連続企画『アニメソングの可能性』第四回 アニメソングDJシーンの歴史を見守ってきたMuraの目に映るもの
■お客さんもDJも本当に楽しそうだと感じさせられた『宴』シリーズ
――その後一大ブームを巻き起こした『ヲタリズム』から派生して、数々のアニメソングDJイベントが生まれていったかと思います。
そうなんですよ。『ヲタリズム』の常連のお客さんがイベントを立ち上げた、『A-HOL!C』や、現在も続いている『でぃすあに!』。それから少しして秋葉原MOGRAができて『アニソンインデックス!』が始まった、という感じでしたね。それぐらいから『ヲタリズム』の集客が落ち込んでね(笑)。当時は僕も若かったらかモヤモヤしたのを覚えています。
――収益に直結しますからね、困るのもすごくわかります。そこから更に数年後には各所で開催しているアニメソングDJイベントを集めた『宴』シリーズもスタートします。
今は僕が取り仕切ってやっていますけど、もともとは当時弊社で働いていた社員が始めたものなんですよ。
――そうなんですね! 運営方法も任せていたということでしょうか?
そうですね。一応決裁権は僕が持っていたので概要は把握してましたけど、内情までしっかりとは把握していませんでした。
――開催するに至った経緯を教えてもらえますか?
もともとは弊社社員のところに、人伝に旧会場・ディファ有明を使ってイベントを開いてほしいという話が転がり込んできたんですよ。でも、ディファ有明って決して小さな会場じゃない、かなり頑張って集客をしなければ赤字になってしまうんですよ。それで、人集めるなら複数のイベント合同みたいな形式にするのがいいんじゃないかという話をした。それで、各イベントから代表者が集ってDJをする形式にしたんです。
――開催してみた印象はいかがでしたか?
とにかくやってよかったと思っていますね。来ている人もDJやっている人も本当に楽しそうだった。それを見ていたら、このイベントは絶やしてはいけないと思えてきたんです。それで当時の『宴』シリーズを取り仕切っている社員が辞めることになった時も、僕が引き継いで続けることにしたし、今でも会場を変えながら開催し続けているんです。
■大きなイベントをやりたい、そう思っている人を支えるのも大切な仕事
――『宴』シリーズの運営をおこなっていると、否応なくアニメソングDJシーン全体の動向を見守ることになると思います。
なりますね。自然とシーン全体のことがわかってくる。誰と誰が揉めている、とかまで知ってますよ(笑)。
――そんな情報まで入ってくるんですね! 『宴』開始当時と今でシーン全体の変化は感じますか?
DJを始める子のスタンスの違いは感じますね。昔はみんなDJ始める時にそれなりの覚悟をして初めていた気がするんですよ。対して今の子の方がもっと気楽、趣味として楽しもうってスタンスでDJを始めている気はします。
――DJ機材も比較的安価なものがリリースされ、DJを始めるのもグッと手軽になったということも理由としてありそうですね。
それに加えてコロナの影響もあるように思っています。コロナ以降、今後の世界がどうなるか誰にも予想できないとみんなが痛感した。その影響で、今を楽しく過ごすためににDJをしている子が増えたんじゃないかと考えています。
――そのような潮流があるとアニメソングDJの数も増えてくるのではないでしょうか?
増えてますね。それに加えてイベントの数も、イベントを開催できる場所も増えた。昔だったらアニメソングDJイベントやりたいっていったら貸してくれなかった会場も、今なら普通に貸してくれますからね。アニメソングDJイベントも市民権を得たな、そう思います。
――結果的に、月あかり夢てらすさんを借りてイベントをやりたいという人も多くいるかとは思います。
”今は”そうですね。でも、実は数が減っていた時期もあったんですよ。コロナの影響とはまた別の要因で。
――それはどういった要因だったんでしょうか?
一時期はクラブではなく、自分達でバンドの練習スタジオなどを借りて内輪だけのDJイベントを開催するのが流行っていた。その方が会場も安い、リスクも低く開催できますからね。そういうベンントが増えて結果的に月あかり夢てらすを借りてイベントをやる人が減ってしまっていたんです。彼らのイベントをクラブで開催する流れを作らなければいけないと感じていた頃もありますね。
――現在はそういったイベントがクラブで開催されるという流れもできている、と。
今やそういった流れは主流になりつつあります。若い世代がクラブでイベントを開催する切っ掛けとなったのはひろてるくんが主催している『ツイノオタクアニクラ』。もともとTwitterのオタクがアニクラを開くというイベントだったのですが、縁あって月あかり夢てらすで開催することとなり、今やCLUB CITTA’でも開催するに至っているんですよ。おかげで今は彼らの憧れて月あかり夢てらすでイベントを開催してくれる人も増えました。
――『ツイノオタクアニクラ』がここまで大きくなムーブメントを起こせたのはどうしてなのでしょうか?
もちろん主催であるひろてるくんの人間力が大きいです。ただ、彼の思い描いた理想を形にする手伝いを、僕が過去の経験を活かしアドバイスしているのも隠し味の一つだと思いますね(笑)。ひろてるくんの理想と、僕のイベントノウハウが合わさって大きなものが作れている。
――Muraさんご自身が月あかり夢てらすさんという会場を飛び出して、イベントノウハウの提供もしているということですね。
はい、シーン全体を盛り上げていくことも大切なことだと思っていますから、その試金石となるイベントや主催者がいればバックアップは積極的にやっています。そこまでやってはじめて自分が月あかり夢てらすの代表である意味が出てくると思いますからね。
■楽しくプレイするDJが一番いいDJ
――現状のアニメソングDJシーンのお話を伺ってきましたが、今後シーンについても伺いたいです。Muraさんが思い描いているシーンの未来像はありますか?
僕自身には、今後シーンがこうなってほしいというものはないんですよ。シーンの方向性はそこにいる人たちの総意で決まっていくもの。その方向性がどうなるかは僕の意志の外側にあると思っていますからね。強いて言うならば、そのシーンの中にいる人が、各々にあった楽しみ方をできるシーンであってほしいとは思いますが。
――趣味で続けていきたい人には趣味としていつまでも続けられるシーンであってほしい、ということですね。
そうですね。逆に大きな舞台、例えば『ULTRA JAPAN』 や大規模フェスに出たい思っている人には、そこに至るルートを用意してあげたい。でも、現状大きな舞台に上がる道筋がなくなっているのは一つの課題かもしれませんね。
――確かに、アニメソングDJとしてそういった大舞台に立っている人はごく少数だとは感じています。
なので、大舞台に行き着くサンプルは作っていくというのが僕自身の今の課題なのかもしれません。だからと言って、いきなり大舞台を用意すればいいというものじゃないのもまた難しいところなんですが……。
――無闇に大きな舞台を用意すればいいわけではない、と。
そうなんですよ。大舞台に上がるといろんなところから制約を受ける。結果、やりたいことができなくなって嫌になってしまったという人は多く見てきましたからね。そうなってしまわない方法で、大舞台に立てるような方法は考えていかないといけないと思っています。
――これまでMuraさんは多くのDJさんのプレイを見てきたかと思います。その中でいいDJの共通点として感じるものはありますか?
いいDJはね、楽しんでDJしている人。もうこれを超えるものはないですよ。
――DJが楽しんでいるかどうかは見ていて感じ取れるということですね。
そうそう、そして楽しんでいる子のDJには曲への愛を感じる。愛している曲を使う時のDJってすごく丁寧なんですよね。それはやっぱり聴いている人にも伝わる。その丁寧さを感じるDJだったら繋ぎがガタガタでも僕は正直気にならない。上手いに越したことはないですが(笑)。
――曲を扱う丁寧さと、技術的な曲の繋ぎの丁寧さは異なるものなんですね。
違いますね。逆に技術的にうまいDJで、曲への愛情を感じない人もいる。そういう人のプレイって全然面白くないし、みんな似たり寄ったりのDJをするので魅力を感じない。ただこなしているだけのDJだなって思ってしまいます。
――なるほど。
そういう意味で言うと、全く同じDJをしたとしても誰がDJするかによっていいDJになってたり、よくないDJになったり、そういうことは起こり得るんですよ。時々人のDJを聴きながら「俺の方が今の繋ぎ、きれいにできるわ」とか言う人いるじゃないですか、あれが一番ダメ。だって繋ぎがきれいにできたからっていいDJにはならないですし、そんなことをいう人に人間的な魅力を感じないですから。
――確かに、同じDJでも誰がプレイしたかによって価値は変わってきますね。DJをよりよくしていくためにMuraさんが必要だと思っていることはありますか?
DJとして技術を磨くことも大切ですが、ことアニソンでDJをするなら感受性も磨いてほしいですね。ただ長く続けているだけのDJさんよりも、常に吸収しながら新しいことにチャレンジするDJの方が、より良いプレイをするな、というのは感じています。
――なるほど。
あともう一つ感じるのは、DJだけを頑張ってもダメだってことです。DJって、プレイする人の”人間性”も含めてパフォーマンスだと思うんですよ。いいDJをしたければDJ以外の全てに目を向けて人間性を磨いてほしい、そう思いますね。
自身がDJとして活躍し、同時に会場運営を行うなかで数々のDJと出会ってきたMura。その視点から語られるアニメソングDJの歴史と、いいアニメソングDJの条件は実に重厚感あるコメントだった。
筆者が中でも身に染みたのは「いいDJは楽しんでいるDJ」という言葉だ。やはりDJはエンターテイメント、自分自身が心から楽しんでプレイして初めて観客を楽しませることができる。ただ、ここで問題となるのは、いかに自分を楽しませるDJと観客を楽しませるDJを両立するか。ただただ自分の好きなDJをするだけでは観客は喜ばない、しかし観客に媚びるだけのDJは決して人を喜ばせるDJにもならないのだ。
ならば観客と自分自身の両方を楽しませるDJはどうしたら生まれるのか、そのヒントは「”人間性”も含めてDJプレイ」という言葉の中にあるように思う。
インタビュー・文=一野大悟 撮影=池上夢貢
店舗情報
『月あかり夢てらす』
神奈川県川崎市川崎区砂子2-6-4第4ニッセイビル5F
JR各線「川崎駅」東口より徒歩5分
京急電鉄本線・大師線「京急川崎駅」より徒歩7分
イベント情報
『宴』シリーズ