PEARL CENTER、1stアルバム『Orb』で辿り着いた到達点と一瞬の煌めきーーメンバー全員が曲作りできる強みとは
PEARL CENTER 撮影=渡邉一生
2020年4月にデビューし、元PAELLASのMATTON(マットン、Vo)率いる4人組バンドのPEARL CENTER。ライブの中止延期が相次ぎ、パフォーマンスの機会がほとんどなかった中で、毎月配信シングルを発表するなど精力的に楽曲制作を行い、9月8日(水)に待望の1stアルバム『Orb』をリリースした。「自分たちにとっても満足のいく、自信を持てる作品に到達できた」とMATTONは語ったが、そこに辿り着くまでの道のりは簡単ではなかった。現在同アルバムを引っ提げたツアーを巡回中で、9月20日(月・祝)には梅田シャングリラで大阪初ライブを終えた。ツインボーカルという特徴を存分に活かしたパフォーマンスとサウンドの奥深さ、叙情、まばゆさ。まさに「偶然性のある、瞬間を切り取ることで映った光」という意味合いをもつ『Orb』を体現する瞬間の光を放ったライブとなった。彼らの表情は清々しく、感極まるinui(Vo)のピュアな姿も印象的だったが、観客も1曲目から総立ちで、彼らの来阪を心待ちにしていた様子が伺え、総じてエモーショナルな一夜だった。これから続いていくであろう彼らの歴史の瞬間を切り取ったアルバムと、コロナ禍での活動についての話を、MATTONとinuiに訊いた。
PEARL CENTER
●inuiくんと2人で歌うことで、1+1を3や4にできたら(MATTON)
ーーMATTONさんは最初、どういう思惑でメンバーを集めたんですか?
MATTON:当時僕はまだPAELLASの活動があった時期だったので、それと並行しつつ、自分たちの手におさまる感じの規模感で自由なことがしたいと思ったのがキッカケでした。PAELLASは、すごくダークで内向的な世界観だったんです。PEARL CENTERは、自分とメンバー個人の、そして集合体として、もっと開けた光ある世界を見せられるんじゃないかなと。最初はローファイでスモールなことをしようと思ってたんですけど、曲を作っていく中で結果的にハイファイなことをやった方が、このグループはいい味が出せるなと、自分の意識が徐々に変わっていきましたね。
ーー活動しつつ、方向性を見つけていった。
MATTON:そうです。TiMT(Dr)が作るトラック、inuiくんの声とメロディーセンス、msd(Gt)くんのキャラクターや技があり、そこに自分が混ざった時に、より大きく開けた形で、たくさんの人に届けることができるんじゃないかなと思ったんです。
ーーその意識の変化はPAELLASが解散してから起こったんですか?
MATTON:PAELLASの解散と時期は重なっているんですけど、実はあまり関係がなくて。PAELLASの解散に向けての流れは、全く別軸で動いていたので。
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ーーフロントマンをもう1人入れようと思ったのは何故ですか?
MATTON:僕は、自分には自分にしかない声やキャラクターといった個性があると思ってるんですけど、inuiくんには僕が持ってない声質や人間的なキャラクターがあって、お互いに陰と陽の部分がある。重なり合う部分もあれば、全く違う部分も持っているので、inuiくんと2人で歌うことで、1+1を3とか4にできたらすごく面白いやんなと思ったのが理由ですね。
ーーinuiさんはどんな思いでジョインしたんですか?
inui:僕ら、PEARL CENTERの結成前から一緒に住んでるんですよ。MATTONもそうだと思いますけど、始めた時は特に気負いもなく、仲良い友達と一緒に曲を作るだけでした。僕も前やってたバンドの活動が止まって、自分自身の音楽活動のペースを落とさないようにしたかったんです。形はどうあれ、音楽活動できる形を望んでいた。「これでモチベーションを持ってどうにかなってくぞ!」みたいな気持ちよりは、単純に一緒に曲を作るのが楽しかったので、続けてきました。
ーーPEARL CENTERはメンバー全員曲作りができるバンドですが、曲作りはどうされているんですか?
inui:最初の頃は各々1人でやったりしてたんですけど、2〜3年経って、TiMTがトラックメイカーとしての頭角をめきめき現してきたので、曲作りはTiMTを中心に据えて、彼があげてくれたトラックに他のメンバーが乗っかる形が増えました。
ーーMATTONさんは高音で、inuiさんは低音が特徴ですが、ツインボーカルのバランスを考えながら曲を作るんですか?
inui:僕たちの主な活動は曲作りとリリースだったので、曲作りを散々やってきた中で、声の帯域と性別がほぼ同じボーカルが2人いるバンドの役割分担については、ずっと試行錯誤していて。僕自身、元々声のトーンが低い人間じゃないんですけど、研究を重ねる中で、僕がいくところはもう低音しかないというのがあったので、出せるように練習しました。その上で声のすみ分けができた時に、チームボーカルの意味を見出せるメロディー作りが、今回のアルバムくらいからできるようになってきたなと思ってます。
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ーー曲作りとリリースがメインの活動だったのはコロナが影響していると思いますが、コロナ禍での活動に対する正直なお気持ちは?
inui:昨年4月にEP「Humor」を出して、年間スケジュールをふまえて先を見据えた活動を始めたんですけど、予定していたライブは全てなくなって、プランが1本目から躓いた感じでした。だけど、逆にそのおかげでSoulflexさん、AAAMYYYさん、Kan Sanoさんなど、とても尊敬するアーティストとコラボレーションできたことは貴重な体験だったし、個人的にもすごく成長した出来事でした。だから結果論ではあるんですけど、悪い部分もありつつ、バンドにとって非常に実りのあるものにできたかなと思います。
ーーコラボ曲の企画は、所属されているRallye Labelの社長さん発案だそうですね。
inui:メンバーからしたらどうしたらいいかわからない状態の中で、ラリーのボスが全然折れずに、「この状況だからこそ、やれることをやっていこう」と、僕らみたいな契約したてのアーティストに対して熱意を失わずにコミットしてくれたことが1番、この結果をもたらす要因になっていますね。メンバーもとても熱意のある人間なので、相乗効果で良かったと思える1年にできました。
ーーMATTONさんは2020年を振り返ってみてどうでしたか?
MATTON:結果として「こんなはずじゃなかった」というのは今でも変わんないし、本来描いてたイメージとほど遠いところではあるけれど、inuiくんが言った通り、コロナ禍だからこそ得た実りがありました。それがコラボ3作。それに、メンバー1人1人が自分のポジションで向上できること、歌をもっと良くしようとか、どうすればツインボーカルをもっと活かした曲にできるだろうとか、そういうことに向き合える時間があったのは結果的に良かったと思う。だからこそ、アルバム『Orb』は自分たちにとっても満足のいく、自信を持てる作品に到達できたと思っています。
ーー2020年のリリースペースが2021年にも引き継がれている感じもします。
MATTON:出すしかなかったんですよね。ミュージシャンの本分はライブと作品を発表すること。僕たちはおそらく、周りのバンドよりはそれができるバンドなので。リモートでも曲を作れるし、全員が豊富なアイデアを持ってる。TiMTだけじゃなくinuiくんも楽曲を作るコアな部分を担える人だし。誰か1人がメインでソングライティングするバンドもいるし、スタジオで集まって音を出さないと曲を作れないバンドもいる。その中で自分たちのスタイルは功を奏しました。
●煮え切らない事象を音楽にして初めて消化(≒昇華)できる(inui)
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ーー『Orb』には12曲収録されていますが、たくさん作った曲の中からこの曲たちが選ばれたんですか?
inui:そうです。4月のEP以前から、未発表曲のストックがアルバム2枚分ぐらいありました。いろんな兼ね合いやバランスを考えた時に、最終的にこの12曲になったんですけど、最初は16曲あったりしました。
ーー歌詞のテーマとして人間関係の気持ちの揺れ動きが多く描かれています。inuiさんがSNSで「2年間の内面の変化を音楽にできた」と書いておられましたが、具体的にどんな変化がありましたか?
inui:僕は元々そんなに自分のことは好きじゃない人間なんですが、アルバムの制作に入る前の2019年から2020年にかけて、それがものすごく重症化しちゃったんですね。僕1人の悩みもあるけど、パートナーシップやリレーションシップでうまくいかなかった全ての根源が、「自分が自分のことを全然好きじゃない、だから自分が思ってることも言わない」、そういうところじゃないかなと。これはよくないと思って、自分にとって後ろめたいことや、嫌だと思う部分を1個ずつ潰す取り組みを1人で始めたら、たくさん気づきがあって。たとえば2曲目の「Alright」は、まさにその始まりみたいな曲。歌詞の内容は、まんま自分に言ってるんです。自分以外の人を励まして勇気づけてあげられる人はすごく素敵なんですけど、そこまでの余裕が自分にはなくて、自分で自分を励ましている状態だった。それを経て、まず自分のことをちゃんと認めようと決めて、少しずつ成長していきました。
ーーそうだったんですね。
inui:10曲目の「Nowhere」は「あの曲良いからアルバムに入れよう」とMATTONが言ってくれて、2〜3年前に書いた前半の歌詞の続きを書こうと反芻した時に、「この時の気持ちと状態の原因ってこういうことかもな」と、1つの物事が腹落ちしたんです。今までずっと「自分対自分」で変化してきたけど、徐々にクリアできるようになってきたおかげで、「自分対誰か」のステップに登れた気がします。5曲目「2 hearts」はそういう曲。「Alright」はものすごく自分対自分なんですけど、「2 hearts」では外の世界にも歩み出せるようになりました。
ーーものすごい変化じゃないですか。
inui:そうですね、まだでも全然。世界が色とりどりすぎて、疲れる時があります(笑)。
ーー見える世界も変わってきた?
inui:うん、変わりましたね。成長させてくれたのは楽曲制作。特に作詞は自分についてすごく考える行為なので。ずっと煮え切らなかった事象を音楽にした時に初めて消化(≒昇華)できる。自分にとって音楽にはそういう側面があります。
PEARL CENTER
ーーinuiさんの詞と曲に、inuiさんのリアルが表れていると捉えてもいい?
inui:今回はとことん主観的です。MATTONは結構三人称を使ってるんですけど、僕は今回ほとんど使わなかったな。自分の中から客観をなくした曲しかないですね。なので僕のことと言って差し支えないと思います。
ーーMATTONさんは今作、どういうことを楽曲にしようと思っていましたか?
MATTON:僕はどちらかというと、一人称を使っていても自分の話ではないんです。友達の話、今まで人から聞いた話、相談された話、そこに自分の価値観が混ざったものが自分の歌詞の基本なんですけど、今回は「これは自分やな」という歌詞が多いですかね。やっぱりコロナだったし、皆さんと同じように年を重ねて、置かれた状況や人生を考えた時に、コロナ禍で思うように未来を描くことができない、描いたところで達成できるかどうかもわからない、見通しも立たず、「まいったなー」みたいな感情が普通にあった。そういう思いがダイレクトに入っている歌詞もたくさんあると思います。
ーー歌詞の心情に呼応したサウンドになっているとも思いましたが、そのあたりは意識されていますか?
inui:サウンドは主にTiMTが担当していて、トラックメイキングは数学的で理屈っぽい部分が大きいと思うんですけど、彼は僕とMATTONが思い描く抽象的な部分を表現しようという努力を、毎曲必ずしてくれるんですよ。理屈じゃない彼方からやってくる2人を、トラックメイキングと楽曲のアレンジでちゃんと迎えに来てくれる。具体化されてないものだとしても曲に落とし込む努力をしてくれるし、僕もその作業が1番好きなんです。そしてギターのmsdくんは、僕らの更に先の抽象の彼方からやってくる、ものすごくフィーリングの人。メンバーも全員思いやりと想像力のある人間なので、そもそものエモーションを大切にしようというのがバンド全体で共有しているテーマです。だから感じてくださったような曲調になっているのかなと思います。
ーーTiMTさん以外は抽象的な3人なんですね。
inui:僕は昔から「何言ってるかわかんない」とよく言われてたので、色とかで会話するのをやめてたんです。でもこのバンドでまたそれができるようになって、しかも読みとろうと努力してくれる人たちで良かったです。
ーーバンドは良い状態ですか。
inui:今1番安定はしてる気はします。4人とも自分を持っていて、各々心づもりはあるから、皆が何を考えてるか全部はわからないですけど、1つの到達点に立ったアルバムを出せたことで、バンドとしてのスタイルが少し見えた気がします。
MATTON:アルバムは、ミュージシャンにとって一大行事じゃないですか。本来は万全の状態で、完全に機が熟した状態で出したいはずなんですけど、自分たちはこれから先も、いくらでもと言うと軽くなっちゃいますけど、作品を作っていけるから、悪い意味じゃなくてさっさと出せて良かったです。もう自分は次のことを考えてます。
ーーPEARL CENTERとしては初のツアー『「Orb」ONE-MAN TOUR』、残すところ10月25日(月)の恵比寿 LIQUIDROOMです。意気込みは?
inui:来れない方もたくさんいらっしゃると思うけど、僕らは気にかけてくれるだけですごく嬉しい。その場の全員で良い1日を作りたくて、そのために準備してきたんで、楽しみにしてください。
MATTON:来てくれる人は色々考えて来るという選択をして会場に集まってくれると思うので、ライブの間は少なくとも後悔させない時間にしたいです。過去の楽曲もたくさん入れて、皆がギリギリ疲れないくらいたっぷりめのセットリストを用意しているので、楽しみにしてもらえたらと思います!
PEARL CENTER
取材・文=ERI KUBOTA 撮影=渡邉一生
リリース情報
Released by RALLYE LABEL / SPACE SHOWER MUSIC