『PLAYLIST presents“ヘッドフォンを外して”』 マルシィ、reGretGirl、リュックと添い寝ごはんの対バンがZ世代を虜にする
『PLAYLIST presents“ヘッドフォンを外して”』
『PLAYLIST presents“ヘッドフォンを外して”』 2022.09.14(wed)渋谷CLUB QUATTRO
9月14日、東京・渋谷CLUB QUATTROで新しいイベント『PLAYLIST presents“ヘッドフォンを外して”』を観た。このイベントはInstagram音楽メディア「PLAYLIST」が企画し、今こそライブハウスで生の音楽を楽しんでほしいという思いで実現したもの。SNSメディアがあえて「ヘッドフォンを外して」と提案する面白さと、3つの個性的なバンドが競演する楽しさがあいまった、とても興味深いイベントだ。
リュックと添い寝ごはん
オープニングアクトの多部大がギター1本で2曲を歌い、颯爽としたパフォーマンスで大きな拍手を浴びたあと、この日の一番手を飾るリュックと添い寝ごはんが登場。松本ユウ(Vo&G)が勢いよくイントロを奏で始めた瞬間に観客全員がクラップを始める、ステージの上も下も楽しむ気満々の雰囲気がいい。曲は「ノーマル」「青春日記」「play」と、メロディックでスピード感溢れる明るいギターポップが続く。宮澤あかり(Dr)がけれんみのないエイトビートを叩き出し、堂免英敬(B)が時にファンキーなフレーズを繰り出してリズムに抑揚をつける。シンプルなスリーピースの良さを生かした、溌剌とした演奏だ。
「こんなにたくさん来てくれてありがとう。最後まで自由に気ままに楽しんでいってほしいと思います」
メンバー全員が20,21歳の初々しさを前面に押し出して突っ走り、観客は揃いの手振りと手拍子でそれに応える。ロックフェスによくある光景だが、力強いメッセージを込めた「わたし」を歌う時には、誰もがじっと聴き入っているのが印象的だ。音で騒ぐだけじゃない、歌詞をしっかり聴きたい。そんな気持ちが伝染し、会場内に一体感が生まれる。
リュックと添い寝ごはん
7月に配信した「サマーブルーム」は、得意の爽やか夏向き青春ギターポップ。なぜか途中にボサノバっぽいリフが入る遊び心が楽しい。そして「Thank You for the Music」は10月5日に配信される最新曲で、初めて聴く観客が乗り方に戸惑っているのを察知した松本が「好きに乗って!」とすかさず声を掛ける。優しい男だ。四つ打ちのビートを生かした心地よいダンスチューンは、これからライブの定番曲になるだろう。そして再び加速して、ラストは「グッバイトレイン」で明るくお別れ。初々しく猪突猛進のバンドサウンド、松本のちょっと頼りなげで柔らかなボーカル、そして「青春」「恋愛」をテーマにしたメッセージ性の強い歌詞。リュクソの魅力を存分に伝える全7曲、35分。
マルシィ
続いて登場するのは、6月にメジャーデビューしたばかりの3人組、マルシィ。失恋ソングを中心とした等身大のラブソングで大きな支持を集めるバンドだが、この日は明るくダンサブルな「プラネタリウム」を1曲目に、骨太なミドルテンポの「オードトワレ」、真っ赤なライトに照らされて激しくロックする「牙」と、アップテンポでアグレッシブな曲で最初から突っ走る。バックを支えるフジイタクミ(B)とshuji(G)の二人が熱くアクティブに動き回り、中央にどっしり構える吉田右京(Vo&G)が、透明感ある繊細な歌声で様々な恋愛の情景を歌う。満員の観客を前に、気合が入っているのがよくわかる。
「9月のライブはこの1本だけです。精一杯楽しんで、僕らの持ってるすべてを伝えたいと思います」
マルシィ
ここから3曲は、マルシィの本質と言うべきスロー/ミディアムテンポでじっくりと聴かせるセツナソングが続く。右京がギターを外してマイク一本で歌う「未来図」は、とことんメランコリックに刹那的に。そして激情を秘めたロックバラード「ピリオド」から、スローな序盤から徐々に壮大なバラードへと変貌してゆく「絵空」へ。泣き叫ぶようなShujiのギターソロと、輝くミラーボールが、美しさと共に深い哀しみを伝える。これがマルシィの世界。
ラスト1曲は、歌詞に込めた切なさと複雑な感情とは裏腹に、アップテンポで盛り上がるダンスチューン「最低最悪」。マルシィは歌詞の魅力が中心にあるバンドだが、ライブでのメンバーのアクティブな動きと様々な演出にはまた違った魅力がある。音源でしか聴いたことのないリスナーは、ヘッドフォンを外して見に来ると、きっと新たな発見があるだろう。
reGretGirl
そしてこの日のラストアクトはreGretGirlだ。本番前、灯りを消したままの音合わせの段階で拍手が起こるほど、彼らに対する認知度と期待度はとても高い。あらためてメンバーが登場し、「Shunari」「ルート26」、そして今日配信されたばかりの新曲「ルックバック」と、飾り気なしのスリーピースのバンドサウンドで、爽やかなポップパンク系の曲を次々と投下。しかし曲調は明るく激しいが、平部雅洋(Vo&G)の伸び伸びとしたパワフルな声が歌う内容は、失恋の後悔や悲しみや未練を続くリアルなものばかり。この激しいギャップ、これがreGretGirl。
「楽しんでる? 今日は全員楽しんで、全力を出し切って帰りましょう」
屈託なくよくしゃべる平部と、ぼそっと合いの手を入れる十九川宗裕(B)の会話がなんともおかしい。ノリのいいMCから一転して、「歌わなければいけない曲」と紹介したのは「スプリング」。ゆったりとしたミドルテンポに乗せ、せつない感情を歌い上げる平部。そしてさらにせつなさを増した「デイドリーム」へと、失恋後の哀しみを痛々しいほどに赤裸々に綴る歌詞が続く。観客は立ちすくんだままでそれに聴き入る。乗せる曲と聴かせる曲を連ねて引き込む、reGretGirlにはライブ巧者の貫禄がある。
reGretGirl
背中を押す曲はないけど、寄り添う曲はいっぱいあります。――平部の印象的なMCのあとは、「ダレヨリ」、そして彼らの代表曲「ホワイトアウト」へ。前田将司(Dr)の叩き出すビートは疾走感に溢れ、サビでは手振りが起きる明るい曲調だが、秘めた感情はどこまでもせつない。スリーピースのパンクロック然としたバンドが、失恋の痛みをリアルに歌う、それがreGretGirlの個性。鳴りやまぬアンコールの拍手に応え、もう1曲披露した「ピアス」も、明るい曲調の中に透明な哀しみをたたえた曲だった。
オープニングアクトを合わせて、あっという間に感じられた2時間半。サウンドの共通点というよりは歌詞にスポットを当て、せつなく激しい恋愛や青春や生々しい感情をさらけだすバンドを三つ揃えたことが、イベントの成功に繋がったのだろう。PLAYLISTのスタッフのキュレーターとしての優秀さに敬意を表すると同時に、早くも第二弾への期待が募る。そんな第二弾は2023年1月26日(木)に渋谷CLUB QUATTROで開催予定、ヘッドフォンを外して、またライブハウスに行こう。
取材・文=宮本英夫