へんてこりんな世界で見つけた『不思議の国のアリス』の魅力ーー『アリス展』レポート&イギリスの博物館 V&A展示部門責任者インタビュー

レポート
アート
2023.1.24

ダニエル・スレーター

ダニエル・スレーター

●「『アリス』への関心は、魔法の薬のように大きくなっていく」

ここからは同展覧会を機に来日した、V&Aの展示部門責任者であるダニエル・スレーターへのインタビューをお届けしよう。

――V&Aで『アリス』に関する大規模展示を企画したキッカケは何だったのでしょうか。

『アリス』の世界そのものが、今回の美術展において完璧なひとつのテーマになると思ったからです。今回の展示を観ていただければわかるように、ルイス・キャロルが作り出した物語や創造性は160年以上を経てもなお、舞台芸術やバレエ、映画や音楽、ファッションと、様々な分野に大きな影響を与えています。V&Aはアートやデザインを主な展示のテーマにしている博物館なので、『アリス』はまさにふさわしいテーマだと考えました。博物館が独りよがりで満足するような展覧会をするのではなく、観る人が心をウキウキとさせながら博物館や美術館に足を運ぶような展示がしたかったのです。今回はV&Aが所蔵するものから、個人所蔵のものまでたくさんの作品が展示されています。どれも展示のテーマやストーリーに重要な役割を果たすものばかりがそろっています。日本のみなさんは文化に大きな関心を持つ人が非常に多いので、今回の展示はみなさんに喜んでいただける自信があります。

――今回の大阪での展示を実際に目にして、いかがでしたか?

日本独自の素晴らしいアートがあることはもちろんですが、過去数年のコロナによるパンデミックで、世界中の各都市での巡回展を直接観ることができませんでした。2022年夏にも東京で開催されましたが、実は当時はまだ海外渡航が難しい時期で。今回、日本では大阪での展示が初めて観ることができたのです。嬉しかったですね。

――展示の中にはインスタレーションなどもあり、写真撮影ができるスポットも多く見応えがありますね。

ロンドンで開催されたV&Aでのオリジナル展示をそのまま日本に持ってくることができ、日本での展示も素晴らしいものになりました。みなさんに気に入っていただいたり、驚き、興奮してもらえたらいいですね。ひとつの作品に感動するのはもちろん、全体の展示がどのように配置され、どんな流れになっているのかにも注目して楽しんでいただきたいです。

――5章で展示されている『アリス』にまつわるファッションには日本のロリータファッションも展示されています。日本での『アリス』人気も、多岐に渡るアートジャンルに広まっていることがよくわかります。

実はV&Aには日本のアートとデザインに特化したギャラリーがあります。そこで「ロリータアンサンブル」と呼ばれるファッションとして、永久展示されている作品のひとつとなっているのです。日本のデザインやパフォーミングアートはV&Aのみならず、世界中で強い関心を集めているものなのですよ。

――「ロリータファッション」が永久展示されているのは驚きです。

今回の展示会にはそういったファッションの作品も組み込まれていますが、いつも我々が展示会を企画するときに考えているのは、作品がどういうインパクトを与えうるのかを考えています。もはや『アリス』の物語はイギリスのものだけではないですし、ヨーロッパやアメリカといった英語圏だけのものではありません。世界中の人が自分のものとしてもっている世界観なのです。『アリス』が国際的なひとつの概念となっている。もとをただせば、ヴィクトリア朝のイギリスの小説がオリジナルではありますが、『アリス』が体現するもの、アイデンティティは世界中の人が共感したり、自分自身の一部に感じているものになってきているように思います。

――今後『アリス』の世界はどんな広がりをみせていくと思いますか?

原作が書かれてから150年近くが経ちました。そして、原作が書かれた国から約6,000マイルも離れた、この大阪の美術館でみなさんに楽しんでもらっていることを考えても、『アリス』に対する関心は今後もなくなることはないでしょう。発端は最も伝統的な芸術のひとつの形である「本」からスタートしたものですが、いまや様々な芸術表現に影響を広げ、様々な解釈が行われ、芸術のプラクティスとして波及しています。今後も『アリス』は私たちのなかに留まり続けると思います。アリスが物語のなかで飲んでいた魔法の薬のように、これからもどんどんと大きくなっていくのではないでしょうか。

取材・文・撮影=黒田奈保子

イベント情報

展覧会『アリス -へんてこりん、へんてこりんな世界-』
会期:2022年12月10日(土)~2023年3月5日(日)
会場:あべのハルカス美術館
 〒545-6016 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
開館時間:火~金 10:00~20:00/月土日祝 10:00~18:00(※入館は閉館30分前まで)
入場料:一般1,800円(1,600円)/大高生1,400円(1,200円)/中小生500円(300円)
※()内は15名以上の団体料金
主催:あべのハルカス美術館、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、朝日新聞社、
関西テレビ放送
協賛:DNP大日本印刷、ディズニー★JCBカード
協力:日本航空
後援:ブリティッシュ・カウンシル
展覧会公式HP:https://alice.exhibit.jp/
展覧会公式Twitter:@2022Alice_JPN
展覧会公式Instagram:@2022alice_jpn
問い合わせ:06-4399-9050(10:00~17:00)
美術館公式HP:https://www.aham.jp/
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