競泳選手から俳優という異色のキャリアを持つ藤本隆宏にインタビュー! 音楽劇『海の上のピアニスト』まもなく開幕へ
藤本隆宏
イタリア人作家アレッサンドロ・バリッコの文学作品で、映画でもお馴染みの名作『海の上のピアニスト』が音楽劇として、2021年9月16日(木)から東京芸術劇場シアターイーストほかで開幕する。
豪華客船の中で孤児として生まれ、船の専属楽団のピアニストとなったノヴェチェント。彼は天才的なピアノの才能を持ちながら、一度も船を降りることなくその短い生涯を終える――。主人公のピアニスト・ノヴェチェント役には内博貴が、親友のトランペッター役には藤本隆宏が出演。本作のために書き下ろしたオリジナル楽曲の数々とともに、切なくも愛しいピアノ弾きの半生をドラマティックに描き出す。
開幕まで1週間と迫った9月某日、トランペッター役の藤本に、オンラインで取材をした。本作への意気込みのほか、元競泳日本代表選手という異色の経歴についても語ってもらった。
ーー今回『海の上のピアニスト』に出演が決まったときはどんなお気持ちだったんでしょうか?
ピアノはすごく好きですね。映画音楽で、例えば『戦場のメリークリスマス』だったり『ピアノ・レッスン』だったり、『ノマドランド』や『ラ・ラ・ランド』もそうでしたが、ピアノが音楽に入ると心惹かれるんです。
ピアノがメインにある舞台に出られるという喜びで、もう(出演を)即快諾したような感じなんです。でも、実際台本を開いてみてあまりのセリフの多さに、「これ、できるかな」と(苦笑)。ちょうど8月に舞台をやっていて、それと並行してドラマも出演していたこともあって……。中途半端な気持ちではできないなと思いすごく悩み、俳優として新たなチャレンジをしてみたいと思って、今回、出演させていただくことにしました。
ーーやってみようと思われた一番のきっかけは、やはり本の面白さですか?
そうですね。本の言葉の一つひとつに魅了されました。それに、すごく面白い構成になっているんです。普段やっているミュージカルは、芝居の中に音楽が入ってくるような感覚なのですが、今回の作品に関しては、音楽はもちろん、セットもセンターにピアノがあるので、音楽に合わせて芝居を作り上げていくような感覚なんです。
あと個人的には、ニューヨークが大好きですし、昔水泳をやっていたので、海の物語という点で、何か人と違った表現をできたりするのかなと思ったり。いろいろな側面で惹かれました。
藤本隆宏
ーーご自身が演じられるトランペッター役については、今どのように捉えてらっしゃいますか?
トランペットを吹くシーンは、マイムで表現したりするんですけれども。船の上に乗ったバンドのメンバーの1人として、また友として、その主役ノヴェチェントをずっと見続けて、自分の気持ちが変わっていく。お客さんとともに変わっていく。だからトランペッターとしてというよりも、船の上の一員としてこの作品を捉えている感じです。
ーーそのノヴェチェントを演じられる内さんとは、もう濃密なお稽古されていると思いますが……。
はい、濃密です(笑)。
ーー改めて内さんはどのような俳優さんでいらっしゃると感じていらっしゃいますか?
とにかく格好よくてセンスが良くて。芝居も本当にノヴェチェントではないのかと思えるぐらい、すごく芸術家肌であったり、人のことを思いやる気持ちがある一方で影があったり、芝居を一生懸命真面目にやったり。僕のタイプのど真ん中です(笑)。僕が持っていないものをたくさん持っていらっしゃる方ですね。トランペッターはそういうノヴェチェントが好きになっていくのですが、僕自身、内さんのことをすごく好きになってる感じです。
ーーお2人で切磋琢磨しながら、稽古場では演じてらっしゃるということですね。
そうですね。もう大変だね、難しいねと、言いながら(笑)。内さんもミュージカルにずっと携わってこられていますが、「今までのミュージカルや音楽劇と違うね」という話をしてます。
例えば、ピアノひとつで作品として芝居をして歌うという事は、おそらく二人ともあまり経験が無い事。わかりやすいそのコードの中で進行せず、あえて音と音をぶつけていくような、(スティーヴン・)ソンドハイムの楽曲のような感じなんです。ぶつかり合いの中で表現していくことが多いので、それはすごく内さんも僕も迷っているというか、戦いながらやってるところではありますね。
その分、音楽が面白い。特殊だけども、美しい。それがこの作品の一番の特徴かなと思ってます。でも、難しいです、はい。
ーー脚本と演出を手掛けられる星田(良子)さんのこともうかがいたいのですが、非常に厳しい演出家として知られていますが、今、どんな薫陶を受けられていらっしゃいますか?
演じることというよりも、自分の心の中をどう持っていくか。そのアプローチの仕方について重点的に言われています。僕はまだそれが十分にできてないのですが、映像の演出に近い舞台演出になっているのでとても勉強になっています。決して怖い先生ではなかったです(笑)。
もちろん怒られることもありますけど、年齢を重ねると言ってくださる演出家が少なくなってるので。細かく細かく演出をしてくださるので、すごく頼もしく、芝居をやってるところです。
今までやってきた芝居は、前の人のセリフが終わったらすぐ自分のセリフを言うような、そういう芝居の形態(セリフのキャッチボール)が多かったのですが、今回はそうではなくて、ちゃんと自分の気持ちをつくって、語っていく。ストーリーテラーのような役目を担ってるんですが、決してそれだけではなくて。
実際に本当に彼(ノヴェチェント)のことをどう思ってるのかなどを説明しつつも、自分の心の言葉を見つけて喋って、伝えていくという作業をしなくてはいけない。それは難しいのですが、でも新しいことでもあるので、楽しんでやっていければいいなと思います。ノヴェチェントとの掛け合いは意外と少なくて、最後の最後までとってあるような感じです。
ーー藤本さんご自身が好きな場面や好きな曲があれば、ぜひ教えてください。
やっぱり一番最後のノヴェチェントのソロナンバーと長台詞。自分も舞台上にいるんですけど、それを聞いていると、いつも心が震えるんです。ソロナンバーや長台詞に内さんの言い回しや、歌の技術の高さが合わさり大きな感動を呼ぶのだと思います。そこは一番の見どころなのかなと思います。
それまであんまり語らないんです。だけれど、最後の最後で自分の気持ちを吐露する。そこがやはり見どころのひとつでもありますね。
ーー映画を知っている方が見たらまた別の作品のような印象を受けるかもしれませんね。そのほかに見どころはどんなところにありますか?
音楽の美しさも、見どころとして挙げられると思います。本当に音楽が良い。最初に聞いたときに、(エンニオ・)モリコーネだったり、外国の有名な作曲家の方が作ったのかと思ったぐらい。中村(匡宏)さんが作られた曲は日本人の枠に囚われていないというか、世界的に評価されてもいいような本当に素晴らしい曲。そこはもう見どころ・聴きどころのひとつなのかなと思いますね。
それと、内さんの美しさ。稽古場でももちろん格好いいお兄さんなんですけど、一度メイクをして衣裳を着た姿を見たんですが、「こんな格好いい人がいるのか!」という感じでした。本当に海の上でずっとピアノを弾き続けた青年のような、しゅっとしていて、汚れひとつない、美しい姿。その美しい姿で美しくかっこいいセリフを喋ってくださるんですよ。それも見どころのひとつかなと思いますね。
ーーちなみに、藤本さんは船旅のご経験はありますか。
実家がある福岡から、親戚の家がある大阪まで船で行くことが多かったです。仕事で豪華客船に乗って、歌を歌った経験もありますが、それよりも子どもの頃によく乗った船の印象が強いです。みんなで雑魚寝してね。……船って、やっぱりいいですよね。景色がゆっくりと移り変わって、別世界のような感じもして。いろいろなことを考えることができますしね。
ーー藤本さんご自身のことも、もう少しうかがいたいのですが、元競泳選手でいらっしゃる一方、舞台や映像など幅広くご活躍されています。藤本さんにとって「舞台」とはどんな位置づけなのですか?
僕は水泳選手だった頃に、オリンピックや国内外の大会で泳いでいたわけですが、泳ぐことによって、いろいろな人が喜んでくれたり、楽しんでくれたりするんです。そういう様が好きだったので、その経験を次の人生でも味わいたい、体験したい、まだ夢の続きをみたい、ということでこの世界に入ったんです。
舞台はやはり映像と違い、生の反応があって、お客さんと共に作り上げる感覚がある。これはスポーツも同じなんですけど、感動の渦の中に一緒に居ることができるんです。だからこそ、舞台はやはり自分の中ではすごく大事なもののひとつですね。
ーー水泳も演劇もそうかなと思うんですけど、稽古期間や練習の期間が長くあって、いざ試合や本番を迎える。もちろん映像のお仕事も準備期間というものはあると思うのですが、その一瞬のためにという意味だと、水泳と演劇は似ている気もします。
なるほど。そんなこと考えたことなかったですけど、でも、おっしゃる通りかもしれません。一瞬一瞬が勝負ですよね。オリンピックなんて4年に1回しかないわけですし、舞台もその瞬間しかないですから。と同時に、やればやるほど良くなるので、あと1週間しかない稽古ですけども、精一杯やっていきたいなと思ってます(笑)。
藤本隆宏
ーーまもなく初日を迎える『海の上のピアニスト』ですが、劇場の規模感がちょうどいいですよね。お客様との距離も感じられる劇場だと思いますが、その点についてはいかがでしょうか?
そうですね、本当にオフ・ブロードウェイのような感覚でできる気がします。大きな芝居ではなくても、リアルな芝居をすれば絶対届くと思っています。手を伸ばしたら届くような感覚、お客様と一緒に船に乗る感覚を大事にしていきたいなと思ってます。
ーー最後に、コロナ禍ではありますが、それでも舞台に立たれるモチベーションはどこにあるのでしょうか? そしてお客様へのメッセージをお願いします!
自分はスポーツや映画を見に行ったり、音楽を聞きにいったり、舞台を観たりすることで、心を癒されて元気をもらったりします。きっと、舞台を観に来てくださる方も同じ気持ちだと思うので、自分は俳優として精一杯やらなくてはいけないなと思うんです。
キャスティングされて役割を与えていただいたわけですから、このチャンスを逃したくないですし、自分のためにやっているのかもしれないですけど、でもそれが結果として、少しでもみなさんのためになれたら。一緒に感動を共有したいという気持ちでいっぱいです。劇場でお待ちしています。
取材・文・=五月女菜穂
公演情報
訳:草皆伸子(白水社刊)
上演台本・演出:星田良子
作曲・音楽監督:中村匡宏
製作:アーティストジャパン
キャスト
ノヴェチェント役:内博貴
トランぺッター役:藤本隆宏
ピアノ:西尾周祐 宮川知子(富山公演)
<東京公演>
日程:2021年9月16日(木)~20日(月・祝)
会場:東京芸術劇場シアターイースト
料金:S席 9,500円 A席 8,500円(全席指定・税込み)
お問合せ:アーティストジャパン 03-6820-3500
<栃木公演>
日程:2021年9月23日(木・祝)
会場:栃木県総合文化センター サブホール
料金:S席4,000円 A席3,000円(A学生1,500円)(全席指定・税込)
お問合せ:栃木県総合文化センタープレイガイド 028-643-1013(10:00~19:00)
主催:公益財団法人とちぎ未来づくり財団
日程:2021年9月25日(土)
会場:富山県教育文化会館
料金:S席9,500円 A席8,500円(全席指定・税込)
お問合せ:イッセイプランニング 076-444-6666(平日10:00~18:00)
主催:チューリップテレビ、イッセイプランニング
<石川公演>
日程:2021年10月7日(木)・8日(金)
会場:北國新聞 赤羽ホール
料金:8,800円(全席指定・税込)
お問合せ:北國新聞赤羽ホール 076-260-3555、ケィ・シィ・エス 076-224-4141
主催:北國芸術振興財団、ケィ・シィ・エス
共催:北國新聞社、石川県芸術文化協会
後援:北陸放送、テレビ金沢、エフエム石川、ラジオかなざわ・こまつ・ななお、金沢ケーブル
日程:2021年10月9日(土)・10日(日)
会場:大阪市中央公会堂 大集会室
料金:S席9,500円 A席8,500円(全席指定・税込)
お問合せ:アーティストジャパン 03-6820-3500
Twitter:@aj_novecento