「これ相っ当、観たことない作品になると思いますよ!」 ~新作オリジナルミュージカル『COLOR』 浦井健治×成河インタビュー~
ノンフィクションを演劇にするための“語り手”
――そんなお二人が今回、「ぼく」と「大切な人たち」を役替わりで演じられるわけですが、それぞれどんな役なのでしょうか?
浦井:この間、初めて4人揃ってのリーディングワークショップをやったんです。そこで出た色々な意見をもとに、今また台本が変わって第6稿まで来てるところなので、「大切な人たち」を今の時点で説明するのは難しくて。
浦井健治
成河:新作を作るのってやっぱりすごく大変なことで、今は立ち上げている渦中にあるのでね。要は、主人公である「ぼく」と「母」の話を二人の主観で描くならドラマでやったほうがいいわけで、演劇にするためには“語り手”という第三者が必要。それを「大切な人たち」が担うわけですけど、どの視点でどう語るかを話し合っている最中なんです。
浦井:お客様に橋渡しをする役割が必要なんだよね。それと、楽曲が今回すごく素晴らしいので。コンサートとして上演してもきっと感動できてしまうんですけど、それでは惜しいという話もしています。
成河:そうそう。ドラマでもコンサートでもなく、演劇としてどういう形にするのがいちばん相応しいのかを模索中ということですね。心あるプロデューサーさんが大切に大切に準備してきた作品で、僕らが能動的に関われる風通しのいい環境も作ってくださっているから、“演劇にする意味”を最後まで諦めないで模索していきたいなと。
浦井:まだそういう段階ではありますが、「ぼく」も「大切な人たち」も僕と成河では、それこそ“カラー”が全然違うものにはなると思います。両方観ていただけたら、より深く味わえたり、違う作品を観てるような感覚になったりしてもらえるんじゃないかな。
浦井健治、成河
――記憶をなくした青年が新しい世界を歩み始めるという、物語自体の印象はいかがですか?
浦井:やはり原作がノンフィクションなので、ヒリヒリせざるを得ないというか、お客様にどう伝えられるかという部分で大きな責任を感じます。戻らない記憶と向き合ったご本人の気持ち、それを支えたお母様のお心を思うと涙が出てきてしまうのですが、伝える側がそれだけではいけないし。
成河:僕が原作を読んでいちばん関心を持ったのは、記憶をなくした彼が、僕たちが当たり前だと思っている社会に適応しようとしていく時のズレと軋轢、それでも乗っかっていったっていう過程ですね。僕たちが当たり前だと思ってる社会では、「お腹が空いてるのかどうかも分からないのはつらいだろう」という発想になってしまうけれど、彼がつらかったのはきっとそこじゃないと思うんです。僕らの基準で、彼にとって何がつらいとか可哀そうだとかって話になったら絶対にダメだと思う。
浦井:だから語り手が重要になってくるんだよね。
成河:そう。我々が当たり前に過ごしてる社会は、果たしてすべて正しいのか。そういうことをいちいち考えさせられるなあと思いながら原作を読んだので、演劇としても「可哀そうな人が頑張って克服した話」にならないようにしないといけないと思ってます。
成河
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