昆夏美×大原櫻子×海宝直人×村井良大が語る、ミュージカル『この世界の片隅に』 「舞台化されることでまた新しいフィルターを通して新しいものができる」
――昆さんと大原さんはすずに、海宝さんと村井さんは周作に共感する部分はありますか?
昆:私は不器用なところが似ています(笑)。着物を裁ち間違えてしまったり、“あちゃー”みたいなことをよくすずさんはやってしまうんですが、その気持ちは分かる(笑)。私も一生懸命やっていても、気がついたら間違えていることがあるんです。すずさんはそこもまたかわいらしいですが、私がかわいらしく見えているかはわかりません(笑)。
大原:私は、強いて言うなら前向きなところかなと思います。すずさんは、どちらかというと柔らかい性格で、温かくて、ちょっとおっちょこちょいなところもあってかわいい人だと思いますが、私ははっきりしているタイプなので、性格では似ているところを探すのは難しいなと思います。ですが、(すずは)ホワッとした柔らかさの中にも女性としての強さや前向きさ、明るさ、元気さもすごく感じられるので、そうしたところは近いところはあるのかなと思っています。
海宝:周作はスッとしているように見えて、意外と鈍臭いところがあるんですよ。カッコつけてすずを水原哲がいる納屋に行かせたけど、実は嫉妬していたり(笑)。そうした人間味のあるところにはすごく共感しますし、素敵だなと思います。普段はすずを引っ張っていこうと頑張っているけれども、ちょっとした時に弱みを見せたり、かわいらしいキャラクターだと思います。
村井:周作は、良かれと思ってやったことが実はダメだったということが多いんですよ。すずさんを元気付けるためにしたことが、すずさんにしてみたらいらないことだったり。そこはすごく可愛らしくもあり、優しすぎることがちょっと残念でもあるキャラクターだと思います。あの時代は、“男たるもの”ということが大事な時代でもあったと思うので、周作は珍しいタイプですよね。すずさんにはお兄ちゃんがいたのですが、すごく怖い人で、幼なじみの水原さんも怖い人で、前半には怖い男ばかり出てきますが、後半になってすずさんは優しい周作と出会い、二人で人生を重ねて夫婦になる。戦争下だからこそ、周作の優しさや愛が必要だったのかなと思います。自分で言うのもなんですが、そういう優しい部分は僕と似ているかもしれません(笑)。優しすぎるところがあるので、そこがだめなところでもあるんですが。
――製作発表で、昆さんが「この作品はすずちゃんが居場所を見つける物語」とおっしゃっていましたが、皆さんにとっての居場所は?
村井:うちの事務所ですね。居心地が良くてしょうがない!
大原:私は、やっぱりお客さまがいるステージの上は、私の居場所だなと改めて思いました。
昆:私は家族。とても仲が良い家族なのでずっと大好きなのですが、去年、お休みをいただいて実家に帰った時に、こんなにも家族が自分を応援してくれてたんだというのを改めて感じて、よりかけがえのない存在だと思うようになりました。自分が今こうして元気に皆さんの前にいることができるのも、かけがえのない家族という変わらない居場所があるからだなと感じています。なので、私の居場所は家族です。
海宝:「人」だと思います。例えば、僕はバンドをやらせてもらっていますが、そのバンドのメンバーだったり、コンサートや公演をご一緒させていただいている人だったり。なれ合うのではなくて、お互いに前に進むために、厳しいこともきちんと言い合える関係を作れているので、そうしたところにいると、自分の居場所はここにあるのかもしれないと思うことが多いですね。
村井:すいません、ちょっと僕の「事務所」は消してもらって。
昆:あははは(笑)。いいじゃないですか。
村井:みんなが何かいいこと言っているから。事務所だって家族だよ(笑)!
――最後に、皆さんがこの作品で大切にしたいことや届けたいテーマを教えてください。
村井:原作のこうの先生が「今後、戦争の物語を書く予定はあるんですか」という質問をされた時に、「こうした戦争の話を誰か一人が描いたら、その人に任せておけばいいという考えになってしまうが、そうではなくて、我々は全員、この戦争について語る権利と語る義務がある」ということをおっしゃっていました。こうの先生自身も原爆の体験者ではないんですよね。だから色々な人に戦争の話を伝えることをやっていってもらいたいと。そのお話を聞いた時に、僕たちもこうしたミュージカル作品を通して皆さまに知っていただくことを自分たちの義務として行わなければいけないなとすごく感じました。僕たちは戦争を体験していないけれども、こういうことがあったんだとしっかりと念頭におきながら作品に臨む。こうのさんの言葉に背中を押されました。この作品は、戦争を前面に出した作品ではないですが、あの当時に生きた人間を生身の僕たちが舞台上で演じるので、その雰囲気だけでも、戦時下の日本を皆さんに知っていただける機会になるのではないかなと思っています。
昆・大原:全部言ってくださった。
――ちょっとだけでもトッピングを(笑)。
大原:じゃあ…戦時中の話ではありますが、そこに生きている人々には、苦難があったり、人間関係に悩んだり、人間だから思うことというのはいつの時代も同じなんだなと思いました。この作品のテーマを一言でお伝えするのは難しいですが、いつの時代も人は何かと戦って、生きるために前向きにもがき苦しみながらも、「生きるとは何か?」と考え、向き合っているということを私はすごく感じました。
昆:私はまだこれというものが見つけられていないのですが、むしろ明確なキャッチコピーやどう捉えるのかということがない作品なのかなと思います。この作品をいろいろな角度から見られるというのが醍醐味でもあるのかなと。製作発表でも言いましたが、戦時下であってもそれが日常となっている中で、人々はどうやって生きていかなくてはいけないか、より快適に過ごすためにはどうしたらいいのか。昔の人たちはみんなで助け合って、支え合っていたのだと思います。そうした人たちの生活が淡々と描かれているのがこの作品の魅力だと思うので、テーマはまだ明確には言えませんが、これまでの戦争を題材にしたもので思い浮かべる作品とはまた違う作品になるんだということだけは確信しています。
海宝:原作や映画を観て、キャラクターたちの実在感を僕はすごく感じました。今、僕たちにとっては、戦争はテレビの向こう側で起きているもので、どうしてもリアリティーを感じないところがありますが、この作品は決して生々しく戦争について描いているわけではないのに、淡々と描かれた日常に実在感を感じ、すごく引き込まれました。自分たちと地続きの世界に生きていた人たちの話なんだなとすごく感じるんです。それはすごいことだと思います。僕たちと同じようなことで悲しんだり、苦しんだりしていて、同じように家族になる過程の難しさがあったり、ぶつかることもある。そうした当たり前の人間の営みの背景に戦争があっただけなんだということを感じます。そして、そうした生々しいリアリティーを音楽の力を借りながら描いています。きっと音楽がないとしんどくなってしまうと思うんです。音楽の力によって、お客さまにもより入りやすくなっていると思います。今は、そうしたことを大事に向き合っていきたいと思っています。
取材・文=嶋田真己 撮影=福岡諒祠
公演情報
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(ゼノンコミックス/コアミックス)
音楽:アンジェラ・アキ
脚本・演出:上田一豪
浦野すず:昆夏美/大原櫻子(W キャスト)
北條周作:海宝直人/村井良大(W キャスト)
白木リン:平野綾/桜井玲香(W キャスト)
水原哲:小野塚勇人/小林唯(W キャスト)
浦野すみ:小向なる
黒村径子:音月桂
白木美貴子 川口竜也 加藤潤一
飯野めぐみ 家塚敦子 伽藍琳 小林遼介 鈴木結加里 高瀬雄史 丹宗立峰
中山昇 般若愛実 東倫太朗 舩山智香子 古川隼大 麦嶋真帆
桑原広佳 澤田杏菜 嶋瀬晴
大村つばき 鞆琉那 増田梨沙
【東京公演】
5月9日(木)初日~5月30日(木)千穐楽 日生劇場
【全国ツアー公演】
6月北海道公演札幌文化芸術劇場hitaru
6月岩手公演トーサイクラシックホール岩手大ホール(岩手県民会館)
6月新潟公演新潟県民会館大ホール
6月愛知公演御園座
7月長野公演まつもと市民芸術館
7月茨城公演水戸市民会館グロービスホール
7月大阪公演SkyシアターMBS
7月広島公演呉信用金庫ホール