金属恵比須は見た…「ロバフリ心理大作戦」~キング・クリムゾンの“大出血サービス”

レポート
音楽
2015.12.16
オーチャードホールのロビーではしゃぐ筆者・高木大地(金属恵比須)

オーチャードホールのロビーではしゃぐ筆者・高木大地(金属恵比須)



 とうとう日本に上陸したキング・クリムゾン。
 
 今回のツアーは、厳しく封印されていた過去の名曲たちを一気に放出する“大出血サービス”だと聞いて誰もが首を長くして来日を待っていたに違いない。
 
 かくいう筆者もその一人で、クリムゾン型(時々ジェネシス型)プログレ・バンド「金属恵比須」を20年近く運営し、「新世代型・日本のロバート・フリップ」を自称する者である。
 
 山田五郎氏をして「このバンドのメロトロン、『エピタフ』(の要素)入ってる」と言わしめたような楽曲を奏でており、このような音を出すならば本物をという原理主義的思想から、本物のメロトロンを使用してしまっている。「メロトロン」をご存じない方のために説明するが、知らない人にとっては「白い粗大ゴミみたいなめんどくさいキーボード」ぐらいの認識でさしつかえない。知ったところで意味がない。万が一「意味」を持ってしまったらタチが悪い。「フリップは黒色も使っていたじゃないか!」なんてツッコミを入れる人がいたら、とりあえず避けたほうがいい。うちのバンド・メンバーとか。
 
 とにもかくにも『THE ELEMENTS OF KING CRIMSON TOUR』東京公演2日目、12/8のオーチャードホールに参戦した。
 
 入場に際し渡されたビラを見る。「KING CRIMSON公演にお越しのお客様へのお願いとご案内」というレジュメで、写真撮影を一切禁じるとのこと。それが発覚した場合、「即時退場」させ、「公演がその時点で中断、終了する」場合があると、具体的な処罰まで明記されている。さすがディシプリン・グローバル・モービル。フリップ先生はやはり「規律」(=Discipline)にうるさい。
 
 まずは物販コーナーへ。その周辺に立て看板が。またもや「写真撮影禁止」「即時退場」の文字。一億総スマホ時代ゆえ、フリップ先生の肖像権・著作権に関しては相当ピリピリしているのだろう。
 
オーチャードホール ロビーにて

オーチャードホール ロビーにて

 ホール内に入る。ステージを覆い隠す幕の代わりに、まるで演芸会の演目が筆書きされているような立て看板がステージ上に3セット置いてあった。しかし中身はやはり「写真撮影禁止」「即時退場」と。フリップ先生、何を執拗にこだわっているんだろう。
 
 椅子に座って、開演を待つ。場内の係員がところどころ歩いており、隙あらば、「場内は写真撮影禁止となっております! 携帯電話の電源はお切りください!」と注意を促している。こんなにもフリップ先生の手下がいるとは。それにしても、先生、なぜここまで気にしているのだろう。被害妄想にでも陥ったのだろうか。
 
 しかし、ここまでしきりに「やるな!」「禁止!」「退場!」とかいわれると、どうしても破りたくなるのが心情。――人間だもの。
 
 そういえば、どこかのライヴでそういうのが発覚し、フリップ先生が怒ってアンコールをやらなかったとかいう噂を耳にしたっけ。恐ろしや! フリップ先生の実力行使。もし一度の過ちを犯したら……考えただけで背筋が凍る。まさにフリップの恐怖政治。筆者は携帯電話の電源を切った。――信者だもの。
 
 さて、いよいよ開演時間である。日本人の女性の声でアナウンスが流れる。ここぞとばかりに「写真撮影禁止」「即時退場」の注意を促す。

 わかってるよ、もう電源切ってるよ――と思った瞬間、「ただし、トニー・レヴィンがカメラを構えたときのみ撮影されてもかまいません

 
 おい! いいんじゃん! 限定はついてるけど。
 
 それにしても生真面目で抑揚のないアナウンサー特有の声質で「トニー・レヴィン」と発音するだけでこれだけ面白いものか。会場一同爆笑の渦。これが「ギャビン・ハリソン」とかだったらこんなには笑いは起きなかっただろう。

 トドメを刺したのが直後のフリップ先生ご本人のお声によるアナウンス。女性のアナウンスと同内容だった。
 
 やっぱりいいんじゃん!
 
 教祖御自ら認めている。今までの執拗な注意は何だったのか。

 そういえば心理学か社会学かの本で、人間の支配と服従に関しての話を思い出した。これでもかとガンジガラメにしておいて、たまにふっとそれを抜くと、支配者に対して多大な感謝をし、更なる服従を促せるらしい。
 
 アメムチ
 
 フリップ先生による心理操作、見事に成功である。してやられた。
 
 とうとう演奏が始まった。「平和」、しかも「終章」で始まるという前代未聞の珍事に呆然と立ちすくんでしまった(過去51公演で初めて)が、その後も往年の名曲が目白押しで大満足のセット・リストだった。
 
 以下が、“大出血サービス”のメニュー一覧である。
 
1. Peace - An End
2. 21st Century Schizoid Man
3. Epitaph
4. Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind) I
5. Meltdown
6. Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind) II
7. Level Five
8. Hell Hounds of Krim
9. The ConstruKction of Light
10. One More Red Nightmare
11. Banshee Legs Bell Hassle
12. The Letters
13. Sailor's Tale
14. Easy Money
15. Starless
- Encore -
16. The Court of the Crimson King
17. The Talking Drum
18. Larks' Tongues in Aspic (Part Two)
 
 前代未聞のオープニングで幕を開けたわけが、特に「墓碑銘」「暗黒」「クリムゾン・キングの宮殿」など、メロトロン音でお涙頂戴の曲がとりわけ光っていた。なお、デジタル・サンプル音で再現している様子で本物は使用していなかった。 ←ってこんな注意を入れなきゃならないほどめんどくさい楽器なのである。ファンも同じくらいめんどくさいから(例:うちのバンド・メンバーとか)。
 
 さて、その他の曲も合わせて総じてレアな曲をやっていたかを分析してみた。
 
 計算方法としては、まずは全54公演で演奏された往年の名曲の演奏率を算出。
 


 そして、その公演で演奏された曲の演奏率の平均を出す。これを「レア率」とする。高ければ高いほど定番のセット・リストとなり、低ければ低いほどレアな曲ばかりを奏でる「レアなライヴ」となる。
 

 12/8は68.4%で第3位だった。
 
 ちなみに、東京において往年の名曲全レパートリーを聞くには、はたしてどの日に行けばよかったかを考えると、結論としては、
①12/7 or 12/8
②12/9(この日のみ「Red」を演奏)
③12/10(この日のみ「Vrooom」を演奏)
の最低3日間行かなければならなかった(詳細は表を参照)。
 

 フリップ先生の心理操作にハメられた信者たちは、当然ながら3日間ぐらいは赴いたことだろう。ゆえにほとんどの信者は名曲をほぼ網羅できたのではないか。
 
 なお分析する過程で発見したのだが、噂の“アンコール拒否日”は実は1回もなかった。54回ともきっちりとやっているのである。ウソの噂まで使って人を操るフリップ先生、恐るべし。
 
 僕らは踊らされていたのである。――信者だもの。
 
 ちなみに、トニー・レヴィンがカメラを構えているときに、フリップ先生のお言葉に甘んじ写真を撮ってみた(本編終了後)。ステージは真っ赤のままだわ、遠いわ、フリップ先生が切れてしまってるわで散々だった。
 
許可された撮影画像

許可された撮影画像

 追加公演に行きなおし、もう1回撮ってみるか。――信者だもの。
 
公演情報
キング・クリムゾン

<東京>
12月07日(月) Bunkamuraオーチャードホール
12月08日(火) Bunkamuraオーチャードホール
12月09日(水) Bunkamuraオーチャードホール
12月10日(木) Bunkamuraオーチャードホール
<東京追加>
12月16日(水) Bunkamuraオーチャードホール
12月17日(木) Bunkamuraオーチャードホール
INFO:クリエイティブマン 03-3499-666903-3499-6669


<大阪>
12月12日(土) フェスティバルホール
12月13日(日) フェスティバルホール
INFO:キョードーインフォメーション 0570-200-888


<高松>
12月19日(土) サンポートホール高松 発売日:10/31(土)~
INFO:DUKE高松 087-822-2520


<名古屋>
12月21日(月) 名古屋国際会議場センチュリーホール
INFO:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
※未就学児(6歳未満)の入場不可。
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