『OTODAMA'24~音泉魂~』初日レポートーー20年目の開催を終えて考えた「自分にとって、とても居心地のいい場所であり続けている大きな理由」

レポート
音楽
2024.5.26
『OTODAMA’24~音泉魂~』

『OTODAMA’24~音泉魂~』

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『OTODAMA’24~音泉魂~』2024.5.4(SAT)大阪・泉大津フェニックス

快晴で日差しは強いが、風があるのが幸いして、暑くもないし、かといって寒くもない天候。若干数が出た当日券も含めては完売。15,000人という、2022年に開催時期を5月に移して以降で最大、9月に行っていた頃を合わせてもトップレベルではないかと思われる動員数。参加者もしくは出演者、あるいはスタッフが、大怪我するとか病気するなどの深刻なアクシデントも、特に起きず。

というわけで。客観的に見れば、2005年から現在までの歴史を鑑みても、一、二を争う大成功に終わった、と言っていい、2024年の=開催20年目の『OTODAMA’24〜音泉魂〜』の1日目、だったのだが。

 トリの四星球のステージが終わり、花火が上がってから、湯上がりアクト(クロージングアクト)のキュウソネコカミが始まるまでの間で大浴場ステージに登場した、清水音泉代表=清水番台の終演挨拶は、謝罪から始まった。

なんの。シャトルバスが混んだことと、駐車場の入口が混雑したことと(路上駐車が多発して道路がふさがってしまったことが大きな原因だという)、飲食エリアが長い間混んでいてなかなか買えなかったことの(確かに夕方頃まで大変な混雑だった)。

その件に関する参加者の、運営への苦情や怒りの声をSNS等でいくつも見たので、まずは謝っといた方がいいだろうということで、そうしただけではないと思う。

シャトルバスと駐車場が混んだせいで、お目当てのアクトに間に合わなかった参加者がいること。飲食店の数が充分でなかったせいで、空腹に耐えながら長いこと並ばなきゃいけなかった参加者がいること。そんな思いをさせたくて『OTODAMA』をやっているんじゃない。自分たちの目的とは逆の結果を生んでしまった。だからまずは、何より先に謝らなくては。という気持ちであることが、その言葉や表情から感じられた。

キュウソのステージが終わった後、清水番台とバックヤードでちょっと話す機会があったのだが、見るも哀れなほどガチ凹みしていて、こっちが「いっぱい入ったじゃないですか」とか「××のライブ、良かったですね」などと言っても、耳に入らない感じだった。ああ、こういう人たちがやっているフェスなんだよなあ、と、改めて思った。

もちろん、シャトルバスが混んだことも、駐車場に入るのに時間がかかったことも、飲食物が容易に買えない状態だったことも、本来なら起きてはいけないし、運営が責められて然るべき事態だ。

が、「大規模のフェスってそういうもんでしょ、なんらかの不都合は起きるもんでしょ」、もしくは「それを防ぐのは大変だから、悪いけどがまんしてもらうしかないでしょ」という按配の、あんまり気にしない、もしくは全然気にしない運営も存在することを、自分は知っている。で、それが「たまにいる」ではなくて、「けっこういる」ことも。

なので、この日の清水番台のガチ凹みっぷりがーーくり返すが、起きてしまった事態は、「だから許してあげてね」などと言えるもんではないがーー何かこう、信頼できる気がしたのだった。

レイザーラモンRG 撮影=河上良

レイザーラモンRG 撮影=河上良

そんな(どんなだ)2024年の『OTODAMA』の1日目は、最初は細川たかし(もちろんあのセットアップ姿)「北酒場」にのせて「シャイトープあるある」、次は円広志で「ハートスランプ二人ぼっち」にのせて「OTODAMAあるある」で入浴宣言を務めたレイザーラモンRGが、後者で「1日目と2日目の年齢層、違いがち。1日目若い、2日目渋い」と歌ったように、例年の『OTODAMA』よりも若い人が多めな客層だった。

シャイトープ 撮影=河上良

シャイトープ 撮影=河上良

その入浴宣言で「ボーカル遅刻しがち」と言われたことに対して「RGさんにいじってもらえて光栄です」と返したシャイトープ。

「ファンタジーを作るバンド」という自己紹介どおり、自らの世界に見事オーディエンスを巻き込んだ、クジラ夜の街。

クジラ夜の街 撮影=オイケカオリ

クジラ夜の街 撮影=オイケカオリ

「太陽」「告白」「熱狂を終え」「真赤」「ドラマみたいだ」等の新旧の代表曲でオーディエンスを熱狂させ、「こういう現場、ずっと大事にしたいと思います。『OTODAMA』がこれからもずっと続きますように」という願いを最後のMCに持ってきたMy Hair is Bad。

My Hair is Bad 撮影=河上良

My Hair is Bad 撮影=河上良

そして、下手したらもうベテランと言ってもいいキャリアなのに、今も常に、新しい、若い世代の熱狂的な支持を集め続ける(フェスでもツアーでも、ライブを観るたびにそのことを実感する)クリープハイプ。などが、その「1日目若い」の原動力になったのだと思う。

岡崎体育 撮影=渡邉一生

岡崎体育 撮影=渡邉一生

「FRIENDS」で清水音泉“男湯”田口氏を登場させたり、「Voice Of Heart」で歌う自分にさんざんツッコミを入れる間に、「岡崎くん」と呼ぶ時のアクセントがおかしい四星球・康雄にまでツッコミを入れたり、好き放題なパフォーマンスで爆笑を巻き起こした岡崎体育は、「俺は70歳になっても『OTODAMA』に出る! ヨボヨボになってもやるよ! 音楽フェスの未来は子供たちに託すんじゃない、みんなが継続させるんや」と、参加者に呼びかけた。そして「最後にひとことだけ言霊を置かせてください。岡崎体育はいつの日か必ず紅白歌合戦に出場します」と言ってから、ステージを下りた。

レイザーラモンRG 撮影=渡邉一生

レイザーラモンRG 撮影=渡邉一生

その岡崎体育の直後に、フレディ・マーキュリーになって再登場したレイザーラモンRGは、「ボヘミアン・ラプソディ」フルコーラスで「OTODAMAあるある」を歌う、という離れ技をやってのけた(ほぼ6分あるのです、この曲)。「やった! 俺はやったで、田口!」と、立命館大学プロレス同好会時代の後輩に、マイクを通して伝えておられました。

Lucky Kilimanjaro 撮影=オイケカオリ

Lucky Kilimanjaro 撮影=オイケカオリ

Lucky Kilimanjaroは、サウンドチェックでも本編でも、何度も「ダンスは自由です」「自分のダンスを踊ってください」という、星野源のような、あるいはじゃがたらのようなメッセージを発しながら、その言葉どおりの、受け手がどう楽しむかの許容範囲が広いパフォーマンスをくり広げた。

フレデリック 撮影=河上良

フレデリック 撮影=河上良

「いっぱいしゃべりたいことあるけど、5分しゃべるより曲やった方がいいかなと思って、詰め込んできました。それが今日の答えです」とかっこいいこと言いながら、新曲も含む楽曲たちを連打したフレデリックは、後半で「『オドループ』出してから10年て知ってた?」と、オーディエンスに問うた。そうか、もうそんなに経つのか。

クリープハイプ 撮影=河上良

クリープハイプ 撮影=河上良

自身の小説にも使うほどの習慣であるエゴサーチで、「むちゃくちゃ激しい、盛り上がるバンドばっかり出てるのに、なんでこんなにゆるふわファッションミュージックおねえさんがいるんだろう? あ、タイムテーブルのクリープハイプを見落としてた」というポストを出番前に掘り当てて、MCネタにする尾崎世界観。

「ゆるふわファッションミュージックおねえさん、俺たちなめられてるよ。意地を見せてくれないか!」というアジテーションからの「HE IS MINE」で<セックスしよう>の大合唱を呼び起こした尾崎は、「どこに行ってもなじめない、自分がそういう人間だから。『OTODAMA』というフェスは、そういうバンドも認めてくれる希少な、貴重なフェス」と、感謝の意を伝えた。

バックドロップシンデレラ 撮影=オイケカオリ

バックドロップシンデレラ 撮影=オイケカオリ

持ち時間の2/3以上の時間、ステージにいない、つまり柵前かオーディエンスの上に居続けた(しまいにはステージ右方のトラスの最上部までよじ登っていた)バックドロップシンデレラのでんでけあゆみは、「『OTODAMA』出れた!」と叫んでから、オーディエンスに<フェスだして>のシンガロングを求める。

打首獄門同好会 撮影=オイケカオリ

打首獄門同好会 撮影=オイケカオリ

サウンドチェックで四星球の「クラーク博士と僕」を演奏、大ウケした打首獄門同好会は、「地味な生活」の<温泉行きたい>を<音泉行きたい>に変えて画面に出し(もはや恒例)、「最後は清水音泉とここ露天風呂ステージに」と「フローネル」を捧げた。

帝国喫茶 撮影=桃子

帝国喫茶 撮影=桃子

今年で2年連続二回目の出演、音も歌も佇まいも、オーディエンスからのリアクションも、すべてが昨年から大きくジャンプアップしていた帝国喫茶、2年ぶりの出演で同じく大きなジャンプアップを見せたHakubiなどの新人アクトも、この日トリを務めたa flood of circleのようなベテランも出演する源泉テント。

Hakubi 撮影=桃子

Hakubi 撮影=桃子

そのトップに「湯沸かしアクト」として出演したワタナベシンゴ(THE BOYS & GIRLS)は、かつてはこのステージはイベント『SET YOU FREE』にブッキングを任せた「SET YOU FREEテント」だったこと、そこに2012年に初めてバンドで出演したこと、大きなステージに行きたいと思いながら何度も出たこと、そこに一緒に出ていた四星球が、2017年にトリに抜擢された時、その『SET YOU FREEテント』から走って大きなステージに登場する、という演出をやったことを話した。「涙止まんなかったよ、俺は」。そして「OTODAMAが、2日間無事完走できますように!」と叫んでから、ラストの「その羅針盤」に入った。

ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS) 撮影=桃子

ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS) 撮影=桃子

a flood of circle 撮影=河上 良

a flood of circle 撮影=河上 良

ベテランのファンもニューカマーのファンも、自分たちのファンもそうでない人も、フェスの場で等しく熱狂させる、という点で、この日強かったアクトは、ORANGE RANGEとサンボマスター。レンジは「以心電信」「ロコローション」「イケナイ太陽」等で、サンボは「ヒューマニティ!」「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」「できっこないをやらなくちゃ」等で、その威力を発揮しまくる。

サンボマスター 撮影=桃子

サンボマスター 撮影=桃子

なおレンジは、1曲目の「上海ハニー」でオーディエンスをつかんだところで、HIROKIがMCを入れる。「それでは軽く契約を交わしましょう。私たちは、ORANGE RANGEのライブを見るにあたって、突然知らない曲が始まっても、『上海ハニー』や『以心電信』と同じく、全力で楽しむことを、全力で楽しむフリをすることを誓います!」。で、昨年リリースの「解放カーニバル」へ。大笑いしつつグルーヴに乗っかっていくオーディエンスを、HIROKIは「有言実行、すばらしい! ありがとうございます!」と称賛した。

ORANGE RANGE 撮影=オイケカオリ

ORANGE RANGE 撮影=オイケカオリ

ヤバイTシャツ屋さん 撮影=オイケカオリ

ヤバイTシャツ屋さん 撮影=オイケカオリ

サンボマスターの次の時間のヤバイTシャツ屋さんは、翌週末に迫った志摩スペイン村での野外巨大ワンマンの、初日は完売だが2日目はあと1600枚余っている、大阪から2時間、17時には終わるので余裕で帰れます! と宣伝しまくりながら、参加者をヒートさせる。ラストの「ハッピーウェディング前ソング」に入る前に、こやまたくやは「OTODAMAは完全にコロナ禍前の景色を取り戻しました!」と叫んだ。なお、その2日目のは、開催前日にソールドアウトした。

四星球 撮影=河上良

四星球 撮影=河上良

トリの四星球は、ワタナベシンゴも触れた前回のトリ=2017年のステージで、清水番台がまさやんと共にローションまみれになる映像からスタート。そして「『OTODAMA』を清水音泉と共同開催する読売テレビに媚びまくったライブ」が本日のコンセプトであることを発表し、名探偵コナン(康雄)、『しゃべくり007』のロゴのシルエット(まさやん)、『はじめてのおつかい』で通行人を装って子供を撮るカメラマン(U太)、上沼恵美子(モリス)に扮して登場する。

撮影=河上良

撮影=河上良

以降も、読売テレビのいろんな番組をネタにしたり、シノビー(同局のキャラクター)を呼び込んだり、清水番台にちょんまげマンの扮装をさせて『鳥人間コンテスト』の人力飛行機(もちろんまさやんが段ボールで作ったやつ)に乗せて客席エリアを練り歩いたり、本番途中で花火を上げたりーーなどなど、例によって書ききれないほどいろんなことをいろんなふうにやらかした末に、田口氏とまさやんをローションまみれにしてフィニッシュした。

撮影=河上良

撮影=河上良

撮影=河上良

撮影=河上良

その後の特筆すべき事項は、湯上がりアクト(クロージングアクト)のキュウソネコカミを観るために、驚くほど多くのオーディエンスが残ったこと。「間違いなく今ここに残った人たちが、『OTODAMA』を楽しみきった人たちです!」と絶叫、「つらい時もやめなくてよかったなと。今がいちばん楽しいですよ、やめなかったから今がある!」などと、グッとくることを何度も言いながら、駆け抜けるように7曲をパフォーマンスしていくキュウソ。アンコールを求める声に応えて追加したのは、曰く「2014年に初めて出た時に、最後にやった2曲」であるウィーアーインディーズバンド!!」と「ビビった」だった。

キュウソネコカミ 撮影=オイケカオリ

キュウソネコカミ 撮影=オイケカオリ

撮影=オイケカオリ

撮影=オイケカオリ

最後に、この日のすべてのアクトが終わったところで気がつき、翌日のすべてのアクトが終わったところで、もう一度実感したこと。

本番中のステージを、スマホで撮っている参加者がほとんどいない、『OTODAMA』って。ゼロではないが、他のフェスやイベントと比較すると非常に少ない気がする。

禁止されているからでしょ、という話ではない。禁止されていても撮る人は撮るし、現に、禁止されていても撮る人が多いフェスやイベントも、いくつもある。

ただ、これ、『OTODAMA』の参加者はちゃんしている、きちんとルールを守る、ということだけでもない気がする。いや、結果、守っているんだけど、「禁止で撮れないから撮らない」だけではなくて、撮ることに価値を感じない、だから撮らないのではないか。

なぜ。今、生でライブを観て・聴いていること、この場でリアルタイムで全身で音楽を感じていることの方が、「撮る」ことよりも、はるかに価値が高いから。で、そのことをよおく知っている参加者が大多数だから、という。

こういうことを書くと「海外では撮影OKがあたりまえ、今どき禁止なのは日本だけ」とかいう声が飛んできそうだが、そういう議論をしたいわけではありません。撮影することの是非を問いたいのではなくて、『OTODAMA』の参加者が撮らないのはなぜか、考えてみたくなっただけです。

だけですが、なんというか、『OTODAMA』が自分みたいな奴にとって、とても居心地のいい場所であり時間であり続けている大きな理由に、そういう人たちが集まっていることもあるんだろうな、というようなことを、改めて考えたのだった。

2日目の、鈴木淳史のレポに続く。

取材・文=兵庫慎司 写真=『OTODAMA』提供(渡邊一生、河上 良、オイケカオリ、桃子)


■2日目のレポートはこちら

>>『OTODAMA'24~音泉魂~』2日目ーー愛とユーモアといい湯に溢れている、”OTODAMAの原型”を感じた愛しきお祭り騒ぎ

■次のページは、音泉魂写真館(初日・5月4日編)

露天風呂(2ページ目)、源泉テント(3ページ目)、大浴場(4ページ目)のライブ写真を掲載中!

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