《連載》もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜 Vol.2 竹本織太夫(文楽太夫)
「技芸員への3つの質問」
【その1】入門したての頃の忘れられないエピソード
初舞台のとき、『演劇界』の劇評に、文章は正確ではないですが、「咲甫太夫が初舞台を踏んだ」「幕が上がると知った顔をみつけたのか、ニコっと笑う大物ぶり、末頼もしい」みたいなことを書かれたんですよ。実際に笑ったのかは覚えていないのですが、当時はそんなこと書かなくていいのにと思いました。芸のことは書いていなかったですし。ただ、今思うと、私らしい。遠視で客席は結構見えるので、知り合いがいたら目が合うくらいは今もあるかもしれませんね(笑)。
【その2】初代国立劇場の思い出と、二代目の劇場に期待・妄想すること
国立劇場の小劇場は、文楽をやるための音響として、日本のどの劇場よりも良いんです。響き過ぎたり全く響かないからマイクで拾わなければならなかったりする劇場もあるけれど、ここは、舞台稽古でお客さんが入ってない時の音響は凄いですし、さらにそこにお客さんが入れば、共鳴している感覚とか、自分が息を放ったときの返りなどが、手に取るようにわかるんです。思い出と言ったら毎日が思い出になっているはずで、私は国立劇場で毎日舞台やるのは本当に幸せなんです。それが新しい劇場でも保たれ、あるいはさらに良くならなくてはいけない。
今、私は文楽座の理事も務めているので、日本芸術文化振興会側と文楽協会と文楽座の”三者連絡会”で、新劇場に関する要望などのやりとりしている最中です。例えば、肩衣をつけて廊下を歩いてもぶつからずに歩ける幅があるか、衣紋掛けに着物が掛かるか、洗濯機やトイレの数は……など、本当にたくさんありますね。建築家の方はお客様ファーストで、芝居を見る理想的な環境を作ってくださると思うけれども、芝居をやる側のための環境にもベストを尽くして欲しい。期待するのではなく、こちらからどんどん言っていく。私達は自分達で文楽の歴史も国立劇場の歴史も作っていかなきゃいけないんです。それがお客様のためになる。だから私は三方良しになるよう、劇場に対してある意味都合の悪い嫌な人にならなきゃいけないと考えています。
【その3】オフの過ごし方
移動日などのオフは色々なお参りをしています。神仏とか、先祖や先輩の墓参りとか。私はきっと、愛されたいから舞台をやっているんですよ。14歳の時の夢が「日本一愛される太夫になる」でした。ラジオやテレビだとお客さんのリアルな反応はわからないけれど、舞台では、拍手でも同情の拍手なのか、本当に良かったよの拍手なのか、もうわかりますから。そうやって神様仏様やご先祖にも愛されたいんでしょうね。お墓をきれいにしたりして心を整理し、汗だくになったら銭湯でサウナに入って、好きなものを食べる。そうやって心と体を整えています。
取材・文=高橋彩子(演劇・舞踊ライター)