【プログラム変更あり】「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」全プログラム&アーティストの声を紹介
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」記者会見登壇者たち。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
「実験(EXPERIMENT)」を感じさせる、国内外の斬新なステージ・パフォーマンスを紹介する「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(以下KEX)」。今年の頭に開催された「SPRING」に続き、10月1日 ~24日に「AUTUMN」が開催される。なお「SPRING」は、2020年秋に上演する予定だったプログラムを延期開催したもので、来年からは従来どおり、年一回秋季開催のイベントに戻る予定だ。7月28日に行われた記者会見を元に、参加アーティストの声も交えながら、その全貌を紹介する。
フェスティバルディレクターが、川崎陽子&塚原悠也&ジュリエット・礼子・ナップの三人体制に変わってから初の開催となった「SPRING」では、統一テーマのようなものは明確には掲げられていなかったが、今回から1つのキーワードに沿ったプログラム展開を行うことに。2021年度のキーワードは「もしもし?! Moshi moshi?!」。日本ではおなじみのこの呼びかけの言葉を軸に、「声と身体の関係性」「過去と未来の声」など“音”や“声”がコンセプトの作品中心のラインアップとなっている。
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」共同ディレクターたち。(左から)川崎陽子、ジュリエット・礼子・ナップ、塚原悠也。
KEXの核となるのは、作品上演プログラム「Shows」だ。先月SPICEで流した速報では、国内外の11組の参加アーティストを紹介したが、残念ながらベギュム・エルジヤス(トルコ/ベルギー/ドイツ)『Voicing Pieces』の公演中止が決定し、全10組のラインアップに。展示・映像作品以外は、ビデオ上映やライブ配信ではなく、ほぼ全部フィジカルで上演する予定となっている。
ホー・ツーニェン『ヴォイス・オブ・ヴォイド-虚無の声-(YCAMとのコラボレーション)』VR映像の一部。 Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
歴史的、哲学的なテキストから、映像作品やライブパフォーマンスを製作する、シンガポールのホー・ツーニェンは、山口県の[山口情報芸術センター(YCAM)]とコラボレーションして、今年4月に発表した最新作『ヴォイス・オブ・ヴォイド-虚無の声-(YCAMとのコラボレーション)』を、フェスティバル期間中の全日程で展示(10/1~24)。3DやVRなどの最新技術を駆使することで、戦前の日本の思想界に大きな影響を与えた「京都学派」の世界に、飛び込んだような感覚となる映像インスタレーションだ。KEX版は、廃校をリノベーションした[京都芸術センター]のほぼ全館を、回遊しながら鑑賞する形になっているので、その時代の哲学の世界を、オリエンテーリング気分で体感したい。
チェン・ティエンジュオ『牧羊人(ムーヤンレン)』。 Photo by Ren Xingxing
最新のファッションやクラブカルチャーなども取り入れた奔放な世界で「中国ミレニアル世代の旗手」と評されるチェン・ティエンジュオは、新作のパフォーマティブ・インスタレーション『牧羊人(ムーヤンレン)』を発表(10/5~31)。彼の日本での本格的な展示企画は、これが初となる。様々な宗教でシンボル的に使われる「羊」をキーワードに、神秘的な宗教儀式とレイブパーティーが混濁したような、彼の真骨頂とも言える祝祭空間を作り上げるそうだ。10/2・3には、作品と連動する音楽ライブとDJパフォーマンスも開催。10/1には、京都市のアートイベント「ニュイ・ブランシュ」と連動した、プレビュー展示が行われる。
荒木優光『サウンドトラックフォーミッドナイト屯(たむろ)』。 artwork by 栗原ペダル
音の体験やフィールドワークを基点に、独自の音空間を作り上げる、京都在住のサウンドアーティスト・荒木優光は、新作『サウンドトラックフォーミッドナイト屯(たむろ)』を上演(10/1~3)。京都の霊峰・比叡山山頂の広大な駐車場を舞台に、複数のカスタムオーディオカーが大音響を鳴らすことで、オーケストラのように重層的な音を作り上げていく。会場まで専用バスで移動するというスペシャル感も合わせて、忘れられない非日常&サウンド体験となるはずだ。
荒木は映像を通じて「新作でKEXに参加できるのは光栄。すごいパワーの出るシステムを積んで、電飾でキラキラした改造車に参加していただいた、コンサート作品みたいなことを考えてます。そこに行く道中から作品が始まっていて、僕も含めてなかなか体験できないことが、たくさんあるんじゃないかと思います」とコメントした。
ルリー・シャバラ。 Photo by Wandirana
世界中の音楽フェスに招へいされている、インドネシアのミュージシャン&ヴォイスパフォーマーのルリー・シャバラは、公募した日本人キャスト&ゲストミュージシャンの「テニスコーツ」と共同で作り上げる新作『ラウン・ジャガッ:極彩色に連なる声』を上演(10/9・10)。自ら開発した即興的コーラス手法「ラウン・ジャガッ(世界の叫び)」を、リモートで指導・演出するという、彼自身初の創作方法に挑戦する。指揮者不在ゆえに、彼が目指す「声の民主化」に、より近づく作品になるのではないか? とシャバラは期待しているそうだ。
筒井潤(dracom)。
日本でのサポーター的存在として参加する、演出家の筒井潤(dracom)は「ルリーさんのコメントを聞いて“さらに民主化できる声”があるなら、今の声は何だろう? と考えさせられました。とはいえ、かしこまって考えるのではなく、劇場空間を遊び倒すのが、私の使命だと思っています」と抱負を述べた。また現在本作の出演者を、プロアマ問わず広く募集中(8/29締切)なので、興味がわいた方は公式サイトを確認してほしい。
したため『擬娩』(2019年)演出:和田ながら 美術:林葵衣。 Photo by Yuki Moriya
京都を拠点とする演出家・和田ながらは、自らのユニット「したため」で2019年に初演した作品を、現代美術アーティスト・やんツーとのコラボでリクリエーションした『擬娩』を上演(10/16・17)。妻の出産前後に、夫が出産行為を模倣する……という風習にインスパイアされた作品で、今回は10代の出演者を公募。デジタルメディアを基盤に、人間の身体性を問う創作を続けてきたやんツーと組むことで、ビジュアル的にも刺激的な世界が生み出されることは間違いない。
和田ながら(上)、やんツー(下)。
和田は再創作について「擬娩という不思議な風習を、2021年に生きる私たちがどのように再起動できるのか。若い世代と一緒に、経験したことがないこと、経験できないことを、想像力によってどのようにアプローチしていけるのかを、試していきたいです」とコメント。演劇作品初参加となるやんツーは「普段は基本的に一人で作品を作りますが、舞台は関わる人が多いことに、単純に驚きました(笑)。今は擬娩をリサーチしている所ですが、セオリーから踏み外すようなことができるといいかなと思います」と、初めての現場の新鮮さを語った。
フィリップ・ケーヌ『Crash Park:The Life of an Island』(上)『もぐらたち』(下)。 © Christian Knorr
フランスを代表する演出家&ビジュアルアーティストのフィリップ・ケーヌは、2016年初演のパフォーマンス作品『もぐらたち』KEXバージョンの上演と、2018年初演の演劇作品『Crash Park:The Life of an Island』上映会を行う(10/16・17)。人間サイズのモグラたちがアクロバティックに動き回る『もぐらたち』も、飛行機墜落で生き残った乗客の漂流記を、独創的な舞台装置を使って描く『Crash……』も、人類の本質と幸福とは何か? を考えさせる名作だ。なお『もぐらたち』では、フェスティバル共同ディレクターの一人・塚原悠也が所属する「contact Gonzo」がパフォーマー&共同演出を務めるので、どこよりもダイナミックな「もぐら」を観ることができそうだ。
松本奈々子、西本健吾 / チーム・チープロ。 © Shuzo Hosoya
パフォーマーの松本奈々子+主にドラマトゥルクを担う西本健吾が共同で演出を行う、東京のユニット「チーム・チープロ」は、公募で「Shows」プログラムに選出された初の団体。2年間京都で滞在制作を行うことが決定しているが、その1年目の作品として、新作『京都イマジナリー・ワルツ』を上演する(10/22~24)。男女が身体を密着させるため、様々な想像と規制を生み出したダンス「ワルツ」を考えるプロジェクト「イマジナリー・ワルツ」を、2020年から開始したチーム・チープロ。本作もその一環として、京都でワルツにまつわる長期のリサーチを行い、それを作品化していくという。
チーム・チープロ。(左から)松本奈々子、西本健吾。
西本は「ペアダンスのワルツを“想像上の誰かと踊る”のがコンセプト。ワルツが日本に入ってきてから、個人や文化・社会的な身体観がどう変化していったのかに注目しています。誰かを想像するという行為や、手をつなぐという行為の意味も考えていけたら」と意欲を語ると、松本は「7月から幅広いリサーチをしていますが、関西出身者でも知らないことがたくさんありました。(公演する劇場の)[THEATRE E9 KYOTO]の方には、専門家とつないでいただいたりとか、作品を作って発表する場を丁寧に整えていただいています」と、すでに順調なリサーチを重ねていることを明かした。
鉄割アルバトロスケット。 Photo by Manabu Numata
小説家としても活躍している戌井昭人が脚本を手掛け、結成24周年を迎えた、東京のパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」。第一回目のKEXに登場し、その可笑しくも不条理な世界で好評を得た彼らが、『鉄都割京です』で11年ぶりに帰還する(10/22~24)。シュールな状況や混乱したやり取りを描いた寸劇を、歌や踊りを織り交ぜながら、1~5分のスパンで矢継ぎ早に見せるスタイルが特徴だ。
戌井はコメント映像で「第一回目に呼んでいただいて11年経ちましたが、やってることはほとんど変わってない。コロナで2年間本公演ができてなくて、久しぶりにできるのが京都。多分笑えたり笑えなかったり、いろんな感情が起こると思いますが、自分らもお客さんと一緒に巻かれるような、面白い公演にしたいと思います」と展望を語った。
関かおりPUNCTUMUN『むくめく む』(2020年)。 Photo by Kazuyuki Matsumoto
「トヨタ コレオグラフィーアワード」を始め、数々の振付賞を受賞している気鋭の振付家・ダンサーの関かおりは、主宰する「関かおりPUNCTUMUN(プンクトゥムン)」で2020年に初演した『むくめく む』を再演(10/22~24)。関の振付作品が関西で本格的に上演されるのは、これが初となる。数人のダンサーたちが、日常のノイズをコラージュしたような音をバックに、非常にゆっくりと動いていくことで、人間と生物の境界や、時間の感覚を曖昧にしていく。そこに香りの演出も加わって、観る人間の五感を先鋭化させていくという、異色のダンス作品だ。
関かおり。
関は「ずっと“生きる”と“死ぬ”が、自分のテーマ。香りや風を肌で感じ、聴覚と視覚を使ってその場を味わっていただくことで、お客さんにどういう想像が沸き起こり、何が見えてくるのかを大事にしたいです。関西の人は、普段私が暮らしている所(関東)とは、全然違う感覚を育てている方が多いと思うので、間の伝わり方などが違ってくるのではないかと、楽しみにしています」と、気負いのないコメントを寄せた。
『Moshimoshi City』。 © Yuya Tsukahara
岡田利規(チェルフィッチュ)や神里雄大(岡崎藝術座)などが参加する『Moshimoshi City』は、今回のキーワード「もしもし?!」を象徴する企画だ(10/8~10、15~17)。観客は京都市内の各場所を訪ね、各アーティストが構想したパフォーマンス作品の、テキストが流れる音声を再生。観客はその「声」を頼りに、そこで繰り広げられるパフォーマンスを想像するという仕組みだ。その中には、あざやかに風景が思い浮かぶものもあれば、おそらく「そんな無茶な!」と思えるものもあるはず。想像力を使えば使うほど楽しみが広がるという、KEXらしい“鑑賞”体験となりそうだ。
「Kansai Studies」。
「Shows」以外には、アーティストたちが関西の文化についてリサーチする「Kansai Studies」と、「Shows」公演をより深く理解するための講演やワークショップを行う「Super Knowledge for the Future [SKF]」も開催。昨年は「水」にまつわる文化や歴史のリサーチを行った「Kansai Studies」だが、今年は関西の定番フード「お好み焼き」がテーマ。意外と地域ごとに独自のレシピや名称が多いお好み焼きについて、ミクロからマクロまで多角的に検証。その内容は特設サイトで随時報告するのに加え、フェスティバル期間中にはパブリックイベントも開催される。
「出町座×KYOTO EXPERIMENT上映企画」で上映される『水の駅』(2016年)。作:太田省吾 演出:シャンカル・ヴェンカテーシュワラン。 [撮影]守屋友樹
SKFは「音」を発見するためのワークショップや批評プロジェクトなどに加え、過去のKEX参加作品の関連映像を、ミニシアター[出町座]で上映する「出町座×KYOTO EXPERIMENT上映企画」(10/8~14)という試みも。今年の「SPRING」で上演した、垣尾優『それから』のドキュメンタリーと、2016年にインドの演出家、シャンカル・ヴェンカテーシュワランが演出した『水の駅』(作:太田省吾)の記録映像を上映する。
また期間中に[ロームシアター京都]に設けられる、インフォメーション兼交流スペース「ミーティングポイント」には、オランダのアーティスト、オスカー・ピータース作の巨大な木製ローラーコースターが出現。本物のコースターに負けない迫力で、様々なオブジェがレール上を走り抜ける姿は、世代を問わずワクワクさせてくれるだろう。このオブジェの製作は、参加アーティストの公募(8/25締切)や、子ども向けのワークショップなどで参加可能なので、ぜひチェックしてほしい。
Oscar Peters e.a. - the Wild
新型コロナウイルスの蔓延で、大勢の人が「密」になる劇場に足を運ぶことを、今もためらっている人は多いだろう。もしかして「配信でも別にいいや」と思う人もいるかもしれない。しかしことKEXの演目に関しては、劇場を震わせるような振動や匂いなどの、映像では伝えられない要素が作品の生命線だったり、観客が歩き回りながら鑑賞するなど、視点をカメラマンという他人に100%委ねるには、限界があるような物が多い。
実際今回も見事に、生で体験しないと意味がなさそうな作品ばかりが集まった。コロナのために否が応でも「新しい生活」への移行が進められるこの世界で、新しい視点や思考を発見するためにも、それぞれの無理のないレベルで、このパフォーマンスの実験場へと足を運んでみてほしい。
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」メインビジュアル。 ©︎小池アイ子
公演情報
ホー・ツーニェン、チェン・ティエンジュオ、荒木優光、
■日程:2021年10月1日(金)~24日(日)
■会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、比叡山ドライブウェイ、ほか
■料金:演目により異なる。Shows9演目(有料公演)を鑑賞できるフリーパス(一般20,000円、学生12,000円)あり。 ※一般のフリーパスは完売しました。学生残りわずか。
■:発売中
■公式サイト:http://kyoto-ex.jp
※この情報は8月18日時点のものです。新型コロナウイルスの状況などで変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。