逃げて、逃げて、逃げ続けた先の約束の地『ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館~3.6 day 逃げて逢おうね~』
2023.03.06(Mon)『ReoNa ONE-MAN Concert 2023"ピルグリム" at 日本武道館 ~3.6day 逃げて逢おうね~』@日本武道館
絶望系アニソンシンガーReoNaが遂に初の日本武道館ワンマンライブを開催した。SPICEアニメ・ゲームジャンルとしては「ReoNa ピルグリム」と称して過去のインタビューやレポなどReoNaに関する記事をすべて特集としてまとめて来たが、今回の日本武道館ライブはアニメ・ゲームジャンル編集チームがそれぞれの視点でレポートすることとなった。この記事ではアニメ・ゲームジャンル編集長加東からの視点でお送りする。
「Goodbye 旅に出ようか」
ReoNaの約束の地、日本武道館は旅立ちの言葉から始まった。
絶望系アニソンシンガーとしてデビューして4年半、遂にReoNaが日本武道館のステージに立った。スタンド最上階まで満杯の武道館を見るのは久々な気もする。開演前からReoNaが準レギュラーを務めるFM802『802Palette』の出張生放送として、DJの豊田穂乃花がステージよりReoNaを形作ってきた楽曲を配信するなど、お祭り的に武道館全体を賑わせていく。
ここに至るまで数々の楽曲、アニメタイアップ、ワンマンライブ、Animelo Summer Live、リスアニ!LIVEなどを中心とした外部出演、そして海外公演と順風満帆でここまで来たように見えるが、我々には見えない部分でReoNaが抱えていたプレッシャーや悲しみもあったのだろう。彼女が決して絶望系の看板を外さない理由がそこにはある。絶望はただそこにあるもの、そう言い続ける彼女が武道館の開幕に選んだのは、自身がTwitterで展開する「こえにっき」だった。
「さよならは、はじまり」
そんな言葉から紡がれるReoNaのモノローグは日本武道館全体を絶望系の世界に染め上げていく、まるで儀式のように「ピルグリム」が歌い上げられる。
ReoNaが初めて手にしたオリジナルソング「怪物の詩」。自身のシンガーとしてのバックボーンとアニメ―ションの世界観を絶妙な配合でブレンドした“アニソンシンガー”としての立ち位置を明らかにした「forget-me-not」。そしてReoNa名義としてのデビュー作である「SWEET HURT」と、ReoNaを形作ってきた曲が次々と歌われていく。
それにしても改めて日本武道館のステージは、今までReoNaが上がってきたどの舞台よりも大きく高く広く感じる。セットも凝った装飾があるわけではないシンプルな黒一色。お歌を届けるためだけに準備された装置。その真ん中の少女はあまりにもちっぽけに見えた。
その小ささがとても僕の胸を打った。逃げて逃げて逃げて、行き着いたのは聖地・日本武道館。満員の観客の期待と絶望をその身に受けながらそれでも歌い続ける、奄美大島から来た少女は間違いなくあのステージにふさわしい存在になっていた。
「もう一度言っていいですか?ようこそ日本武道館へ」
アーティストなら誰もは言いたいであろう言葉、何度言ってもらっても構わない。今日は祝祭なのだ、絶望を抱え生きることが不名誉ではないといえる空間、それを作ったことをもっと誇ってもらっても良い。万雷の拍手がそう伝えていた。
ReoNaの持つ最強の楽曲の一つ「ANIMA」を歌う声も以前より丸く、だが強く、しっかり都芯を持って客席に届く。明らかに歌がうまくなった。ブレスと共に抜くように響くウィスパーボイス、強くなったビブラート、一曲の中で生まれる緩急が聴衆の心の襞に染み渡る。
「今夜はこんなにも
月が、綺麗――――だ―――――」
『月姫』の主人公、遠野志貴のセリフをMCでReoNaが口にしたら、それは「生命線」への前奏曲だ。スクリーンには大きく光る満月、烟るステージでゾクリと命の線が脈を打つ。光と闇、作品世界を焼き付けるように歌い上げたあとに続くのは「Alive」。『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』の主題歌にして、ReoNaのお歌の中でも屈指のスケール感を誇るこの曲が日本武道館という場所で遂に完成したような気がした。強く、優しく、儚く。彼女に対する印象はステージを目撃した人間の数だけあるだろうが、この広く優しいお歌を歌えるようになったのは、絶対にこの数年間の成長あってこそだ。
扉の開く音、4人の男女が踊りだす、赤いベルベットのようなスクリーンの前で影絵のように踊るダンサー、キーボード荒幡亮平が奏でるチェンバロの音、そう、TVアニメ『シャドーハウス』の時間。「ないない」はダンサーとのコラボレーションも含めて蠱惑的に展開される。この流れなら次は「シャル・ウィ・ダンス?」だ。
「今だけはすべてを忘れて、踊りましょう、楽しみましょう」、それを体現するためにMVやアニサマでも同じ空間を作り上げたREAL AKIBA BOYZ、そしてツアーを共に回った学生ダンサーたちも加わり、あの広いステージが狭く感じるくらいの圧巻のパフォーマンスが始まる。ReoNaが最初に踊ると聞いた時は驚きを感じたものだが、客席は全員スタンドアップでReoNaと同じ振り付けを踊っている光景は少しの驚きを感じるくらいだった。上手いも下手もない、ただ一緒に同じことをする。ここ数年忘れそうになっていた一体感。一夜限りのカーニバルのクライマックスはReoNaのタップダンス、そして僅かな微笑み。空虚だった広い天井が熱気とエネルギーで埋まっていく。
あの時もそうだった、2019年10月。Zepp Tokyoで行われた『ReoNa ONE-MAN Live “Birth2019”』広い空間がライブが進んでいく中で埋まっていく感覚。キャパは圧倒的に広がったが、ReoNaの本質は何も変わっていない。
喚起の拍手から空気を変えるように「トウシンダイ」、「虹の彼方に」、そして「Lost」。アニメタイアップという“アニソンシンガー”としての魅力を見せる時間のあとは、ReoNaの持つ孤独と絶望を覗き見る時間だ。「トウシンダイ」の絶望と諦めと許し、鍵盤の調べとお歌だけで作り上げる別れの歌「虹の彼方に」、全編英語詞で歌われる「Lost」は何か大事な人への惜別のようなエモーショナルを感じた。
この4年半でReoNaは様々な別れを体験してきたのだろう。生きている限り、いつかは別れが来る。解ってはいるけど、分かっているつもりでも、その瞬間を迎えた時に必ず後悔と悲しみが襲ってくる。そんな時に寄り添えるように、音楽が側にあるように、ReoNaは歌う。
ただ良い曲だな、と思うだけでも良い、なにか自分のトリガーを引くように思い出のページをめくるのも良い、アニメの主題歌という軸で聴いても良いし、初のアーティストブック『Pilgrim』などで明かされたReoNaのパーソナルに思いを寄せるのも良い。どんな聞き方をしてもReoNaのお歌は求める限り、隣りにある。
バンドメンバーの紹介、そしてツアーの思い出などを語り、「Someday」を歌い出す。「逃げて逢おうね」本ライブのタイトルにもなっている歌詞を持つこの曲は、身近で居てファンタジーでもあるという、ReoNaの精神性と作家である傘村トータが奇跡的にマッチングした一曲。誰もが感動するはずの朝焼けだって、綺麗と思えない時だってある。逃げた先の武道館で高らかに歌う姿を見て、絶望の中にだって出逢いがあることを実感する。
最新2ndフルアルバムの表題曲にもなっている「HUMAN」が終盤のこのポジションで演奏された時、スクリーンにはReoNaという女性の人生が映し出されていた。誕生、子供時代、そしてまだ彼女が「ReoNa」になる前のライブ映像や、リハーサルの映像、写真などが散りばめられている。そこには今は離れてしまった人も、この武道館に居られなかった人も、遠い所へ逝ってしまった人も、全てが居た。みんな笑顔で、全部の真ん中にはReoNaが居た。ReoNaという孤独な少女を中心とした星系のようだと素直に思った。
手前味噌だが、我らSPICEが手掛けた配信ライブ『Songful days』の写真もあった。彼女を形成する一端になれていれば嬉しいと心から思ったし、とてもお世話になった人の写真もあった。今回は編集部一同で取材させてもらったが、あの瞬間は「駄目だよそれは」と全員が涙ぐんでしまった。もう会えないと思った人に、ReoNaが“人として生きていく”お歌を介して再会させてくれた。音楽はこうやって時間も肉体も超えて思いを紡いでいくんだろう。
絶望という言葉には死の影がまとわりつく、ネガティブな言葉を自分のアイデンティティとして掲げるReoNaが、今「HUMAN」で人と生きることを歌い、「VITA」で命を歌う。それは成長なのだろうか?
ReoNaは自身初のオリジナルソング「怪物の歌」でも叫んでいる、「愛をもっと」と。
愛されたい、生きていたい、でもそれを声高に歌っていなかっただけなのだと思う。様々な出会いと別れを繰り返し、数々のステージで歌い続けて、アーティストとしてのリンカーネーションを繰り返して、今だからこそ「命はあなたを忘れない」と言えるのではないだろうか?
生きろとは言わず、死ぬなとも言わず、前を向けとも言わず、ただそこでReoNaは「私はあなたを忘れない」と言ってくれた。言葉を深読みすれば、ReoNaは「ずっと歌いつづける」と表明してくれた。その続く命の物語が、しっかりと『ソードアート・オンライン』の世界観とリンクしているのは、彼女が恐ろしいほどにアニソンシンガーである証明だ。
100名を超えるクワイヤをバックに壮大な世界観を疾走するように歌い上げた「Till the End」にはただ圧倒されるだけ、耳と目を向けて感じていく中で、MCで言っていた「物語はお歌で紡いでいく」という言葉がリフレインする。作品の最大の理解者であろうとするために、最大のファンであるために、ユーザーとのハブになるためにReoNaが選んだのがお歌だ、お歌は彼女の友であり、逃避先であり、優しく守ってくれる毛布であり、最大の武器だ。ステージの誰もがReoNaを後押しするかのように声を、ギターを、ベースを、ドラムを、キーボードを奏でていた。行けという、その先に踏み入れるをReoNaはもう持っている。
最後の一曲は「Rea(s)oN」。「出会ってくれてありがとう」、という言葉とともに奏でられるメロディは優しく、強い。
初めてReoNaのライブを生でちゃんと見たのは2018年7月25日、『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live “AVATAR”』、まだ神崎エルザの力を借りてステージに立っていたReoNaを見て、なんて才能に恵まれ、なんて儚げで壊れそうなアーティストなんだろうと感じた。それを僕はレポートで「ガラスの槍」と表現した。
今回の武道館に際して、別のインタビューの時ReoNaに「私の声はまだガラスの槍ですか?」と聞かれたことがある。武道館を見て、今のReoNaのお歌をどう感じるのか聞かせて下さい。そういう宿題を出されていた。
なかなかにハードルの高い宿題だ、正直一曲目からここまでそのことは全く考えず見ていたのだが、「Rea(s)oN」の一音目でふとそれを思い出した。改めて今日のライブを思い返し、浮かんできた言葉は“風”だった。
もう壊れそうなガラスの槍はそこにはなかった、あの槍は砕けて土と混ざって、そこに吹いている風のようなお歌が今のReoNaだった。
全編を通してReoNaの声は身体を包み込むように僕らに届いていた。信じられないくらい考えて作られた音の良さというのもあるかもしれないが、時に強く、時に優しく、時に凪ぐように、でも止まることのないReoNaのお歌は風のようだ。風は風化した大地を洗い、種子を運び、また帰ってくる。
今日感じた感動や興奮はいつか覚めるかもしれない。そこにはまた絶望も生まれるだろう、でもReoNaという風はまた僕らのシャツをはためかせる。生命に寄り添うように。
最後歌い終わり、「じゃあな!」の言葉とともに少しだけ涙を見せたReoNa。南からやってきて、都会の片隅で刹那を生きていた絶望少女は、人に出会い、人によって、人になれたのかもしれない。
すでに次のアルバムツアーも発表されている、この武道館で終わりじゃない、ReoNaは止まること無く次の絶望に寄り添う旅を始める。風は、きっとまた吹くのだ。
ReoNaさん、あの時の宿題をお返しします。
「ReoNaのお歌は、生命を運ぶ風のようだ」
SPICE アニメ・ゲームジャンル編集長 加東岳史
セットリスト
『ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館~3.6 day』
02.怪物の詩
03.forget-me-not
04.SWEET HURT
05.ANIMA
06.生命線
07.Alive
08.ないない
09シャル・ウィ・ダンス?
10.トウシンダイ
11.虹の彼方に
12.Lost
13.Someday
14.HUMAN
15.VITA
16.Till the End
17.Rea(s)oN
ライブ情報
全国ツアー『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』
5/27(土)福岡国際会議場(福岡県)
5/28(日)大阪国際交流センター・大ホール(大阪府)
6/11(日)名古屋市公会堂(愛知県)
6/24(土)道新ホール(北海道)
7/9(日)電力ホール(宮城県)
7/13(木)LINE CUBE SHIBUYA(東京都)
リリース情報
ReoNa 2ndフルアルバム『HUMAN』
¥6,600(税込)
☆Music Video収録Blu-ray Disc同梱
☆ライブCD同梱
(ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked”Lie at Zepp Haneda(TOKYO) 2022.06.10)
☆撮りおろしフォトブック同梱☆豪華BOX仕様
・初回生産限定盤(CD+BD)
¥4,400(税込)
☆Music Video収録Blu-ray Disc同梱
・通常盤(CD)
¥3,300(税込)
【ReoNaオフィシャルサイト】http://www.reona-reona.com/
【ReoNaOffcial YouTube Channel】https://www.youtube.com/channel/UCyUhtF50BuUjr2jOhxF3IjQ