豊かな想像力や超絶技巧が結実した作品に出会える充実の2日間 『デザインフェスタ vol.54』レポート
会場看板
2021年11月13日(土)、14日(日)の2日間、東京ビッグサイトにて『デザインフェスタvol.54』が開催された。1994年に開始し、プロ・アマチュアを問わず「自由に表現できる場」を提供するデザインフェスタは、ライブペインティングなどのさまざまなパフォーマンスを鑑賞しながら、アーティストから直接作品を購入することができるアートイベントだ。以下、『デザインフェスタvol.54』の魅力的なブースやイベントを紹介しよう。
勢いのあるライブペインティング
見ているだけで元気になれる絵を堪能
カラフルな色彩と人物の真摯な眼差しが印象的なライブペイントは、イシヤマナツ氏の手によるもの。「はじめに」をテーマにした本作。モチーフの人物は手話で「まず」「はじめに」といったジェスチャーをしているそうだ。イシヤマ氏によれば、2021年はコロナウイルスの影響でさまざまなことが停滞した年だったが、これからは新しい時代の始まりを期待できると思い、初心にかえってこのテーマにしたとのこと。イシヤマ氏のブースは一階のイベントスペースの横にあり、入場して最初に目につく場所に位置する。「はじめに」という主題と明るいペイントの雰囲気が、この場所にぴったりマッチする作品だった。
イシヤマナツ氏のブース
イシヤマナツ氏
個性的な作品を見ることができるのもデザインフェスタの魅力。江戸川南斎氏のライブペイントはモノクロで力強く、骨太なかっこよさがある。墨絵で和風のイラストを描いている江戸川氏は日本史を愛好しており、武将の中では特に上杉謙信が好きだとのこと。ライブペイントは3時間ほどで描き上げたそうで、確かな技量を感じさせる。
江戸川南斎氏
江戸川南斎氏のブース
異質なものの取り合わせや、意外なジャンルからの展開
背景をもっと知りたくなる作品
「アトリエ土窯日和」のブースでは、ジグソーパズルが組み合わさったような陶芸品が目につく。こちらはパズルと同じ形に加工した粘土を一つずつ繋ぎ合わせて作成しているそうだ。作家の松井真治氏は、違う素材を組み合わせて作品にし、一つの器の中でいろいろな表情を持たせたいと考えたという。その結果、土の色や質感の組み合わせが分かりやすく、見た目もユニークなパズルの器が誕生した。
「アトリエ土窯日和」のブース
「アトリエ土窯日和」の松井真治氏
赤いティーポットが目印の「しあわせの珈琲・紅茶 TEE HAUS MOZART」では、こだわりの西欧茶を販売している。茶葉は全てEUで高度なBIO認証を得た最高品質のもので、味も絶品であることはもちろん、茶さじ一杯の茶葉でお茶がたくさん煎れられることから、コストパフォーマンスにも優れているそうだ。
「しあわせの珈琲・紅茶 TEE HAUS MOZART」のブース
「しあわせの珈琲・紅茶 TEE HAUS MOZART」という名の由来は、紅茶史を研究しているオーナーがモーツァルトやショパンが好きで、自身もピアノを弾くからなのだそう。また、販売スタッフの方々は、もともとこの店の紅茶に惚れ込んだお客さんだったそうである。
「しあわせの珈琲・紅茶 TEE HAUS MOZART」のブース
かわいらしい気球や空想世界の乗り物、小説の世界の体現……
超絶技巧と想像力が結実した逸品
かわいらしいピアスやネックレス、洋書の形をしたショルダーポーチなど、夢の世界を体現したような愛らしい作品は、「96Lab*」のくろなぎしづか氏の手によるもの。くろなぎ氏は、思い浮かんだ世界観を質感に落とし込んで作品化するとのことだ。布やレースで作られた気球のアクセサリーや洋書の形のショルダーポーチなどは、いずれもファンタジックで繊細な美しさがあり、幼い時に聞いたおとぎ話や絵本の世界を連想させる。
「96Lab*」のくろなぎしづか氏
「96Lab*」のブース
「96Lab*」のブース
ネジや歯車を搭載したヤドカリや飛行機、小さな家が密集した帆船など、スチームパンクやファンタジーといったさまざまな要素を盛り込んだ空想世界を体現させているのは「TAKORASU」の小出誉幸氏。小出氏は、想像した世界の絵を描き、映像を作って音を入れ、立体を制作し、また立体から光が出るなどの仕掛けを盛り込むという、マルチプレイヤーのアーティストである。密度の高い作品は、未来を感じさせつつもどこか懐かしく、ずっと眺めていたくなる魅力があった。
「TAKORASU」の小出誉幸氏
「TAKORASU」のブース
様々な演出を凝らしたブースが並ぶ「暗いエリア」では、「DaQuise」の作品が目を引いた。今回出展されたのは実在の本をテーマにした真鍮やシルバーのアクセサリーで、モチーフになっているのはレイ・ブラッドベリの『華氏451度』やレーモン・クノーの『地下鉄のザジ』、ミヒャエル・エンデの『モモ』などの著作である。
「DaQuise」のブース
ギミックに富んでいるのも「DaQuise」作品の特徴で、例えば『華氏451』モチーフのネックレス「写す箱に隠された本」は、消しゴムほどの超ミニサイズのカメラの三脚を外すことができ、裏蓋を外すと本棚が姿を現す。作家の強靭な想像力と超絶技巧が結実した作品は、どれもミステリアスで機知に富んでおり、作品世界に引き込まれてオブジェとして購入する人も多いそうだ。
「DaQuise」のブース
『デザインフェスタvol.54』は、ダンスやファッションショー、マスクケース制作や指輪制作のワークショップなどの各種イベントやパフォーマンスが開催され、多様な楽しみ方ができる空間だった。会場は幅広いジャンルの作品があるので、お気に入りの逸品を手に入れたり、普段なかなか出会えないアーティストと交流したりできる。さまざまな楽しみ方ができるデザインフェスタ、次回以降も是非見逃さずに、足を運んでいただきたい。
文・写真=中野昭子