日本で一度きりの歴史的共演 マティアス・ゲルネ&マリア・ジョアン・ピリス「冬の旅」開催
2024年11月2日(土)東京・サントリーホールにて『マティアス・ゲルネ&マリア・ジョアン・ピリス 冬の旅』が開催される。
現代最高のドイツ歌曲の解釈者 マティアス・ゲルネは、シュヴァルツコプフ、F=ディースカウなど「ドイツ歌曲の巨人」の直系の弟子であり、豊かな表現力と技術を兼ね備えた、シューベルト作品を得意とする世界的なバリトン歌手。一方のマリア・ジョアン・ピリスは、2018年に引退宣言をするも、その後復帰し、2022年の来日公演では大きな感動を生んだ、現代を代表する最高峰のピアニストだ。ピリスもまた、シューベルトを重要なレパートリーとしている。そんなふたりの夢の共演が、ついに日本で実現する。
マティアス・ゲルネ
マリア・ジョアン・ピリス
演奏するのは、シューベルト不朽の名作「冬の旅」。ゲルネはこれまでにも数々の名演を繰り広げてきたが、圧倒的表現力によって特にシューベルトの歌曲において世界的評価を得てきた。詩的で繊細なピリスのピアノと響きあい、唯一無二の「冬の旅」を届ける。なお、このコンサートは日本でたった1回だけ、サントリーホールのみでの公演となる。歴史的な共演に注目だ。
マリア・ジョアン・ピリスとマティアス・ゲルネの「冬の旅」に寄せて(國土潤一)
2018年にピリスが引退宣言をして姿を隠した時、ピリスの音楽を愛する者は悲しい思いをした。その後、前言を撤回しピリスは帰って来てくれた。しかし、1944年生まれのピリスにとって、ピアニストとしての残された時間がそう多くないことは、彼女も我々も知っているはずだ。そのピリスが、マティアス・ゲルネと共にサントリーホールで何とシューベルトの「冬の旅」を演奏してくれるとういう。筆者のようなピリスのオールド・ファンは1969年のピリスの初来日が、ヴァイオリニストの塩川悠子の共演者としてであったのを覚えている。そのピアノが余りに素敵であったことが日本のDENONでの「モーツァルトのピアノ・ソナタ全集」の録音につながり、そのディスクがADFディスク大賞を受賞したことによってピリスは国際的な評価を獲得したのだ。謂わばピリスは我々日本人が見出した「押し」のピアニストだった。そのピリスがモーツァルトと並んで重要なレパートリーにしているのがシューベルトであるのは改めて言うまでもない。そのピリスが、共演者にマティアス・ゲルネを指名しての「冬の旅」というのは、一種の事件とも言える。シュヴァルツコプフとF=ディースカウという「ドイツ歌曲の巨人」の直系の弟子の中で、ゲルネはスターの地位を獲得した現代最高のドイツ歌曲の解釈者だ。真の芸術的な演奏でのピアノは共演者であって伴奏者ではない。それは、初来日での塩川悠子との共演からの、ピリスの一貫した姿勢だ。
この日、我々は音楽の歴史的瞬間を体験できるかもしれない。