原作 荒川弘×脚本・演出 石丸さち子 スペシャル対談が到着 舞台『鋼の錬金術師』第二弾公演東京・大阪にて上演

ニュース
舞台
アニメ/ゲーム
2024.5.25

――稽古場にも原作コミックスを置いておられるのですね。

石丸 今でも机の上に置いています。確認するときは、常に本で。

荒川 紙の本だと、この厚みのこの辺りに書いてあった、とか結構覚えていますよね。今、原作がある作品も描いているのですが、原作小説をスマホにダウンロードして外でネームをやろうとしたら、物語が立体的にたちあがってこなくて。全然ネームが進まないのでびっくりしました。原作を読むならやっぱり紙だなって(苦笑)。

石丸 すごくわかります、何度もページを捲って手が覚えてくるんですよね。
外でネームを考えることもあるんですね、先生の頭の中を想像するとワクワクします!

荒川 小説を読んでいる時も、頭の中で漫画のコマ割りをはじめちゃうんです。最初は文章を読んでいるのに、気付くと全部ネームになっている。だから、小説が全然進まなくて。年を取って漫画の経験を積めば積むほど、読むのがめちゃくちゃ遅くなっています(苦笑)。

石丸 私も読んでいるとセリフのように音や映像がうかんできます。「鋼の錬金術師」は自分が小さい頃に読みたかった~! 大人になってから読む味わいも素晴らしいですが、子供の時にも読みたかったです。

荒川 人間の成分なんかを考える小っちゃい子とか、嫌ですよね(苦笑)。でも、ここ(「鋼の錬金術師」)から科学を好きになってくれる子がいたら嬉しいなあ。

―― 脚本やキャスティングについて原作サイドからのリクエストはありましたか?

石丸 ほぼ無かったですね。細かい言い回しなど担当編集の方からありがたいアドバイスをいただきましたが。先生からいただいたご指摘はたった一カ所で、「有機野菜」。マルコーが賢者の石の情報を潜ませた「今日の献立千種」のレシピ内で、私がノリで「有機野菜」と書いたら、「『鋼の錬金術師』の世界は有機野菜が普通栽培なので、【有機】はトルツメでお願いします」って。これは作者の荒川先生だからこそ出てくるチェックだと思いました。

荒川 (笑)。キャスティングなどは私は詳しくないので、現場の方がいいと言うならばいいんだろう、みたいな感じでした。楽しみだなあ、って。アシスタントさんの中に役者さんファンがいるのですが、そういう人は原作を知らなくても舞台を観に行きますよね。そして、舞台が面白ければ漫画も読んでみようか、となってくれる。

石丸 2.5次元舞台や俳優ファンの方で、ハガレン未経験から観劇をキッカケにコミックスを買ったという方もいらっしゃいます。ぜひこの素晴らしい原作に触れて欲しいなと思います。

荒川 メディアミックスのありがたいところですよね。逆に、原作ファンが役者さんのファンになったりして、他の出演舞台にも行ってみようかなと思うかもしれません。私自身、2.5次元舞台って、こんな楽しいんだと思いましたから。

―― 第一弾公演をご覧になって、印象的なシーンは?

荒川 お母さんを錬成するシーンですね。アニメや映画など色々なメディア展開がありましたが、今までで一番、“お母さん”が怖かったです。動きもすっごく怖かった!

石丸 良かったー!あれは俳優がブリッジして登場しています。いろんな方法を考えたのですがフォルムを作るとお金もかかりますし(笑)、シンプルに俳優がおかしな格好をしようと。だからブリッジしながら動ける人を探しました。

荒川 「急募:ガチでブリッジが出来る人」(笑)。

石丸 そう、ガチブリ(笑)。「これは演劇では伝わりにくいかな」と心配していたものでも幕が開いたら好評をいただくことが多くて、嬉しかったです。カンパニーのみんなも「一緒に作っていこう!」という意気込みにあふれたメンバーで。「みんなで錬成しよう」と言っていました。「アルは舞台でどうするんだ?」というハガレンファンの皆様の声もありましたが、眞嶋秀斗くんとスーツアクターの桜田航成くんが一心同体となってやってくれました。稽古場から常に一緒にいて同じ動きをして、本番中も眞嶋くんは袖でずっと鎧のアルと同じように動いてセリフを言っていたんです。「不自由な演技の作り方だけれども、僕らは二人で一人前の俳優として演技をするんだ」という感じが、「不自由である事と不幸である事はイコールじゃない」という有名なセリフと重なって胸が熱くなったり。

――まさに「二人で一人」のアルフォンスでした。

荒川 プロフェッショナルですね! それに、原作のアルフォンスを本当に愛してくださって。そんな風にお客さんからは見えないところで頑張っておられる方や、縁の下の力持ちの方々がどのように舞台を支えてくれているのか。そういうところも見たくなりますね。是非、次の舞台のメイキング風景も、DVD(の特典映像)にモリモリいれてください。

―― あらためて「鋼の錬金術師」のテーマについてお聞かせください。

荒川 言葉にすると漠然としているのですが、「生きるとはどういうことか」というのが、ずっと中心にありました。物語の最後でアルが口にした「10もらったら自分の1をプラスして、11にして次の人へ渡していこう」が最終的なメッセージでしょうか。今をより良くして次の世代に繋いでいこうとすることが、我々大人のやることではないか、と。命の連鎖でもありますね。戦争はなくなりませんし、世の中は物騒になる一方で、「より良く」というよりも「マシな渡し方」をしていかなきゃいけないなと思う昨今ですが。

石丸 「鋼の錬金術師」で私が素敵だなと思ったのが、善と悪の二項対立にしないところ。今、戦争に纏わるあれこれもそうですし、何に属するか、何を信じるかで真っ二つに分かれがち。それが対立するだけで終わって、相容れることがないままがすごく多いなと思うんです。でもハガレンは線引きをせずに、それぞれの行動原理を追っていく。エドとアルがピュアな目線を持っているということもあるかもしれませんが、大人の決めた倫理観や道徳感ではないところから世の中を見据えていく姿が本当に素晴らしくて。一番シンプルに、愛情で世界が読み解けるんじゃないかという夢と希望を、この二人が叶えてくれるような気がします。

荒川 15歳くらいなので、まだ大人の枠にハマっていないんですよね。大人にはなりきれない、でも子供じゃない思春期。どこか斜めに構えているところもありますが(苦笑)、命に対する線引きはまだ子供で。少年誌で読者の方に訴えかけるにはこのくらいの世代だろうと(エドたちを)設定したのですが、ありがたいことに単行本を手にとってくださっている方の年齢層は、上から下まで幅広いようです。

石丸 劇場に足をお運びいただいたお客様の客層もとても幅広かったんですよ。スタッフのお子さんも見に来られて、もう夢中になってくれたようで。お部屋のドアに「東方司令部」と書いた紙を貼っていたらしいです。

荒川 東方司令部はコーヒーが薄くて不味いのに(笑)…! もしかすると、軍服がかっこよく見えたのかもしれませんね。

シェア / 保存先を選択