石井琢磨×髙木竜馬、満員の観客からの大喝采に固い握手交わす~14年来の盟友ふたりが奏でた二台ピアノの夕べ
後半の第一曲目はブラームスの交響曲第二番より第3楽章。ブラームス自身が後に二台四手用のピアノ版として編曲した作品だ。ブラームならではのあたたかみに満ちた優しいフレーズを、心を込めて演奏する二人の姿が印象的だった。ちなみにこの作品は髙木が愛してやまないものだそうだ。
続いてはウィーン在住が長い二人にとって、まさに「ウィーンといえば」という一曲。ヨハン・シュトラウスⅡ世 「美しく青きドナウ」。事前の石井のトークによると、フィーリング、センス、お互いの尊敬などが問われるこの作品も、リハーサルでの一回目からピッタリと息が合い、完璧な手応えだったそうだ。
トレモロの導入部分からゾクッとさせるようなシュトラウス節を聴かせ、聴き手に早くも期待感を持たせる。本編のあの耳慣れたフレーズも二人がピタッと息を合わせ、絶妙の間の取り方で歌う。加速度の強いウィーンワルツの独特な節回しもこの二人の手にかかると自由自在。ウィンナ・ワルツの本質を知り尽くした二人の粋なリズムの取り方に、聴いている方も “Shall we danse?” さながらに高揚感に誘われる。ウィーンの華やかな日常が感じられ、聴衆もウィーンを旅している気分に誘われたのではないだろうか。
続いても ヨハン・シュトラウスⅡ世「雷鳴と稲妻」。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのアンコールシーンを思い起こさせる一曲だ。管弦楽バージョンでは、大太鼓やシンバルが表現する雷鳴や稲妻の擬音的効果も随所にあり、ピアノで演奏されるとどうなるのか聴き手としても期待感が高まる。この点はさすがに巧みな描写で期待を裏切らない。ロッシーニ・クレッシェンドのようにフィナーレに向かってより速く、より強くなってゆく様子は聴き手も手に汗握る感覚で大いに楽しめた。運動会の徒競走のBGMにも使われるギャロップのようなリズム感覚を、全身を使って楽しみながら弾いている二人の姿に客席からも拍手喝采だった。
プログラム最後を飾るのは二台四手のピアノ作品の最高峰ともいえる ラヴェル「ラ・ヴァルス」。ラヴェルらしいラテン的な多彩な色彩感を際立たせつつも、複雑な構成の中に聴こえてくるウィンナ・ワルツのテーマ的展開は華やかで品格があって美しい。対照的に、時折現れる憂いのある個所では、ラヴェルらしい古典的な世界観を高雅に歌い上げる。二人が揃って息の長いパースペクティブでダイナミクスを表現してゆくところなどは、決して行き過ぎずに軽やかに、あくまでも洒脱に攻めるところがカッコいい。
次第にそのリズムは大胆なアクセントをともなってさらに発展してゆく。特にフィナーレでの大団円は鮮やかなグリッサンドの技法なども存分に聴かせ、そのダイナミズムを各人が鮮やかな技巧で表現。スピード感、ダイナミクス、そしてスリリング感という点でも、あますところなく二台ピアノのピアニズムの醍醐味を聴かせてくれた。
石井は先日9月のリサイタルでファリャ「火祭りの踊り」を演奏した際に「僕自身の男らしい一面もお聴かせしたい!」と語っていたが、この作品でも重厚なバス音を瞬発的に轟かせ、十分に男らしさを見せつけてくれた(!)。
アンコールはブラームスの「ハンガリー舞曲 第5番」。鳴りやまぬ拍手に「雷鳴と稲妻」をもう一度。さらに乗りに乗った二人のスリリング感あふれる演奏に会場からは大喝采。冷めやらぬ会場からのエールに髙木と石井も思わず固い握手を交わし、会場のファンのあたたかいメッセージに応えていた。
取材・文=朝岡久美子 撮影=荒川潤
公演情報
イープラス presents STAND UP! CLASSIC in AKITA
会場:あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
出演:石井琢磨、上野耕平、亀井聖矢、紀平凱成、髙木竜馬、TSUKEMEN(五十音順)
※未就学児入場不可。当日券500円増。
※出演者の変更・キャンセルにともなう払戻不可。
特別協賛:株式会社スペースプロジェクト
企画制作:イープラス