高松亜衣「自分にはヴァイオリンしかない」 殻を破り決意新たに~「悪魔」をテーマに三都市ツアー開催へ 

インタビュー
クラシック
2023.8.21

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ヴァイオリニスト高松亜衣が、2023年9月、名古屋・神戸・東京の三都市を回るリサイタルツアーを開催する。

東京藝術大学卒で、全国でのコンサートや多数のCD録音などを行いつつ、YouTubeなどのオンラインでの活動にも精力的に取り組んでいるヴァイオリニスト・高松亜衣。
今年2月、オリジナル曲『PRISM』をメインとするプログラムで東京・名古屋・大阪の三都を回ってから約半年。9月に開催する本ツアーでは、メインビジュアルで高松が漆黒のドレスに身を包み、イタリア語で「悪魔」を意味する “Diavolo” をタイトルを持つように、「悪魔」をテーマにした楽曲を演奏予定で、彩りが大きく変わる内容だ。前回ツアーからの半年間、またヴァイオリニストとしての活動への思い、そして本ツアーに向けた今の心境を語ってもらった。

――前回の三都ツアー『PRISM』から半年が経ちますが、今年はどんな1年ですか?

今は「殻に閉じこもらない」というのを大事にしています。

大学卒業後1年半位までは、ヴァイオリンで仕事をするためにできることを全部やるという気持ちでした。でも少しずつ安定して弾かせてもらえるようになってくると、続けるために始めたことなのに逆に「いつまで続ければいいんだろう」みたいな気持ちになったんです。
多分それは、やりたい・やりたくないの前に、どう見えるか・どう思われるかを考えすぎてたと思うんです。そんな中で、「3年ごときで何をへこたれてるんだ」「もっと頑張れよ自分」と思うようになって、ちょうど前回のツアーが終わった頃から閉じこもっていた殻を破ろうと吹っ切れて今に至っています。

――8月にはご自身で企画した公演も開催されますね。

やりたい気持ちに素直に従って決めました(笑)。
子供の時から、発表会が終わると悲しくて泣くくらいにはコンサートが好きでした。コンサートが好きでヴァイオリンをやっていた、と言える位でした。
“殻に閉じこもらない”ためにも、コンサートはやりたい時にやろうと決めました。

――大学を卒業してヴァイオリニストとしての活動も3年を迎えますが、これまでを振り返っていかがですか?

ここまでヴァイオリンを続けて来れたからヴァイオリニストをやっている、という部分はあると思います。

子どもの頃からコンサートを自宅で開いたり、中学ではレッスンで松本まで通ったりとヴァイオリンはたくさんやってました。自分のアイデンティティが音楽だと思ってはいたものの、将来への不安から音楽高校を受けるのを決めたのは、受験直前のギリギリのタイミングでした。
無事に音楽高校に受かって高校も楽しむ内に、レベルの高い音楽を目指すために東京芸術大学を受けることを決めました。ヴァイオリニストとして生きていく大変さは分かっていたので、「芸大に現役で行けなかったら辞めよう」と思って受けたんです。
そうして入った芸大では、周りがみんな上手で私自身もコンクールの成績が思うようにならず「辞めようか」と思う機会がありました。そんな時、普段はほとんどやらなかったSNSを始めてみてヴァイオリンを続ける道が開けたんです。

そうやって考えると、今続けていることが不思議でもあります。ヴァイオリンは“続けられない理由ができたら諦める”と思ってたのですが、その分かれ道でずっと道が開けてきたからここまで続けてこれました。

でも、ずっと悩み続けるのかも知れないです。これまでもずっとどこかで悩んできてて。
ヴァイオリンを弾くこと自体には、そんなに自信がないんです。周りにはもっと上手い人がいる!と思うことも多くて、褒められても素直に受け入れられない時もまだあります。

――そんな中でも、ここまで続けられた原動力は何ですか?

自分にはヴァイオリンしかない、と思っているからかもしれないです。
最近は社会の役に立ちたい、と思ったりもします。自分の中で一番得意なものがヴァイオリンだから、これを何かに活かしたい、と思うんです。

あと、人の作った音楽が好きなんだと最近気づくようになりました。
元々人のことを知るのが好きなんですけど、クラシック音楽の場合は、どういう風に思ってこの曲を作ったのか、この部分はどうしてこうなっているのか、などを読み解かないといけなくて。まさにこういう、演奏する曲のことを知ることが好きなんじゃないかな、と。

そして、そうやって見つけたものを、「この曲って凄いよね」とか「こんなところ、良いと思わない?」とか、そうやって伝えていけたら良いなと思っています。聴いている人の立場も忘れないようにしながら、良さを届ける演奏をしていきたく思っています。

――今回のコンサートのテーマは『悪魔』ということで、『PRISM』からは大きく雰囲気が変わりますが、どのように楽曲は決められたんですか?

今回のプログラムは、ヴィエニャフスキの『ファウストの主題による幻想曲(以下『ファウスト』)』を中心に、ずっと温めていたものです。

ヴィエニャフスキの『ファウスト』は、ヴァイオリンの曲で一番好きな曲なんです。
初めて聴いたのは高校生の時で、でもその時は『難しそう』って思う位でした。その後、自分が取り組むようになっても好きにはならなかったんです。

そんな中、兄が4月から大学で上京することになりました。受験勉強も近くで見てて、兄が行きたい大学に行けることは私も嬉しかったんですけど、家から兄が居なくなることは寂しくて、悲しくて、ちょっと複雑な思いでした。

そんな時、練習のために、電車で『ファウスト』を聴いたんです。
そうしたら、色んな感情がすっと入ってきて、涙が出てきて、ちょっと感情を表に出すことが出来たんです。この曲はオペラの色んな場面がぎゅっと詰まった曲で、色々な感情とか要素を一気に感じられたんだと思います。

この時、「クラシック音楽って聴き手が好きなように感情を爆発させられたり、寄り添ってもらえたりすることが出来る音楽なんだ」と分かって、ヴァイオリン、そしてクラシック音楽っていいな、と思うきっかけになりました。
それ以降は曲を気に入って、沢山聴くうちに曲のいいところがたくさん見えるようになっていきました。きっかけだけでなく、曲の内容も含めて、今では一番大好きな曲になってます。

それ以来、大きいリサイタルで演奏したい曲だったんです。そのために思いついたプログラムのテーマが「悪魔的なもの」でした。

曲の元となったオペラ「ファウスト」は悪魔・メフィストへレスが出てきて、その悪魔に主人公が振り回されるストーリーです。「悪魔的なもの」ってヴァイオリンという楽器自体にとっても、切っても切り離せないものだと思うんです。

――ヴァイオリンとは切り離せない『悪魔』のイメージとして、タルティーニ、そしてパガニーニの作品を選ばれた訳ですね。

プログラムとして入れることを最初に思いついたのが、タルティーニの『悪魔のトリル』でした。
この曲は兄が弾いていたのを聴いて以来、ずっと弾きたかった曲です。作曲家・タルティーニが夢で悪魔が弾いていた旋律を元に書いたと言われている曲で、悪魔と直接結びつくこの曲は、このテーマのプログラムには外せないと思って選曲しました。

そして、悪魔とヴァイオリンを結びつける存在として、パガニーニはやっぱり外せない存在だと思い、曲を選びました。

作品としては、まずはパガニーニの代名詞みたいになっている、カプリース24番を取り上げます。
実は24番は、今年に入って特に沢山弾いていて、今回のリサイタルでも取り上げるべきか迷ったんです。でも、やっぱりパガニーニ、そしてヴァイオリンの人気曲ということと、せっかくなら、一年に何度も取り上げる曲があってもいいと思って。このリサイタルでの演奏が今年一番のクオリティになるように、という気持ちも込めて取り上げることにしました。

それに続いて、ミルシテインが書いた『パガニーニアーナ』という曲を演奏します。
カプリース24番と同じ主題からの変奏曲で、とっても難しいんですが、パガニーニのダイジェストみたいな曲で本当にかっこいいんです。
作曲したミルシテインは、20世紀の世界的なヴァイオリニストの1人です。その人物が、200年以上前の作曲家に心酔して現代のヴァイオリニストが曲を書いている、ということが面白いと思いました。私もヴァイオリニストの1人として、ミルシテインのこの曲を演奏会で弾いてみたいと思って、今回取り上げました。

そしてもう1曲、パガニーニの『魔女たちの踊り』という曲も演奏します。
この曲も変奏曲です。主題は簡単で、ヴァイオリンを習いたての人もレッスンで弾くようなメロディーなんですけど、変奏の部分がすごく難しいんです。使える指は4本しかないのに8つ押さえる瞬間があるとか。今回のテーマに沿った曲でもありますけど、ヴァイオリンやられてる方にとっても、変奏含め楽しんでもらえるかな、と思い選曲しました。

――楽しみな内容です。ピアニストの長富彩さんとは、デュオとしては初共演となりますね。どんな印象ですか?

高松亜衣(写真左)と長富彩(写真右)

高松亜衣(写真左)と長富彩(写真右)

先日、協奏曲の伴奏で初めてご一緒しました。その際、前半のソロの演奏を客席で聴いたのですが、結構小柄な方のイメージなのに音楽への没入感がすごく、演奏されている姿がとても大きく見えたのが印象的でした。
あとは一つ一つの音をすごく大切にされていると思います。演奏の動きに、一つ一つの音を愛して、音楽そのものに対して「これで良いんだよ」と話しかけられているようで、お母様としての姿のような、音楽への母性を感じる演奏でした。

(インタビューの)前日が初合わせだったんですけど、長富さんにすごく合わせていただいてすぐに終わりました。ヴィエニャフスキの伴奏部分も凄いゴージャスで、もう本番が楽しみです。

でも、音を大切にされる感じや呼吸感など、1人で練習してた時には十分と思っていたものが、全然足りていなかった、とすごく感じました。特に結構私は勢いで突っ走るタイプなので、長富さんの音から学びたい、まだまだこれから本番まで磨いていかなきゃ、と思っています。

――最後に皆様に一言お願いします。

今回は「悪魔」という、人々が恐れたりしつつも何か気になってしまう、そんな昔から人の好奇心をくすぐってきたテーマを中心に、ヴァイオリンの楽しみ方の中でも黒い一面を楽しんでもらえるリサイタルになっていると思います。ワクワク、よりはゾクゾクとする気持ちになってもらえると思うし、でも、対照的な悪魔の中の美しさといった部分も是非楽しんでもらいたいです。
きっとストレス発散にもなると思います。好奇心をくすぐりに、ぜひ来てもらいたいです。

公演情報

『高松亜衣 リサイタルツアー2023 「Diavolo」』
 
名古屋公演
日程:2023年9月22日(金) 開場 18:00 開演 19:00
会場:電気文化会館 ザ・コンサートホール
 
神戸公演
日程:2023年9月24日(日) 開場 14:00 開演 15:00
会場:神戸朝日ホール
 
東京公演
日程:2023年9月27日(水) 開場 18:00 開演 19:00
会場:浜離宮朝日ホール 音楽ホール
 
【出演】
高松亜衣(ヴァイオリン)、長富彩(ピアノ)
【曲目】
ミルシテイン:パガニーニアーナ
ヴィエニャフスキ:「ファウスト」の主題による華麗なる幻想曲 Op. 20
タルティーニ:ヴァイオリンソナタ ト短調「悪魔のトリル」 他

お問い合わせ:
Mail: concert@tacticart.co.jp
Tel: 03-5579-6704
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