『風とロック芋煮会2023』四星球密着同行記ーー福島県白河市で開催される唯一無二の奇祭「NO 四星球 , NO 芋煮会!」

レポート
音楽
2023.11.15
『風とロック芋煮会2023』 写真提供=石井麻木

『風とロック芋煮会2023』 写真提供=石井麻木

画像を全て表示(47件)

『風とロック芋煮会2023』2023.9.9(SAT)〜9.10(SUN)福島県白河市しらさかの森スポーツ公園

『風とロック芋煮会2023』が9月9日(土)・10日(日)に、福島県白河市しらさかの森スポーツ公園で開催された。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」の広告などで知られるクリエイティブディレクター・箭内道彦が実行委員長を務める。2009年から福島県で開催されている野外ロックフェスティバルであり、もちろん存在は知っていたし、もちろん箭内が福島県出身なのも知っていたが、日本を代表する有名クリエイターであり、東京藝術大学教授でもあるので、いわゆるちゃんと洗練されているシャレたフェスだと思い込んでいた。先に言っておくと、これは良い意味でなのだが、実際は全くそうではなかった。だからと言って、ちゃんとしていないとか、洗練されていないとか、シャレてないとか、そういう意味でもない。これこそ良い意味で言っている。

順序立てて話すと、あれは8月の頭、大阪でのライブ打ち上げ会場で隣に座っていた四星球のベースであるU太から、いきなり、こう話された。

「鈴木さん、今年の『風とロック』行きません? 絶対に合うし、絶対に好きだと思うんですよ!』

彼らが2017年から出場していたのは知っていたが、前述の知識くらいしかない予備知識ゼロ状態。だが、四星球の約15年来の番記者であり座付きライターとしては、彼らの主要な活躍場所である『風とロック芋煮会』を知らないというのも、どうかしているし、彼らが絶対に合う絶対に好きと言い切るならば、絶対に行かないといけないと、ほぼ即決で密着同行することを伝えた。と言っても、四星球からも媒体からも、ましてや当の『風とロック芋煮会』からも正式にライブレポートを頼まれていない。行く以上は職業病もありノートにメモを取ってきた。そう言っても、出場者全組についての細かいライブレポートなんて言う大袈裟に整理整頓されたものじゃなくて、あくまで四星球を中心とした感想文みたいなものであり、「鈴木淳史が覗いた風とロック芋煮会」的に気軽に気楽に読んで頂きたい。


9月8日(金)朝9時に地元徳島を出発した四星球のバンドワゴン。私は朝11時に家の隣町である神戸市で拾ってもらう。ある程度は車内で『風とロック芋煮会』の実情について聞けたら良いのだが、過去にも他のバンドワゴンに乗った経験から言うと、基本的にバンドワゴン車内は沈黙状態である。そりゃそうだろ。年がら年中バンドワゴンで全国各地を回っているわけであり、それが日常なわけであり、ベラベラ喋るわけがない。朝の通勤電車でサラリーマンのみなさんがベラベラ喋らないのと一緒である。メンバーが交代しながら黙々と運転されるバンドワゴンに、ただただ私は揺られるのみ。夜9時くらい到着をイメージしていたが、思っていたより順調で、夜8時には福島県白河市のホテルに到着。

チェックインが終わり、U太とバンドスタッフふたりとホテルのロビー横にある食事処で飲食をしていると、何と箭内と実行副委員長であるTHE BACK HORNの松田晋二が入ってきた。松田とは面識があるが、箭内とは初対面なので丁寧に自己紹介をする。言葉を交わした瞬間に、いや店内に入ってきた瞬間に、一瞬で察知したが、東京の有名クリエイターであり、ちゃんと洗練されているシャレたフェスの実行委員長の雰囲気では全然無かった。しつこく言うが、もちろん良い意味でだ。東北の村祭りで素朴な長をしているおっちゃんだった。飾らない気取らない人懐っこい。イベント名を観たら一目瞭然なのだが、『風とロック芋煮会』は野外ロックフェスではない。芋煮会なのだ。福島で芋煮会を仕切っているおっちゃんが目の前にいた。どこか緊張感を持っていた私だったが、この前夜祭で酒を酌み交わしたことで完全に安堵した。

で、これ余談なんですけど、翌朝、箭内に昨夜の御礼を伝えたが、御本人はあまり何も覚えてなかった。この出来事自体が村祭りの前夜祭っぽいではないか。より気持ちが楽になった私であったが、そう思ったのは朝8時前の話。この日一番手、朝10時出場の四星球の入り時間は朝7時半。開園式は朝9時35分。いや、もう本当に村祭りの始まりの時間じゃないか! あっ、開園と言っているのには理由があって、毎年サブタイトル的にテーマが付くのだが、今年は『KAZETOROCK  IMONY PARK』。芋煮~パ~ク?? 何も深く考える必要もないし、そんなに深い意味もなく、東京のフェスみたいにガチガチにコンセプチュアルな感じもなく、ただ何となく付けた感じであった。もちろん良い意味でね。そうそう、2017年に『KAZETOROCK  IMONY COSMO』が開催されると知ったU太は、「Mr.Cosmo」という持ち曲もあるため、他のフェス会場で箭内に会った時に面識がないにも関わらず、いきなり売り込みをしたという。そして、その年、見事出場となり今に至る。ちなみにな話だが、その話からも、箭内と『風とロック芋煮会』が如何にフランクでフラットかが伝わってくる。

会場入りして驚いたのは、その会場の成り立ち。しらさかの森スポーツ公園内にあるふたつの野球場を軸にしているのだが、「ステージ小峰城」と名付けられた白河ブルースタジアムでライブが行われて、憩いの広場という広場を抜けると白河グリーンスタジアムがあり、夕方からは、そこで芋野球が開催される。芋野球の説明は後に置いといてだが、憩いの広場は「ろっくんろーる横丁」と名付けられて、約45店舗が設置されている。もりそば・ぶっかけそば、白ご飯、ラーメンなど地元の特産品ブースから、箭内と関係性があるグリコ・ダンロップ・花王・日産・JTといったスポンサーブース、公式フォトグラファーであり東北を撮り続ける石井麻木のブース、福島県南相馬で開催される「騎馬武者ロックフェス」ブースから、地元の県広報課や商工会や高校のブースや音楽番組まで、ありとあらゆるブースが並んでいた。ポッキー型の長い風船が配られていたり、ストラックアウト、だるま絵付け体験などなど、ちゃんとした大人たちもたくさん関わっているはずなのに、緩やかで穏やかな村祭り感は一切失われていない。その「ろっくんろーる横丁」には「ステージ白河だるま」というミニステージもあり、アコースティックライブを中心とした催し物が目白押しである。今年は、その場所で夜9時から後夜祭的に「おばんですパーク」なるものも初開催されるが、これも後程に。

さて時計の針を朝9時35分開園式に戻すが、一番手四星球出番10時であり、25分も必要なのだろうかと思っていたが、とっても盛りだくさんな開園式であった。箭内と松田という実行委員長副委員長ふたりに加えて、常連メンバーである音速ラインの藤井敬之、元でんぱ組.incえいたそこと成瀬瑛美という全員福島県出身の演者たちと福島県県南ゆるきゃらたちプラス、何と白河市長まで登場する。共催で白河市が参加していることもあるが、本当に地元を挙げての祭なのだ。前日の台風による被害で福島県いわき市が交通止めとなり、会場に来れない人もいるという切実な話も明かされた。そして、今年はモッシュダイブ禁止という話もされたが、いわゆる有名フェスにおけるシリアスな議論ではなくて、単純に財政難により鉄柵が用意できず、プラスチック柵になったからというシンプルな理由であり、ついついほのぼのしてしまう。

そこから箭内は市長に市井のことも知った方が良いという無茶苦茶な理由から、モッシュダイブについて市長に尋ねて、チンプンカンプンな市長からは「甘辛い食べ物?」という珍答が返ってくる。気が付いたら、箭内はゆるきゃらたちにマイクを押し付けて喋らそうとしているし、のんびりほのぼの緩やか穏やかながらもアナーキーパンキッシュさも感じ取られて、早朝から何を25分も観させられているんだと思わず笑ってしまう。っていうか、笑うしかない。何故か途中からステージに上げられた四星球のギターまさやんが9時55分までステージ上にいさせられたりとハチャメチャ!


しかし、ハチャメチャさは或る意味、四星球の真骨頂。初っ端から、この日のトリであるTHE BACK HORNに扮して登場したりとやりたい放題だが、モッシュダイブは甘さもあり辛さもあり、まさしく甘辛いではないかと、市長のトンチンカンな回答を見事に伏線回収する北島康雄。また、普通のフェスは「やったるぞ!」だが、『風とロック芋煮会』は「楽しむぞ!」と分けた上で、「楽しむぞ!」だとヌルくなってしまうこそ「楽しむぞをやったるぞ!」だと、これまた見事に宣言していく康雄。相も変わらず天晴れな四星球。ライブ終わり、撤収作業を済ませ、「ろっくんろーる横丁」の横を通りながら、グリーンスタジアム横の楽屋エリアに戻っていくが、先程までライブを観ていた観客たちが普通に話しかけてくる。演者と観客の距離が普通のフェスでは有り得ないくらいに近いが、それが村祭りの良さであろう。

村祭りならではのアバウトさはタイムテーブルにも表れており、ミニステージの「ステージ白河だるま」には各演目の終了時間は書いていないし、書かれていない演目も当日になって判明したりする。昼0時45分、まさやんアコースティックライブは、当日になって、昼1時からラジオ生放送が入るため、15分で終わらせて下さいと言われる。普通じゃ考えられないが、当のまさやんも焦りながらも、「絶対に押せない戦いが始まります!」と楽しんでいる。ちゃんとしていないことを面白がるノリは、関西人の十八番ノリでもあるので、気が付きゃ私もすっかり慣れて楽しんでいる。

タイムテーブルには載っていない昼2時15分からの四星球ラジオ公開生放送も、朝の段階ではU太とドラムのモリスのみであったが、いつのまにやら四星球4人全員になっており、主催にも名を連ねる福島民報の広告局の沢井氏と喋ることに。もう何でもありだ。その福島民報は福島県地元の新聞社である事くらいはわかるが、現場に来て実感したのは、ほぼほぼ現場を仕切っているのが福島民報のみなさんだという事。地元イベンターGIPのみなさんもおられてガッツリとサポートをされているのだが、福島民報のみなさんもイベンターの如くガムシャラに働いており、完全にフェス事業部のような役割をしている。ちゃんと役割を分担し過ぎるのではなく、その場にいるみなさんで協力しお手伝いしながら乗り越えていく。やっぱり完全に村祭りである。

ラジオ公開生放送の時に四星球が言い放った名言が的確過ぎて、拍手を送るしかなかった。

「『風とロック芋煮会』は、僕らのことを若手と思っていませんか!?」

考えてみれば、そうだ。箭内、怒髪天、TOKYO No.1 SOUL SET 渡辺俊美、LOW IQ 01から亀田誠治まで、それから世界的に有名な美術作家の奈良美智まで、もはや先輩という言葉を通り越して師匠大御所レジェンドクラスの人が当たり前のゴロゴロいすぎるので、四星球はスーパー若手に見えてしまう。しかし、四星球も全員アラフォーで立派な中堅。中堅がスーパー若手に見えてしまう珍現象が完全に起きてしまっている。そんな中、今年は本当の意味でのスーパー若手であるハシリコミーズの初出場はビッグニュースであった。

タイムテーブルには「おばんですパーク」夜11時にボーカルのアタルのみの出場としか書かれていなかったが、四星球トーク後の昼2時半ハシリコミーズとしてライブを観れた。夜まで、それもひとりででしか観れないと思っていただけに、アタルがアコギ弾き語り、ベースあおい&ドラムさわがタンバリンマラカスを鳴らすアコースティックライブとはいえ、昼間にメンバー3人全員で観れるというのは嬉しすぎる。最初からタイムテーブルに書いといてくれたら、それで済むだけの問題なのだが、サプライズプレゼントを贈ってもらえたような気分に陥ってしまう。たった5分しかなく、1曲しか聴けなかったが、だからこそ、より夜のステージが、そして来年はメインステージで出場して欲しいという気持ちが強くなる。

そもそもは箭内が関わったサンヨー食品「カップスター」による音楽と映像のプロジェクト「NEXT GENERATION NEXT CREATION」で、箭内率いる東京藝術大学美術学部デザイン科第2研究室所属の学生監督である有馬彩創がハシリコミーズ「本当の綺麗がわからない」を撮影したのがキッカケ。こうやって箭内の日常活動が繋がり、『風とロック芋煮会』に若手が出場していくのは理想的ではなかろうか。

夕方4時前にはトリのTHE BACK HORNが終わり、その後は彼らがハウスバンドとなり、出場者全員が参加するオールラインナップへ。『風とロック芋煮会2023』公式テーマパークソング「イッツ・ア・イモニーパーク」を全員で歌っていったりする。2日間この楽曲は常に会場中で流れていたが、その辺りの話も後程に書いておきたい。最後に箭内は東日本大震災の時に福島を支えてくれた高橋優の出身地である秋田が今年災害にあった話に触れる。その高橋による楽曲「秋田の行事」を出場者全員、観客全員で振り付けをしながら歌う。私自身が阪神淡路大震災で被災していることから、他の街の方々の支えの有難み感謝の気持ちは十分に理解が出来るし、何も無い平安な状況でも支え合いながら生きていかないといけないと改めて想った。ふと『風とロック芋煮会』基本理念が頭に浮かぶ。

「観客は具。ミュージシャンは味噌、会場は大きな鍋。立場や思いがたとえ違っても、みんなが美味しく煮込まれる風とロック芋煮会」

それを具現化したような光景。押しつけがましくなく自然に、そういう事を感じられる場は本当に貴重だ。夕方4時過ぎにはメインステージがオールアップしている事にはビックリするが、まだメインイベントは控えているし、「ステージ白河だるま」では奈良が「ならよしともの子供ロック部(DJ)」として、横向きに置かれた机の上にあるパソコンを横向きに座りながら触り、昭和歌謡を中心に1曲1曲丁寧に説明しながらDJしている。こんなDJスタイルは観たことないし、学生時代から大好きで作品を観てきた奈良が普通に観客と同化しながら、その場にいることにおったまげながらも、それを普通に実現させている村祭りの凄みを感じるしかない。

まだメインイベントは控えていると言ったが、それは夕方6時から白河グリーンスタジアムで開催される芋野球。ライブと野球が第一部と第二部の関係性のわけだが、てか、芋野球って何よ? 草野球じゃなくて芋野球!? 福島県出身者と、その他のミュージシャンチームに分かれて野球対決をするわけだが、地元の子供たちによるチアリーディングや観客有志によるブラスバンドなど、かなりの賑わいになる。



実況は公式MCの平井理央と福島中央テレビの徳光雅英アナウンサー、ウグイス嬢はFMふくしまDJ三吉梨香とかなり手が込んでいるし、解説は箭内と怒髪天の増子が担当。ブラスバンドは各ミュージシャンの楽曲を演奏したりするのだが、いつのまにやら指揮者を奈良が務めていたり、ズバ抜けて上手すぎるサックスが聴こえてきたと思いきや、武田真治が吹いていたりする。がっつりガチンコ真剣本気野球勝負というよりは、大相撲でいう初っ切りに近くて、真剣本気にふざけまくる。モリスいわく「ファン感謝祭」という言葉に納得がいく。


最後は両チーム大乱闘の末、ダチョウ倶楽部的に選手全員が何かを取り囲むかのように取っ組み合い、それが終わると怒髪天のドラム坂詰克彦が、とにかく明るい安村的に現れるという大茶番劇! なのに、そのアホらしさバカバカしさが最高としか言いようがない。そんな最狂の余韻に浸りながら球場裏を歩いていると箭内とすれ違った。手短に感想を興奮しながら伝えると、ひとこと返ってきた。

「奇祭だよね!」

あぁ~、もう、それしか無いわ……というキラーフレーズ&パンチライン。村祭りは村祭りでも、”TOP OF THE 村祭り”である奇祭なのだ。それならば全てが成立する。夜8時には芋野球は終わり、四星球チームはホテルに帰るというが、奇祭とわかった以上は夜9時からの「おばんですパーク」を最後まで絶対的に見届けたいし、何よりもハシリコミーズを観たいので、ひとり残ることに。まさやんも渡辺、藤井、LOW IQ 01が出場する歌パートに急遽緊急出場するという。タイムテーブル以外の事が起きても、何も驚かなくなった、だって奇祭なんだから! 本来は東京に帰るはずのTHE BACK HORN・山田将司も、それこそ急遽緊急スケジュールを変更して残り、歌うことに。奇祭は良い意味で人を狂わす! 夜11時ハシリコミーズの出番がくる。編成は昼間と同じだが、夜の部は3人とも座りながらの演奏。

「おっさんたちが裸になったりして、どんなことでもとことんやりきる姿を観て美しいと想いました」

アタルの言葉は、奇祭とは違う意味で、『風とロック芋煮会』を全て表現ができていて、心から感激すらしてしまう……。その後の「50になったら」も余計に沁みた……。

<50になったら ジジイになったら ババアになったら また会いたいと誘ってくれ>

この歌詞みたいに21歳・22歳・23歳なハシリコミーズの3人が50歳になっても奇祭でロックンロールしていて欲しいなと勝手に素敵な妄想している内に、時刻は深夜0時を迎えようとしていた。普通のロックフェスのフィナーレは打ち上げ花火である。だが、奇祭のフィナーレは出場者・観客・関係者全員に線香花火が渡されて、何ブロックかに分かれて、水の入ったバケツの横で便所座りしながらたしなむ。打ち上げ花火については続きがあるのだが、それは後程書くとして、落ちそうで落ちないけど最後は落ちてしまう線香花火をじっと見つめるのは情緒がありすぎた……。そんな風情と共に『風とロック芋煮会』初日は〆られた。

四星球とハシリコミーズ 四星球スタッフ撮影

四星球とハシリコミーズ 四星球スタッフ撮影


2日目。初日は『風とロック芋煮会』自体の説明を、初体験の私の目を通して、かなり細かく、というか、かなりネチっこく書いたので、相当に長い文字数を使ったが、それはそれで本質は書けているだろう。てなわけで、2日目は、あくまでダイジェスト的に端的に書いていきたい。よって、ここからは、そこまで長くはならないはず。何はともあれ最後の最後までお付き合い願います。

「ステージ白河だるま」朝11時15分、すーしんちゅう名義で出場して、「ステージ小峰城」での四星球ライブは昼2時半ということもあり、初日と違って入り時間は朝9時半。初日朝7時半入りと比べてるから、ゆっくりに思うだけで早いのは早い。そして、着くやいなや初日同様、朝9時35分から開園式がスタート。公式MC平井が仕切ってくれるので、初日よりはタイトに進むかと思いきや、平井の言葉遣いに対して、箭内はアナウンサーとしてのステレオタイプな喋りではないかと、もはやイチャモンのような絡みをしていく。これは関西弁だとツッコミとして特有の強さがあるが、東北弁だからなのか独特の緩やか穏やかさが保たれている。でも、やっていることは、ゆるきゃらたちにマイクを押し付けて喋らそうとしたりしているわけで、やはり無茶苦茶なはずなのに、そこまで気にならず笑いながら観れてしまう。東北マジックなのか、風とロック芋煮会マジックなのか、何だかわからないが笑っちゃう。

そんな間に知らない内にステージには観客の女性ひとりが上がっている。毎年2日間ひとりで来ている観客であり、せっかくならば地図を作って首からぶら下げて、観客みなさんにどこから来たかマークしてもらうようにと、箭内が指示したという。何なんだ、この距離感の近さは……。また、それに戸惑いながらも嫌がらない、その女性観客の根性も座っている。奇祭という言葉で奇妙なことは全て片付けられるが、それにしても奇祭過ぎる。でも、ほっこりしちゃうのが、この奇祭の良いところ。それと初日から気になっていたが、観客の多くが木製お玉を持ち歩いていた。過去に出場したことがある石川さゆりが、レキシにおける稲穂の様に、『風とロック芋煮会』も象徴的なグッズを作った方が良いという提案から作られたグッズだという。よ~く観ると単なるお玉ではなくて、芋煮の具材がお玉ですくわれたデザインになっている。東京藝大学生製作によるグッズだが、ほんまに芸が細かい……。最後にはエレクトリカルパレードの如くパレードカーが登場するが、それは福島西高校デザイン科学科生徒がリアカーを基に製作したもの。御当地の名産品をあしらったイラストがリアカーにたくさん貼り付けられている。開園式が終わってからは、関係者の子供たちが、そのリアカーに乗り、ブルースタジアムから「ろっくんろーる横丁」まで乗せられて走っていた。そんな町内会の子供のノリに付き合っちゃう感じも、とてものどかで良かった。こうして2日目が始まる。

「ステージ白河だるま」朝11時15分、すーしんちゅう。四星球のアコースティックライブだが、初日「ステージ小峰城」でのライブを再現するという。決して一筋縄にはいかないところが、彼らの良きところ。ミニステージにも関わらず、朝っぱらから人垣が出来ている。初っ端から康雄は、福島民報の記事に四星球が掲載されていないことをグチグチ言っている。明るく楽しくイジっているとはいえ、この康雄の根の持ち方は個人的に大好きである。さて、終盤、観客からリクエストを募り、そのリクエストに沿った小道具を3分で作るという、まさやんが! リクエストのお玉を3分以上かかりながらも、まさやんが必死に作り、そのお玉を巡って観客が争奪じゃんけん大会をする。ところが、康雄によく似ていると噂される謎のヒーローであるちょんまげマンが出現して、そのお玉を完膚なきまでにブッ壊してしまう。ステージ横の関係者エリアでは渡辺が腹を抱えて爆笑している。本当に良い光景だった。そんな超ハチャメチャちょんまげマンが最後に言い残した言葉は……。

「次は福島民報で逢おう!」

どうやら康雄&ちょんまげマンは、初日の四星球の大活躍が福島民報に掲載されていなかったことに本気で不満らしい。この愉快な物語は四星球のライブにも引き継がれるのだが、昼0時過ぎには楽屋テントで康雄と福島民報の沢井氏が夕方の芋野球について既に綿密な打ち合わせをしている。真剣にふざけるから面白くて美しいのだなと、横目で観ながら噛み締める。

「ステージ小峰城」四星球ライブ昼2時半。御当地ヒーローのダルライザーネタを盛り込みながら、まだ康雄は福島民報に掲載されていないことを話している。白河だるまをモチーフにしたダルライザーや地元新聞の福島民報で引っ張れるだけ引っ張ることに恐れ入るが、関西の人間である私でも腹を抱えて笑うのだから、地元福島の人間にとってはたまらないネタであろう。前日夜に、敢えて打ち上げ花火やなくて線香花火ってイカすと呑気に思っていた私をぶち抜く展開に何気なくなっていく。

「例年上がるはずの打ち上げ花火が上がっていない! 四星球が福島に花火打ち上げたるわ~!」

そうか……敢えてじゃなくて、打ち上げられなかったのかも知れない。今年は鉄柵で無くプラスチック柵に変更されたみたいに……。逆に、そのピンチをチャンスに変えて、機転を利かして、線香花火という新たな展開で乗り切ったのであれば、『風とロック芋煮会』のアイデア恐るべしである。イカダで黒船に立ち向かう感覚、竹槍で爆撃機に立ち向かう感覚……、向こう見ずなカウンターカルチャー精神は、そりゃ四星球にぴったりと合うだろう。本当に来て良かった。

「NO 四星球, NO 芋煮会 . 」!!

箭内の有名なキャッチコピーにかけて、こう康雄は叫んだ。まだ昼3時ではあるが、来年も必ず四星球に密着同行して『風とロック芋煮会』に来ようと自分の中で勝手に深く誓った。

前日同様に夕方4時前にはトリのサンボマスターが終わり、その後は出場者全員が参加するオールラインナップへ。初日のTHE BACK HORNもサンボも福島県出身者がメンバーにいる。そういうバンドが両日ともにトリを飾るのは真っ当で素敵だ。そして、『風とロック芋煮会2023』公式テーマパークソング「イッツ・ア・イモニーパーク」を全員で歌っていく。

<ツドエ ノメ クエ ウタエ カットバセ>

箭内作詞・藤井作曲・えいたそ歌唱。公式テーマパークソングなんだから普通のことなんだが、この歌は2日間、ありとあらゆるところで鳴り続けていた。だから自然に覚えて口ずさんでしまう。冷静に考えたら、良くできてるのだ、この歌は。集って呑んで食って歌って、ほんでもって、かっ飛ばす。『風とロック芋煮会』を完璧に言い表している。まぁ、公式テーマソングとは、そういうものなんだけど、それにしても、よくできている。後、個人的にとてつもなく素晴らしかったのは、福島県出身のサンボの山さんこと山口隆がトリを飾ったにも関わらず、端っこにおり、でもマイクが回ってきたらRCサクセション「トランジスタラジオ」の歌詞を引用しながら、ロックンロール節でオリジナルの歌として昇華していたこと。集団に馴染みながらも、さらりと個性を出す。グッときた……。

夕方6時からは、この日も白河グリーンスタジアムで芋野球。試合前、昔から取材で御世話になっている怒髪天の増子直純に道案内を頼まれて、一緒に球場裏を歩く。こちらは特に何も聴いてないのに、こう増子に突然言われた。

「これはなぁ、震災の前からやってんだよ。それに俺は震災前から福島でテレビやっててな。お世話になってんだよ、福島に」

これが全てだと想った。正直、涙をこらえながら聴いていたし、今だって書きながら泣きそうだ。我々は悪気なく、福島で何かが行われる時に震災復興と結びつけてしまう。実際に『風とロック芋煮会』は2009年から開催されているし、初年度から怒髪天は出場している。ただただお世話になった町に恩返しをしているだけ。シンプルにストレートに、それだけ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、この村祭りは例え奇祭であろうと美しいのだ。

そっからの2日目芋野球も初日同様に真剣本気での大茶番劇だった。書こうと思えば、いくらでも小ネタはまだまだ書けるのだが、それは来年あなたが実際に『風とロック芋煮会』を訪れて、その目で目撃して欲しい。ちゃんとしていない事を、ちゃんとしている唯一無二の稀有な奇祭。ひとつ書き残したことと言えば、芋煮会と名乗っているだけあって、1日に何回か無料で芋煮が振る舞われる。鍋で煮込まれた具と味噌は本当に温かい。そう、それは『風とロック芋煮会』の縮図でもある。別に上手く言いたくて、この文章を書いているわけではないので、このあたりで終わりますが、とにかく来年は福島県に足を運んで、じっくりと『風とロック芋煮会』に煮込まれて下さい。おあとがよろしいようで。

取材・文=鈴木淳史 写真提供=石井麻木

>次のページは、『風とロック芋煮会2023』四星球密着同行記 フォトアルバムを公開!

シェア / 保存先を選択