総動員数1万人突破! 石井琢磨、10都市11箇所を巡るリサイタルツアー2024完走~祝祭的雰囲気と喝采に包まれたツアーファイナルをレポート
北は北海道、南は福岡まで、10都市11箇所を巡る石井琢磨のピアノ・リサイタルツアー2024『Diversity』の最終公演が、2024年11月17日(日)所沢市民文化センターミューズ アークホールで行われた。アークホールは、石井がデビューCD『TANZ』を収録した思い出深いホールである。また、11月17日は石井自身の誕生日ということもあり、ツアー千秋楽という記念すべき公演が、一段と祝祭的な雰囲気を帯びた。
石井が幕開けに演奏したのは、モーツァルト=リストによる「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。宗教合唱曲のしっとりとしたピアノアレンジで、まずは心静かに現実から音楽の世界へといざなう。満席の会場は水を打ったような静けさに包まれ、集中力はすでにマックスだ。続くグリュンフェルトの「ウィーンの夜会」は一転して、ゴージャスながら上品なオルゴールのような響き。石井らしいチャーミングな選曲で、ウィーンの古き良き時代を感じさせる。
2曲を演奏したところで、石井はマイクを持ち、「こんなにたくさんのお客様の前でツアーファイナルを迎えられて嬉しいです」と喜びを語った。「所沢の方はどのくらいいらっしゃいますか? 埼玉の方は? それ以外の方は?」と客席とコミュニケーション。県外からも多くのファンが詰めかけているようで、「それ以外」の拍手がもっとも大きかった印象だ。
ここで石井は今回のツアー『Diversity』に込められた意味を伝えた。
「Diversityとは多様性のこと。クラシック音楽の多様性を表現したいと、3つのコンセプトを込めています。伝統・革新・対比です。同じタイトルを持った作品でも、曲想や背景がまったく違うのがクラシック音楽の素敵なところ。ぜひリラックスして楽しんでいってください」
フォロワー数30万人を超えるYouTubeチャンネル「TAKU-音 TV」では、トーク力でも人々を惹きつける石井。ここからは曲目についてわかりやすく紹介しながら演奏を展開した。ウィーンのシュトラウス・ファミリーの音楽を、ピアノの音域を最大限まで生かす形でユニークにアレンジされた「ウィーン・パラフレーズ」(編曲:ござ)では、煌びやかで上品なサウンドを響かせた。ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」では中間部のテンポを軽快に進め、緩急のメリハリを面白く効かせた。
石井が「メインディッシュのひとつ」と紹介したのは、自身が半年以上をかけて人生初の編曲をおこなったというチャイコフスキーの「花のワルツ」。優雅に、そして楽しそうに演奏する石井の姿が印象的だった。主要部は華やかさを持たせつつ、短調となる部分では低音部に重みを持たせ、ロシア・ピアニズム的な厚さと哀愁を持たせた。単にオーケストラの原曲をピアノでそれらしくなぞるのではなく、軽やかな箇所はどこまでもフワリと聞かせ、ピアノらしい表現も大切にしたアレンジだ。
後半では、坂本龍一がブラームスをオマージュした「インテルメッツォ」と、ブラームスの間奏曲Op.118-2を並べた。坂本作品ではブラームスへの敬愛を厚みある和音の方向性でしっかりと示し、一方のブラームスは豊かなダイナミクスの変化と、よく整理された声部で繊細にプレゼンテーションした。菊池亮太に「リストの『ラ・カンパネラ』風の編曲で」と依頼した「チム・チム・チェリー」は、かなりのヴィルトゥオーゾ的作品。リストのモチーフを多用しながら、ドラマティックな展開で名作の熱量を伝えた。
プログラムの締めくくりは、生誕150年にあたるホルストの「ジュピター」。大編成オーケストラ作品を石井と横内日菜子がアレンジしたもので、輝かしくも重量感のあるサウンドに満ち、後半は巧みな転調で多いに盛り上げた。ピアニスティックなコーダで終曲を迎えると、会場からは一斉にブラボーの声が上がり、スタンディングオベーションで湧いた。
カーテンコールでは客席から「お誕生日おめでとうございます」の声が上がり、「Happy Birthday」の歌声が自然発生的に(!)起こった。舞台袖からは「お誕生日・ツアー完走おめでとうございます」というメッセージが添えられたバースデー・ケーキも登場し、サプライズプレゼントに石井も輝くような笑顔を見せた。「11箇所を巡っていろいろな人に出会い、所沢で最終回を迎えられて本当に幸せです」と深々とお辞儀をして感謝を伝えた。
アンコールは、作曲にも初挑戦した「懐かしさ」を披露。中間部にワルツを挟む3部形式の無言歌風の音楽が、ホールを温かく包んだ。さらに「ラ・カンパネラ」を透明感のある音色と、後半にいくほどスケール感を膨らませてゆく演奏で聴かせ、ふたたび会場から大喝采の渦を巻き起こした。「ブラボー!」の声援の中、華やかにツアーが完結した。
取材・文=飯田有抄 撮影=岡崎雄昌
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