80歳、探し続けるチェロの可能性「これは到達点ではなく出発点」~チェリスト堤剛インタビュー

インタビュー
クラシック
2023.1.6

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日本を代表するチェリストとして、チェロ界だけでなく、音楽界を牽引し続けている堤剛が、80歳記念リサイタルをひらく。2020年にウィーン・フィルと初共演するなど、まだまだ新たな境地を切り開いている堤が、今回、共演者として選んだのは、2006年のミュンヘン国際音楽コンクールで第2位に入賞するなど、国際的に活躍するピアニスト、河村尚子である。

プログラムは、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第4番、R.シュトラウスのチェロ・ソナタ、権代敦彦の「無伴奏チェロのための”Z”(ゼータ)」(新作世界初演)、プロコフィエフのチェロ・ソナタ、マルティヌーの「ロッシーニの主題による変奏曲」というバラエティの富んだもの。リサイタルへの想いを堤にきいた。

――80歳を記念する今回のリサイタルについてお話ししていただけますか?

まず、河村尚子さんと久しぶりに共演できるのが非常に楽しみです。ベートーヴェン、R.シュトラウス、プロコフィエフ、マルティヌーのピアノも活躍する作品で、丁々発止みたいな演奏ができるのではと思っています。最近、河村さんはシューベルトのピアノ・ソナタのリサイタル・シリーズをされていて、私も2回くらい聴かせていただきましたが、本当に素晴らしかったです。もちらん、彼女は、ベートーヴェンも素晴らしいですね。しばらく共演していなかった間、河村さんもいろいろ変わられて、私自身も変わりました。前回は新鮮なぶつかり合いでしたが、今回は、お互いの蓄積を持ち寄って、何か新しいものや、ある意味、円熟したものを含む演奏ができるんじゃないかと思っています。

――プログラムもバラエティに富んだ内容となっています。

ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第4番は、若い頃、アメリカに留学して師事したヤーノシュ・シュタルケル先生(注:20世紀を代表するチェロの巨匠の一人)叩き込まれた曲で、23歳でカザルス国際コンクールに優勝した時に弾いた曲でもあります。それから80歳になってどれくらい深まったのかなというのは自分にとっての楽しみでもあります。プロコフィエフのチェロ・ソナタについては、この9月にブカレストのエネスコ国際コンクールへ審査に行ったとき、審査員の間でこの曲が話題になりました。「精神的な葛藤が含まれている作品で、掘り下げるといろいろな要素がある」とゲリンガスさんらがおっしゃっていて、私にとって非常に勉強になりましたし、それを自分の演奏にも活かしたいと思っています。マルティヌーの「ロッシーニの主題による変奏曲」は、テクニック的には難しいのですが、変化に富んだ素晴らしい作品です。

――権代敦彦氏による新作世界初演(「無伴奏チェロのための”Z”(ゼータ)」)もあります。

権代さんは、高崎まで私のリサイタルを聴きに来て私のイメージや魅力をつかんでくださって、私に合った素晴らしい作品を書いてくださいました。技術的に難しい曲ですが、良い意味でのチャレンジともいえます。チェロにこういう可能性があったのかというアイデアも含まれた、面白い作品です。私は若い頃から、現代曲を含めて、チェロの可能性を探ってきました。それが私の指針でもあり、チェロという楽器の可能性はまだまだあると思っています。

例えば、私も審査員を務めていましたロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクールは、その二次予選のために必ず、第一線の若手作曲家に新作を書いてもらっていました。あるとき、ある審査員が「こんな難しい曲はもう弾かれることもないだろうし、委嘱しても無駄ではないですか」と言ったら、ロストロポーヴィチさんが「とんでもない。作曲家がチェリストに対して新しいチャレンジをしてくださることは本当にありがたいことです。チェロの可能性が広がるし、そのうえ、チェロのレパートリーも広がる」とおっしゃって、なるほどと思いました。

若いチェリストが聴きに来ていたら、プログラムのバラエティを通して、こういうこともチェロでできるのか、じゃあ自分はこういうこともやってみたいと触発できるような、チャレンジを促すような演奏をしたいです。そしてプログラム全体を通していろんなことができることを示せれば。お客さまに新しいものが聴けたと感じていただけるかと思います。

――80歳になられて、これまでを振り返って、いかがですか?

アメリカに留学後(注:桐朋学園高校音楽科を卒業後アメリカ・インディアナ大学に留学)、シュタルケル先生にチェロの技術を一から叩き直されました。先生の教えてくださった技術は、体全体をどううまく使うか、すべて理にかなっていて、先生の教えがあったからこそ、私は今もこういう風にチェロが弾けます。シュタルケル先生は「正しい弾き方をすれば年を取っても弾ける」とおっしゃっていました。80歳でもコンサートを続けていられるのは、シュタルケル先生のおかげです。また、シュタルケル先生は、会うたびに「今、どんな新しい曲にチャレンジしているの?」というのが口癖でした。そういう意味でも今回の権代さんの作品はありがたいと思っています。

その前に師事した齋藤秀雄先生は、音楽やチェロの素晴らしさを教えてくださり、大きな音楽のイメージを植え付けてくださいました。私がチェロを始めた頃、齋藤先生は、ピアティゴルスキーなどの大チェリストが日本に来ると、彼を自宅に呼んで、私たちの演奏を聴いてもらったりもしてくれました。

二人は私にとっての大先生です。

――これまで続けてきて、ご自身に若い頃との変化はありますか?

シュタルケル先生は、「自分にとって演奏と教育はクルマの心棒のようなもの。自分はどちらが欠けても満足できない」と話されました。そして、私は、留学して3年目からシュタルケル先生の助手を務めました。それから、演奏だけでなく、教えることもずっとやってきました。インディアナ大学で教鞭をとったり、桐朋学園の学長を務めたりしました。そのほかにもいろいろな立場に立たせていただいて、音楽界全体の視点に立って物事を考えるようになりました。そして、それは自分の演奏にも返ってきます。

実は先日もベルリンでフォイアマン国際チェロ・コンクール(注:エマヌエル・フォイアマンは齋藤秀雄の師匠)の審査委員長を務めてきました。もちろん、サントリーホールの館長の役目もあります。教えたり、役に服したりすることによって、より幅広く物事を考えるようになり、より深い表現ができるようになっていたらいいなと思っています。

――最後に、今回のリサイタルへの抱負をお聞かせください。

80歳で記念のコンサートができることを、私としては、到達点というよりは、出発点としてとらえています。私がこの先、どんなことができるのか、できれば、チェロ界や音楽界を引っ張っていきたいと思いますが、そういうことの出発点であるという気持ちでいますし、そういうことを感じていただけると非常にうれしいです。そして、ライヴ・パフォーマンスならではの、生の演奏でなければ感じられない雰囲気を楽しんでいただけたらと思っています。

取材・文=山田治生 撮影=福岡諒祠

公演情報

『堤剛 80歳記念チェロ・リサイタル』
Tsuyoshi TSUTSUMI 80th Anniversary Tour
 
出演者
堤剛(チェロ)
河村尚子(ピアノ)
 
曲目
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 op.102-1
R.シュトラウス:チェロ・ソナタ ヘ長調 op.6
権代敦彦:無伴奏チェロのための“Z” ゼータ op. 186(2022)~ 堤春恵委嘱作品 ~
プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 op.119
マルティヌー:ロッシーニの主題による変奏曲 H.290
 
【東京公演】
2023年4月22日(土) 14:00開演(13:15開場)
会場:サントリーホール
 
【長野公演】
2023年4月23日(日) 14:00開演(13:15開場)
会場:軽井沢大賀ホール
 
【大阪公演】
2023年4月30日(日) 14:00開演(13:00開場)
会場:ザ・シンフォニーホール
 
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