国内最大級のピアノコンペティションを制した若きピアニスト・尾城杏奈の素顔に迫る! 今興味があること、今後の目標は?
尾城杏奈
2020年ピティナ・ピアノコンペティションを制した特級グランプリ・尾城杏奈が、満を持して受賞記念リサイタルを開催する。2021年5月19日(水)、『尾城杏奈 色とりどりの世界』と題しトッパンホールにて行われる本コンサートでは、ショパン「24のプレリュード」全曲、そして、同世代の精鋭たちをゲストに迎えて、2台ピアノとピアノ三重奏の共演でラヴェルの世界を表現する。若きピアニストのこれまで、そしてリサイタルにかける思いなどを聞いた。
■1%も予想していなかった、ピティナ特級グランプリ
――尾城さんは4歳からピアノを始められたそうですね。
母が地域の子どもたちにピアノを教えていましたので、物心着く前からピアノには触れていたようです。4歳から先生のところでレッスン受け始めました。小さい頃の記憶はあまりないのですが、発表会で演奏するのが大好きでした。お客様に自分の演奏をお聴かせするのがその頃から楽しみで、「上手だったよ」なんて声をかけてもらえるのが嬉しかったんですね。
中学に入ると、芸大の附属高校に通う同門の先輩たちの演奏会を聴いて憧れて、私も同じように進んでいきたいな、と思いました。小2から今もお世話になっている先生からは、自然な音楽の流れを教わり、一音一音に対する意識を高めてもらいました。「自分らしく演奏しなさい」と、いつも優しく導いていただきました。
尾城杏奈
――昨年の夏、東京芸術大学修士課程1年時に、ピティナの特級グランプリおよび文部科学大臣賞、スタインウェイ賞を受賞されました。非常にレベルの高いファイナリストたちの中で、みごと優勝されましたね。
まさか、という感じでした。1%も予想していなかったんです。結果発表の時は、私もお客様と同じような目線で「誰なんだろう」って思っていましたから(笑)。自分の名前が呼ばれた時は本当にびっくりしてしまって、「え…」という声が出てしまいました。
小さい頃からコンクールには挑戦してきますが、ステージで弾く経験をいただき、多くの方に聴いていただく機会として大事に思ってきました。結果にこだわらないわけではないのですが、ピティナの特級ファイナルはサントリーホールのステージでオーケストラと協奏曲を共演できるので、まずはその機会を目標としていたんです。今回の優勝は本当に驚いてしまいました。
――ファイナル・ステージでは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を伸び伸びと美しく演奏されました。オーケストラとのアンサンブルを心から楽しみ、丁寧に音楽作りをされていた姿は、やはりとても印象的でした。
芸高に入って同級生たちと演奏する機会が増えてから、アンサンブルが本当に好きになりました。オーケストラとの共演は、ポーランドで行われた協奏曲の講習会で初めて経験し、藝大フィルハーモニア管弦楽団と一緒に学内コンサートで演奏したのが2度目。その時もラフマニノフの3番を演奏しましたが、本番は必死(苦笑)。ただただオーケストラに付いていくので精一杯でした。ピティナ特級のステージでは少し余裕が出て、オーケストラの各楽器との対話を意識することができました。
尾城杏奈
――コロナ禍での優勝ということになり、お披露目コンサートの予定などが通常通りとは行かない面もありましたね。
性格的にもともとポジティヴなので、この状況下でも前向きにとらえながら、いただいた機会を大事に生かしています。とくに、新しい曲に出会いチャレンジしていくことが大好きなので、受賞から現在まで、この8ヶ月間にもお客様のリクエストにお応えする配信コンサートなどを通じてレパートリーを広げる機会もいただき、とても楽しいです。
■色とりどりの情景をピアノでお届けしたい
――5月19日(水)、満を持してグランプリ受賞記念リサイタルを開かれます。前半はソロ、後半はアンサンブルという、尾城さんの魅力をたっぷり伝えられる構成ですね。前半はバッハ=ジロティの「前奏曲ロ短調」に続け、ショパンの「24の前奏曲 op.28」全曲を弾かれます。
こうした時期ですので、お客様に温かな気持ちになっていただきたいという思いで選んだ曲目です。しっとりと美しいバッハ=ジロティは、人の心に寄り添ってくれる作品です。ショパンの前奏曲は、春の希望を感じさせる1曲目から始まり、暗く寒い冬の情景を思わせる曲もあります。四季折々の情景を感じさせる、色彩感豊かな世界をお楽しみいただきたいです。
尾城杏奈
――後半では、同じくピティナ特級ファイナルのステージに立たれた山縣美季さんと2台ピアノの共演でラヴェルの「ラ・ヴァルス」を披露されます。
山縣さんはずっと同門で学んできました。彼女の自然で伸びやかな演奏、繊細かつ情熱を秘めた音色はとても美しく素晴らしいです。一音一音に対する意識、集中力が高くて、音楽的に引っ張ってくれるところもあり、一緒に音楽を作っていくのが楽しいです。「ラ・ヴァルス」は、私は以前ソロ・バージョンを演奏したことがあり、山縣さんも2台ピアノ・バージョンの経験があるということで、二人でやってみたら楽しいだろうな、と。華やかで、ダイナミックな作品です。
――そしてラヴェルのピアノ三重奏曲をヴァイオリンの土岐祐奈さん、チェロの笹沼樹さんという素晴らしい奏者と共演されます。
以前から存じ上げているお二人と共演できるなんて、とても嬉しいです。先日初めてお会いしたときは、お二人ともオーラがすごくて圧倒されました。これまで年上の方々と室内楽を共演する機会はなかったので、音楽作りをする上でのコミュニケーションの取り方など、まだまだ緊張はしますが、とても勉強になります。
ラヴェルのピアノ三重奏曲は、トリオのなかで私が一番好きな作品です。民族的な要素があったり、リズム表現も面白い作品なので、お客様を惹き込めるように演奏したいです。
■音楽で喜びを与えられる奏者をめざして
尾城杏奈
――ラヴェルお好きなんですね。これから取り組みたい作曲家はいますか?
昨年の自粛期間中に、ラヴェル作品の譜読みを端からやっていたんです。フランスものへの興味が高まっているので、今後はメシアンなどにも取り組んでみたいですね、覚悟はいりますが……。大学ではロシアものに集中し、ショパンも多く弾いてきました。今後はモーツァルトやベートーヴェンなど、古典派の作品もレパートリーに組み込みたいです。
――音楽のほかに、今興味のあること、やってみたいことは?
体幹を鍛えたいです。筋肉量がたぶん人より少なくて、いつもふにゃふにゃしてるんです(苦笑)。小さい頃からのクセで、いつもちょっと右に傾いてるんですよね。ピアノを弾く上で背筋や腹筋も大切なので、少し鍛えないと……。
それから、歴史に興味が湧いてきたので、「フランス革命とは……」などと紐解いているうちに、だんだん、もっと前、もっと前……と調べていたら、ついに宇宙の始まりのところから勉強したくなってしまいました(笑)。小学生みたいな疑問で頭が溢れちゃうこともあるんですが、でもこれが面白くて。ビックバンから世界の始まりを考えていたら、最近、街を歩いていても感動するし、絵を見ても、音楽を見ても、感激の度合いが大きくなりました。
――どのような音楽家になっていきたいですか?
自分らしく音楽を追求しながら、自然な歌を磨き上げ、聴いてくれる方の心に喜びを与えられるようなピアニストになっていきたいです。
(おまけ)撮影時、周囲のスタッフからの「なにかポーズをつけて……」「自由に動いてみてください~」との声に、「手、こんなかんじですか?!どんな風に動けばいいでしょう……!」と終始笑顔で応えてくれました。ありがとうございました!
取材・文=飯田有抄 撮影=荒川潤
公演情報
会場:トッパンホール
尾城杏奈(ピアノ)
山縣美季(ピアノ)
土岐祐奈(ヴァイオリン)
笹沼樹(チェロ)
<ソロ>
J.S.バッハ(ジロティ編):前奏曲 ロ短調 BWV855a
ショパン 24の前奏曲 Op.28
ラヴェル:ラ・ヴァルス 共演:山縣美季(p)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 共演:土岐祐奈(vn)笹沼樹(Vc)