶことが困難で、子どもたちも、友達と思い切り遊んだりおしゃべりをしたりできません。クリスマスや大晦日も、例年の雰囲気とは異なります。それでも歌舞伎十八番の中から、元気が出るような歌舞伎をおみせできないか考えました。粂寺弾正は、勇猛かつ頭脳明晰でありながら、男の余裕、色気もある人物です。市川家に伝わる5つの型の見得もご覧いただけます。そこで『毛抜』にいたしました。お正月に少しでも“お正月らしいものをみた”と感じていただければ幸いです」

海老蔵の他、市川男女蔵、中村壱太郎、中村児太郎、大谷廣松、市川九團次、片岡市蔵、市川齊入、市川右團次、市村家橘の出演が発表されている。

2020年1月の新橋演舞場公演以来、1年ぶりの東京公演。

2020年1月の新橋演舞場公演以来、1年ぶりの東京公演。

■ぼたん『藤娘』、舞踊家として精進を

ぼたんは「1月は藤の精を勤めさせていただきます。久しぶりの舞台で、少しドキドキしているけれど、がんばりたいです」と、愛らしくも落ち着いた様子で挨拶をした。『藤娘』を選んだのは、大人気コミック「鬼滅の刃」の影響(作中に、鬼が藤の花を嫌う設定がある)か問われると、海老蔵は「意識していませんでしたが、記事的にそう書いていただいても」と笑い、『藤娘』の歴史に触れながら、選んだ意図を説明した。

「歌舞伎舞踊には、登竜門といえる『京鹿子娘道成寺』、『鏡獅子』といった大曲があります。立役の舞踊、女方の舞踊と分類した時、『藤娘』は女方舞踊の中で高度な技術など、求められるものが多い舞踊です。江戸時代からあったものを、六代目尾上菊五郎がチョンパ(暗転の中で幕が開き、柝の音でパッと明転)の演出から、新たに作り上げました。昨今では、六代目の演出で多くの俳優が『藤娘』を踊ります。伝統的な舞踊で、大役ですが、ぼたんの日本舞踊家として精進したいという気持ちに応えて、選びました」

海老蔵は「麗禾(ぼたん)はしっかりお稽古しています。彼女が根本的にもつ人間の力を信じ、フォローできれば」とも。

海老蔵は「麗禾(ぼたん)はしっかりお稽古しています。彼女が根本的にもつ人間の力を信じ、フォローできれば」とも。

さらに「「鬼滅の刃」の人気に便乗させていただくなら、『このような藤の精が存在しているんだな』と妄想いただきながら『藤娘』をご覧いただくと、より楽しんでいただけるのではないでしょうか」とも呼びかけた。

会見中のぼたんは、落ち着いた様子で海老蔵や勸玄の言葉に耳を傾け、時々、勸玄の様子をみるなどしていた。海老蔵が不在の時は「淋しいけれどハマっているTVやYouTubeをみたり、色々な勉強をして過ごして」いるという。家族での時間は「お父さんが一緒に遊んでくれてうれしい」とも。海老蔵から、特に楽しかった遊びを問われると、「屋上でサッカーをするのが楽しいです!」と明るい表情をみせ、アクティブな一面も感じさせた。

2019年8月に、市川流の日本舞踊家として、四代目市川ぼたんの名前を襲名。現在9歳。

2019年8月に、市川流の日本舞踊家として、四代目市川ぼたんの名前を襲名。現在9歳。

■勸玄『橋弁慶』、いずれくる日の伏線に

勸玄は『橋弁慶』への意気込みを聞かれると、即座にマイクをとり「ハイ! がんばりまーす!」と答え、あっさりマイクをおいた。海老蔵が思わず「雑だなぁ」と笑うと、勸玄は再びマイクをとり「12か月ぶりなので、スペシャルがんばりまーす!」と答え、一同の笑いをさらった。本作では、海老蔵が武蔵坊弁慶を、勸玄が牛若丸を勤める。

「勸玄に1人で踊ってもらった方がよいのではないか。私が2演目出てよいのだろうか。色々考えましたが、最終的に2人で踊る『橋弁慶』に決めた一番の理由は、五条橋の上で、牛若丸(のちの義経)と弁慶が初めて出会う場面だからです。男が2人、主従三世の契りを結びます。いずれ『勧進帳』の弁慶を私が、その時に義経を勸玄が勤める日がきます。その時、お客様には『橋弁慶』の主従の関係を伏線に、ドラマを体感していただきたい。それによって『勧進帳』をより楽しんでいただくこともできるのではないかと考えました」

この公演が無事に千穐楽を迎えたら、24時間ゲームをする日をつくることに。

この公演が無事に千穐楽を迎えたら、24時間ゲームをする日をつくることに。

「お年玉」にかけて、父親におねだりしたいことを問われると、勸玄は「夢は24時間ゲームをすること」と回答。海老蔵は「稽古も宿題も勉強もして、きちんと食事もしています。のこりの時間は好きにしていいと言っています」と明かしつつ、「彼はどんどんゲーマーの道に進んでいます。少し歌舞伎の方に修正したいですね」と苦笑いしていた。

海老蔵の歌舞伎の話題にあわせて、見得を切ってみせる勸玄。

海老蔵の歌舞伎の話題にあわせて、見得を切ってみせる勸玄。

■2020年から2021年へ

本来であれば海老蔵は、今年、十三代目市川團十郎白猿を襲名し、5月から7月に歌舞伎座で襲名披露興行を行う予定だった。6月、7月には、勸玄が八代目市川新之助として初舞台を踏むこととなっていた。ぼたんは、昨年に四代目としての襲名披露を終えている。しかし海老蔵が、焦りや落胆を語ることはなかった。

「私の新之助襲名は7歳でした。勸玄は、本来(今年)ならば同じく7歳で新之助として初舞台の予定でした。世界中が分からない状況で、私自身の襲名よりも、倅の新之助襲名をどうとらえるべきかの方が重要でした。あえて今の私の気持ちを補足するなら、9歳だろうと10歳だろうと、オーバーにいうなら10年後20年後でも、どこで襲名しようと構いません。そんな心づもりです」

市川海老蔵

市川海老蔵

2021年の抱負を聞かれた時だけ、海老蔵は一瞬困ったような顔を見せた。しかしすぐに、次のように続けた。

「この状況で抱負を語るのは難しいですよね、大見得を切ることもできませんし。ですが個人的なことで答えるならば、コロナウイルスが収束し世の中が回り、多くの方が感染せず皆さんが元気になり、その上で舞台芸術、伝統文化の俳優役者がようやく水をえます。それまでひたすらコツコツと、歌舞伎に進んでまいります。……と言いつつも、何事にもとらわれず、風のように1年間を過ごせたらいいですね」

市川海老蔵

市川海老蔵

『毛抜』、『橋弁慶』、『藤娘』の他、右團次の曽我五郎、児太郎の静御前、壱太郎の曽我十郎という配役で『春調娘七種』が上演される。長唄の歌詞に春の七草が織り込まれた、新春にふさわしい舞踊だ。12月初旬に発売されたは即日完売に近い人気ぶり。海老蔵は関係者やファンに感謝を述べ、記者懇親会を締めくくった。新橋演舞場一月公演『初春海老蔵歌舞伎』は、2021年1月3日(日)~17日(日)まで。

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん

(左から)堀越勸玄、市川海老蔵、市川ぼたん

公演情報

令和三年一月 新橋演舞場
『初春海老蔵歌舞伎』
 
■日程:2021年1月3日(日)初日~17日(日)千穐楽
■会場:新橋演舞場

■演目・出演:
 
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
 
曽我五郎  市川右團次
静御前  中村児太郎
曽我十郎  中村壱太郎

二、歌舞伎十八番の内
毛抜(けぬき)
 
粂寺弾正  市川海老蔵
秦民部  市川男女蔵
腰元巻絹  中村壱太郎
秦秀太郎  中村児太郎
小野春風  大谷廣松
八剣数馬  市川九團次
小原万兵衛  片岡市蔵
小野春道  市川齊入
八剣玄蕃  市川右團次
 
後見  市村家橘

三、お年玉
上  藤娘(ふじむすめ)
下  橋弁慶(はしべんけい)
 
〈藤娘〉
藤の精  市川ぼたん
 
〈橋弁慶〉
武蔵坊弁慶  市川海老蔵
牛若丸  堀越勸玄
 
 
【公式ホームページ】
歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人」 HP :https://www.kabuki-bito.jp/
シェア / 保存先を選択