史上初、日本最大の国宝コレクションを総覧! 創立150年記念特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』レポート
東京国立博物館創立150年記念特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』
東京国立博物館の創立150年を記念する特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』が、2022年10月18日(火)に開幕した。12月11日(日)まで開催される本展では、「東博」こと東京国立博物館の約12万件という膨大な所蔵品の中から、国宝89件すべてを含む名品150点に出会うことができる(※会期中、一部作品の展示替えあり)。
展示は二部構成で、第一部が国宝コレクション、第二部が東京国立博物館の150年の歩みを辿るパートだ。博物館の歴史と至宝を総覧する、タイトルどおり“東博のすべて”を体感できる内容と言えるだろう。この記事では、開幕前日に行われたプレス向け内覧会の様子とともに本展の見どころの一部を紹介する。
第1部 東京国立博物館の国宝〜絵画・書跡〜
会場エントランス
東京国立博物館が所蔵する国宝89点は、日本の全国宝のおよそ1割に相当する。そしてそれらすべてがひとつの展覧会で展示されるのは、東博150年史上で初の試みだという。これはもう、ありがたく堪能するしかない。第1部は分野ごとに分かれており、まずは絵画部門からスタート。エントランスのすぐ横で鑑賞者を迎えてくれるのは……
長谷川等伯《松林図屏風》安土桃山時代・16世紀 展示期間:10/18(火)~10/30(日)
長谷川等伯《松林図屏風》である。思わず「うおお」と声が漏れてしまった。《松林図屏風》は日本の水墨画の最高峰とも言われ、恒例の新春公開に多くのファンが訪れる超人気作だ。すべて見せます、という東博の気迫を感じるスタートである。
手前:久隅守景《納涼図屏風》江戸時代・17世紀、奥:渡辺崋山《鷹見泉石像》江戸時代・天保8年(1837)展示期間:共に10/18(火)~11/13(日)
久隅守景《納涼図屏風》も。久隅守景は江戸初期に活動した画家で、狩野探幽の有力な後継者と目されていながら画派をドロップアウトした謎多い人物だ。ただぼうっと夕涼みを楽しむ、なんでもない家族のなんでもない瞬間を描いた本作には、時代を越えて見るものを共感させる力があるようだ。そして隣は日本画と西洋画のハイブリッドと言える、渡辺崋山の《鷹見泉石像》だ。
会場風景
絵画の展示室の奥で、ひときわ静かな空気が流れているのは書跡の展示室だ。
《古今和歌集(元永本)》平安時代・12世紀
平安時代の装丁をそのまま残す《古今和歌集(元永本)》は、現存する写本中最古の貴重な一冊で、藤原定実の筆と推定されている。紙の色や様々な装飾模様に合わせて、墨の濃さや字の太さ、ページのレイアウトにまで変化がつけられており、これぞ平安貴族といった高い美意識を感じさせてくれる作品だ。
〜法隆寺献納宝物・考古・漆工〜
会場風景
さらに進み、法隆寺献納宝物・考古・漆工の国宝が並ぶ展示室へ。
《竜首水瓶》飛鳥時代・7世紀
こちらは法隆寺からやってきた飛鳥時代の宝物《竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)》。鋳造した銅器に金銀メッキを施して仕上げてあり、銅の部分には4頭のペガサスが描かれている。近くで見ると、竜の目に嵌め込まれた玉が光を反射して、写真よりずっといきいきした印象を受ける。
手前:《扁平鈕式銅鐸》弥生時代・前2世紀〜前1世紀、奥:《埴輪 挂甲の武人》古墳時代・6世紀
考古品の分野には歴史の資料集などでお馴染みのものが多い。古い知り合いに会えたような懐かしさと同時に、想像をはるかに超えた精巧さに衝撃を受けるだろう。手前は弥生時代の《扁平鈕式銅鐸》。棒人間が弓を引いて獲物を狩る姿などが明確なタッチで記されているのが、ちょっとピクトグラムのようで可愛い。奥には意外なほど大きい《埴輪 挂口の武人》も。
本阿弥光悦《舟橋蒔絵硯箱》江戸時代・17世紀 展示期間:10/18(火)~11/13(日)
漆工作品の《舟橋蒔絵硯箱》は、江戸初期のマルチクリエイター、本阿弥光悦によるもの。こちらも有名な作品なので写真では何度も見ていたものの、実物の“盛り上がり具合”にはかなり驚かされた。美味しそうな磯辺焼きのように膨らんでいるフォルムにも、和歌をモチーフにしたデザインにも遊び心を感じる逸品だ。
国宝刀剣の間
会場風景
さて、いよいよ本展の見どころのひとつ、東博の所蔵する国宝刀剣19振が集結する「国宝刀剣の間」へ。照明を落とした室内に刀剣が浮かび上がり、程よく張り詰めた空気が心地いい。
《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》平安時代・10〜12世紀
中央に配置され、両側から鑑賞できるようになっているのは“最も美しい日本刀”と称えられる《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》だ。名前の由来となった、刃文に浮かぶ三日月型の模様がはっきりと確認できる。他の刀剣と比べて鋒(きっさき)が小さく、すらりとたおやかな印象だ。確かに、これは人間だったら相当な美形かもしれない。
《太刀 銘 備前国包平作(名物 大包平)》平安時代・12世紀
一方こちらは“現存する日本刀の最高傑作”や“西の横綱”など、数々の異名を持つ《太刀 銘 備前国包平作(名物 大包平)》。均整の取れた美しさだけでなく、大きさに対して非常に軽い(一般的な太刀が約2kgのところ、大包平は約1.35kg)のが特徴で、そこに再現不可能な奇跡の作刀技術が現れているという。なお今回は“東の横綱”こと《太刀 銘 安綱(名物 童子切安綱)》も展示されており、東西両横綱の夢の競演が果たされているところにも注目だ。
刀剣をじっくり鑑賞できるようライティングや展示ケースにこだわったという「国宝刀剣の間」は、そのこだわりのおかげか、本当に見やすい。こんなに反射のストレスなく地鉄や刃文を鑑賞できるのはなかなかレアなのではないだろうか? 国宝刀剣の美しさが存分に引き出された、至福の展示室に拍手を送りたい。
第2部 東京国立博物館の150年
第2部では、東博の150年を3章に分けて振り返っていく。それぞれの時代の収蔵品や関連資料などが展示され、この場所がどのようにして生まれ、歩んで来たかを知ることができるパートだ。道中、誰もが知るような重要文化財がサラリと登場したりするので全く気が抜けない。
会場風景
第2部冒頭には名古屋城の金の鯱(しゃちほこ)がドーンと再現展示されている。なぜかというと……
一曜斎国輝《古今珎物集覧》明治5年(1872)
東博の始まりである1872年の湯島聖堂博覧会で、来場者たちに最も人気だったのが名古屋城の金鯱だったから。当時の様子を描いた錦絵《古今珎物集覧》でも、金鯱が堂々とセンターを張っている。なお、一曜斎国輝によるこの版画は、博覧会のお土産物として制作されたのだそう。150年前から、やっぱり展覧会にミュージアムショップは欠かせないのである。
会場風景
大正〜昭和にかけての宮内庁の所管時代、博物館は時流に合わせて「東京帝国博物館」「東京帝室博物館」と名前を変えながら収蔵品を充実させてきた。2章では美術工芸品などはもちろん、皇室ゆかりの品物にも注目だ。中央のお神輿のようなモノは、天皇の乗り物《鳳輦(ほうれん)》。実際に明治天皇の行幸で使用されたもので、40人の担ぎ手で動かしたのだという。
野間清六《くちなわ物語》昭和15年(1940)
この展示室には松方コレクションの浮世絵たちも展示されており、葛飾北斎、喜多川歌麿、東洲斎写楽……と錚々たる顔ぶれの作品が揃っている。そんな中、ちょっと地味ながら、個人的に面白いと思ったのは絵巻物《くちなわ物語》だ。これは昭和15年の伝説的展覧会『正倉院御物特別展』開催のドタバタを描いたもので、タイトルのくちなわ(蛇)は「長蛇の列」の意。写真はその20日間で動員40万人超えという未曾有の混雑をユーモアたっぷりに記した部分だ。現代語訳のキャプションも添えてあるので、足を止めて眺めてみるのがおすすめだ。
《キリン剥製標本》明治41年(1908)国立科学博物館蔵
展示室の一角には、水を飲むポーズで時を止めたキリンがいる。かつて天産(自然史)資料として展示され、関東大震災後に現在の国立科学博物館に譲渡された《キリン剥製標本》の「ファンジ」だ。「科博」から「東博」なのでだいぶご近所ではあるものの、本展はファンジにとって約100年ぶりの里帰りとなっている。
尾形光琳《風神雷神図屏風》江戸時代・18世紀 展示期間:10/18(火)~11/13(日)
最後の3章は、戦後から現在に至るまでの収蔵品と活動史を見渡すパートで、《遮光器土偶》や尾形光琳の《風神雷神図屏風》など、「これは!」と叫びたくなるような人気の高い重要文化財が揃っている。ちなみに《風神雷神図屏風》の裏に描かれていた酒井抱一の《夏秋草図屏風》も本館の収蔵品であり、会期の後半で展示される。ひっくり返すのかな? と思いきや、保護の観点から、現在裏面は別の屏風に分けられているのだそう。
《金剛力士立像》平安時代・12世紀
そして購入されたばかりの最新収蔵品、3m近い《金剛力士立像》のお披露目で、展覧会は締めくくられていく。この2体は平安時代の作で、もとは滋賀の蓮台寺にあったが昭和の初めに台風で大破してしまい、長らくお蔵入りしていたものだという。そこから2年にわたる修理を経て、今年の2月に東博に迎えることになったそうだ。入口を守る存在である金剛力士像が最後の展示室に来るとは、なかなかオツである。歴史の振り返りを経て、ここで、東京国立博物館は次の150年に向けて新たな入口に立ったのだろう。
マニア心に火がつきそう
ショップ風景
展示室横のミュージアムショップにて、相変わらずキレのいいオリジナルグッズたちを発見。こちらは銅鐸と遮光器土偶のぬいぐるみ。
スタンプカードと国宝カード
会期中に一部展示替えがあると聞くと、「なーんだ、行けばすべてが見られるわけじゃないのか」と思われるだろうか。しかし東博の恐るべきところは、展覧会を再訪したくなる面白い企画を用意しているところである。その名も「国宝スタンプラリー」。別会期中に再訪するたびにスタンプとオリジナル国宝カード1枚(非売品)がもらえるうえに、スタンプを集めると「東博国宝博士認定書」が授与される。カードは全89種の中からランダムでプレゼントというのも、心をくすぐるような……。
ニンマリ、ニヤリ
国宝を「せーの」で展示するのはとても難しいのだという。作品保護のため、展覧会に出したあとは休ませる期間が必要だからなのだそうだ。本展は、アニバーサリーのためにと何年も前から綿密にスケジュール調整をして、初めて実現した貴重な機会である。内覧会では、解説のためマイクを握った展覧会担当研究員の佐藤寛介研究員が「我々も、こんなの見たことありません」と熱っぽく語る姿が印象的だった。
東京国立博物館創立150年記念特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』
名品たちのオーラと東博の情熱を浴びて以来、本展メインビジュアルのタイトルの下にある《三日月宗近》が、ニヤリと笑みを浮かべた口のように見えて仕方がない。口元が緩むほど大満足間違いなしの名品ラッシュを、ぜひ体験してみてほしい。
※《キリン剝製標本》以外、すべて東京国立博物館所蔵です。
※期間表記のないものは通期での展示を予定しています。
文・撮影=小杉 美香
展覧会情報
※金曜・土曜日は午後8時まで開館(総合文化展は午後5時閉館)
休館日:月曜日
主催:東京国立博物館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
協賛:JR東日本、大伸社、大和ハウス工業、三井住友銀行、横河電機、横河ブリッジホールディングス
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)