紅ゆずる、寺坂頼我、原作・堀本裕樹が語る季語の魅力やドラマ『俳句先輩』の見どころ
2023年3月27日(月)から放送される「日テレプラス」と「ひかりTV」の共同制作ドラマ『俳句先輩』。
人気俳人・堀本裕樹の『春夏秋冬 雑談の達人』を原作に、美しいビジュアルと美しい言葉で俳句や季語の魅力を届ける本作の主役・俳句先輩を演じるのは、元宝塚歌劇トップスター・紅ゆずる。 先輩に興味を持つ「男子くん」を寺坂頼我、俳句好きでな「女子ちゃん」を三原羽衣が演じるほか、俳優で俳人の小倉一郎も参加し、解説を行う(「ひかりTVチャンネル」では男子くん、女子ちゃん目線のシーンを加えた『俳句先輩〜暦を知りゆく者編〜』も放送)。
放送に先駆けて、第1話の試写会とトークショーが行われた。
※試写会のレポート、トークショーの内容に一部ネタバレを含みます。
第1話では、この時期にぴったりな春の季語がいくつも紹介される。春らしい言葉だけでなく、ちょっと意外な言葉や「それもあり?」と思うような季語もあるのだが、寺坂演じる男子くんが疑問を代弁してくれるため、俳句初心者でもとっつきやすい。
俳句先輩を演じる紅は、季語に対する愛ゆえの暴走をコミカルに演じ、格好良さと可愛さを見せてくれる。さらに、外ではスマートなスーツでビシッと決めて英字新聞を読んだりもする先輩だが、情緒ある木造の家に住み、オフはメガネ姿で大阪弁。そのギャップも魅力的だ。
寺坂はちょっぴり無粋な男子くんを愛嬌たっぷりに演じており、元気いっぱいな言動が可愛らしい。先輩と男子くんのコミカルなやり取りが楽しいだけでなく、紹介された季語を使った句が作中に登場したり、本編終了後に深掘りがあったり。楽しみながら自然と俳句や季語について学ぶことができ、「もっと知りたい」とワクワクさせてくれた。
また、俳句先輩の飼い猫・暦を演じる小倉のユーモラスな芝居、女子ちゃん役の三原の男子くんに対する塩対応も楽しく、二話以降や『俳句先輩〜暦を知りゆく者編〜』にも期待が高まる。
試写会後のトークショーには、俳句先輩役の紅ゆずる、男子くん役の寺坂頼我、原作者で俳人の堀本裕樹が登壇した。
――まずは完成したドラマをご覧になった感想をお願いします。
紅:映像作品の経験があまりなく、すごく不思議な気持ちでしたが、画面に映る自分を見て「次はもっとこうしてみよう、こういうことがしたいな」とすごく思いました。私は(今回の「春」に続き)「夏」があると思っているので、今後の糧にしたいです。あと、編集や効果音のおかげですごく見やすくなっているので大変感謝しています。
――紅さんは今回ドラマ初主演ですね。
紅:(宝塚の)現役中にすごく感じたことですが、主演と思いすぎると失敗するんですよ。気負わず、皆さんと一緒にいいものを作る、高みを目指すことを心がけました。
寺坂:現場でも「こうしたいんですけどどうですか」という質問をたくさんされていて、さすがだと思いました。映像経験があまりないとおっしゃられましたが、僕が勉強することだらけでした。
――寺坂さんは、完成したドラマを拝見していかがでしたか?
寺坂:めちゃくちゃ面白かったです。物語を知った上で見ましたが、笑えるところもたくさんあるコミカルな作風で、自分でも元気が出るしエネルギーをもらえる作品。男子くんを演じることができてよかったと思いました。
紅:男子くんがハマるよね。ピュアでまっすぐなところがあってる。
堀本:そう思いますね。ぴったりでした。
寺坂:原作と比べてどうだろうと思ったんですけど、監督から「自然体で大丈夫だから」って言われて、わりと自分のままでやりました。
――原作の堀本先生としてはどのようにご覧になりましたか。
堀本:本当に面白かったです。原作はここまでコメディタッチではなくもう少しクールな感じですが、脚本としてコメディ要素を入れてもらい、お二人のキャラクターでぐいぐい見せていくというか。漫才みたいな部分が面白いですよね。そこに猫の暦(小倉一郎)がすごいインパクトで出てくる。セリフが一つひとつ面白くて、なおかつ季語もきちんと伝えてくれる。俳句先輩は謎のキャラですが、季語に命をかけているのが伝わってきて面白いし勉強になりますよね。
紅:俳句ってちょっと堅いイメージがあるんですよ。でも、コメディって見る方との距離がとても近くなる。そういう要素を作っていくのは楽しかったですね。
堀本:コメディタッチでやってくれることで、俳句や季語を身近に感じていただける。それが原作者としては嬉しかったです。
紅:俳句できたらかっこいいですよね。
寺坂:僕、現場で小倉さんに自作の俳句を伝えたらへっぽこ俳句って言われました。「梅で作ってみて」って言われて「梅を見た 心で素直に 綺麗だな」って(笑)。
一同:(笑)。
寺坂:でもチャレンジすることが大事なので!
紅:私は宝塚の試験で、別に特技の欄はないのに自分からアピールして俳句を詠みました。しかも言おうと思っていた俳句を直前に忘れてしまって、レッスンの先生に「下を向くと自信がなく見えるから上を向いていなさい」と言われたのでのけぞり返って考えて、ようやく思い出した季語のないへっぽこ俳句、「明日の朝 嬉し涙か 悔し泣き」を何回も言って先生方に「もう大丈夫だよ、受かりたいんだね」と言われて「はい!」って(笑)。
寺坂:それは合格にしちゃいますね(笑)。
紅ゆずる
――先ほどお話に出た小倉さん、女子ちゃん役の三原羽衣さんについてお聞きしたいです。
紅:小倉さんは暦の前髪をすごく気にされていて、最終的にスタイリストさんにガチガチに固められていました。かっこいい猫ちゃんになってよかったです。
寺坂:何歳になってもチャレンジする精神がすごいなと思います。猫の声もいろんな表現をされていて。
紅:最初は効果音だけの予定だったのに、一緒に「にゃー」って言ってるもんね。あとこの間小倉さんとお話ししていたら、「宝塚のこの演出家知ってる?」と聞かれて。よくよく聞いたら、私がすごくお世話になっている先生が小倉さんの後輩で、しかも小倉さんの後押しで宝塚に入ったそうなんです。すごいなと思いました。
寺坂:三原さん演じる女子ちゃんは、僕が演じる男子くんとの絡みが多いんです。とあるシーンで、男子くんのコミカルな芝居を多分素で気持ち悪がってくれて、セリフが飛んでいました(笑)。そういうシーンなので嬉しかったですね。
一同:(笑)。
寺坂頼我
――エンドロールに綺咲愛里さんのお名前がありました。
紅:私も知らなかったので、現場でびっくりしました。その日の夜に連絡して「この間会った時は言ってなかったのに」と言ったら「言っちゃいけないと思って」と。女優やなと思いました(笑)。
――役作りで心掛けた点はありますか?
紅:俳句先輩は家と外でのギャップがすごい人なのでそこを見せるのは絶対ですが、(外での姿を)とても堅物な人として演じるか、俳句が大好きでちょっとネジの外れた人として演じるかを考えました。俳句先輩自身、エネルギーの緩急を自分でコントロールできないんじゃないかと思ったので、最終的には行くところまで行ってふと我に返るみたいな部分を滑稽で可愛く思ってもらえたらいいなという方向で役作りをしました。あとは頼ちゃん(寺坂)と羽衣ちゃんと小倉さんと一緒に芝居をする中で自分の役が固まっていきましたね。舞台と違って順番通りに進むわけではないので、時間経過や感情の流れなどもすごく考えました。
寺坂:本読みの前から、監督とかと色々お話しされていましたよね。
紅:どうしたいか聞いてくださったので、「私はこうしてみたい」というのをぶわーっとお話しして進めました。1回撮るとそのシーンは二度とやらないので、「もっとこうすればよかった」と思いたくなくて。集中力がすごく必要だと感じましたね。
寺坂:男子くんのキャラクターを作る上で、常に元気でいようと心掛けていました。朝も早起きして「よっしゃー!」と気合いを入れて、その日の台詞をおさらいしたりストレッチをしたり。紅さんもおっしゃったように集中力が大事なので、体の面から気をつけました。あとは作中で男子くんのオリジナルソングがたくさん登場します。脚本で「どこだ、どこだ♪」と書いてある部分に節をつけました。初めての作曲はやっぱり大変でしたね(笑)。
――堀本先生に、一話で登場した季語の解説をお願いしたいです。
堀本:解説は作中で紅さんが全部してくださったので特にないんですが、見ていて面白かったのが菜飯や緑だらけのお弁当。俳人ですがあんな季語だらけの弁当は食べたことがありません(笑)。あとは季語だらけなので俳人ならではのツッコミをしながら見ました。例えば「春炬燵」という季語。「炬燵」は冬の季語だけど、「春」をつけると春の季語になる。男子くんの「ずるい」って言うツッコミがいいなと(笑)。東北などは立春後も寒くて炬燵を出したままだったりしますが、それを「春炬燵」と季語にして詠む俳人の感性が面白いと思います。ドラマに出てきた「春寒」も、「寒し(き)」だけだと冬の季語。これもちょっとずるい感じがしますが、逆に日本の季節の繊細さを表していますよね。
堀本裕樹
この日の試写会には抽選で当たったファンの方も参加し、質疑応答が行われた。
お気に入りの季語を聞かれると、寺坂は「“麗か”が素敵だと思います。春の暖かさや気持ちよさを表すのに一番適切だし、言えたらかっこいいなって」と話し、この日も歳時記を読んでいたという紅は「三つあって、“春愁、春思、春恨”。春の憂鬱さというか、なんとなく心が憂いを帯びる感じ。季節によって人間が揺さぶられている感じが好きです。そういう時って思いもよらない感情が生まれたりしてマジックアワーのような気がする」と語る。
堀本が「蛙の目借時」と話すと、紅と寺坂は「?」と不思議そうな顔に。「蛙に目を借りられて眠くなるという、春眠暁を覚えずと同じ意味の言葉です。俳句をやっていないと知らない季語ですよね。僕の句で「蛙の目借時 テナント募集中」というのがある」と聞いて、二人は「面白い!」と盛り上がる。
続いて、せっかくなので紅と寺坂に俳句を詠んで欲しいというリクエストを受け、堀本がお題として「猫の恋・恋猫」という春の季語を提示。
すぐに手をあげた寺坂は「猫の恋 片目で見たよ 羨ましい」と詠み、「猫がいちゃついているのを、目を細めながら見る独身男性の切ない心情です」と解説する。堀本が「一瞬で出てきたものとしては中々いい。花丸ですね!」と感心すると、寺坂は大喜びし、紅は「プレッシャーがすごい」と言いながら「猫になる いつか私も猫の恋」と詠み、「猫の恋という季語は、猫自体が恋をしている。私もいつか猫のような純粋な恋がしたいなという思いで詠みました」と話す。堀本は「リフレインで同じ言葉を2回使うのは難しいんです。でも紅さんはちゃんと意味深く使っていたので特選です!」と太鼓判を押した。
最後にコメントを求められ、堀本は「原作とは違った趣に仕上がっており、コミカルな中に季語のことをしっかり盛り込んでいただいています。ぜひこのドラマを見て、俳句や季語のことをもっと知っていただけたら、原作者としてはとても嬉しいです」と期待を寄せる。
寺坂は「このドラマを見るとみなさんが暮らしている場所や国をもっと好きになってもらえると思いますし、映像で見ている方や文字で読んでいる方にもこの国のことを知ってもらえるきっかけになると思います。いろんなパターンを見ると登場するキャラクターのことをもっともっと愛していただけるんじゃないかと思うので、ぜひチェックしてください!」と、「ひかりTVチャンネル」で放送される『俳句先輩〜暦を知りゆく者編〜』もアピール。
紅は「この『俳句先輩』というドラマは、春夏秋冬をとても大切にしており、今回は春がテーマです。今はPCや携帯、色々なデジタル機器が溢れていて、みんなそればかり見ていますが、昔の人は山や空を見てその美しさを詠んでいました。私たち演者も、空を見て美しいと思える心がないといけないと宝塚で学んできました。些細なことかもしれませんが、それに気付けるのは人として大切なことだと感じます。「これも季語だったんだ」というところから季節の移り変わりや自分の感情に気付いていただけたら。このドラマで俳句を身近に感じ、日々の暮らしに役立てていただけると思いますので、どうぞよろしくお願いします」と締めくくった。