師匠も弟子も、救い、救われて 新木宏典主演、舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』が開幕 【ゲネプロレポート】
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
温かさが、軽やかに心を駆け抜けていく——。今村翔吾の青春時代小説を原作とした舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』が、2026年8月14日(金)より東京・サンシャイン劇場にて開幕。作・演出は青木豪。主演の新木宏典が、元・最強の忍びにして今は寺子屋の師匠という坂入十蔵を演じる本作の、公開ゲネプロの模様をレポートする。
舞台は明和七年、江戸・日本橋。寺子屋「青義堂」で師匠をつとめる十蔵は、筆子たちに寄り添いながら穏やかな日々を送っていた。だが彼には、かつて凄腕と怖れられた公儀の隠密だったという裏の顔がある。藩を巡る陰謀と忍びたちの不穏な動きが、筆子たち、そして離縁した妻・睦月へと迫るなか、十蔵は再び走り出す。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
肩書としては“元・最強の忍び”のインパクトが強いが、新木の十蔵は、あくまで今を寺子屋の師匠として生きる人物にフォーカスされている。厳しさよりも優しさで包み込むような導き方をする、実に温かく人間味あふれる先生だ。元忍びという前情報から想像していた師匠像よりも、何倍も柔らかな雰囲気をまとっていたのが印象的だった。かつての凄腕ぶりは、決して多くはない立ち回りのなかにしっかりと片鱗をのぞかせ、確かな説得力を持たせている。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
中盤では、十蔵が寺子屋の師匠になるまでの経緯が語られる。そのエピソードそのものが、とても温かい。ここまで観て、だから十蔵はこんな師匠になったのか、と深く腑に落ちる。この場面に限らず、新木は現在と過去を行き来し時間が飛ぶなかでも、ぶれることなく十蔵という一人の男の人生を描き出す。緻密に俯瞰した視線で役に向き合いながら、それでいて驚くほど自然体に、舞台の上でその人物を生きてみせる。新木の役者としての魅力が存分に感じられる役どころだ。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
十蔵は人当たりがよく、よく微笑んでいる。その微笑みの濃淡——裏にそっと包んだ感情が滲み出てくるような繊細な芝居こそ、本作における新木の白眉だろう。十蔵をめぐる状況が刻一刻と変わるなか、その微笑みが決意や苦悩へと変わる瞬間、多くを語らぬ彼の内面が雄弁に立ち上がる。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
その十蔵の心を大きく変えたのが、睦月という女性だ。彩みちるは、カラコロと鈴が鳴るような笑い声でチャーミングな睦月を演じる。可憐に見えてどこかあっけらかんとしており、不思議な強さを感じさせる。笑顔で人を変える力を持った女性、といった佇まいだ。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
そんな睦月との出会いをきっかけに、忍びとして生きてきた十蔵は、人と食卓を囲む喜びを知っていく。本作で幾度も描かれる食事のシーンは、その変化を映す鏡でもある。かつて忍びとして出された食事に決して手をつけなかった男が、なぜ人との食事を楽しめるようになったのか。その心の移ろいは、睦月との出会いとあわせて、本作の大きな見どころのひとつだ。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
そして忘れてはならないのが、十蔵のもとで学ぶ筆子たちの存在。本好きで賢い生駒千織(八木美樹)、剣筋のようにまっすぐな月岡鉄之助(小島歩琉)、商い上手で飄々とした人たらしの丹色吉太郎(大熊蒼空)、手先が器用で憎めない源也(村山暁)。それぞれに魅力的な筆子たちの爆発力が、物語を痛快に動かしていく。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
そして本作が描くのは、師匠が一方的に教え説く物語ではない。物語の後半、これまで筆子たちを守り導いてきた十蔵が、今度は彼らに救われる側へと回る場面が訪れる。しかも、十蔵が自分と長らく切り離してきた過去の経験そのものが、教え子を通じて十蔵自身を救うのだ。教える者と教わる者、その垣根を越えて、師匠も弟子も互いに影響を与え合い、育み合っていく。その温かな循環こそが、この物語をひときわ爽やかなものにしている。
一色洋平が演じる景春は、持ち前の陽の魅力をいかんなく発揮。忍びのなかでも陰寄りと評されてきた十蔵が、陽気な景春とのやりとりを楽しみ、今を悔いなく生きている。そんな様子が、二人が並ぶことで鮮やかに浮かび上がった。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
一方、山本亨、姜暢雄らが、軽やかな空気に確かな重みを与えていく。とりわけ、敵として十蔵の前に立ちはだかる鈴木源之丞を演じる南誉士広は、登場の場面こそ限られるものの、その苦悩を吐露することで、敵役に人間臭さを宿す。彼の振るう剣から感じる物理的な迫力と、感情の重さの両方が、確かに伝わってきた。
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』ゲネプロより
青木豪の演出は全体を通して疾走感があり、テンポがいい。浅草ジンタが手がける音楽と殺陣の相性も実にエンタメ的で、殺陣のシーンにジャジーなナンバーが流れる場面も。忍びならではの戦い方の面白さもあり、飛び道具を用いた多彩な表現でも楽しませてくれる。
夫婦、師弟、そして敵味方。勧善懲悪の物語というよりも、そこに浮かび上がるのは、人と人とのつながりそのものだ。かつて誰とも食卓を囲めなかった男が、いつしか人と笑い合いながら箸をとる。その変化の愛おしさこそ、本作がくれる一番のごちそうだ。約2時間10分、爽やかな青春譚を、ぜひ劇場で味わってほしい。
作・演出:青木豪 コメント
とてもチームワークの良い稽古を重ねて来られまして、遊び心と繊細さを兼ね備えた芝居が出来上がりました。まもなくお客様にお届け出来るのが楽しみでなりません。人も世の中も、悪いところを見ようと思えば果てしなく悪くなるのでしょうけれど、この作品はひたすら人の良いところを見ようとする。すべては心の持ちようなのだと教えてくれます。晴れ晴れとした風の吹く本作が、少しでも多くのお客様に届きますことを祈っております。
出演者コメント
■坂入十蔵役:新木宏典
幕を開けられる事、とても嬉しく思います。
キャストだけでなく、スタッフの皆様のお力添えもあり、稽古を重ねてこられた事に心から感謝申し上げます。
作り上げてきたこの作品と客席に座ってくださったお客様との化学反応を楽しみながら、千秋楽まで挑戦的に、誠心誠意の表現をして参ります。
引き続き応援よろしくお願いします。
■睦月役:彩みちる
いよいよ舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』が幕を開けます。
お稽古を重ねる中で、皆さんと一緒に少しずつ作品が形になっていく時間を、とても大切に過ごしてきました。
私が演じる睦月は、夫・十蔵を信じ、寄り添いながらも、しっかりと自分の心を持っている女性です。
二人の間に流れる愛情を丁寧にお届けできたらと思っています。
劇中で歌わせていただく一曲とともに、睦月として大切に舞台を生きたいと思います。
ぜひ劇場でお楽しみください。
■景春役:一色洋平
「人のために動く方が力が発揮できるし幸せ」というのが、日本人に多い特性なんだそうです。
今作の主人公・十蔵さんもまさにそうである気がして、彼が愛情をかけた人々によって彼自身が救われる様は、どこか「幸せのお手本」を見せてもらっているようで救われます
誰かとご飯を食べる時、その相手をいつもよりちょっとだけ愛おしく思えるような作品です。是非、サンシャインシティでのお食事とも併せて、楽しんでいって下さい。
■生駒千織役:八木美樹
ついに幕が開くと思うと、本当に嬉しい気持ちと楽しみでいっぱいです!
千織ちゃんの素直さやおてんばな姿を最大限、皆様にお届けできるように、精一杯頑張ります。
稽古を重ねる中で、座組の団結力や一体感もより増したと思うので、最後までみんなで楽しみながら、最高の舞台を作り上げていきたいと思います!
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』お楽しみに〜!
劇場でお待ちしております!
■月岡鉄之助役:小島歩琉
今回が初めての舞台出演になりますので、無事に本番を迎えられることへの感謝とワクワクする気持ちでいっぱいです。稽古を重ねる中で見える景色など全てが、これまで経験したことのないもので、毎日がとても新鮮でした。初めてだからこそ感じられるものを大切に、一回一回の公演を全力で楽しみながら、皆様に作品の魅力を届けられるよう精一杯演じます。ぜひ劇場でお楽しみください!
■丹色吉太郎役:大熊蒼空
ついに開幕です!
このような素敵な作品をサンシャイン劇場という素敵な場所でさせていただけること、光栄に思います!
作品通して描かれる「信じる」こと。どうすれば伝わるのか、たくさん考えて臨んだ稽古期間でした。僕が演じる吉太郎は、役の中でも特に陽気な子です!
その明るさや元気を皆様に届けられるように毎公演全力で挑みます! 劇場でお待ちしております!
■源也役:村上暁
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』いよいよ開幕ということで、とてもワクワクしております。稽古期間を経て、本作への想いがより一層増し、躍動感のある殺陣も相まって、多くの方の心に響く青春時代劇になったと思います。この作品の魅力を最大限、お客様にお届けできるように、一つひとつ魂を込めて演じさせていただきます!
ぜひ劇場にお越しくださいませ!
■求馬役:久保田直樹
この舞台では沢山の初めてのことに挑戦させていただきました。劇場に入り、改めてカンパニーの皆さんに支えられてこの作品に参加できていることを強く感じています。一丸となり駆け抜けて参りました。この夏にふさわしいエンターテイメントをお届けできると思いますので、是非劇場にお越しください!
■吾妻兵部衛役:鈴木幸二
原作の小説の感動を、ギュッと2時間 10分に凝縮!
過去を背負いながら、必死に人間らしく生きる十蔵。天真爛漫で元気いっぱいの筆子たち。その師匠と子どもたちとの温かく、深い絆。
切ない運命に翻弄され、父の想いを胸に美しく生きる睦月。
忍として生きる者、生きてきた者たちの煩悶、むなしさ。双方がぶつかり合う激しい闘い。
語り尽くせません!ぜひ劇場にて観劇していただきたく存じます!
■丹色福助役:伊与勢我無
舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』いよいよ開幕です。
原作の今村さん、作・演出の青木さん始め、キャスト、スタッフ一同で幅広い年代の方に楽しんでいただける作品が出来上がったと思っております!
残暑を吹っ飛ばす疾走感のある舞台です、是非とも池袋でお待ちしております!
■鈴木源之丞役:南誉士広
いよいよ開幕です。まずは無事に幕を開けられたこと、関係各位に心より感謝いたします。全20公演、新鮮かつ人の機微を大切にしながら、目の前の人と向き合っていきたいと思います。見どころは、なんといってもフレッシュな四人の筆子たち。お世話になっている先生のために一生懸命奔走する彼らの姿に、きっと心を動かされるはずです。
劇場でお待ちしております。
■坂入九兵衛役:姜暢雄
無事に初日を迎えられる喜びと、この素晴らしい作品を皆様と分かち合える事が出来る日々が始まるという期待に興奮を隠しきれません。
いつの時代も、人を、仲間を『信じる』という事が大事であると僕自身も作品を通じて稽古を重ね日々学んでおります。是非是非、仲間、家族、友人、勿論お一人様でも、足を運んで頂けたら幸いです。
暑い夏の清々しい風を感じて頂きたいです。劇場でお待ちしております。
■大平剛造役:山本亨
いよいよ幕が開きます! 舞台『てらこや青義堂 師匠、走る』!
演出・青木豪さんのもと、スタッフ・キャスト全員で一丸となり稽古に汗を流してきました。
出演者の一人ひとりが魅力に満ち溢れています。原作のファンの方にも自信を持ってお届け出来ると確信しております。
是非、サンシャイン劇場にお越しくださいませ。
お待ちしております!
取材・文・撮影=双海しお