ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2021年冬編】
私事だが、2020年は前年末のロンドン旅行でスマホ盗難の憂き目に遭い、3年半の間に撮り溜めたブロードウェイの風景をはじめとする思い出写真がすべてなくなるところからのスタートだった。次行った時にまた撮ればいいよ、と自分を慰めていたのだが、それが叶わぬまま1年。本連載で使える写真もいよいよ枯渇し、見る人が見れば10年近く前の風景であることが丸わかりのこんな古い写真を引っ張り出してきてみたのだがいかがだろうか。2021年こそまた撮り溜めに行けることを祈りつつ、本題に入る。
季刊の形でお届けしている本連載の、更新の度に延長されていくブロードウェイの閉鎖期間。春編の「4月12日まで」、夏編の「9月6日以降まで」、秋編の「1月3日以降まで」を経て、ついには「5月30日まで」延長されてしまったが、ここにきて具体的な公演開始日を明示するプロダクションが出てきたのは少しだけ希望が持てる話題。詳細は下記のリストをご覧いただくとして、9月開幕を予定している新作もあるようだから、それらに先立ち6月あたりからロングラン作品が再開される…というのが最速のシナリオだろうか。
前号で少し触れた“デジタル”トニー賞は、2020年秋に開催予定とされていたが、閉鎖期間の延長に伴い今も未開催。ただし、10月にノミネート発表だけは行われたので、今号はその話題をお届けしたい。閉鎖前に開幕していて、しかも一定数以上の審査員が観劇済みだったこと、というのがノミネートの条件だったため、ミュージカルの対象作は『ムーラン・ルージュ!』『The Lightning Thief』『Tina:ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』『ジャグド・リトル・ピル』の4作のみ。果たして各部門にノミネートされたのは――?
■ミュージカル作品賞
新作部門は、今シーズン最多となる15ノミネートを受けた『ジャグド・リトル・ピル』、14ノミネートの『ムーラン・ルージュ!』、12ノミネートの『Tina:ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』の3作に。ファンタジー小説「パーシー・ジャクソン」シリーズを原作とする『The Lightning Thief』は、3か月と持たずに閉幕したことからも予想がついた通りよほどの駄作だったようで、作品賞で除外されただけでなくノミネートゼロに終わった。尚、リバイバル部門については対象作がなかったため廃止に。イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の『ウエスト・サイド・ストーリー』は、来年の対象作ということになるのだろう。
■各スタッフ賞
『The Lightning Thief』がノミネートゼロだったと先に書いてしまったのがもうネタバレのようなものなのだが、脚本賞、演出賞、振付賞、編曲賞、装置デザイン賞、衣裳デザイン賞、照明デザイン賞、音響デザイン賞はすべて、作品賞と同じ『ジャグド』『ムーラン』『ティナ』が仲良く分け合う形に。面白いのは、この3作がすべて既存曲を用いた作品であったために、例年はほぼミュージカル作品が占めるオリジナル楽曲賞に、プレイ作品ばかりがノミネートされたこと。ここまでくると、逆に『The Lightning Thief』が観て(聴いて)みたかったような気がしてくるのは筆者だけだろうか。
■各キャスト賞
『ジャグド』と『ティナ』が女性主役の作品であるため、主演男優賞はなんと『ムーラン』のアーロン・トヴェイト1人という衝撃の展開に。文字通り、受賞間違いなしだ。主演女優賞のほうは、『ムーラン』が男女2人主役の作品であるため、これまた3作が分け合う形に。そして助演のほうは、男優賞が『ムーラン』『ジャグド』から2人ずつ+『ティナ』から1人、女優賞が『ジャグド』から3人+『ムーラン』『ティナ』から1人ずつ。そうつまり、例年であれば受賞作を占う鍵となるノミネート数は、今年に関しては助演女優・男優賞に送り込めたキャスト数の差のみというわけだ。その意味では3作のうちどれが強いのかが本当に分からず、それなりに楽しみな“デジタル”トニー賞である。
【2021-2022シーズンの新作】
*情報は2020年12月28日時点のもの
『1776』2022年春開始予定
1969年のトニー賞受賞作をD・パウラス演出でリバイバル。米国独立宣言の裏側を描く。https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/upcoming/1776/
『Caroline, or Change』2021年秋開始予定
2004年のトニー賞ノミネート作品の、2018年にロンドンで好評を得たリバイバル版。https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/upcoming/caroline-or-change/
『David Byrne’s American Utopia』2021年9月17日開始予定
ミュージカルに近いコンサート。昨シーズンの公演が好評を博しての再演。
https://americanutopiabroadway.com/
『Flying Over Sunset』2021年秋開始予定
3人の著名人がLSD(当時は合法)を使用していた事実を元にJ・ラパインが創作する新作。
https://www.lct.org/shows/flying-over-sunset/
『MJ The Musical』2021年9月開始予定
マイケル・ジャクソンの半生を『パリのアメリカ人』のC・ウィールドンの演出・振付で。
https://mjthemusical.com/
『ザ・ミュージックマン』2021年12月20日開始予定
H・ジャックマンとS・フォスターが夢の共演。スタッフ陣も盤石で大ヒット確実!
https://musicmanonbroadway.com/
『シング・ストリート』2021年末または2022年開始予定
同名のアイルランド映画(副題「未来へのうた」)の舞台化。オフでの好評を受けてBW入り。
https://singstreet.com/
『お熱いのがお好き』2021年秋開始予定
M・モンロー主演の名作映画をC・ニコロウ(『アラジン』)の演出・振付で舞台化。
『The Who’s Tommy』2021年開始予定
中川晃教主演で日本でも上演されたロックオペラの新演出版。演出は再びD・マカナフ。
【2019-2020シーズンの新作】
■閉鎖前に開幕していた作品
『Girl From the North Country』
ボブ・ディランの楽曲がちりばめられてはいるが、作りとしては完全にプレイ。要英語力。
https://northcountryonbroadway.com/
『Jagged Little Pill』
アラニス・モリセットの同名アルバムをミュージカル化。演出は『ピピン』のD・パウラス。
https://jaggedlittlepill.com/
『ムーラン・ルージュ!』
B・ラーマン監督映画をA・ティンバースが演出した話題作。ドラマデスク賞で5冠達成。
https://moulinrougemusical.com/
『Tina:ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』
ロンドンでの好評を受けてBW入り。オリヴィエ賞ノミネートの主演女優が続投!
https://tinaonbroadway.com/
『ウエスト・サイド・ストーリー』
ヴァン・ホーヴェ演出、ケースマイケル振付による大胆リバイバル。評判イマイチ…⁉
https://westsidestorybway.com/
■プレビュー中に閉鎖期間に入った作品
『カンパニー』
ソンドハイムの傑作コメディを『ウォーホース』の演出家でリバイバル。P・ルポンが出演。
https://companymusical.com/
『ダイアナ』
ダイアナ元妃の人生を人生を描く。開幕に先駆け、無観客収録された舞台がNetflixで配信予定。
https://thedianamusical.com/
『ミセス・ダウト』
同名映画を『サムシング・ロッテン!』の作家兄弟と売れっ子演出家J・ザックスが舞台化。
https://mrsdoubtfirebroadway.com/
『SIX: The Musical』
ロンドンで大ヒット。ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作!
https://sixonbroadway.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』に次ぐロングラン記録を更新中の名物作。出来は割とキャスト次第。
https://chicagothemusical.com/
『ライオンキング』
開幕から20年以上経つというのに、未だ入場率がほぼ毎週100%を超える大ヒット作。
https://www.lionking.com/
『オペラ座の怪人』
言わずと知れた世界的メガヒット作。圧倒的な知名度ゆえ、劇場では日本人に遭遇しがち。
http://www.thephantomoftheopera.com/
『ウィキッド』
開幕から15年が経ち、ようやくに多少の余裕が。定期的に観たい傑作。
https://wickedthemusical.com/
■日本未上演の作品
『Ain’t Too Proud』
『ジャージー・ボーイズ』のチームが描くテンプテーションズの軌跡。二番煎じだが良い。
https://www.ainttooproudmusical.com/
『ブック・オブ・モルモン』
日本では永遠に上演されなさそうだが超絶面白い。モルモン教だけwikiで調べて観るべし。
https://bookofmormonbroadway.com/
『カム・フロム・アウェイ』
「911」の日、カナダの小さな町に起こった実話をシンプルだが力強い演出で描く感動作。
https://comefromaway.com/
『ディア・エヴァン・ハンセン』
深遠なテーマをスタイリッシュに描く、2017年のトニー賞受賞作。絶対日本でやると思う。
https://dearevanhansen.com/
『Hadestown』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
超入手困難なモンスター級ヒット作。ディズニー+で配信中(英語音声のみ)。
https://hamiltonmusical.com/
『ミーン・ガールズ』
同名映画の舞台化。なぜか人気。アメリカ的なノリについていける自信があればどうぞ。
https://meangirlsonbroadway.com/