大学教員が語る、めくるめく考古と神道の世界 國學院大學博物館『オンラインミュージアム』【ネット DE アート 第17館】

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2021.3.11
ネット DE アート 第17館:國學院大學博物館

ネット DE アート 第17館:國學院大學博物館

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外出自粛により自宅で過ごす時間が増えている昨今。ネット上でアートを楽しめるコンテンツが増えてきており、アフターコロナを見据えた各文化施設の取り組みは、今後ますます拡充していくと思われます。美術館に直接足を運べなくても、気軽に作品と出合う機会があることで、アートとの関わり方も多様になっていくのではないでしょうか。
今回は、國學院大學が有する学術資料や研究成果を発信する「國學院大學博物館」による『オンラインミュージアム』の魅力を紹介します。知識豊富な教員がナビゲーターとなって展示案内をする常設展、本コンテンツのために制作された企画展の特別映像、大学教員によるミュージアムトークなど、教員や学芸員の手でつくられた動画の数々は見ごたえ抜群。考古学や神道を通して、古人(いにしえびと)の心に触れられるような映像の見どころをお伝えします。

國學院大學博物館のオンラインミュージアム

國學院大學博物館のオンラインミュージアム

構成から撮影編集まで、すべて手づくり!

國學院大學博物館の公式YouTubeチャンネルでは、常設展示の解説動画と、年に数回行われる企画展の特別編集動画、教員によるミュージアムトークの動画などが公開されています。

常設展は、考古・神道・校史を紹介する映像が各3本ずつあり(記事執筆時点)、どの動画も一本につき5分程度で視聴できます。考古展示室では、國學院大學博物館 准教授の深澤太郎氏が案内人となり、古人が残してきた数多くの遺物のなかから、宗教的な意義を見いだせる資料をピックアップ。日本列島の歴史や考古資料から見た日本の宗教史を、流ちょうな語りで案内しています。

國學院大學博物館 Online Museum[考古 Part.1]先史時代の造形-縄文・弥生-

動画内では、縄文土器や先史時代の矢じりなどの道具以外にも、石棒や石刀など、一見用途がわからない遺物についても触れています。

國學院大學博物館 Online Museum[考古 Part.1]先史時代の造形-縄文・弥生- (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[考古 Part.1]先史時代の造形-縄文・弥生- (YouTubeより)

「普段の人間の行為では及ぶことのできない、『いま、ここではない世界』にアクセスするために、先史時代の人々が工夫を凝らした、そんな姿が垣間見えるのではないか」と語る深澤氏。字幕入りの動画と、わかりやすい言葉による展示解説は見やすくて聴きやすく、神秘的で雰囲気のあるBGMも味があります。さらに注目してほしいのは、動画の最後に流れるスタッフロール。教員自らが解説を行うだけでなく、撮影や動画編集は同施設の学芸員が、音響は博物館の副館長が担当していました。身近なスタッフによる制作物ながら、動画のクオリティは歴史番組にも引けを取らない完成度です。考古の動画では、ほかにも神道の原型が形作られるまでの様子も簡潔に説明されています。ぜひ、ランチや休憩の合間に考古展示の面白さに触れてみてはいかがでしょうか。

三者三様の専門分野を活かした、神道の魅力を伝える動画も

神道展示室では博物館館長と大学教員が、各動画の解説を担当しています。「古代の日本人は神さまをどう考えてお祭りを行ってきたのか」という問いかけにはじまり、古墳時代の祭祀遺跡(古代のお祭りの遺跡)を中心に神道の起源や古代のお祭りの概要を解説するのは、館長の笹生衛氏(國學院大學神道文化学部 教授)。

國學院大學博物館 Online Museum[神道 Part.1]神祭りの原像

「自然の働きに神の力を見ていた古代の人々にとって、神は感じるものであって、見るものではありませんでした」と語る大東敬明氏(國學院大學博物館 准教授)は、神様の像=「神像」にクローズアップし、時代ごとに変化した神観念を、史料を通して紐解いていきます。また、吉永博彰氏(國學院大學博物館 助教授)は、神さまの食事「神饌(しんせん)」をテーマに取り上げ、捧げ物に関する展示物から神祭りの様相に迫ります。

國學院大學博物館 Online Museum[神道 Part.2]神々の姿 (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[神道 Part.2]神々の姿 (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[神道 Part.3]神々への捧げ物 (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[神道 Part.3]神々への捧げ物 (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[校史 Part.1]国学とはなにか (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum[校史 Part.1]国学とはなにか (YouTubeより)

祭祀考古学や神道思想史、神社史など、各教員の専門分野を活かした視点で語られる解説はどれも必聴。さまざまな「まつり」の在り方に焦点をあてた全3回の動画から、神道の特徴が浮かび上がってくるはず。常設展では、考古や神道以外にも、国学の興りについてや國學院大學とゆかりのある有栖川宮家・高松宮家の資料を説明した校史の動画も興味深い内容になっています。気になった方は、そちらもあわせて視聴してみてください!

考古学×古事記のコラボレーションによる、古典のあたらしい楽しみ方

國學院大學博物館の企画展示室では、多彩なテーマによる研究成果を発表するための企画展が年に数回催されています。その企画展の内容を特別編集したオリジナルの動画も、オンラインミュージアムの見どころのひとつ。2020年7月に開催された企画展『モノで読む古事記』は、オンラインによる展示紹介として、全部で5本の動画が配信されました。

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」第1章 太安萬侶と古事記の編纂

日本の神話と歴史について書かれた、現存最古の歴史書(712年成立)である『古事記』に登場するさまざまな器物。たとえば、アマテラスオオミカミを天の岩戸から連れ出すための「鏡」や、ヤマサチビコが海で失くした「釣針」、神の毒気にあてられて気を失った神武天皇を復活させる「刀」など。古事記に登場するそれらのモノは、古墳時代の考古資料との関連性が推測される例もあるとのこと。本企画展の動画では、5世紀代のお祭りの様子や当時の有力者の装束、大陸からもたらされた最先端の技術など、考古学的資料から読み取れる情報を取り上げつつ、古事記成立の背景を「モノ」から読み解いていきます。

第3章「高天原から出雲へ」の動画内では、かの有名なヤマタノオロチの退治にスサノオノミコトが使用した「十拳(とつか)の劔」と、古墳時代初期に存在した鉄刀との関わり合いを紹介しています。

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」第3章 高天原から出雲へ

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」第3章 高天原から出雲へ (YouTubeより)

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」第3章 高天原から出雲へ (YouTubeより)

さらに第5章「天つ神御子から天皇へ」でも、古事記中巻で神武天皇が授かった刀「フツノミタマ」と、古墳時代の初頭に中国大陸から渡来した鉄刀との結びつきについて言及しています。

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」第5章 天つ神御子から天皇へ

動画内のナレーションでは、「3世紀に日本列島にもたらされた優れた銅鏡や鉄刀は、当時の最先端の技術や文化を象徴するものだった。それらが古事記の宝鏡や神剣のイメージへとつながっていったと考えられる」と、語られています。

各章の動画には上下巻からなる古事記のあらすじ紹介や朗読も含まれるため、古事記入門としても十分に楽しめる内容です。「神さまの名前は聞いたことがあるけど、古事記の内容はよく分かっていない」というレベルの筆者でもわかりやすく、教員による詳しい解説も、古事記の世界をより深く理解する手助けになります。

神話と歴史の狭間を考察する、充実のミュージアムトーク

企画展『モノで読む古事記』の特別動画に加えて、さらにディープに本展の魅力を伝えているのが、全3回にわたるミュージアムトーク。3名の大学教員がそれぞれの専門分野で解説をしています。第1回の渡邉卓氏(國學院大學 准教授)の動画では、古事記の概要や古事記が出来上がった過程をわかりやすく紹介。物語の要所要所に「モノ」が関わっているのが古事記の特徴であるとして具体的な例を挙げつつ、「モノを作るということから祭祀が始まっているということを伺わせてくれる神話です」と語ります。

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」ミュージアムトーク 第2回「この展示で言っておきたい2つのコト」

第2回を担当する深澤氏は、本展の企画趣旨にまつわる裏話を披露しつつ、「考古資料の姿を参考にして、今日的な神代(神話の世界)のイメージを作り上げたのは、考古学が発達した近代の所産であった」とコメント。古事記の黄泉国訪問譚に登場する「櫛」という象徴的なアイテムと、古墳時代における櫛の使われ方を照らし合わせながら展開される仮説は、思わず聴き入ってしまいます。「仮説を証明していく、という過程そのものが研究というわけです」と結ぶ深澤氏の言葉も印象的。

第3回は、古事記に登場する鉄のモノに焦点を当てた解説を館長の笹生氏が担当。「古事記に出てくる鉄のモノはどのような意味を持っているのか」「鉄の釣針は日本列島でいつから出てきた?」など、先述した5本の企画展動画の内容から、より詳細な考察が聞けるので、両方合わせて楽しんでみてください!

國學院大學博物館 Online Museum 企画展「モノで読む古事記」ミュージアムトーク 第3回「古事記と鉄」

オンラインミュージアムでは、他にも企画展『楽石雑筆―神道考古学の祖 大場磐雄の記憶と記録―』や企画展『江戸のベストセラー唐詩選』の解説動画やミューアジムトークも公開中。また、3月20日には企画展『縄文早期の居家以人骨と岩陰遺跡―居家以プロジェクトの研究成果―』の解説動画も公開予定だとのこと。神道、考古学や文学の世界へ誘う魅力的なオンラインコンテンツを、お見逃しなく。


文=田中未来 画像=公式素材より引用

施設情報

國學院大學博物館 オンラインミュージアム
 
國學院大學博物館
所在地:東京都渋谷区東4-10-28(國學院大學渋谷キャンパス内)
國學院大學博物館ウェブサイト: http://museum.kokugakuin.ac.jp/

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「インターネットで体験できるアートプログラム」を紹介する【ネット DE アート】。
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