シンガーソングライターMurakami Keisuke、「僕はひとりじゃないなと思えた」デビュー5周年にみる音楽との在り方
Murakami Keisuke
──「Midnight Train」のお話に戻しますと、今回のアレンジはRenato Iwaiさんにお願いされていて。
最近の作り方としては、すごくラフではあるんですけど、僕がまずデモを作って。そこから言葉でもイメージを伝えて、向こうにもアイデアを出していただいて、2人でこねていく感じなんですけど。ある程度こねたら、そこからはRenatoさんに任せる感じでやっていますね。
──最初のデモの段階から、ある程度イメージも固まっていたんですか?
そうですね。リファレンスの曲も出して、こういうイメージをしているというのをすり合わていく感じでした。
──ちなみにリファレンスって?
Lizzoの「About Damn Time」です。なんとなくベースがブリっとしている感じにしたいんだよなって、いろいろ聴き漁っていて。改めて聴き直したら、ちょうど自分のイメージに合う感じだったんですよ。テンポも近くて、コードを拾ってみたら結構似ていたから、わかりやすく伝えるならこの曲だなと思って。
──リファレンスを先に決めて、こういう感じの曲にしようと思ってそこに寄せていくというよりは、まずは自分の中にあるものを作ってみて、イメージに合うものを説明するために後から探していくと。
そうですね。
──場合によっては、これに似せた曲を作ろうというところから始まるパターンも正直多いと思うので、それとはまた違う感じというか。
確かに。もちろん自分が今まで聴いてきた音楽の中から、ああいう感じの曲を書きたいなと思って始めることもありますけど、リファレンスがその曲だけだとなんか違う感じがして。そこで他の曲を持ってきたりすることはありますけどね。今回だったら1曲でよかったけど、リバーブ感はこの感じで、テンポはこの感じみたいに、何曲か持っていくときもありますし。
──そこの差はかなり大きいですね。ここから再スタートというお話もありましたが、12月4日にはワンマンライブeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで『Kei's room vol.10 ~5th Anniversary & Birthday Live~』を開催されます。
「Midnight Train」に関しては再スタートの側面はあるんですが、アニバーサリーライブというタイトルなので、もちろんこれからの曲もやりますけど、基本的にはこの5年間にやってきた曲を、もう一度丁寧におさらいするというか、みんなと振り返るライブにしようと思っています。今回はギター1本の編成になるので、曲によってはアコースティックアレンジをしつつ、一度広げたものを回収してあげようと。なので、5周年で区切りをひとつつける節目のライブにしたいですね。
──デビューしてきてからこれまでの間で、ライブの考え方や捉え方に変化はありましたか?
捉え方が変わったという表現にはならないのかもしれないですけど、ギター1本でやるライブというものに対して、やぶさかでもなくなったというか。もともとやぶさかではなかったんですけど(笑)、昔はあまりギターに自信がなかったんですよ。やっぱりシンプルに歌だけ歌ったほうが集中できるから、なるべく歌だけでやりたいと思っていたんですけど。でも、コロナ前から練習し始めていく中で、待てよと思って。ギター1本あったほうが、歌に融通が利くというか。実はこっちのほうが表現形態として自由なんじゃないかと思うようになってから、マインドが変わったんですよね。
──なるほど。
前は「ちゃんと合わせなきゃ」ってテンポに囚われていたけど、それって本当に意味あるのかなと思って。当然アンサンブルでは必要ですけど、弾き語りにしかできない良さもあるじゃないですか。サビ前で急にわざともたらせるだけで情感が出たりしますし。そうすることによって、より一層音楽を、歌を届けやすくなった感じもあるし、自由度も増したかなと思います。
──小さい頃から歌える感覚があったとのことでしたけど、それもあって人前で歌うのも好きでした?
好きではあったんですけど、コロナのことが始まる直前から、なんかちょっとライブが億劫になっていたときもありましたね。ちゃんといいライブがしたいっていう完璧主義なマインドが先行してしまって、なかなか楽しめないし、とにかくお客さんに楽しんでもらうことのみに徹しようとした結果、それが空回りしてしまって。
──たとえばどんな場面でですか?
たとえば、歌詞を間違えちゃいけないとか。外的要因もあったと思うんですよ。「歌詞間違えるなよ」っていう一言をなんかすごく気にしちゃったりとか(笑)。でも、そういったものから自由になっているというか、自分の魂から、みなさんの魂に向けて音楽を投げかけられるような精神状態になっていて。それが今年の初めぐらいだったんですけど。
──本当に結構最近。
そうですね。音楽が本当に楽しくなったのは最近です(笑)。もちろん自分のやりたいことではあるんですけど、責任が先行しちゃってたんですよね。これを全うしなきゃいけないっていう。でも、まぁそこは一旦置いといて、とにかく魂込めて歌いますっていうことのみに注力できているし、結果、そのほうがいいライブができるので。
──責任感とか、こうしなきゃいけないっていう気持ちが先行しすぎてしまうと、どうしても雁字搦めになるというか。
そうなんですよね。自分で言うのもなんですけど、すごく生真面目なほうだと思うんですよ。子供の頃からずっとルールは守ってきたので。でも、変な話ですけど、ルールは守りつつ、どこを守らないか、どこを無視するのかって、意外と大事なことだなと思うんですよね。
──確かに。大事ですよね。
たとえば、それこそ「歌詞を間違えないでね」とか「これはMCで絶対に言ってね」とか、今考えればすごく些細なことだけど(笑)、当時の自分としては、その人が思っている以上に、鎖みたいに感じてしまっていたんでしょうね。でも最近は、仮に同じ言葉をかけてもらったとしても、そこまで重荷にならなくなったというか。「まかせてください! でも、もしかしたら間違えるかもしれないです!」みたいな(笑)。でも、そのほうが総合的にいいんですよ。
──守るところは守りつつ、肩の力を抜きながら、その瞬間を楽しむというか。
「歌詞を間違えたらいけない」というのも、解決策としては「歌詞を間違えてもいい」って思うことしかないんですよね(笑)。歌詞を1ヶ所間違えたぐらいで誰かが死ぬわけでもないし、それが最悪なライブになるわけでもないと思うので。そう考えたときに、だったら自分本位にというと極端ですけど(笑)、ある程度そういう側面を持ってライブをやることは大事だなって思いましたね。そう思うようになってから、音楽活動が楽しくなりました(笑)。
──でも、なぜまたそうなれたんでしょうか。
なんだろう……周りの存在は大きいかもしれないです。僕はひとりじゃないなと思えたというか。コロナ禍に入ってから、家族とか友達とか、そういう人達の存在を確認できた部分があって、あんまり怖くなくなったんです。変な話、いつか死んじゃうし、だったらいまを楽しんで一生懸命生きたほうがいいし、限りがあるからこそ、小さいことに悩んでいるのはもったいないな、みたいな。だから、たとえば極論ですけど、僕が歌詞を間違えて、事務所とかいろんな人に見捨てられたとしても、俺にはこの人達がいるしなって。本当に極論ですけどね。これまでは嫌われてしまったらどうしようってすごく気にしていたけど、まあ、最悪嫌われたら嫌われたでいいかなっていう。もちろん嫌ですけど(笑)。
──いまお話しされていたことって、「なんのための」の歌詞とすごく通じるものがあるというか。あの歌詞は、自問自答していてシリアスな空気はありますが、ご自身の中でそういうマインドでいるほうがいいんじゃないかという答えが出たからこそ、あの歌詞が書けたところもあるんですか?
確かにそうかもしれないです。僕は歌詞を書くのがあまり得意ではなくて、言語化するときに抽象的だったりするんですけど。でも確かに、なんのために生きているんだろうって考えているときだったら、逆に書けないと思うので。自分の中では最低限の答えが見えてきて、こうやっていきたいなとか、こういうことを大切にしたいなとか、そう思うようになったゆえに辿り着いた曲だったかもしれないですね。コロナという期間を経て、多少なりとも見えたひとつの答えだったのかもしれないです。
──それと、音楽活動が楽しくなったのとイコールで、単純に生きやすくなったような感じもするというか。
ほんとおっしゃる通りで、生きやすくなりました(笑)。あと、これまではまったく指標がない中で自分の考えを持たないといけなかったんですよね。そこからまがりなりにも5年活動してきて、今はこうやったらこうなるのかみたいな答え合わせができているので。この5年の経験があったおかげで、自分の考えにも自信を持って発言できるようになってきたかなと思います。
──ものすごくポジティヴなムードで5周年を迎えられたのもすごく素敵ですね。
そうですね。今は本当にものすごくポジティブなエネルギーに囲まれていて。いい曲ができたらテンションが上がって、それが次の曲を書くエネルギーになって、みたいな。本当に正のエネルギーが循環しているから、この環境は守っていきたいなと思いますし、さらにもっといろんな人を巻き込んでいけるようなものづくりをしていきたいです。
取材・文=山口哲生