「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022」記者会見レポート~「様々な課題がある今だからこそ、実験的な舞台芸術に触れてほしい」

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2022.8.19
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022」記者会見登壇者たち。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022」記者会見登壇者たち。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)

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演劇やダンスの概念を打ち破るような、先鋭的なステージパフォーマンスが京都に集結する、日本有数の国際的な舞台芸術のフェスティバル「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(以下KEX)」。ここ数年は新型コロナウイルスの影響で、海外の作品は記録映像上映や、リモートでの参加にほぼ限られていた。しかし2022年は、久々にすべてフィジカルで上演される予定だ。3年ぶりに祇園祭の山鉾巡行が復活したばかりの7月19日に、一部の参加アーティストも出席した会見が、京都市内で行われた。


2020年にプログラム・ディレクターが、川崎陽子塚原悠也ジュリエット・礼子・ナップのトリオ体制となってから「Kansai Studies」「Shows」「Super Knowledge for the Future [SKF]」の3部門制になったKEX。「Kansai Studies」は、関西在住のアーティストたちが地域の文化を研究・発表するシリーズ、「Shows」は舞台作品の上演や展示、「SKF」は主に「Shows」で取り上げる作品に関連したテーマを、深掘りしていくレクチャー・ワークショップ企画だ。

KEXプログラム・ディレクター。(左から)塚原悠也、川崎陽子、ジュリエット・礼子・ナップ。

KEXプログラム・ディレクター。(左から)塚原悠也、川崎陽子、ジュリエット・礼子・ナップ。

今回、キーワードに掲げられたのは「ニューてくてく」。日本語で「歩く」を意味するこの言葉には、観客もアーティストも、ようやく直接劇場に足を運べる時が来たことへの喜びと、分断が進んだ現代社会で互いに歩み寄ろうという提案や、あるいはここから新しい領域へと人類が歩いていくという希望など、様々な意味が籠められている。そして「Shows」で上演・上映される11作品は、実際に歩き回って体感する演目もあれば、世代や国境を超えて歩み寄って作られたものなど「てくてく」を感じさせる作品ぞろいだ。

小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク。 © Ayaka Ono & Akira Nakazawa / Spacenotblank

小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク。 © Ayaka Ono & Akira Nakazawa / Spacenotblank

小野彩加中澤陽の、2人の舞台作家のユニット「スペースノットブランク」は、映像表現を取り入れた新作『再生数』を上演(10/1・2)。2019年からコラボレーションをしている、京都在住の岸田國士戯曲賞作家・松原俊太郎が脚本を担当。松原が「ドラマ」を意識したという新作戯曲を、俳優たちが舞台で演じるのと同時に、その演技をカメラを通して、舞台上のスクリーンにライブに映し出す。1つの作品を「演劇」と「映画」という、二重の形で鑑賞させる試みだ。

(左から)小野彩加、中澤陽(以上スペースノットブランク)、松原俊太郎。

(左から)小野彩加、中澤陽(以上スペースノットブランク)、松原俊太郎。

3人は本作について、それぞれ「表情や体の箇所にフォーカスして、繊細な表現を追求してみたい」(小野)「松原さんとは4作品目。継続して作ってこないと、このような上演形態にはたどり着かないと思うので、一緒に新しいことにチャレンジできたら」(中澤)「今フェイクニュースや陰謀論があふれる中で、ドラマを書くことは難しいと痛感していますが、スペースノットブランクは距離を作るのが上手い団体なので、一緒に新しいドラマを作っていきたいと思います」(松原)と抱負を語った。

サマラ・ハーシュ。 Photo by Pier Carthew

サマラ・ハーシュ。 Photo by Pier Carthew

オーストラリア出身で、メルボルンとアムステルダムの二拠点で活躍するサマラ・ハーシュは、対話型のパフォーマンス『わたしたちのからだが知っていること』を日本初上演(10/1・2、6~10)。観客は劇場にかかってきた電話を通して、10代の少年少女たちが投げかける「身体」にまつわる質問に、みずからの言葉で答えていく。お互いが見えない──どんな社会的・人種的背景を持つかわからない者同士が、一つの疑問の答を探し出すセッションと言えるパフォーマンスだ。各回12名限定なので、特に週末は早目のお申し込みを。

フロレンティナ・ホルツィンガー。 ©Urska Boljkovac

フロレンティナ・ホルツィンガー。 ©Urska Boljkovac

ウィーン・アムステルダム・ベルリンを拠点とし、今ヨーロッパで最も注目される演出家の一人、フロレンティナ・ホルツィンガー。2021年に、舞台映像の上映会でKEX初参加を果たしたが、ついに『TANZ(タンツ)』で、日本のみならずアジアでも初となる公演を実現する(10/1・2)。バレエ教室を舞台に、10人の女性ダンサーたちが、伝統的なバレエの特訓の果てに、超能力的なパワーで飛翔する……という世界を、18禁となるほど過激ながらも、どこかユーモアまじりに描いた、センセーショナルな舞台だ。

 松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN『京都イマジナリー・ワルツ』。 Photo by Haruka Oka

松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN『京都イマジナリー・ワルツ』。 Photo by Haruka Oka

KEX初の公募プロジェクトに選出され、京都でのリサーチを通して製作した新作を、2年連続で上演する「チーム・チープロ」。1年目は「ワルツ」をテーマにした、松本奈々子のソロ作品を発表したが、今年は2人のパフォーマーとともに、新作『女人四股ダンス』を上演(10/8~10)。相撲でおなじみの「四股」の型を足がかりに、女性ならではの生理現象「月経」の不条理さと踊るという、チープロいわく「NEO子宮系ムーブメント」の作品だ。

松本奈々子(チーム・チープロ)。

松本奈々子(チーム・チープロ)。

チーム・チープロの一人で、ダンサーの松本は「いろんなリサーチを行ったり、既存のステップや身振りを介することで、街や個人の記憶などにアクセスしていく作品作りをしています。今回は参加者たちと一緒にリサーチしたり、月経日記の交換などを通して、四股と月経がどういう風につながるかを探っています」とプロセスを明かした。なお本作は、兵庫県豊岡市の「豊岡演劇祭2022」との連携プログラムとして、9月16日に竹野エリアでワーク・イン・プログレスを行うことになっている。詳細は「豊岡演劇祭2022」公式サイトでご確認を。

メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子。 Photo by Lieko Shiga

メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子。 Photo by Lieko Shiga

宮城県を拠点に、東日本大震災後の復興計画下で、抑圧されている人間の精神を追った作品の制作を続けている映像作家・志賀理江子。『Bipolar』(10/8・9)は、秋田昌美のノイズ・プロジェクト「メルツバウ」と、バラージ・パンディリシャール・ピナスという2人のミュージシャンとコラボレーションした、新作ビジュアルコンサートだ。リアルタイム編集で作られた志賀の映像を巨大スクリーンに投射し、そこにミュージシャンたちが即興的に爆音を重ねていく。この上なく刺激的な視覚&聴覚体験ができる、実験的なコンサートになるだろう。

志賀理江子。

志賀理江子。

20歳頃にメルツバウのライブを見て、大きな衝撃を受けたという志賀は、今回のセッションに際して「スクリーンには歩き続ける一人の人が映し出されますが、止まりようのない近代の時間を生きている人間と、一人の体が持つ時空間が、どういう関係を持って表されるか? というのを描きたい。その姿と、聞きに来る方一人ひとりの体の中に、何かつながりが持てるといいなと思っています」と期待を語った。

梅田哲也。 Photo by Yuko Amano

梅田哲也。 Photo by Yuko Amano

実際の建物や周囲の環境に合わせたインスタレーションを作成し、展覧会とパフォーマンスの境界線のような作品を発表し続けている梅田哲也は、1930年代に建てられた元銀行の建物を丸ごと使った新作『リバーウォーク』を上演(10/13~16)。理想的な建築物が見つかったことで、ようやくKEX初参加が実現した。観客は梅田の作品で彩られた建物の内部を周り、そこでいろんな人たちと出会い、様々な出来事に遭遇することになる。現実と虚構の間も曖昧になりそうな、ツアー型パフォーマンスだ。

ジャールナン・パンタチャート。 © Kajit Pramsukdee

ジャールナン・パンタチャート。 © Kajit Pramsukdee

タイを拠点とする劇作家・演出家・俳優のジャールナン・パンタチャートは、隣国ミャンマーのアーティストたちとコラボレーションした新作『ハロー・ミンガラバー・グッドバイ』を上演(10/15・16)。本作の製作が始まった直後に、ミャンマーでクーデターが起こったものの、オンラインなどを駆使して完成させたという。2国間の歴史や、国境問題などをベースにしながらも、俳優全員がジャールナンに扮するという、意外なほどコミカルな仕掛けも。歴史・国家・個人の複雑な関係について、思いをめぐらすことになるだろう。

フォースド・エンタテインメント。(上)『もしも時間を移動できたら』(下)『リアル・マジック』。 Photo by Hugo Glendinning

フォースド・エンタテインメント。(上)『もしも時間を移動できたら』(下)『リアル・マジック』。 Photo by Hugo Glendinning

1984年結成の、イギリスのアーティストグループ、フォースド・エンタテインメントは『もしも時間を移動できたら』『リアル・マジック』の2作品を日本初上演(10/20・22・23)。『もしも……』は、タイムトラベルができるようになったら、どんなことが実現できるのか? を夢想するモノローグ芝居で、『リアル……』はクイズショーに参加した人たちが起こすドタバタ劇。いずれもおかしみの中に、現代社会のシステムに自分はどう対応できるのか? をさりげなく考えさせる作品だ。

アーザーデ・シャーミーリー。 © Roberta Cacciagla

アーザーデ・シャーミーリー。 © Roberta Cacciagla

元ジャーナリストという経歴を持つ、イランのシアターアーティスト、アーザーデ・シャーミーリーは『Voicelessness-声なき声』を日本初上演(10/21~23)。表現の自由が抑圧された2070年の未来から、50年前(つまり2020年)に起こった祖父の失踪事件の真実を突き止めようとする女性の視点で、今現在の私たちが未来からどう思われるのか? を客観視する。と同時に、過去の映像や音声を通して、人がどのようにして物語を再構築していくのかという過程を、シャーミーリー自身の「声」も用いて見せていく。

ミーシャ・ラインカウフ。(上)《Fiction of a Non-Entry(入国禁止のフィクション)》(下)《Endogenous Error Terms(内生的エラー)》。 © Mischa Leinkauf - alexander levy - VG Bild/Kunst

ミーシャ・ラインカウフ。(上)《Fiction of a Non-Entry(入国禁止のフィクション)》(下)《Endogenous Error Terms(内生的エラー)》。 © Mischa Leinkauf - alexander levy - VG Bild/Kunst

ベルリンを拠点に、国境や都市のインフラなどの様々な問題に対して、予想外の視点から切り込む映像作品を発表しているミーシャ・ラインカウフ『Encounter the Spatial ―空間への漂流』と題して、2作品の映像展示を行う(10/1~23)。様々なエリアの国境を、海底から越境することを試みた『Fiction of a Non-Entry(入国禁止のフィクション)』と、東日本大震災直後の東京を起点に、各都市の地下水路やシェルターなどをめぐる『Endogenous Error Terms(内生的エラー)』で、このうち『Fiction……』の方は、日本初展示となる。

ティノ・セーガル 京都市京セラ美術館 日本庭園。 Photo by Koroda Takeru

ティノ・セーガル 京都市京セラ美術館 日本庭園。 Photo by Koroda Takeru

今年から開始された、高級ジュエリーブランド「ヴァン クリーフ&アーペル」によるプログラム「Dance Reflections」と、KEXのコラボレーションプロジェクトの第一弾アーティストとなったティノ・セーガルは、ライブアート『これはあなた』を日本初演(10/1~23)。[京都市京セラ美術館]の日本庭園を舞台に、セーガルからある指示を受けた「翻訳者」たちが、庭園を通りかかる人たちに、その人に合わせた歌を歌うというパフォーマンスだ。美術館休館日以外は毎日開催されるので、公演や散策の合間にフラッと訪れてみては。

Kansai Studies。

Kansai Studies。

また「Shows」に加えて、大阪の建築家ユニット・dot architectsと、京都の演出家・和田ながらが3年間継続してきた「Kansai Studies」でも、これまでのリサーチの集大成となるパフォーマンス『うみからよどみ、おうみへバック往来』を上演(10/14~16)。初年度の「水と琵琶湖」、2年目の「お好み焼き」のリサーチの成果を踏まえて、「循環」をテーマにした演劇作品を発表する。

dot architects代表・家成俊勝と和田(映像出演)は、それぞれ「今回のリサーチで、世界の様々なことがつながっていて、1つがちょっと動くと全体が揺れ動くような様を実感してきました。パフォーマンスを通してそれをお伝えできれば」(家成)「すごく自分の視野や世界観が広がったし、刺激もたくさん受けました。そういう驚きや喜び、ちょっと怖いと思ったことを、皆さんとシェアできる作品にしたいです」(和田)と抱負を語った。

[SKF]では、フロレンティナ・ホルツィンガーのワークショップや、「ニューてくてく」を体感する山歩きなど、12のプログラムを開催。特に今年は「アートとポリティクス」と題して、沖縄、タイ、ロシア各地域の政治と文化の関わりと、最新の事情についてのトークがシリーズ化されているのに注目だ。

またメイン会場となる[ロームシアター京都]エントランス広場に設けられる「ミーティングポイント」には、今年も巨大なインスタレーションが登場。今回は森千裕×金氏徹平のアートユニット「CMTK」が、見る角度によってイメージが変わる印刷技術「レンキチュラー印刷」を用いた、ヒューマンスケールの屏風を作成する。森が街を歩いて収集したイメージの数々を、金氏がコラージュ。絶えず変化することで観る人を惑わせる、巨大迷路のような空間は、今年も多くの人を釘付けにするだろう。

「CMTK」の森千裕(左)、金氏徹平(右)。

「CMTK」の森千裕(左)、金氏徹平(右)。

この作品について、森と金氏は「誰もが注目するような大きなものと、置き去りにされるような小さなものの写真を並列に並べたい。観る人には、その断片を記憶として持ち帰ってもらいたいです」(森)「動き続けないと、何かと何かが混じったイメージが見えない作品。おのずと動く・歩くということが生まれるので、ミーティングポイントにはふさわしいのでは」(金氏)と、それぞれ語った。

また既報の通り、KEXは初のクラウドファンディングに挑戦中だ。近年の京都市の財政悪化や助成金の削減などの要因が重なり、運営費が大幅に減額となったことによる苦肉の策ではあったが、8月16日時点で目標金額の9割に到達するなど、順調に支援が広がっている。

このことについては、ディレクターの一人・川崎が「円安やウクライナ侵攻のこともあり、海外のアーティストを招へいする経費が、想定を大きく上回っています。様々な課題があらわになった今だからこそ、このフェスティバルが体現する、実験的な舞台芸術を通して思考するということをあきらめず、皆様と一緒に続けていきたいと思っています」と呼びかけた。

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022」メインビジュアル。 ©小池アイ子

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2022」メインビジュアル。 ©小池アイ子

新型コロナの脅威がまだ続いている上に、世界情勢も少し危うい感じとなっていて、先行きの見えない昨今。そういう時は、頭を空っぽにして不安を吹き飛ばせる舞台もいいけれど、逆に脳を刺激しまくるような作品で、これまでにないインスピレーションや快感を得るのも効果的かもしれない。KEXは毎年そういう作品を見せてくれるし、今年もまたそういう作品が世界中からやって来るだろう。10月にコロナの情勢がどうなっているかは神のみぞ知るだが、無理のない範囲で「てくてく」と劇場まで足を運びたい。

公演情報

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2022」
 
■Shows(上演プログラム)参加アーティスト/団体
小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク
サマラ・ハーシュ
フロレンティナ・ホルツィンガー
松本奈々子・西本健吾/チーム・チープロ
メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子
梅田哲也
ジャールナン・パンタチャート
フォースド・エンタテインメント
アーザーデ・シャーミーリー
ミーシャ・ラインカウフ
ティノ・セーガル
 
■日程:2022年10月1日(土)~23日(日)
■会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都中央信用金庫 旧厚生センター、THEATRE E9 KYOTO、京都市京セラ美術館、ほか
■料金:演目により異なる。有料公演の中から3演目選んで鑑賞できる3演目券(一般8,100円、学生6,600円)などの割引あり。 
■公式サイト:http://kyoto-ex.jp
■クラウドファンディング:https://readyfor.jp/projects/KYOTOEXPERIMENT2022
※この情報は8月16日時点のものです。新型コロナウイルスの状況などで変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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