「みんなで何かをやる楽しさを感じてほしい」EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』座談会
(左から)ぎたろー、異儀田夏葉、渡邊りょう
俳優・小沢道成による演劇プロジェクト・EPOCH MANの新作は、5人の俳優と1体のパペットによる父と母と息子の物語。
いなくなった父を探しに家を出た少年・星太郎(しょうたろう)に扮するのは、半ズボン姿のパペット。そして、星太郎を追いかけ街を訪ね歩く母・陽子を池谷のぶえが演じる。
父の足取りを辿る星太郎。そこで出会う、ちょっと個性的で、ちょっとお節介で、とっても優しい人々には、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろーという3人の俳優が配された。
命なきパペットが紡ぐ命の物語はどんな結末を迎えるのか。渡邊、異儀田、ぎたろーの3人に作品の魅力を語ってもらった。
みっちーがなんで僕を呼んでくれたのかわからない(笑)
ーー渡邊さんと異儀田さんは、小沢さんと面識があったと聞いていますが、ぎたろーさんは今回が初めましてなんですよね。
ぎたろー:そうですね。舞台上のみっちーを観たことはあるんですけど、話したことはなくて。だから今回、なんで僕を呼んでくれたのかさっぱりわからない(笑)。たぶんみっちーの知り合いに体の大きい人がいなかったんじゃない?(笑)
異儀田:いるよ(笑)。
ぎたろー:いないんだって。誰か浮かぶ?
異儀田:(劇団ブラジルの)辰巳智秋さんでしょ。
ぎたろー:辰巳さんは動けるし、お芝居もうまいし。辰巳さんと比べられたら僕が困る(笑)。あ、だから結局はこっちじゃない?(と、お金のポーズ)
異儀田:なんでそんなこと言うのよ!(笑)
ぎたろー:たぶん最初に辰巳さんにオファーしてダメで。次に駒木根(隆介)くんにオファーしてダメで。
異儀田:3番手ってこと?
渡邊:でも激戦区の3番手じゃないですか。
ぎたろー:そう。2人はもう売れてるから、他に誰か体の大きい人いないかなってことで、僕に。
異儀田:なんでそんな卑屈なこと言うの(笑)。
ぎたろー:だって2人は前からよく知ってる仲なんでしょ?
異儀田:と言っても、私も2回会ったくらい。1回飲んで、もう1回は一緒にピクニックに行った。
ぎたろー:ピクニック?
異儀田:そう。(中村)中ちゃんもいて、公園でレジャーシート広げて、そこで飲んで。
渡邊:僕は知り合ったのは結構前ですけど、みっちーの作品に出させてもらったことはなくて。なんなら僕も何番手だろうなとは思っています(笑)。
異儀田:ちょっと、やめなさい(笑)。
(左から)ぎたろー、異儀田夏葉、渡邊りょう
初めて台本を読んだとき、ちょっと泣いちゃいました
ーー台本を読んだ感想を聞かせてください。
ぎたろー:すごいいいホンだよね。
渡邊:僕、初めて読んだとき、ちょっと泣いちゃいました。
異儀田:私も。
渡邊:普段あんまりホンで泣くことはないんですけど、最後の一連はグッと来ましたね。
異儀田:読後感がヤバかったよね。読んですぐみっちーに電話して、感想を言ったりとかして。
渡邊:僕もLINE送りました。素敵な話でした、関われて良かったですって。
異儀田:これはいい作品になるだろうなって思った。(ぎたろーに)……え? 逆に泣いてないの?
ぎたろー:もうこの流れは俺が泣いていようが泣いていまいが、泣いたって言うしかないじゃん!(笑)
異儀田:いやいや、嘘はつかなくていい(笑)。
ぎたろー:いや、でも本当にお世辞抜きで良かった。僕、今回、おばあちゃん役なんですけど、実は今、義理のおばあちゃんと一緒に住んでて。台本に書かれているエピソードと近いことがうちにもあって、みっちーすごいなって思いました。
ぎたろー
ーー小沢さんの書くホンは、世の中でうまく生きていけない人がよく出てくるんですけど、その人たちに対する眼差しが愛情深いというか優しいんですよね。
異儀田:寄り添ってくれる感じがしますよね、みっちーのホンは。
ぎたろー:面白いなと思ったのが、このお話っていろんな仲間と出会って、その人たちがどんどん世話を焼いていくじゃない? そこが、ある意味、今と逆行してるなって。特にコロナ禍以降、つながれないことがメインテーマになってる演劇が多い中、このホンは強制的にみんながガツガツつながっていく。
異儀田:みんな、つながりに欠乏しているんだよね。だから、つながろうとする。
ぎたろー:そこが面白いなって。僕が所属しているコンドルズは社会的なテーマを作品中に取り入れるんだけど。5月末にやった『POP LIFE』という新作はその要素が少なく、楽しいことを共有するPOPさの強い作品で、お客さんからの評判がすごく良かったの。もしかしたら、今、世の中の人もみんなで楽しさを共有したい欲みたいなのがあるのかなと思った。
渡邊:コロナでコミュニケーションを強制的に遮断された時期があって。その反動から来る熱量みたいなのがあるのかもしれないですね。
ぎたろー:もちろんこの作品はただただ楽しいだけのお話ではないけど、お客さんも含めてみんなでひとつのものをえいやってつくり上げるようなところはあると思うから、そういう共有したい欲には応えられる作品なんじゃないかなとは思う。
異儀田:共同作業感がすごいよね。お客さんに想像で補ってもらわなきゃいけないところがたくさんある。
ぎたろー:今どき珍しいぐらい演劇的な嘘が散りばめられていて。お客さんに参加して、信じてもらわないと成立しない。演劇の力を信じている作品だなって思う。
パペットとのお芝居は、なりきるより寄り添う感覚が近い
ーーパペットが登場人物として舞台上に存在するなんて、まさに演劇だからできることです。
異儀田:まだ試行錯誤の段階ではあるんですけど、一緒にお芝居をしていて、ちゃんと子どもに見える瞬間があるんですよ。そこが面白いですね。
渡邊:パペットを使うと言っても、普段から人形劇を専門でやられている人には絶対かなわない。だからこそ、そうではない方法を模索している感じはしますよね。みっちーが「星太郎に対するさわり方から新しい関係性が生まれてくるんじゃないか」ということを言ってて。そういうところから星太郎という人間に体温をつけられたらと考えています。
異儀田:不思議だよね。確かにパペットの操作は役者がやるんだけど、だからと言って星太郎になりきるって感じじゃないの。一緒に生きているというか、寄り添うという方が感覚は近いかも。
渡邊:人間に見えた方がいいところもあれば、パペットらしくあった方がいいところもあったりもするし。関係性や場面ごとでいろんな見え方がしそうだなという気がします。
ーーぎたろーさんはパペットについていかがですか。
ぎたろー:……パペットマペット。
(冷たい時が流れる)
渡邊:この内容を文字おこしのためにあとでもう1回聞くライターさんの身になってください。絶対舌打ちしてますよ。
ぎたろー:すみませんでした! 真面目に話すと、パペットと本気で向き合おうとすると、対人間同士よりも強い働きかけをしなくちゃいけないんだというのは感じていますね。役者と役者でやったらさ、別に手は抜かないけど、極端な話、どっかで油断してるときもあるじゃん?
異儀田:そうだね。どうにか伝わるだろうってどっかで思ってるもんね。
ぎたろー:でもパペットは動かないしリアクションもしないから、伝えるということをちゃんとやらなくちゃいけない。もしこれでお客さんから星太郎が人間に見えないって言われたら、僕らの負け。だから、そこはもう何としてもこの子が生きてるように見える努力をしないとなって。
渡邊:いいこと言いますね、ぎたろーさん。
異儀田:本当。パペットマペットとか言わなきゃいいのに(笑)。
異儀田夏葉
死が怖いものではないと教えてくれたのが、父だった
ーーホンを読んで「死」について考えました。みなさんはこれまで「死」について考えたことはありますか。
渡邊:僕はそればっかり考えていましたね。と言うのも、僕は父親が40歳のときの子で。両親が高齢ということもあって、未来ってどうなるんだろうということを常に考える子どもだったんですよ。死というものもすごくネガティブに捉えていました。
ぎたろー:僕も小学生の頃はめちゃめちゃ恐怖でした。要は、死んだ先どうなるかって誰もわからないじゃない? そのわからないっていうことがどうしようもなく怖かった。
渡邊:自分が死ぬっていうこともそうだけど、周りの人がいなくなっちゃうことに対して恐怖を感じていましたね。
ぎたろー:ちょうど30歳になる手前ぐらいで同級生が亡くなったんですよ。それも自死だったんですけど。実は僕、その1ヶ月前くらいにその友達から着信が来ていて。あとで折り返したんだけど、結局つながらなくてそのままで。あのとき、電話をとっておけば、っていうのはすごい考えましたね。
異儀田:後悔してもし足りないね、それは……。
ぎたろー:自分と同い年の人間が亡くなるなんてまだ想定していなかったから、やっぱりショックだった。きっと星太郎もお父さんがいなくなるなんて考えていなかったから受け入れられないんだろうなって。
異儀田:私も実は友達を亡くしていて。その子のお葬式に行ったときに、お父様が亡骸に向かって「会いたいよ」って言ったんですよ。そこにその子はいるけど、もうこの人にとってはいないんだと思って、それはなんか強烈に覚えている。
ぎたろー:なるほど。
異儀田:結局死ぬって会えないということなんだなって。仲違いしても、いつかまた会えるかもしれないけど、死んだらもう会えない。その圧倒的な会えなさが悲しいなって思った。
渡邊:僕は死に対してずっと怖いイメージがあったんだけど、その恐怖をなくしてくれたのは、父が亡くなったときだったんです。
ぎたろー:お父様はいくつぐらいのときに?
渡邊:僕が25くらいだったから、65かな。その2年前くらいからずっと体を悪くしていて、もういよいよ危ないかもしれないと連絡を受けて、それで実家にきょうだいがみんな集まったんです。父が亡くなるまでずっとそばにいさせてもらって。時間をかけて父の死と向き合えたからか、なんか幸せな感じがして。もちろん苦しそうな場面もあったけど、みんなに見守られて、最後はあっさり逝って。すごく泣いたけど、こういう死に方っていいなと思えたからこそ、死をそこまで悪いものじゃないと思えるようになった。そのことについて父には今も感謝しています。
異儀田:そうやってみんなに見守られて、というのは幸せなことだと思う。私のおばあちゃんはコロナ禍で亡くなっちゃったから、すごく人気者だったのに、ごく近い身内4人だけで見送ることになって。もっとみんなで見送れたら良かったのになっていまだに思う。
渡邊:父を亡くして知ったんですけど、人って最初に忘れるのが声なんですよね。顔は写真が残るから覚えていられるけど、声って映像とかない限り残らないから、どんどん忘れていく。でも、父が亡くなって3年後くらいに母が押し入れを整理していたら、テープが出てきて。昔ってよく好きな曲をテープに録音してたじゃないですか。それで、母が聴き返していたら、途中で父の「何してんだ」という声が入っていたそうなんです。
異儀田:喋ってたのが入ってたんだ。
渡邊:そうなんです。で、母も母で「もう! 今録音してるのに」みたいなことを言っていて。何か記念にって特別に残したものではなくて、何気ない日常のものだからこそ見える父と母の関係みたいなのも感じられて。きっとこれはお父さんが残してくれたんだねなんてことを話していました。
渡邊りょう
演劇を観たことがない人にもフラットに来てもらえたら
ーー基本的に小沢さんの作品はお客さんを選ばないというか、どなたでも楽しめるものですが、一方で演劇って観終わったあとに「自分はこの作品に呼ばれたんだ」と感じるような運命的な出会いもあったりして。そんなふうに、今どういうことを考えている人とか、どういう状況にいる人がこの作品と出会ったら幸せなんじゃないかと思いますか。
ぎたろー:演劇を見る環境にない子どもたちが観てくれたらいいなと思います。僕の奥さんが、親がいなかったり、親から虐待された子どもたちが暮らす児童養護施設で働いていて。中には、学校に行くこと自体が難しい子もいるらしいんですね。この作品が、そんな子どもたちが外に出るきっかけになったらなんていうのは、おこがましいかもしれないけど、思いますね。
渡邊:これはエゴかもしれないけど、今、独りだったり、人とあんまりふれ合えていない人たちが、この作品を観たらどういうふうに見てくれるのかなと思いますね。
異儀田:今まで演劇を観たことがない人とかね。
渡邊:カップルとかね。「演劇? 高えよ!」っていう人たちがどう見てくれんのかなっていうのは気になります。
異儀田:デートに使ってほしい。私、この間、韓国でミュージカルを観たんですけど、超カップルが多いの。カップルで演劇を観る文化がちゃんと根づいてる感じがした。演劇がすごく身近な感じがしていいなと思ったので、そんなふうにフラットに来てくれたらうれしいですね。
ぎたろー:じゃあさ、せっかく宇宙の話だし、GoogleMapでその期間だけ劇場の新宿シアタートップスがプラネタリウムって表示されるようにしようよ(笑)。
異儀田:で、プラネタリウムと間違ってきたカップルが入ってくるんだ(笑)。
(左から)ぎたろー、異儀田夏葉、渡邊りょう
ーー最新の映像テクノロジーを使った演出も注目のポイントです。
ぎたろー:50cm×50cmのLEDパネルを150枚近く使って宇宙をつくり出すんでしょ。すごいよ、きっと。
異儀田:圧巻だよね。
ぎたろー:すごい作品だよね。最新の技術を使ってさ。
異儀田:それとは真逆のパペットのアナログ感もあって。
渡邊:で、3番手の俳優たちがいる(笑)。
異儀田:いいよ、もうそれは!(笑)
ぎたろー:僕はいつも思うんですけど、演劇って全部は覚えてなくてもいいと思うんですよ。あらすじは何も思い出せないのに、あの一瞬のシーンが素敵だったんだよねっていうのが意外に残ってたりするじゃない?
異儀田:わかります。
ぎたろー:僕も第三舞台の『朝日のような夕日をつれて』の群ゼリ(大勢の役者が揃えて台詞を言うこと)のシーンとか、惑星ピスタチオのみんなで巨大なアリをつくるシーンとか、よくわからないけど、すごい楽しそうっていう瞬間に惹かれて、この世界に入ったようなものだから。みんなで何かをやるのって楽しいなっていうのが演劇から教わったこと。1人で楽しめるものが増えてる時代だからこそ、みんなで何かをやる楽しさを一緒に体験してほしいです。
(左から)ぎたろー、異儀田夏葉、渡邊りょう
取材・文=横川良明 撮影=山岸和人
公演情報
日程:2023年8月2日(水)〜8月13日(日)
会場:新宿シアタートップス
作・演出・美術:小沢道成
出演:池谷のぶえ 渡邊りょう 異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成
お問合せ:epochman.info@gmail.com
Twitter:@MichinariOzawa
YouTube:https://www.youtube.com/c/EPOCHMAN
後援:ニッポン放送
主催:EPOCH MAN