タダで観られるタイドラマ第二弾、『My Dear Loser』『AN EYE FOR AN EYE』『55:15』の恋愛物語3作を紹介ーー『レオレオ、タイタメ』Vol.9
『レオレオ、タイタメ』
2月に入って早々、中華系タイ人による旧正月のお祝いが「タイのエンタメ=タイタメ」好きを賑わせた。今年は2月1日(火)が旧正月とのことで、中国にルーツを持つ俳優たちが赤い袋のお年玉「紅包(アンパオ)」を親戚に配り歩く様子や、チャイナドレスをまとった写真などが投稿されていたのだ。遡れる限り日本にしかルーツがない身としてはすべてが新鮮で、推しの俳優たちのいつもと違った一面がみられる幸福感というのは、他国の文化や芸術に触れる醍醐味のひとつだと感じた。そして日本にもやってきたバレンタインデー。もはやチョコレート交換会の日となりつつあるが、タイでも独特の文化ができあがっている。今月の連載『レオレオ、タイタメ』ではこの文化にも触れつつ、先月の「無料視聴できるサスペンスドラマ3選」が好評だったことから「無料視聴できる」「恋愛ドラマ」を3作ピックアップ。あわせて自分へのバレンタインに取り寄せた、タイ産のチョコレートも紹介していく。
サムネイル:オー [Eng Sub] My Dear Loser รักไม่เอาถ่าน | ตอน Edge of 17 | EP.1 [1/5]
●『My Dear Loser:Edge of 17』(2017年)
世界中で愛を伝え合う日、バレンタインデー。日本では、女性が好きな人にチョコレートを贈ることが習慣として定着。今や義理チョコ、友チョコなどに派生し、チョコ好きとしては自分チョコのセレクトが悩ましくて楽しいイベントとなっている。この文化が日本特有ということは周知の通りで、ほかの国では男性がプレゼントを用意することが多い。タイも例に漏れず、薔薇やくまのぬいぐるみを贈る文化があるというが、学生のバレンタインデーの過ごし方はまた少し違うようで、その様子が『My Dear Loser:Edge of 17』では描かれている。
サムネイル:ピーチ [Eng Sub] My Dear Loser รักไม่เอาถ่าน | ตอน Edge of 17 | EP.1 [2/5]
『スーパーマリオブラザーズ』が好きな、冴えないオタクの主人公オー(演:ナノン・コーラパット)。昔の友達コッパー(プラスター・ポーンピパット)に目をつけられ、ゴミをかけられたりボールを当てられたりと、いじめられる日々を過ごす。そんな彼が片想いしているのは、コッパーの彼女ピーチ(ジェーン・ラミダー)だった。付き合い始めで美男美女カップルとして学校中から注目の的になっているコッパーとピーチだが、SNSには批判の声が沢山寄せられていた。そこで少しでもピーチに近づきたいオーは「土管太郎」と名乗り、アンチから守るコメントを投稿し続け、ある時からDMでやりとりする仲に。SNSだけでなく次第に現実でも二人の距離は縮まり、ピーチもオーに惹かれていくという可愛らしい恋愛もの。
またもうひと組、オーの友達アイナム(プイメック・ナパソーン)とイン(プルーム・プリム)、サン(チモン・ワチラウィット)の中でも三角関係が生まれる。友達グループから誕生したカップルはサブストーリーであるにも関わらず、5つのカップルのスピンオフオムニバス集『Our Skyy』で続編が描かれるほど人気があり、個人的にもこちらの恋の行方が気になって仕方がなかった。全9話と短めではあるが、6人の心情が丁寧に描かれているので、そのうちの誰かひとりは応援したくなること間違いなしだ。
サムネイル:サンとイン [Eng Sub] My Dear Loser รักไม่เอาถ่าน | ตอน Edge of 17 | EP.8 [4/5]
そんな同作で最も感情が飛び交う8話に、バレンタインの話が登場する。それぞれがプレゼントを準備して迎えた当日、コッパーが廊下を歩いていると女の子たちが順番に薔薇を渡し、シャツにシールを貼りだした。その光景をみて不思議に思っていると、ピーチやアイナム、サンのシャツにもシールが。アイナムのシャツを指してサンが「モテるんだね」と言っていたので調べてみると、どうやら男女問わず、好きな相手の制服にシールを貼ることでライトに好意を伝える独自の文化が根付いているようだ。シーズン中は母の日のカーネーションのように、薔薇が子どもたちには買えないほど高騰していることから、気軽に購入できるハートのステッカーを貼ることが一般的になったのだそう。社会人になるとやらないとのことなので、この記事を読んで関心を持った学生がいたら、来年はぜひ挑戦してみてほしい。
●『AN EYE FOR AN EYE』(2021年)●
サムネイル:ワユ [Eng Sub] เธอ เขา เงาแค้น AN EYE FOR AN EYE | EP.1 [1/4]
続いて、学生のピュアで可愛い物語から、今度は昼ドラのようにドロドロとした大人の恋愛を描く『AN EYE FOR AN EYE』を紹介。「目には目を」という恐ろしいタイトル通り、戦略的で欲望にまみれている大企業の経営陣が攻防を繰り広げていく。
大企業JPBグループ会長令息で、長い間海外に在住しているワユ(クリス・ピーラワット)は、父親と姉メイ(サーイパーン・アピンヤー)が飛行機墜落事故に遭ったことを受け一時帰国することに。メイは奇跡的に一命を取り留めたものの、残念ながら父親は死亡。会長の座は妻のゲット(オーム・ピヤダー)が継ぐことになった。メイは自身も会社のオーナーなのに会長になれなかった腹いせに「事故はゲットが会社を乗っ取るために起こした陰謀だ」と主張する。一方自身の継母になる前からゲットに恋心を抱いていたワユはにわかに陰謀論を信じられず、事実を解明するためグループの仕事に従事することを決意。果たしてワユは彼女の無実を暴けるのか、そして関係を進めることができるのか。サスペンス要素も含まれた恋愛作品となっている。
サムネイル:ヌンジャイ [Eng Sub] เธอ เขา เงาแค้น AN EYE FOR AN EYE | EP.2 [3/4]
既に不穏な雰囲気を醸し出している同作だが、他人の思惑によりJPBグループに放り込まれる登場人物たちの動きに注目して欲しい。一人目はワユが原因で職を失うことになったヌンジャイ(ファー・ヨンワリー)。無職であることを知った叔父パス(ジェイソン・ヤング)にJPBを勧められて再就職するのだが、この叔父、実はゲットの元恋人。自分の元に戻ってきて欲しさになりふり構わず追いかけ続け「やればやるほど嫌われるのに」「もういい加減諦めなよ……」と思うほどしつこい。そんなパスにヌンジャイがどう使われるのかが見ものだ。
サムネイル:ナワ [Eng Sub] เธอ เขา เงาแค้น AN EYE FOR AN EYE | EP.4 [4/4]
そして二人目はワユの兄の嫁ルーン(ダーオ・ピントーン)に送り込まれる、ルーンの生徒で不倫相手のナワ(オーム・パワット)。会長の息子の嫁、それも社外の人間という立場で人事の決定権を持つなんて信じられないが、何とかなってしまうのもタイドラマのおもしろさである。すぐにナンパするような軽いナワが、次第に意思を持って行動し始める様子を見届けてほしい。
●『55:15 NEVER TOO LATE』●
サムネイル:サン [Eng Sub] 55:15 NEVER TOO LATE | EP.1 [1/4]
さらに年齢は上がり、55歳の男女5人がそれぞれの告げられなかった想いや、やり残した夢に再挑戦する『55:15 NEVER TOO LATE』。単なる大人の恋愛ではなく、ファンタジー要素も含まれているので全世代にオススメしたい。
何気ない日々を過ごすサン(ナノン・コーラパット/ジープ・ワス)、ジャヤ(ピプローイ・カンヤラット/ノック・シンチャイ)、ソンポン(カオタン・タナワット/コブ・ソンシット)、ジャルニー(ビュー・ベンヤーパー/カーラー・ポンラシット)、テープ(ケイ・ラットシティチャイ/アマリン・ニティポン)の5人。ある日普段通りに起きると、姿が40年前の15歳にまで若返ってしまった。これまでの仕事に戻られないサンらはそれぞれ学校に通い始め、そこで流れた40年前の音楽がキッカケで知り合うことに。なぜ若返ってしまったのか、過去を少しずつ振り返って探るとともに、当時叶わなかった恋や夢を追いかけ始める。
サムネイル:ソンポン [Eng Sub] 55:15 NEVER TOO LATE | EP.1 [3/4]
恋愛についてこじらせているのは、サンとソンポン、ジャルニーの3人。サンは初恋の人が忘れられず、ソンポンは偏見を恐れて同性愛者であることをカミングアウトできず、ジャルニーはあまりにも真面目な性格ゆえにアプローチされても素直になれないまま、55歳になった。そして今、見た目だけ15歳になり同級生と過ごして新しい価値観に触れることで、ずっと踏み出せなかった大きな一歩を踏み出していく。ちなみにジャヤの夢は40年前と同じように歌手としてデビューすること、テープの夢は怪我で引退せざるをえなくなったボクシング選手になること。
サムネイル:ジャルニー [Eng Sub] 55:15 NEVER TOO LATE | EP.5 [1/4]
1話目でサンらの過去がダイジェスト映像で映し出され、物語が進むたびにそれを中心にどんどん円が広がりながら全貌が明らかになっていく同作。何度も同じ映像が流れているのに、毎度新たな発見が生まれるところがなんともおもしろい。また15歳の姿を受け入れ、前に進む姿を見て勇気づけられる。そして何より、彼らの半分ほどしか生きていなくても羨ましくなるこの設定。筆者の両親は彼らの中身と同世代だからかサンらに自身を重ね合わせ「自分ならこうする」と想像を膨らませながら視聴していて、各世代によって少しずつ違う没入感があるように感じている。どんな世代にもハマる内容だとは思うが、特に年齢を理由に何かを諦めていたり、学生の頃を振り返ってしまう全ての大人に観てもらいたい作品だ。
◇ちょっと贅沢なご褒美チョコにオススメ、日本で買えるタイ産チョコレート◇
バレンタインの時期はもちろん、仕事終わりや週末の自分へのご褒美に、いつもより高級なチョコを買ってタイを感じてみるのはいかがだろうか。タイといえばチョコレートと挙げられることは少ないとは思うが、生産量は少ないものの各地でカカオが生産され、その土地によって味がかなり変わってくる。そこに注目し、「タイのカカオ農業の発展を目指したい」という思いから、 2018年にタイ・バンコクにオープンしたビーントゥーバーチョコレートメーカー「Kad Kokoa(ガードココア)」が日本にも進出している。
バンコクのツリートゥーバーチョコレートメーカー。
HP:https://kadkokoa-jp.stores.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/kadkokoa.jp/
Kad Kokoaの商品は化学肥料や農薬を使用せず、農家と作り上げたカカオと砂糖のみで作られているのだそう。カカオの産地はチェンマイとチャンタブリー、チュムポーン、プラチュワップキーリーカンの四箇所。今回その四箇所それぞれのチョコを食べ比べできる「シングルオリジンチョコレート4種セット」(税込1,080円)と、日本ならではで季菓貴が作っている「輪切りみかんのオランジェット with チェンマイ70%」(税込756円)、そして数あるフレーバーの中から「タイミルクティー」(税込1,566円)を選んで注文してみた。
実際に食べてみると、緑を感じるほど素材の良さが活かされたビターチョコレートで、一口目は初めての感覚に驚いてしまった。製造の段階でミルクなどが使用されていないだけに無駄が一切ない。たとえばチェンマイは「フルーティーでやわらかい酸味を持ち合わせる」など、同封されているパンフレットに記載されている解説を読んで素人が頷けるほど、豆の特徴がはっきり出ている。これまで豆の味を知らないまま、チョコレート好きを名乗っていたのかと恥ずかしくなるくらい衝撃を受けた。
甘いものよりビターなチョコが好きなので、ノンフレーバーのダークチョコレートが一番程よい甘さだった。ただタイミルクティーも甘すぎず、かなりビターめなところにミルクティーの香りが漂う印象で、これまた新しい感覚に陥ることができるのでオススメ。甘党であれば間違いなくオランジェット。ビターチョコの苦味がみかんの甘さをより強調してくれる。季節によってフルーツは変わるとのことなので、定期的にチェックしてみてほしい。
今回はバレンタインにちなんで「無料視聴」可能な「恋愛ドラマ」を紹介してきた。この記事を公開する上で、事実確認をするためにドラマを観返していたところ、たった数ヶ月前は何不自由なく観られていたドラマが、日本語字幕が消えていたり、そもそも日本から観られなくなっていたりしていることに気づいた。理由としてはもちろん、日本での配信が決まったか、もしくは始まったからで、個人的にタイドラマを観るために各配信サービスに入会しまくっているので、こんなにも日本で展開されているのかと嬉しい気持ちになった。それと同時に、前回の3作品も含めて無料視聴できると紹介しているが、いつその枠から外れるかわからない不安がある。もしかすると、公開後1日もたたずに観られなくなるかもしれない。
数ヶ月単位で激動していく日本におけるタイドラマ市場。3ヶ月後にどうなっているかなんて全く予想がつかない。もし関心があるのであれば、無料視聴可能なうちにお試しあれ。
◇ひとことタイ語講座◇
วันวาเลนไทน์(ワン ワー レーン タイ)=バレンタインデー
文=川井美波