『猫のダヤン』作者の池田あきこ、大阪で開催中の40周年展に懸けた思い「最高の形で展示されるダヤンを見て」【サイン色紙プレゼントあり】
池田あきこ 撮影=福家信哉
10月27日(日)まで、大阪・なんばパークスミュージアムで『猫のダヤン40周年 ダヤンの不思議な旅 池田あきこ原画展』が開催中だ。1983年に革工房のブランドマークとして誕生し、不思議な世界「わちふぃーるど」の主人公として愛される「猫のダヤン」。そんなダヤンの40周年を記念して、昨年6月〜7月に開催された東京・松屋銀座会場を皮切りに、全国をロード中の同展が大阪にやってきた。「旅」をテーマにした同展は5つのゾーンからなり、立体作品や映像、最新のパステル画、不思議なしかけのある作品などを通して、ダヤンたちと一緒に様々な世界の景色を巡る構成になっている。また、作者である池田あきこの創作活動の歴史も味わうことができる。今回は池田あきこに、目玉作品である「逆さま大時計」(2023年)や「動く夜の街角」(2023年)、革作品「ハビーの酒場 7月7日の11時」(2023年)、大阪展で初公開される最新絵本『ねこのしまのなまけものの木』の原画について語ってもらった。ダヤンやわちふぃーるどのファンはもちろん、大の猫好きにとっては悶絶の展示となっている。
「逆さま大時計」
ダヤンも私も旅が大好き。旅の中でも、ダヤンは常にそばにいる
ーー大阪で40周年の原画展が始まって、お気持ちはいかがですか。
大阪で原画展をするのが、35周年の時の阪急百貨店うめだギャラリー(『猫のダヤン35周年 ダヤンと不思議な劇場 池田あきこ原画展』)以来、5年ぶりになります。今回は新しいなんばパークスミュージアムで開催できて、すごく嬉しいです。空間が広くて新しいので、ものすごく作品が綺麗に映えるし、観やすいです。
ーー本展覧会は「旅」がテーマです。池田先生の活動で、旅はライフワーク的なものになっているのかなと思いますが、今回40周年で旅をテーマにされた理由はありますか?
今おっしゃったように、私のライフワークというのは、わちふぃーるどという国を作っていくこと。それから地球を旅して、いろいろな面白いもの、あまり見たことのないような、自分と違うところを見ていくこと。ダヤンも同じように旅をして、冒険をするのが好きなので、今回はもうぴったりのテーマでした。
ーーダヤンは池田先生の分身なのかなと感じます。
そうですね。全くイコールではないけれども、すごく近いところがあるし、旅では常にダヤンも一緒に行っているという感覚ですね。
池田あきこ
ーー8月にはブルガリアとルーマニアに行かれていたとブログを拝見しました。「旅は出会いが楽しい」と作品集にも書いておられましたが、良い出会いはありましたか?
今回は1人ではなく、車を運転してくれる方やブルガリアとルーマニアに詳しい古いお知り合いの方と一緒に行ったんです。1人だと、電車と徒歩とバスで迷いながら行くわけですよね。今回は迷うことはなかったけれども、逆にいろんな方との出会いがありました。ワインセラーに寄ってみたり、普段ではあまり体験できないことができて、これはこれで楽しかったですね。
ーーブルガリア、ルーマニアに行かれたのは何度目ですか?
初めて。東欧はハンガリーにちょっと行ったくらいで、あまり行ったことはないんです。
ーー1人で旅する時のダヤンがそばにいる感覚と、誰かと旅する時のダヤンがそばにいる時の感覚は違いますか?
1人でいる時の方が強いですね。ただ、私は旅でスケッチをするんですけれども、誰と行ってもその時には必ずダヤンがそばにいるわね。
わちふぃーるどと「地球」の旅へ没入
入口のパネルには池田あきこ直筆サインが入っている
ーーギャラリートークもされていましたが、お客さんの反応はいかがでしたか?
ギャラリートークも大阪ではあまりやったことがなかったので、みんなすごく新鮮に頷いてくれたり、驚いてくれたり、拍手してくれたりしたので嬉しかったです。お客様は展示で癒されましたと言ってましたね。会場に入った途端、それまでの自分の暮らしが割とガラッと変わって、不思議な世界に足を踏み込んだみたいになって、それでとても癒されたって。それは1つの言い方であって、現実と離れることでその中にのめり込んで、つかの間、日常を忘れることができるということかなと嬉しくなりました。旅も展覧会も、ほんとうに本と似ていて、他のことを忘れて没頭できるようなものだとも思います。
ーーそんな原画展で印象的な作品のお話を聞かせてください。「1.旅の始まり」で出迎えてくれるのが「逆さま大時計」です。不思議な旅の始まりに、この大時計を持ってこられた意図はありますか?
パリのオルセー美術館が、昔は駅だったんですね。ですから、ものすごく大きな大時計があって。その針と針の隙間から見たパリの街が、すごく綺麗だったの。それで、大時計の中を旅の映像で埋めたいなと思って作ってみました。針を逆さにしたのは、時が逆に流れるイメージ。わちふぃーるどと地球も時空がちょっと違うから、ダヤンが時空を旅をするという映像を映せたら楽しいなと思って、描いた絵をどんどん時計の中で映していって。時計の下は駅になっていて、そこではいろいろな事情で旅をする人たちの風景があるような、「ちょっとノスタルジックだけれども、ワクワクするような駅」をテーマにしました。
ーーダヤンたちの肖像画にも、しかけがあって面白いですね。肖像画のアイデアは旅に基づいているんですか?
肖像画は旅というより、展覧会の狂言回しみたいな役割ですね。これまで私は、いろんな展覧会でわちふぃーるどの中の世界の旅を描いてきました。だけど今度の旅は、わちふぃーるどを外れて地球に行ったりするから。そういうものの案内役として、ダヤン、マーシィ、ジタンがいます。
スタッフと共同で作り上げた、革作品の大傑作
革作品「ハビーの酒場 7月7日の11時」(2023年)
ーー革作品「ハビーの酒場 7月7日の11時」も、今回の目玉作品です。
今回の「ハビーの酒場」は第2番目の作品で、1番目は私がまだ絵を描く前。わちふぃーるどという世界を作りたいと思って、キャラクターの設定をするのに、革でダヤン、ジタン、マーシィ、いろんな生き物たちを酒場の中に作ったんですね。それを40年経ってもう1回やってみたかった。ちょうど、今回のロード(展覧会)の始まりの東京・松屋銀座の展示期間が、7月7日のダヤンの誕生日を含んでいたんです。酒場の1階ではダヤンの誕生日パーティーが開かれて、ちょっと時空が歪んだ階段の2階では、ベイビーダヤンが魔女に送られて、時計の中から旅に出てるんですね。時計が旅の出発点。「逆さま大時計」は駅だけど、時計屋が旅の出発点でもあるのよ。「時計」は違う世界のキーワードなの。
ーー池田先生ご自身も、時計に対する思い入れはありますか。
あります。架空の国、不思議な国を作りたくて、わちふぃーるどのイメージがあって、それからシンボルとしてダヤンが生まれて。そしたらダヤンって案内役にぴったりだったのね。ダヤンがわちふぃーるどに行った途端に、もうお話がどんどん生まれてきて。
ーー2度目の「ハビーの酒場」を作ってみられて、最初に作った時とは違う感覚がありましたか?
前はひとりで作ったけど、今度はみんなで作ったんです。私、会社とメーカーも経営してるじゃない。だからみんなでわちふぃーるどを盛り立てていくというのはもちろんあるんですけれども、「ハビーの酒場」の作品自体を作っていくのに一緒に協力してやったのは私も面白かったし、作るのも面白かった。
ーー『池田あきこ作品集 猫のダヤン40th(2023年)』が出版された時点ではまだ制作途中でしたが、本展では完成形で展示されています。
作ってるうちに楽しくなって、どーんどん増えちゃって。「ここには蜘蛛を置こう」とか「ここにも時計を掛けよう」とか。キャラクターももっと増えてますよ。
とにかく必見! 「動く」トリックアート
コラボカフェのメニュー
ーー「動く夜の街角」はほんとうに不思議な作品でした!
あれは面白いわよね。
ーー目の錯覚で、絵の中に入っていく感じが面白かったです。
約10年前の2012年に「動く昼の街角」を作ったので、対になる夜を作って、両方同時に動かしたいなと思ったの。
ーー制作過程は大変ではなかったですか。
すごい大変だったよ! すごい大変だった。立体にする時にコンテ通りにいかないのよね。だから難しかった。あと色を塗っていくのもアクリル絵の具だから難しいってわけじゃないんだけど、根気がいったわね。
ーーどのぐらいの時間がかかりましたか?
ひと月以上かかったわ。夫に支持体(絵を描くキャンバスや紙)を空中に立つようにしてもらって、それで描いていったの。
ーー身長の低いお子さんの目線だと、もっと没入できるとうかがいました。若い方やお子さんにも見てほしいですね。
そうね。この作品は面がいっぱいあるから、ライティングが難しいのね。だけど、なんばパークスミュージアムはライティングも綺麗だったから、ぜひ見てもらいたいです。素敵な美術館で嬉しいです。
『緑の回廊プロジェクト』
ーー会場にはボルネオの森での保全活動に関する展示もありました。
マレーシアのボルネオ島キナバタンガン川沿いでは、熱帯雨林が急速に失われているのね。だから『緑の回廊プロジェクト』といって、そこで生物多様性と自然環境を保全する取り組みをしているの。2012年からこれまでで「ダヤンの森Ⅳ」まで買い取っているのだけれど、今回5つ目の森を買おうと思っていますので、ぜひ展覧会に来られたら、皆さんにご協力いただきたいです。
ダヤンが可愛くなったのは「いい変化」
取材場所のコラボカフェでは制作過程の動画が見られる
ーー今回の展示でもう1つのテーマが「パステル回帰」ということですが、池田先生の原点であるパステルに戻ろうと思われたキッカケはありますか?
実は私、今回また新しい技法に挑戦もしたいな、なんて思って。切り絵というか、影絵みたいな大きな作品をやりたいなと思ったのね。だけど、私は絵を描き始めて40年近くで、いっとう最初に描いたのがパステルで。その時からパステルは自分の画材だと思っていたので、やっぱりもう1回パステルに戻ってみようと思ったんです。影絵は独特の技法があって、今からそれを新しくやるよりも、もっとパステルを追求していこう。もっと奥深い、入っていけるような絵を描こうと思ったの。うちのスタッフとも話して、それを全部記録として残そうと。だから定点でパステルの制作過程の動画を撮っているの。
ーー新作原画として展示されている、最新絵本『ねこのしまのなまけものの木』(2024年10月刊行)を描く前にパステルを追求しようと思われたんですか?
そうです。前に出した絵本は小さかったので、もっとずっと大きく「猫らしい猫」を描きたいなと思って。
「猫横丁の噂話」
ーーダヤンはかなり猫らしいと思いますが、もっと猫らしい猫を?
なんていうのかな、四つ足で走ったりするのが似合うような猫。でもダヤンって四足歩行も二足歩行も似合うんだよね。他にもたくさんの猫を描いていて、絵の中にはうちで飼っている猫のあんちゃんとりんちゃんもいるんですよ。
ーー目が輝くように描かれていて綺麗ですね。ダヤンも初期の頃と比べると、お顔が変化していますね。最初はミステリアスな表情だったのが、どんどん目が丸く、明るい栗色になっています。
そう、すごく変わってるよね。いっとう最初に「ポーズ・ダヤン」(1986年)を描いて、私は「この猫だ」と思ったの。「この猫を記憶に残る主人公にしよう」と言う思いが強かった。私「ポーズ・ダヤン」のポスターを作って店に貼ったの。そしたら入ってくる人が、何か一言言わずにはいられないという。「可愛い」と言う人もいたけど「怖い」と言う人もいて。
ーー最近のダヤンはちょっと可愛いですね。
うん。だけどそれはね、当然なのよ。変化は良いことなの。1つには私が商売をするのもあるよね。だって、こういう(2011〜2020年の顔、『池田あきこ作品集 猫のダヤン40th』参照)ダヤンの方が好かれるもん。だけど自分にとってはどのダヤンも可愛いのよ。多面性を持つ猫だと思うから。そういうところが、40年長生きしてきた理由じゃないかしら。
ーーそうだと思います。愛される猫ですね。では改めて、今回原画展を見られる方にメッセージをお願いします。
今回はミュージアムで、最高の形で展示がされていると思うんです。そういうダヤンをぜひ見てください。そして、新しくなったダヤンも見てもらいたいわ。
取材・文=久保田瑛理 撮影=福家信哉
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