お正月らしい華やかな公演!『新春花形歌舞伎』 市川右近インタビュー
市川海老蔵を中心に、花形揃いの公演で新年を晴れやかに迎えよう!
今年1月、『石川五右衛門』の公演で1年の幕を開け、夏には歌舞伎NEXT『阿弖流為』、秋にはスーパー歌舞伎II『ワンピース』と、歌舞伎でも意欲的な公演を世に送り出した新橋演舞場。来年2016年の口火を切るのは、市川海老蔵をはじめ、市川右近、中村獅童らの花形歌舞伎俳優を中心に1月3日から24日まで上演される『初春花形歌舞伎』だ。
ラインナップは、まずは、歌舞伎の「三大名作」と呼ばれる作品の一つで、菅原道真が勢力争いに破れて大宰府に流された事件をモチーフとした『菅原伝授手習鑑』の中の、道真とライバルの時平にそれぞれ仕える松王丸・梅王丸・桜丸という三つ子が運命に翻弄されていく「車引」。歌舞伎といえば誰もが想像する隈取、派手な衣装、豪快な見得や六方などが見られる、様式美あふれる一幕だ。
続いては、不思議な縁に導かれて集まった白浪(盗賊)五人組の物語で、「知らざぁ言って聞かせやしょう」などの七五調の名セリフでおなじみの『弁天娘女男白浪』から「白浪五人男」。美しい武家の娘が実は男だった!という痛快さ、大屋根の上での立廻り、大迫力の大道具の転換など、歌舞伎の醍醐味が詰まった一幕だ。
締めくくりは、市川宗家の家の芸である歌舞伎十八番の一つ『七つ面』。海老蔵が09年に復活上演した舞踊作品で、今回7年ぶりによりいっそう練り上げられた新バージョンで上演される。
その『初春花形歌舞伎』公演で、「車引」では三つ子の一人で道真の家臣の梅王丸、「白浪五人男」では五人男の頭領である日本駄右衛門を、また『七つ面』にも登場する市川右近に、役どころ、公演への意気込みなどを語ってもらった。
まさか!の二役をひと月に
──今回右近さんは、「車引」の梅王丸、「白浪五人男」の日本駄右衛門、それから『七つ面』へもご出演されますが、梅王丸はなんと22年ぶりだとか。
そうですね。やっぱり若い役ですから「もうやらせていただくことはないかな?」と思っていたのですが、また機会をいただけて大変光栄です。荒事の華やかな筋隈を取った役で、初演から22年経ってしまいましたが、若々しく演じられればと思っています。
──初演のときは、お稽古はどなたにつけていただいたのですか。
そうですね。やっぱり若い役ですから「もうやらせていただくことはないかな?」と思っていたのですが、また機会をいただけて大変光栄です。荒事の華やかな筋隈を取った役で、初演から22年経ってしまいましたが、若々しく演じられればと思っています。
──初演のときは、お稽古はどなたにつけていただいたのですか。
先代の(二代目中村)又五郎さんに、(松王丸の現・中村錦之助、桜丸の市川門之助と)三人で見ていただいたのを覚えています。この間、そのお稽古していただいた時のテープが出てきまして、聞いていて非常に懐かしかったですね(笑)。「みんな若いな」って、その頃のことが走馬灯のように蘇ってきました。
──今回は、それを思い出しながら演じられますか。
それもありますし、やっぱりこの22年間、いろんなお役をやらせてきていただいたので、習ったことにそれがプラスアルファされていけばと思っています。もう50歳を超えて、その時とは、いろいろな意味で違います。僕は今年で初舞台から40年なのですが、師匠(市川猿翁)から習ってきたことだったり、そういうものを今度は次の世代の人たちに伝えていかなければいけない役割になりますので、そんな思いを込めて、きっちりと演じたいです。きっちりと演じる上で、僕のカラーのようなものが、当時に比べれば多少出てきていますので、そういうものも加わってくると思います。なにしろ若い頃は、声が出なくてもなんでも、とにかく「一生懸命」ということしか観ていただくことがありません。もちろん一生懸命というのは僕の人生を貫いてずっとやってきたことで、今でもそうなのですが、もう声を潰している年齢でもないし、そのへんが難しいですね。若い頃に比べれば体も動かなくなってきたりしますので、抑えるところは抑えたり、ボリュームアップするところはしたり、いろいろなことが必要になってきて、それが最終的には味であったり緩急に繋がってきます。「緩急」なんて、若い頃なら逆に怒られるわけですよね、「出し切れ」と。22年間でいろいろな勉強をさせていただいたことが、今度は役を通してどう映ってくるのか、自分でも楽しみではあります。
“ザ・歌舞伎”という華やかさ
──「白浪五人男」の駄右衛門は初役で演じられますね。
日本駄右衛門と梅王(丸)をひと月のうちに一人で演じられるということは、年齢的にも経験的にも、役者にとってなかなかないと思うんです。現時点での僕では、日本駄右衛門にはまだボリューム感として足りないかもしれないし、梅王丸は自分が通過してきた若い役であって、そういう二役をいただいたので、もちろん勉強でもありますが、今の僕にできることをやろうと思っています。『七つ面』は劇中劇っぽくするということなので、出番は少ないと思いますが、お楽しみいただけたらと。三本すべてに出ていますので、(体力的にも)難しいですね。みんなからも「大丈夫?」って言われてます(笑)。とにかく、無理せず無理して、やるしかないと思います。
──公演のラインナップについてはいかがですか。
お正月にふさわしい、“ザ・歌舞伎”という三本立てですよね。三大古典浄瑠璃の『菅原伝授手習鑑』の「車引」は、たとえ意味がわからなくても、あのキャラクターが揃えば「これが歌舞伎なんだ」と思っていただけると思いますし、「白浪五人男」は盗賊集団の話で、ストーリー展開もわかりやすいですし、「知らざぁ言ってきかせやしょう」など、初めて歌舞伎をご覧になる方も「これが弁天(小僧)だったのか!」と楽しんでいただけるのではないでしょうか。『七つ面』は踊り仕立てで、(歌舞伎)十八番物の復活がまた新たに作り直されたものですが、僕も(中村)獅童さんも出て、海老蔵さんと三人がそこで顔を合わせます。まさにこの間『ワンピース』をご覧になって、歌舞伎に興味をもたれた方はぜひ新橋演舞場へお越しいただきたいです(笑)。
──海老蔵さん、獅童さんとは、これまでにも共演されていますね。
海老蔵さんは、今年1月にお父さんの役をさせていただきました。
──『石川五右衛門』の豊臣秀吉役は、(十二代目市川)團十郎さんがなさっていたお役でした。
そうなんですよ。僕はそれを拝見してますから、「大丈夫かな」と思っていたのですが。
──海老蔵さんの自主公演『ABKAI』(6月)へも出演されていて、いろいろな新作でご一緒して、いかがですか。
獅童さんもそうなのですが、お芝居に対する情熱というものを感じます。二人とも熱い人なので、そういう意味で、一緒にやっていて楽しいですよね。獅童さんは、東京ディズニーランドができた時、僕が手をひいて連れて行きました(笑)。当時、僕がちょうどはたちで、獅童さんが10歳。車に乗って、一緒に行きました。ホーンテッドマンションとか、けっこう怖がってましたけど(笑)。
──そうなんですか!
「怖くない」と言いながら、ギュッと僕の手を握ってました。そんな頃があったんですねえ(笑)。
白ひげに感じた師匠のメッセージ
──ところで先ほどもお話が出ましたが、今年の舞台のなかで、世間的にもご自身としても、やはり『ワンピース』のインパクトは大きかったと思いますが、白ひげ(エドワード・ニューゲート)は、演じてみていかがでしたか。
これは面白かったですね。良い役ですよね。全編を通じて3、4巻しか出ていないのに、大きな存在意義のようなものが求められるんです。第三幕になってからの登場でしたが、非常にやりがいのある良いお役だったのと、スーパー歌舞伎自体がセカンド・ステージに入ってきて、そういう意味で、ファースト・ステージからいる人間としては、師匠の生き様であるとともにスーパー歌舞伎の生き様でもあって、それがセカンド・ステージに行く上で、白ひげの「おめぇたちはまだ見ぬ海に新しい宝を探せ。己の力で見つけ出せ。そういう夢や野望をもってこの大海原に飛び出していけ。それが俺たち海賊の心意気だ」というセリフがあるのですが、まさにそれが「新たなスーパー歌舞伎を創造していけ」という師匠のメッセージのような気がして。僕は、そういうものを感じながらあの役を演じていました。
──現代劇的な要素も多分にあるなかで、衣裳も台詞回しも「歌舞伎」的なものとして存在する上で、ご苦労はありませんでしたか。
僕の役と(市川)猿弥の海侠のジンベエは、一番歌舞伎に引っ張ってきやすい役なので、そこはやっぱり、きっちり、旧スーパー歌舞伎の人間としてうんと歌舞伎に引っ張っていかないといけないのかなという使命感をもってやりました。第二幕までは「どこに行ってしまうんだろう?」というくらいハジケて(笑)、最後は、芝居の場面として歌舞伎らしくといいますか、お客様に“お腹いっぱい”になっていただくということだと、僕は思いました。ああいう芝居ですから、中庸を取るということは不可能に近いのではないかと。歌舞伎か現代劇か、どっちか寄りの人間が当たり前のように出てきて、その人たちが化学反応を起こすような芝居で、お客様に喜んでいただけたということは、うまく化学反応を起こしたんじゃないかなと思います。
──異質なもののなかに入ると、歌舞伎というものがすごく際立つように感じました。
スーパー歌舞伎の世界として新作をやっていくなかで、演出助手も勤めさせていただきましたが、役者としても師匠の稽古代役を勤めることで勉強させていただいたことが、僕の血となり肉となりになっていると思います。白ひげに関しては、最後は立ち往生するわけですが、弁慶であったり(碇)知盛であったり、古典の役柄に置き換えて考える、ひもといていく。そこに、精神としては市川猿翁という人もいるわけです。単なる歌舞伎の役柄ではなく、師匠に僕たちが見た“親父”感というか、師匠の世界観というか。師匠がスーパー歌舞伎を作ってきたように、白ひげは大海賊時代を牽引してきた。そういうこともあって、「夢をもって夢を追い続ける」というのは、まさに『ワンピース』のテーマでもあり、僕たち歌舞伎役者のテーマでもあると思うんです。
──そうですね。
でもそういうものは、古典を学ばせていただいて、そこから出てくるものであって、全然違うものを引っ張ってきてしまうと歌舞伎の世界観にならないのかな、という気もするんですけどね。たとえば僕がイワンコフを演じていたら、どうなったか…(笑)。
──それはそれで拝見してみたかった気もします(笑)。では最後に、公演に向けて意気込みを。
とにかく体調を整えて、倒れないように頑張ります(笑)。二回公演も多いですし、古典のものですから、ドスンとくると思うので、本当に体を壊さないように気をつけなければと思っています。でも、梅王丸に関しては、先ほども申しましたように初役ではありませんので、それだけでも全然違うんですよ。体力的にも非常にしんどいと思いますが、どこかで楽しんで演じたいですね。実は、この公演のためにジムに通っています。地方公演も多くてなかなか行けないので、一時期は辞めていたのですが、また舞い戻りました(笑)。命がけで勤めますので、どうぞよろしくお願いいたします。
いちかわうこん○大阪府出身。父は日本舞踊 飛鳥流宗家家元・飛鳥峯王。72年6月、京都南座『大岡政談天一坊』一子忠衛門で、本名の武田右近で初舞台。75年、三代目市川猿之助(現猿翁)の部屋子となり、市川右近を名乗る。98年7月歌舞伎座『義経千本桜』小金吾で名題昇進。松尾芸能賞新人賞(98年)をはじめ受賞多数。
【取材・文/内河 文】
いちかわうこん○大阪府出身。父は日本舞踊 飛鳥流宗家家元・飛鳥峯王。72年6月、京都南座『大岡政談天一坊』一子忠衛門で、本名の武田右近で初舞台。75年、三代目市川猿之助(現猿翁)の部屋子となり、市川右近を名乗る。98年7月歌舞伎座『義経千本桜』小金吾で名題昇進。松尾芸能賞新人賞(98年)をはじめ受賞多数。
【取材・文/内河 文】
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