『OTODAMA'22~音泉魂~』初日ーー「BACK TO THE 90's」と「素晴らしき未来」が繋がった、2年半ぶり開催の奇跡
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
『OTODAMA'22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』2022.5.5(WED)大阪・泉大津フェニックス
『OTODAMA'22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』。HPやTwitter、主催の清水音泉・番台(代表)こと清水さんの風呂具(ブログ)をチェックしていただければ、どのような野外イベントか理解してもらえるのだが、こちらでもかいつまんで、まずは説明を。2005年から2019年まで紆余曲折はありながらも、基本的には大阪・泉大津フェニックスで開催してきた。しかし、紆余曲折の最たるものである2018年の大型台風による中止で、2019年を最後に夏の「野外」イベントとしての開催を終える。2020年、夏の「屋内」イベントを試みるもコロナ禍により断念して、翌年もコロナ禍により断念……。そして今年、想い出の場所である泉大津フェニックスで「春の野外イベント」として復活したわけである。ざっと書くと、こうだ。
私は初日を踏まえての感想担当なのだが、出演者ラインナップが発表された時の衝撃は忘れられない。現在44歳の身としては、90年代の青春時代に夢中になったスターたちが中心となっていて、今や大御所と言ってもおかしくない人ばかり。「90年代ROCK日本オールスター感謝祭」であり、90年代後半のフェスやイベントにタイムスリップした気分になれる。そうそう、なので今回のテーマである「BACK TO THE OFURO」になぞらえて、勝手に「BACK TO THE 90's」なんて呑気に捉えていた。もちろん、開催に向けて書かれた清水さんの風呂具を読んではいたが、どこか「BACK TO THE OFURO」という言葉を消化しきれていなかった。だが、それは後に徐々にわかっていくことになる。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
今回、2年半ぶりの開催となったが、泉大津フェニックスに着くと、いつもの光景が甦ってきた。出演者の名前が入っているのぼりが風に揺れていて、大空には2日目登場のフラワーカンパニーズのグレートマエカワが考案した、アドバルーンの垂れ幕広告が2つ揺れている。例年、垂れ幕には「当日券発売中」など書かれていたが、今年は「新装・音泉魂♨3年ぶりに開湯中」と「協賛広告募集中(株)清水音泉」と書かれていた。こういう細かいネタも、いつもの光景なのだ。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
3日目にSHISHAMOの宮崎朝子がライブ中のMCで、「たくさんふざけてらっしゃる!」と言っていたが、まさしくたくさんふざけてらっしゃる。それはステージ横に設置されたスクリーン映像にも表れていて、過去に何度も「入浴宣言」なる、簡単に言うと楽しい出し物をしていた、ガリガリガリクソンが「誰が言うとんねん!、いやいや、あなたが言うから説得力があるのよね!」と心の中でツッコんでしまうような飲酒についての注意喚起をしていたり、レイザーラモンRGが『OTODAMA』に登場したことはないものの、初日のお客さんにとってはたまらないORIGINAL LOVEの田島貴男に扮して入浴宣言をする。今までの生身の2人による、舞台上での入浴宣言も大好きだが、スクリーンで観る映像もなかなか乙なものであった。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
現在の野外フェス、野外イベントではもはや当たり前となったスクリーンを、これまで『OTODAMA』で基本的に導入してこなかった理由は、「生身の人間のライブを、肉眼でしっかりと観てもらいたい」という清水さんの信念であった。しかし、この御時世、前に詰められない状況もあり、遠くからでも観られるようにと導入されることに。また今回、共同主催に読売テレビが名を連ねたこともあり、映像クオリティーは確実なものになるわけでワクワクした。その読売テレビの流れでいえば、牛乳石鹸など協賛も増え、読売テレビ美術部による渾身の銭湯を模したフォトスポットも作られていた。もはやテレビの美術セットというべき作品で見事だった。見事な作品なのだが、清水音泉特有のチャーミングな可愛らしいマヌケさがあるので、全く違和感はない。四星球がスカルプブラシを手にしたパネルもあったが、何故か清水さんも法被を着て、メンバーの下に写っていて爆笑した。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
そうそう、ガリクソンとRGの間には泉大津市長からのメッセージも。その時に改めて、泉大津フェニックスという場所で音が鳴らされ、開催されてきた意味についても思い返す。ミュージシャンに音量規制が無い状態で、好きなだけ音を鳴らしてもらいたいという清水さんの想いから選ばれた開催場所だった。そんな清水さんによる挨拶があって、ようやく朝11時から大浴場ステージと露天風呂ステージで交互にライブが始まっていく。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
2005年の初年度以来となる、同じ大きさのステージが2つ。以前から清水さんは、ステージの大きさに大小という区別をつけたくないと言っていたので、17年ぶりに理想が叶ったともいえる。配置は、2007年度以降同様、開場全体の両端にあるということで変わりは無いが、どこにいても、どちらの音も聴こえたし、客席エリア真ん中くらいからであれば、どちらも観れるというのも良かった。今のところ、いわゆる1組ずつ詳細を書くライブレポートにはなっていなくて、まぁ総評総論なんていう大袈裟なものでもなくて、感じて思ったことを書いている感想文だと受け止めていただきたい。それでも現時点で1組も書いてないので、少しづつにはなるが書いていく。
フジファブリック 撮影=渡邉一生
露天風呂ステージ壱番風呂のフジファブリック。超若手3組以外では一番若手になるが、それでも初音源は2002年リリースなのでキャリアは約20年。で、何故彼らを最初に取り上げたかというと1曲目終わりに「オトダマー!」とボーカルの山内総一郎が叫んだ。これ、何気ないシーンなのだが、その姿は堂々としていて、『OTODAMA』常連組のような説得力があった。でも、何とフジファブリックは初入浴!
あっ、そうそう出演することを「入浴」、順番は「入浴順」といい、何番手は「何番風呂」といった言い方をするのが、ここのルール。全体的にアバウトな雰囲気なのに、この表現に関してはうるさいと、2日目に入浴したOKAMOTO'Sのハマ・オカモトがラジオで笑いながら漏らしていた。
フジファブリック 撮影=渡邉一生
そんでもって話を戻さないといけないのは、初入浴なのになぜ説得力のある「オトダマー!」シャウトだったかということ。実は台風で中止になった2018年に、同じく初日登場のハナレグミとのユニットであるハナレフジとして出るはずだったのだ。ようやくの『OTODAMA』初入浴が叶ったことをMCでも喜んでいたし、だからこそ「光あれ」を披露した後の「『OTODAMA』に光あれ!」という山内の言葉も本当に心が込もっていた。長年通う地元ライターとしては、初入浴にも関わらず、そこまで想いを寄せてくれるのはうれしかった。山内は大阪出身であり、祖父母が銭湯を営んでいたという話から、壱番風呂の特別さについてや小さな頃は番台が自分の居場所だったことを明かし、「『OTODAMA』が居場所になってうれしい」とまで言ってくれる。コンセプトを理解してくれすぎている100点満点のコメントでとにかくうれしすぎたが、清水音泉の人情味あふれる温かさが、ここまでミュージシャンの心を揺り動かすのだろう。
clammbon 撮影=オイケカオリ
大浴場ステージ弐番風呂のクラムボンは7年ぶりの入浴。2015年『OTODAMA』初日ぶりなわけだが、その日はフィッシュマンズ、METAFIVE、ハナレグミなどの名前が並び、例年よりもシュッとしたイメージだったのを未だに覚えている。もちろんシュッとしただけの年ではない。泉大津フェニックスで『OTODAMA』を開催するキッカケにもなった、清水さんがミュージシャンに音量規制が無い中で音を鳴らしてもらいたいと強く思い続けていた、フィッシュマンズが初入浴かつ大トリで登場した年であり、物凄く大きなできごとであった。
そしてシュッとしたという言葉を、まだしがむのであれば、今年のHPは、「いつもの感じ」と「シュッとした」という二刀流なのも一部の間で話題を呼んだ。一部の間でしか話題を呼ばず、清水さんが憤りを感じた愉快な話をすると長くなるので、それはまた別の機会にでも。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
2019年初日の面子もそうだったが、シュッとしたと思われる年は、普段から清水音泉がイベンターとして携わってないバンドが入浴する。今年、3日間を通して、普段は携わってないバンドにも多数お声がけしたことは、過去の流れとは全く違っていてこの御時世に起因している。コロナ禍によってライブが制限されて、全体的に動員が落ちているという現実……。何とか元に戻さないといけない想いから、いつもとは違う広い視野で取り組まれたのだ。
でも、結果、我々観る側にとっては3日間共にドリームマッチとなったわけで、どんな困難な状況でも観る側の予想を良い意味で裏切り、楽しませてくれるのはありがたいし、幸せでしかない。初日のメンツに関して、クラムボンのミトは「中学の同窓会みたい!」と絶妙な表現をしていて、原田郁子も「想像以上のことが今日は起きる!」と言っていたが、まさしくクラムボンから「BACK TO THE 90's」の世界が確実に始まっていった。後、ミトの「胸やけするくらい濃ゆいイベント」という言葉は、この初日だけでなく、『OTODAMA』の総合キャッチフレーズにふさわしい言葉である。
ハナレグミ 撮影=日吉"JP"純平
TESTSET(砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一) 撮影=オイケカオリ
ミトは「ぶっちゃけた話、私たちを胃薬と思って下さい!」と冗談交じりに話してもいた。が、実際、クラムボン、METAFIVEから編成と名前を変えたTESTSET、ハナレグミという2015年の『OTODAMA』を彷彿とさせる3組は、胸焼けするくらい濃ゆい『OTODAMA』というイベントを浄化する役割を果たしてくれていた。私たちライターが事前に配布されるセットリストでは、空欄のままライブが始まったハナレグミ。ジャズのインプロビゼーションの様な自由気ままさで、「風が吹いてまーす!」と陽気に笑っていた永積崇には心がほっこりさせられた。TESTSETは、7年前のMETAFIVEでの押し寄せてくる爆音も記憶に新しいが、今回はステージ後方の映像も押し寄せてくる。この2組は、より濃ゆくなり、より強烈な風が吹き荒れる後半にかけて、ナチュラルに場面転換をしてくれていた。
LITTLE CREATURES 撮影=日吉"JP"純平
さて、「BACK TO THE 90's」を通り越して、80'sな87年結成の鉄壁なサウンドを聴かせてくれるLITTLE CREATURESが、心地良い露天風呂ステージ弐番風呂。ラストナンバー「house of piano」は、2001年発表の名盤アルバム『FUTURE SHOCKING PINK』収録だが、ライブでの切れ味は常に更新されている。初日の面子は90年代から聴いていたミュージシャンばかりだが、誰ひとり懐メロの人がいないのは本当に誇らしい。そんなの当たり前のことではあるのだが、それでも25年や30年をずっと最前線で活躍していながら、今が一番かっこいいと思わせてくれるのは、本来は至難の業。なのに、軽やかに見せてくれる。
GRAPEVINE 撮影=オイケカオリ
露天風呂ステージ参番風呂のGRAPEVINEも、そんな1組。凄腕揃いのメンバーで、とんでもなく重厚な音を鳴らしているのに、当の本人たちは涼しげな顔をする。同じく露天風呂ステージ四番風呂のCocco。真っ黒のベールと真っ黒のチュールドレスに身を包み、フーっと大きく息を吐いてから始めた姿は、儀式前の精神統一みたいで、観ているだけで気が引き締まった。97年のメジャー2ndシングル「強く儚い者たち」から歌われたが、真っ直ぐすぎる異様な気合いがぶつけられる。途中、一匹の黒いカラスがステージ上空を飛んでいった。生きとし生けるもの全てに刺激を与えているのでは……、なんて思うくらいの気迫。
Cocco 撮影=渡邉一生
GRAPEVINEとCocco、奇しくも1997年メジャーデビュー同期2組は魅せ方さえ違えど、この2組のライブは、この日、初めて意識的に熱湯が注がれた瞬間のように思えた。また、Coccoの横でギターを弾くのは名ギタリストであり、名プロデューサーでもある長田進だが、2010年の『OTODAMA』には、長田進 with GRAPEVINEとしても登場している。出番を終えたばかりのGRAPEVINEの田中和将が、Coccoのライブ中に袖で、のけぞる様に本気で踊っている姿も忘れられない。「花柄」の歌詞である<ぶっ殺す>ではないが、同じ舞台に出るというのは、しのぎを削ることでもあり、だからこそ認め合える関係でもある。全くぬるくない、熱い関係性が感じられた一場面だった。
Cocco 撮影=渡邉一生
Coccoと『OTODAMA』について書くならば、どうしても追記しておきたいことがある。2005年に泉大津フェニックスで始まった『OTODAMA』だが、翌年は服部緑地野外音楽堂で開催された。泉大津フェニックスへ、2年ぶりに戻ってきた2007年の『OTODAMA』大トリがCocco。なぜ、彼女を大トリに選んだかを開催前の風呂具で、清水さんが長く熱く書いていたのを今でも覚えている。まだ何かしら読めるので、可能ならば読んで欲しい。あれから15年……、『OTODAMA』が新たな船出をする時には、Coccoが絶対不可欠だということが再認識できた。
くるり 撮影=日吉"JP"純平
大浴場ステージ四番風呂は、くるり。NUMBER GIRLと同じく初入浴組だけあって、この日の注目度は尋常じゃなく高かった。サウンドチェックの「loveless」からして、観客の目が釘付けに。「ほな、また後で」と岸田繁は飄々と去って、本番では「湯上りっぽい感じですけど、四番風呂でして」なんて、また飄々と始める。「風がぶわーっと言うてる」、「こう広いとこで風に吹かれることない」と岸田は言っていたが、確かにGRAPEVINEあたりから強い風が吹き始めていた。状況描写としての「風が吹く」や「風を味方につける」なんて言葉が、ついつい思い浮かんでしまう。
くるり 撮影=日吉"JP"純平
とにかくライブというのは、「次の一手は何なんだろう」と一挙手一投足に注目しながら真剣に耳を傾けて凝視することが楽しい。そんなことを90年代、今日のメンツたちから僕らは教わっている。「がんばりめのやつやります」と言ってからの「すけべな女の子」。わざわざ、そんなことを言われたら、こちらも期待に胸を膨らませてしまう。相変わらず岸田は飄々としたままではあるが、それこそ、がんばりめのやつの極みとも言える「街」をラストナンバーに持ってくるあたりなど、飄々とした中にもエモーショナルさを感じた。やはり、ライブは真剣勝負である。
The Birthday 撮影=オイケカオリ
大浴場ステージ伍番風呂はThe Birthday。<Happy birthday>と歌われるお馴染みの登場SEであるThe Crests「16 Candles」が流れ、テンションが上がり、1曲目「月光」が鳴らされた瞬間、ぶっ飛んだ。出音がエグすぎる……。そして、<お前の想像力が 現実をひっくり返すんだ>という強烈な歌詞にも打ちのめされた。正直、この日の朝、各出演者のセットリストが届いた時から、The Birthdayのセットリストが気になっていた。
大体、フェスやイベントのセットリストというのは、わかりやすく盛り上げる為にも、往年の代表曲や人気曲を入れる。しかし、この日のThe Birthdayは『サンバースト』(2021年7月リリースアルバム)、「CORE 4」(2021年11月リリースEP)と、2021年の新曲が7曲中5曲を占めていた。後の2曲も2017年、2019年と最近のものである。7曲全てを聴いての感想は、圧倒的に今のThe Birthdayがかっこいいということ。2日目にフレデリックの三原健司が、ライブ中のMCで「この後に出る、フラワーカンパニーズ先輩みたいに30年以上かっこよくやりたいので。その為には新曲がかっこよくないといけないので、新曲やります!」と言っていた。そのフラカンも本番で、今年3月リリースシングル2曲をしっかりやっていた。どれだけライブバンドにとって新曲が命かという矜持を、The Birthdayが初日に示してくれた。終盤、チバユウスケが呟いた言葉「風の音が聴こえるな」……、今も想い出すだけで痺れる。
The Birthday 撮影=オイケカオリ
The Birthdayのライブ中に突然、『OTODAMA'11-'12~音泉魂~』と銘打たれた年のことを思い出した。この年は前年が台風で初中止となったことを受けて、2年分開催しようという想いから、初の2日間に挑んだ年。台風での中止というと2018年を思い浮かべる人が多いかもしれないが、個人的に2011年の台風による中止のショックは未だに忘れられない。だからこそ、佐野元春、The Birthdayという大物初登場組のラインナップが発表された時は腰が抜けるくらいに驚愕した。今、思い返してみると、今年のように、いつもと違う拡げた視野で取り組まれていたのだ。The Birthdayは、『OTODAMA』に10年前と同じく強烈な新しい風を吹かしてくれた。
NUMBER GIRL 撮影=渡邉一生
大浴場ステージ六番風呂のNUMBER GIRL。最初は「90年代ROCK日本オールスター感謝祭」や「BACK TO THE 90's」などと呑気に捉えていた私だが、この段階まで来ると、もはや、そんなレベルの話では無いことに気付き始めていた。清水さんの言葉を借りるところの「90年代ROCK日本代表」たちが切磋琢磨しながら、己に打ち勝つ闘いに挑んでいる。それを決定的に感じたのは、サウンドチェックでの向井秀徳。ヒリヒリピリピリした緊張感の中で殺気すら感じた時間であった。考えてみれば、90年代後半の対バンやフェスやイベントでは、ヤルかヤラレルかみたいな空気が普通であり、我々観る側も、どこかそれを楽しみにしていた。そこまで演者たちが己を追い込むからこそ、我々は音楽で熱狂に包まれる。結果、真剣勝負は我々を楽しませてもくれる。どこか「BACK TO THE 90’s」の真理に辿り着けた気がした。そして、固唾を呑んで闘いを見届ける上で、重要なのは緊張と緩和のバランス。緊張だけで息詰まってもなんの意味もない。初日、最大の緩和は向井秀徳のこの言葉だった。
「みなさん、清水音泉の『OTODAMA』に入浴していただきありがとうございます。我々、NUMBER GIRLは初めて入浴いたしました。……入浴!」
普段は清水音泉が携わってはいない、今回初登場の「ザ・90年代ROCK日本代表」なバンドが、「入浴」と言ったのだ……。誠心誠意を尽くしてお呼びしたからこそ、清水音泉の無駄を一生懸命やる精神から生まれた「入浴」なんていう言葉の遊び心も、NUMBER GIRLにも届いたに違いない。約15年間『OTODAMA』に通っているが、まさか「入浴」という言葉で泣き笑いさせられるなんて……。『OTODAMA』ファンとしてシンプルにうれしくてたまらなかった。
AJICO 撮影=日吉"JP"純平
自分のテーマ「BACK TO THE 90's」を昇華できたところで、消化しきれていなかった本来のテーマ 「BACK TO THE OFURO」も大トリのAJICOで昇華できることになる。UAとベンジーこと浅井健一を中心に2000年に結成されたバンドだが、翌年には活動休止。20年ぶりの活動再開が2021年に発表された。今年の『OTODAMA』に、UAは初年度2005年以来17年ぶりに登場するが、それも初日AJICO、2日目UAとして2回も登場。清水音泉を代表するミュージシャンであり、初年度入浴のUAが3日中2日も入浴するのは心強すぎる。
AJICO 撮影=日吉"JP"純平
AJICO 撮影=日吉"JP"純平
初年度2005年、泉大津フェニックスで甦った2007年、台風による初中止を経験し初の2日間という新しい風を吹かせた2011年・2012年、音量規制が無い中で音を鳴らす為に泉大津フェニックスで開催するキッカケとなったバンドが初入浴で大トリを飾った2015年、台風と暑さに懲りて夏の野外としての最後を迎えた2019年。ざっとあげただけでも、これだけの年度を思い起こせた今年、2022年。もちろん、そのほか全ての年度の積み重ねもあったからこそ、今現在の『OTODAMA』がある。「BACK TO THE OFURO」で、気付くと全てのお風呂(『OTODAMA』)を自然と振り返ることができていた。だからこそ、UAが最後に放った「清水音泉、最高! いい湯だな! やっぱ好きやねん!」という言葉には真実味しか無かったし、心から共感できた。
AJICO 撮影=日吉"JP"純平
「90年代ROCK日本代表」たちが闘魂を魅せつけた中、そんな90年代に生まれた20代の若者たち3組である羊文学、iri、climbgrowが存在感を魅せつけたのも、『OTODAMA』の未来にとっては素晴らしき明るい報せだった。この3組は、清水音泉が大阪城野外音楽堂や味園ユニバースで開催してきた若手出演イベント『ヤングライオン』と『ヤングタイガー』でも爪痕を残してきている。そこから、この『OTODAMA』という大舞台に勝ち上がってきたのは夢がある。今年も6月26日(日)に服部緑地野外音楽堂で『ヤングタイガー』が開催されるが、若き出演者たちには是非とも未来の『OTODAMA』へのを勝ち取って欲しい。
羊文学 撮影=日吉"JP"純平
iri 撮影=渡邉一生
そんな3組の中でも、特に1日の終わりに繋がれてきた大きなバトンを受け取り、ゴールする大役であるクローザーのclimbgrowは頼もしすぎた。The Birthdayのライブの時、ずっと観客エリアから真剣な眼差しで観ていた姿を偶然にも目撃していたこともあって、「先輩たちが繋いできたバトンを何が何でも落とすわけにはいかない」という執念を感じた。また、大トリである自分のライブ終わりに「まだ向こうで最高のセッションもあるみたい!」とバトンを繋げたUAも粋でしかない。
climbgrow 撮影=渡邉一生
AJICOのライブ終わりに打ち上げ花火が上がった。いつも夏の泉大津フェニックスで打ち上げ花火を観ていただけに、春の泉大津フェニックスの打ち上げ花火は新鮮でしかない。これから、春の泉大津フェニックスでの『OTODAMA』が毎年恒例になり、「最初の花火に今年もなったな」と毎年言えたら素敵なのにな……。清水さんは、5月10日(火)の風呂具で「また来年できるかどうかは今のところ分かりません」と書かれていた。でもね、清水さん、来年も開催してくださいね。やっぱり僕らには『OTODAMA』が必要です。
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供(渡邉一生、日吉"JP"純平、オイケカオリ、ヨシモリユウナ)
■2日目のレポートはこちら
『OTODAMA'22~音泉魂~』2日目ーー「なんかもうカオス!」だけど「これがやりかった」必然に満ちたドラマチックなラインナップ
■3日目のレポートはこちら
『OTODAMA'22~音泉魂~』3日目ーー「これだ!」「戻ってきた!」感覚と「フェス」でしかなし得なかった幸福な空間
■音泉魂写真館(初日・5月5日編)
大浴場ステージ(2ページ目)、露天風呂ステージ(3ページ目)のライブ写真を掲載中。