ファンタジックな作品で“縮んでいく妻”を演じる花總まりを直撃~舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』インタビュー

インタビュー
舞台
2024.3.16
花總まり

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カナダの作家、アンドリュー・カウフマンによるファンタジックな小説『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』が世界で初めて舞台化される。脚本・演出を手がけるG2が10年の構想を経て実現するもの。——風変わりな強盗は、銀行に居合わせた13人に最も思い入れのあるものを差し出すよう要求して受け取ると、これで自分は13人の魂の51パーセントを手にしたと告げて姿を消す。その後、13人には、母が98人に分裂したり、神と遭遇したりといった、信じられないような出来事が起きる。被害者の一人ステイシー(花總まり)は次第に自分が縮み始めていることに気がつき、夫(谷原章介)との関係も変化していき——。ステイシー役の花總まりが作品への意気込みを語ってくれた。

ーー原作を読まれての印象は?

この世の中にこんな発想をする方がいらっしゃるんだとびっくりして。普段ではちょっと想像できないようなお話で、エピソードがすべて奇想天外なので、すごく衝撃を受けました。私が演じるステイシーが縮んでいくというのにもびっくりしましたし。役柄含め、お話がおもしろかったので、舞台で演じたらどうなるんだろう、挑戦してみたいなと、すごく興味がわきました。ステイシーは、数学を愛してやまない、割と芯のしっかりした人で、何かというと計算して、測る。すべて数学で解き明かせると思っている女性なんです。奇妙な強盗事件に13人の被害者がいて、それぞれのエピソードが違った形で表現されている。思い入れのある何かを渡して魂の51%が奪われるとそれぞれの現象が起きて、それを自力で回復しなければいけない、その方法を自分で探さなきゃいけない。試みた方法が成功した人もいれば、残念ながら取り戻すことができないパターンもあって、それを一つひとつ深読みしていくのもおもしろかったですね。でも、ベースにはステイシーと夫との夫婦の物語があるので、一つひとつのエピソードに衝撃を受けながらも、読み終わったときにはちょっと心がほっこりするというか、何か大切なものを学べたような感覚が残る、そんな奥深い作品だなと思いました。

ーーこれまで出演された作品の中で似ている雰囲気の作品はありますか。

ないですね。かなり奇妙な作品なので。

ーー主演されていた『エリザベート』も、<死=トート>が出てきたりして、考えてみればけっこう不思議な話かなと思いました。

ただ、エリザベートは実在の人で、死って誰にとっても最終的には身近にあるものですよね。この作品に出てくるのって、かなり普通じゃないことばかりですから。

花總まり

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ーー今回、谷原章介さんと初共演されます。

谷原さんは、テレビドラマでよく俳優さんとしてお見かけしていて、最近ではテレビで司会者をされている姿をほぼ毎日見ていて。昨年のミュージカル『ベートーヴェン』も観に来てくださったんです。実際お会いしたときはイメージ通りの方だなと。お話ししてみて、やっぱり声がとても素敵だなと思いました。お稽古が始まって間もないので、少しずつお話をして、谷原さんの裏の一面(笑)をちょっとずつ探っていっている段階です。同学年なので、今回夫婦役を演じるにあたって演じやすいというか、そこで一気に距離が縮まった感じもして。今回お稽古場で、皆さんあだ名で呼び合おうということになって、章ちゃんと呼ばせていただいて、「章ちゃん」「花ちゃん」でぐっと距離を縮めて。最初はギクシャクしてうまくいっていない夫婦役なんですが、いい流れを作っていけるんじゃないかなと思っています。

ーー奇想天外な展開を舞台でどう再現するのか、楽しみです。

私自身、こうやって表現するんだ、おもしろいなというところが早速ありますね。演出のG2さんの中で、こう表現するというのが明確にあるので、まだお稽古していないですが、98人に分裂する場面も見事に出来上がるんじゃないかと思っています。演者である私たちももちろん頑張りますが、振付、音楽、照明、セット、カンパニー一丸となって総合芸術として見せていくことがすごく重要な舞台になっていくんじゃないかな。

ーー縮んでいく役柄をいかに表現されるのでしょうか。

G2さんも、そこをどう表現するのかすごく聞かれるとおっしゃっていました。映像だったらおそらく表現するのはとても簡単なんだと思うんです。でも、舞台だからこそできる見せ方だったり、生の舞台だからこそ、お客様が物語に引き込まれていってそう見えてくるものがあったり、お客様と一緒の生の空間でこの作品をそんな世界に持っていくということを大事にしたいとおっしゃっていて。私たちも、その日その公演の舞台マジックというものは大切にしていきたい、お客様と共有して、最後、「作品の世界だったね」と言っていただける、そんな日々を送りたいと思っています。原作を読んでいる方なら、こう表現するんだというのがおもしろいと思いますし、読んでいなくてももちろん楽しめる作品になると思います。

ーーG2さんの演出はいかがですか。

11年前、『NO WORDS,NO TIME〜空に落ちた涙〜』という作品で一度ご一緒していて。その作品はセリフが一切なくて、不思議な世界だったんですね。今回、立ち稽古を始めたとき、G2さんとご一緒するときはいつもこういう不思議な世界だなと思って、それをお伝えしたんですね。そしたら、「僕、こんな不思議な作品ばっかりじゃないですよ」とおっしゃってました。私自身は、こういった、なかなかない雰囲気の舞台をやるとき、たまたま2本ともG2さんの演出で。今回久しぶりにご一緒させていただいて、おもしろい方だなと。すごく的確で、ストレートにわかりやすく演出してくださるので、何を意図しているのか、こちら側としても汲み取りやすいですね。もちろん頭の中ではいろいろ計算をしていて、それがうまく行くかどうか、お稽古が始まる前にはドキドキしていらっしゃるんだと思うんです。でも、ひとつの場面が出来上がると、「わあ、よかった!」ってすごく喜んでいらっしゃる。うまく見えてこなかったら見えてこない、ここをもうちょっとこうしてほしいとおっしゃってくださるんです。それと、ステイシーと夫との関係をきちんと作りたいというのがG2さんの意図でもあるので、そこに関していろいろおっしゃってくださって。エピソードはいろいろ奇妙だけれども、基本的に流れているのは夫婦間の物語、心のつながりというところがあるから、この作品をやろうと思ったと。だから、夫婦をしっかり演じないと、エピソードが見せたかっただけみたいになってしまう。書かれた作家の方も決してそれが狙いではないと思うので、何が大切か把握しながら演じていきたいと思います。うまくいっていなくはないけれども、何かどこかすれ違っている、決定的に仲が悪いわけじゃないんだけど何かギクシャクしている、そんな夫婦の微妙なニュアンス度合についておっしゃっていました。

花總まり

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ーーG2さんはこの作品の舞台化の構想を十年間練られていたとか。

ストレートにおっしゃる「見えた!」という喜びが、その十年分の熱なんじゃないかなと思います。G2さんの中でも、お稽古が始まる前に頭の中で構想しているのと、いざ私たち役者が来てセットがあって音楽が入って、そこを今初めて合わせているから、不安と興奮が入り混じっている状態なんじゃないかなと思います。

ーー夫婦の関係性が軸になりそうですね。

よくありそうな家庭というか、子供がまだ小さくて、ついつい子育てで手いっぱいになっている。子供には限りなく愛があって、もちろん夫にも愛情はあるけれども、自分ではわからないうちに夫との関係がちょっとおざなりになっている。そんな日常の中で、自分は背が縮んでいく。背が縮んでいくというところは絶対経験も想像もできないじゃないですか。これまでの舞台だったら、いろいろ想像して、それまで経験してきたことから、あ、こんな感じかなって自分の中で実感として落とせるんですけれども。幼くなっていくわけじゃない、年齢はそのままだけど身体だけが縮んでいく。どうしたら縮むのを止められるんだろう、このままいったら私消えてなくなっちゃう、そして、夫とも上手くいかない。自分が実際縮むことができたり、想像しやすかったらできるんですけど、そこが今ちょっと難しいなって感じています。

ーー縮むって、困りますよね。

困りますよね。一瞬縮むくらいなら楽しめるかもだけど、縮んだまんま、しかもどんどん縮んでいくとなると、あせりますよね。

ーーステイシー自身は縮んでいくことをどうとらえている感じなのでしょうか。

決して弱気になることはなく、負けないというか、立ち向かっていっていると思います。これまで数学、計算によって解き明かせてきたように、縮むのを止めることも絶対解き明かせるはずと思っていて、絶望はしていないですね。そして、G2さんの脚本の中では、小さくなったからこそできることをしたり、どこか楽しんでるところもなくはないですね。

ーーステイシーとの共通点は?

お稽古場でG2さんが、ステイシーは、何かを買うときにも、ここからここまでの長さ、距離をミリ単位ですごく測るような女性なんだよっておっしゃっていて、私が、うんうんってうなずいていたら、(花總さんも)そうなの? って言われたんですね。シンデレラフィットって言いますけど、私も、ここにカラーボックスを入れたいとなったらきっちりはまらないといやだから、そこはきっちり計るんです。それで、きれいにはまったときに、わあ、気持ちいい! って思うタイプではありますって言って。家の中のことは、ステイシーと一緒で、メジャーとかで測りますね。そこはちょっと共感できるかなって。きれいに入らないでちょっと空いたりしちゃうとすごく悔しいじゃないですか。何かと巻き尺出してるかもしれない(笑)。

花總まり

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ーー作品の奇想天外なエピソードについて、「現実社会の様々な事象のメタファ(暗喩)」と公式サイトに書かれていますが、ステイシーが縮んでいくのは何のメタファなのでしょうか。

まだこれからですね。強盗に電卓を渡して、結果、縮んでいく。そこが夫婦の関係性ともつながっていて、けっこうややこしいなと。お稽古で実際やりとりをしていって、一つひとつのセリフとかが引っかかってきて、しゃべっているうちに、もしかしてこういうことだったのかなと自分なりの解釈ができる日が来るのかなって。他の方がG2さんとご自身の演じるキャラクターのエピソードについて話されているのを聞いていて、こういうことでこうなったんですねってその方が言ったら、G2さんが、それでもいいと思いますっておっしゃっていて。公演中、日によって変わったり、それこそ、一年後とか三年後とかに、もしかしてこういうことだったのかなって発見したりするのかなとも思うし。そこは、答えはひとつじゃないと思うんです。自分自身、ステイシーの事象をどうとらえる日が来るのか、楽しみでもありますね。そして、観るお客様によってもとらえ方は全然違うと思うので、それも楽しみで。どの作品でも、お手紙とかいただくと、この方はこうとらえたんだ、すごく読みが深いなと逆に教えられることが多々あるのですが、今回の作品ではそういうことがより多くありそうだなと思います。

ーー実際に、思い入れのあるものを差し出せと言われたら?

この前、それ、自分でも考えたんです。日常もっているものってそこまで思い入れのあるものってないかな。お稽古中だと、音を取るための、もうだいぶ長いこと使っていて、すごく思い入れのあるキーボードかなとか。やっぱり長年もっているものになってきちゃいますね。長年ずっともっている、何でも出てくる小さな薬袋かなとか。

ーー魂の51パーセントが奪われるというのも不思議な話です。

翻訳の方がおっしゃっていたのは、51パーセントもっていかれて取り返す、半分以上もっていかれてと思うんですけど、よくよく考えると、あと2パーセントだけ頑張って取り返せれば半分以上なので、すごく大変そうに見えて、ほんのちょっとしたことで人生って変えられるんだよっていうことを言いたいんじゃないかなって。ただ、これをすればいいっていうのがすぐにはわからないんですよね。それで、ふとしたことではっとわかる。作品の中でも、何か自分の感情が変わっていって、こうやったら違う展開になっていたっていう感じなんですね。もしかしたら、追いつめられないと気づかないものなのかなって思うんですけれども。自分の内面を見つめて、そこで何か気づいて取り戻すことができるっていうことなのかなと思います。

ーー魂の51パーセントを奪っていく強盗の存在も謎めいています。

人間なのか人間じゃないのかというところからしてわからないですし、稽古場で、今の段階では誰もわかっていないと思います。でも、ある意味、答えを出す必要があるのか、どうなのかというところにもつながるのかなと思っていて。そのあたりも、観る方の好きに、自由に受け取っていただきたい作品ですね。観る方にすべての要素をゆだねることができる作品かなと。ある意味こちら側が投げかける立場という感じで、観終わって、余韻にひたっていただければいいなと思うんです。

ーー奇妙な出来事が起きる作品ですが、実際経験した奇妙なことは?

あっても言えないかも(笑)。でも、前にもあった気がするみたいな感じで、デジャヴはときどきありますね。つい最近、お稽古場でG2さんがしゃべっているときに、一瞬、あれ? と思いました。

花總まり

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ーーコンテンポラリー・ダンスの山田うんさんの振付も楽しみです。

うんさんの世界がこの作品の不思議な世界観にぴったりで、すごくマッチしてる感じですね。ステイシーはそこに溶け込んでいる感じではありますが、そんなにガンガンには踊らないんじゃないかなと予想してます。もし舞台で踊っていたら驚いてください(笑)。

ーー歌で表現される場面もあるそうですね。

基本はストレートプレイなので、ミュージカルのときのようにわーっと歌うことはないと思うんです。でも、この世界観の中で、作品の一場面の中に自分の声が入って行くことができるのであれば、それはすごく素敵だなと思っています。

ーーストレートプレイとミュージカルとで何か感じる違いはありますか。

やはりミュージカルは曲の力というのがほぼすべてと言ってもいいくらいですよね。ストレートプレイはそれがなくて、圧倒的にセリフの量が違う。よりセリフのおもしろさだったり、相手とのやりとりのおもしろさをお見せしていく。歌は難しいんですけど、セリフも難しいなと思います。普段しゃべっているようではいけないし、セリフがもつ力をこちらが感じてお客様にお届けしなきゃいけない。歌なら歌の力、セリフならセリフの力があるわけで、そこは大事にしたいなと思います。

ーーどんな舞台になりそうですか。

もともとのお話をどうとらえるかにもよるんですけれども、すごくおもしろい作品になるんじゃないかな。G2さんも、観終わって、おもしろかったね! って言ってもらえたらいいっておっしゃっていて。私自身、脚本を読んだときに奇妙だなと思ったことを、稽古場で具体的に表現したときに、「あ、これおもしろいな」と感じるところもいろいろあって。小説だと、読んでいて自分の頭の中で思い描くものだけれども、それが具現化されて、実際に表現するとこうなる、その表現の仕方であったりが、振付のうんさんのテイストともあいまって、おもしろいなって思うんです。ファンタジー、日常にはありえない世界で、すべての年代の方にいろいろ響くと思う作品なので、想像力を豊かに働かせて楽しんで観ていただければと思います。出てくる13人も、男性女性、若い人、年齢のいった方などいろいろなので、いろいろな方に自分なりの答えを見つけ出してほしいなと思います。本当に奇妙な物語で、どうとらえ、どう感じるかはすべてお客様の自由だと思うんです。でも、そんな物語を通じて原作者が言わんとすることにはすごく大切なものがあると思っていて。そこをお客様に感じ取っていただけるよう精いっぱい頑張りますので、どうぞ気楽にこの不思議な世界を楽しみにいらしていただきたいと思います。

花總まり

花總まり

 

ヘアメイク:野田智子
スタイリスト:戸野塚かおる

 

取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=福岡諒祠

公演情報

舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』
【東京公演】2024年4月1日(月)~4月14日(日)日本青年館ホール
【大阪公演】2024年4月20日(土)~21日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
【名古屋公演】2024年4月26日(金)〜28日(日)御園座
 
【CAST】
花總まり  谷原章介
平埜生成  入山法子  栗原英雄
中山祐一朗  吉本菜穂子  幸田尚子  楢木和也  西山友貴  吉﨑裕哉  山口将太朗  山根海音  黒田勇  須﨑汐理
 
【STAFF】
原作:アンドリュー・カウフマン
脚本 / 演出:G2
 
情報】
S席:¥11,800- A席:¥9,800-
 
<公演に関するお問い合わせ>
舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』事務局0570-002-029(平日10:30~18:30)
に関するお問い合わせ>お問い合わせダイヤル 0570-084-617(11:00~16:30)

主催:TBS / ローソンエンタテインメント
 
 
(C)2010 by Andrew Kaufman
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