「日常じゃない時間と空間に遊べるような芝居にしたい」~舞台『応天の門』青木豪インタビュー

インタビュー
舞台
2024.11.14
青木豪

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平安時代を舞台に、菅原道真と在原業平がタッグを組んで怪事件に挑む異色のクライムサスペンスコミック『応天の門』の舞台化に挑む青木豪。「読んですぐに好きになった」という原作と向き合い、個性的なキャストと共にイメージを広げて描く “絵巻物のような平安の宇宙”とは——。

ーー本作の演出を託された際のお気持ちは?

僕は普段あまり漫画を読まないんですけど、最初に原作を読んだ時に「次はどうなるんだろう?」と思ってとにかく楽しく読めたんです。主人公の菅原道真って、学問の神様だったり、その後怨霊扱いになったりと伝えられている人物ですよね。また、そもそも遣唐使を廃止している人なのに“実は唐にものすごい憧れを抱いていた”若い頃の話という設定、そして在原業平とバディを組むっていうのもすごく面白かったですし、周囲のキャラクターの書き分けもとても良かったんです。特におっさんとか嫌なキャラクターが(笑)、どれもみんな特徴があって。それに教科書で「藤原基経」と書かれても「誰が誰なんだろう?」みたいになるけれど、この原作ではちゃんと全部こちらに入ってくる。だから舞台化するときにも癖が強い俳優さんたちが集まるといいなと思っていました。

ーー先日行われた会見にて菅原道真役の佐藤流司さん、在原業平役の高橋克典さん、昭姫役の花總まりさんと同席されました。

まず役で言うと、在原業平は「いろいろあったけど人生を楽しんでる人」だなって感じがして。一方の菅原道真は、人生を楽しみたいとすら思ってないのか……人生を一生懸命真面目に歩んでいて楽しめてないなっていう印象ですよね。昭姫はもう酸いも甘いも噛み分けて、したたかでありつつものすごい芯が強い女性っていう感じがあったので、そういったそれぞれの個性みたいなのがうんと濃く出せるといいなと思っていました。そういう意味でもみなさんとても似合っていて、素敵なキャスティングになっているんじゃないでしょうか。

青木豪

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ーー情報解禁の際、原作を知っている人たちの間でも俳優さんの力量への信頼はもちろん、「ビジュアルも一致」と好印象で。

やっぱり俳優さんってその人のお人柄がにじみ出てくるところがあると思うから……克典さんはジャズやクラシックに非常に造形が深かったり、とても優雅にいろんな楽しみを持ってらっしゃいますよね。また、今日も横で話されているのを拝見して、とにかく人を楽しませたいなっていう思いにあふれている方だと感じました。流司くんは5年ぐらい前、椿組をやってたときにたまたま観に来てくださって。軽くご挨拶だけだったけれど、ちょっと人見知りな感じはありつつすごく丁寧な人だな、と感じたのを覚えています。今回の道真もなかなか自分からグイグイ入っていくタイプじゃないから、ちょうどいいんじゃないかな。花總さんも、一方的に作品を拝見したり、稽古場でたまたますれ違ったりとかはありましたけど、やっぱり華がすごくありますよね。昭姫って、時々出てきてはその場がサアッと華やぐ感じとミステリアスなところが一緒になっている存在で、僕の持つ花總さんのイメージにもバッチリ。安心してお任せできるみなさんです。

ーー周囲を固めるおじさまたちはいかがですか?

(伴善男役の西岡)德馬さん、(源融役の)篠井(英介)さん……もう、言うことないですね! 篠井さんはご挨拶はさせていただいたことがありますけど、お芝居でご一緒させていただくのは今回が初めてですごい楽しみですし、德馬さんは以前劇団☆新感線の『IZO』(08年)という芝居を書かせていただいたときに本書きと役者という関係ではご一緒しているのですが、演出で稽古場でがっちりは初めてなので、やはりすごい楽しみだし、何か支えていただければなと思っています。

ーー紀長谷雄役の中村莟玉さんは歌舞伎界からの参加です。

莟玉さんは少年らしい可愛らしさもありますし、和物の所作もしっかりなさっているでしょうから、これもまたすごくぴったりだと思いました。

舞台『応天の門』

舞台『応天の門』

ーー青木さんご自身は漫画原作の作品で演出をされるとき、なにか独自の流儀などはあるのでしょうか?

僕は原作漫画を読んで自分がファンになれなければやっちゃいけないな、と思っています。今までも自分が好きな作品しかやっていないし、もちろん今回も読んですぐ好きになりました。演出についてはそこを……自分がなんでこの作品を好きになったかっていうところを大事にしていけば、あんまり間違ったことにはならないんじゃないかな、と。今回、やはり舞台にするためにストーリー上でちょっとアレンジが加えられているところがあるんですけど、それも原作の灰原薬さんからアイデアをいただいて書いたものです。なので、もし原作ファンの方に「なんでそこがそうなった?」と言われても、「原作の方がこうおっしゃってくださったんで大丈夫です」って、自信を持っていけるところは強いですね。

ーー「一緒に整えてくれた」という信頼ですね。

はい。例えば人の呼び方だったり、こういうときにそのキャラクターはそんなことしないんじゃないか? という細かなところにこそ、実は原作へのリスペクトっていうものがこもっていると僕は思うので、今回もそういうポイントを大事にしたいなと思いながら作っています。会見で流司さんが「2.5次元作品を演じる時はコマとコマとの間の動きがどうなっているかを考える」ということをおっしゃっていて、それも本当にそのとおりだなと。以前、蜷川(幸雄)さんと『ガラスの仮面』(08年)をやらせていただいたのが、僕にとっての最初の2.5次元作品だったなと思うんですけど、その続き、(主人公の北島)マヤがテレビ界に行った後っていうのはG2さんが演出をされてまして、それを観たときに、前髪が目の上まできてる暗躍するキャラ(乙部のりえ)がいるんですけどね。マヤにずっと付いてきててマヤを落とし込む女の子。確か内田慈さんがやってたと思うんだけど、原作で彼女がこう……後ろ向きに歩いていくコマがあって、それを舞台上で見事にやっていた。コマとコマの間を埋めながらきれいに歩いていて、すぐ「あぁ、あのコマだ!」と思いました。それがすごい楽しかったんですよね。「3D化するとこうなるんだなぁ」という感覚が。コマとコマの間を想像力でちゃんと埋めてるから、漫画の世界がちゃんと舞台でも成立する。原作モノをやる時は“それ”を役者さんと作れたら面白いなと、いつも思っていますね。

青木豪

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ーー本作は京の都で発生する怪事件、人々が「妖のせいだ」と思い込んでいる事象を知恵と知識を用いて解決へと導く“謎解き”の面白さが大きな特徴です。

克典さんが「科学のない時代に科学を活かす面白さ」とおっしゃってましたけど、まさにそう。たとえば京極夏彦さんの小説を読んでいるときみたいな感覚、なにか非常に不思議なことに満ちてるんだけど、結局そこには不思議はないっていう感じとでも言うのか……まさに「幽霊の正体見たり枯れ尾花」。単に人の思いとかが何かを動かしちゃってるようなことなんですよね。この『応天の門』の中でも周りの人々はもののけや怨念のようなモノのせいだと思ってるんだけど、それを道真がものすごく冷静に解き明かしていくっていうところが物語の大きな魅力だと思っていて、そこをまた脚本の桑原(裕子)さんが非常にきれいにまとめてくれています。

ーー原作にあるいくつかのエピソードを盛り込んでの1作。

エピソードごとにオムニバスっぽくはなっているけれど、原作の持っている「謎を解き明かす」が次々続いていくところをちゃんとピックアップしてくださっていた。それと並行し、僕としては道真が「何のために人は学ぶのか」と問うていることが一本通った柱だと感じているので……まだ原作漫画が完結していないので行き先をどこに持っていくかは一番の悩みではありましたけど、やはり業平と道真、人生楽しんでいる人と人生楽しめてない人が何に向かって生きていこうかっていうことがひとつテーマとして連なっていけば、舞台を見終わったときに「なんか今日は楽しかったな」ってなるんじゃないかなと。そこを目標にしています。

ーー明治座に出現する平安の雅な世界、会見では「緻密に作っていきたい」というお話も印象的でした。視覚的なアイデアなど、演出のイメージはいかがですか?

今回、台本の場の数がすごく多くて、一個一個途切れてしまうとお客さんの集中力が欠けちゃうなと思ったので、ずっとスピーディーに進んでいけるように……僕、基本的に割とこちらの都合で暗転にするのが苦手なんです。暗転もひとつの効果だと思っているので、暗くなったときはそこに何かちゃんと意味が欲しいし、それ以外はシームレスに進んでいきたいので、何度も暗転を使うよりも、廻り舞台だったり、セリとかスッポンだったりといろいろやり方はあるので、それプラス、全体としてはまず美しい絵巻物を読んでいるような感じになればいいなとイメージしています。今はそこからまた具体的なことをいろいろ考えるようにしていこうという段階ですね。

青木豪

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ーーしっかりとした平安のお屋敷を建ててというより、もう少し“イメージの中の世界”のような…

象徴的なセットとかで京都が持ってる“何か”がポンと見えたらいいなと思ってるんですけどね、あの碁盤の目になってる感じとか、北と南と東の人でちゃんと“宇宙”を作ってる感じとかっていうのが、瞬間瞬間に見えたら面白いかなとは思ってます。あとは、以前、京の都は梵鐘の音なんかも全部決まっていて、それによって平安の“音の宇宙”も作られてたんじゃないかっていうのを本で読んで、それもカッコいいなぁと。

ーー都に響き渡る音によっても五感が研ぎ澄まされ、そこに住む人々に妖を見る心が……第六感みたいなものが、自ずと備わっていくのかも。

そうかもしれないですよね。音を聞いて色が見える人のような“共感覚”みたいなものが、当時は本当に割と広くあったのかもしれないな、とも思ってみたり、もし日本人がそこを研ぎ澄ませたままだったら今もずっと枯れずに僕らみんなにもあったものなのかもと思うと……どこまでやれるかはまだちょっとわからないですけど、そんな感覚もここで伝えられたなら嬉しいです。あとね、明治座さんは僕が前回やった時がちょうどコロナ禍だったんですよ。座席もひとつずつ空けていましたし、花道も使えなかった。花道、大好きなのに使えなかったので、今回はもう絶対使ってやりますよ(笑)。花道だけじゃなく、明治座は売店がたくさんあるのも楽しいんですよね。何か食べたり小物を見たりなんていうのも楽しいから、そのお祭りみたいな感じ全部がそのまま芝居にも入るといいなっていうのは、ちょっと思ってます。

ーー劇場に生まれる和の賑わい。素敵です。

明治座に来て、この芝居を観て、「ああ、なんか日常じゃない空間と時間に遊べたな」っていうことがお客さんに味わっていただけたら……そんな空間と時間を僕が作れたら、何よりだなと思いますけどね。いかにも京都の鐘の音が似合いそうな明治座、年末の独特の空気感、その澄んだところにまさに鐘の音が聞こえてきて……みたいな世界を。

ーーそして劇場を出た冬の夜、きっと月も綺麗に見えるでしょうね。

そういう冴え渡った中で「今年も平和に終わっていくな」って気持ちになっていただけたらいいですよね。そんな芝居を目指し、払っていただいたお代と時間、確実に倍返しぐらいになるように、僕らこれから頑張っていきたいと思います。ぜひをお求めになって明治座へご来場ください。

青木豪

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取材・文=横澤由香     撮影=山崎ユミ

公演情報

舞台『応天の門』
 
【日程】2024年12月4日(水)~12月22日(日)
【会場】明治座
 
【原作】灰原 薬 『応天の門』(新潮社「コミックバンチKai」連載)
【脚本】桑原裕子
【演出】青木 豪
【出演】
佐藤流司 高橋克典/中村莟玉 高崎かなみ 本田礼生 白石隼也 坂本澪香/
青山良彦/八十田勇一 若狭勝也/篠井英介/西岡德馬/花總まり(特別出演)
※西岡德馬の「德」は旧字体が正式表記
 
【料金(税込)】
S席(1階席・2階席正面)13,500円
A席(2階席左右・3階席正面)8,500円
B席(3階席左右) 5,000円
※未就学児童入場不可

【公式サイト】 https://www.meijiza.co.jp/info/2024/2024_12/
【公式X 】 @ohten_stage
 
【お問い合わせ】 明治座センター 03-3666-6666(10:00~17:00)
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